第1節 農村の現状
農村を取り巻く環境は、農村の人口の減少や高齢化、混住化、生活利便施設等の社会資本の整備、経済のサービス化等が進行するなかで、近年、大きく変化してきている。
本節では、農村の社会経済の動きを概観するために、農村の人口の減少や高齢化、経済、農業集落*1や社会生活基盤等の動向と課題等を明らかにする。
*1 巻末[用語の解説]を参照。
(1)人口及び経済の動向
(今後、地方圏の人口減少、高齢化の進行が見込まれている)
少子高齢化の進展に伴い、近年、我が国の人口は、増加率が大幅に鈍化しており、平成18年の1億2,774万人*1をピークに人口減少の過程に入ると予測されている(図III-1)。都道府県の人口を11年と16年で比較すると、既に29の道県で減少している。
国内の人口移動の動きをみると、第一次石油危機後の昭和51年とバブル経済崩壊直後の平成5〜7年を除き、地方圏から三大都市圏への流入超過が続いており、特に、東京圏への人口集中は、今後、人口減少の過程に入っても相対的に強まると見込まれている。また、市町村の人口規模別の動向をみると、地方圏では27年には人口5千人未満の市町村数の割合が3割を超えると予測されている(図III-2)。
さらに、老年人口*2の割合をみると、全国では12年の17%から27年の26%に、地方圏では20%から27%にそれぞれ上昇すると見込まれている。これを市町村別にみると、地方圏では老年人口の割合が30%を超える市町村は、27年には12年の2.8倍に増加し、全体の6割を超すとみられている。今後、人口規模が小さく、老年人口の割合の高い市町村が増加するとみられるなかで、地域社会の活力やコミュニティ機能の低下等が懸念される。
*1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(14年1月公表)。出生率が平成12年と変わらないこと等を前提とした中位推計による推計結果である。
*2 65歳以上の人口。
(全国的な景気回復のもとでも、業種や地域ごとにその動きには格差がみられる)
最近の我が国の経済は、米国の好況やアジア諸国・地域の経済成長等にけん引され、輸出、内需が増加し、これに伴い設備投資の増加や個人消費の緩やかな回復がみられるなど、回復傾向にある。
こうしたなか、国内企業による景気の実感を指標化した景気動向指数をみると、全体として上昇傾向にある。しかしながら、大企業に比べ、中小企業では景況感の回復は緩慢であり、業種別にみても、鉄鋼・非鉄・鉱業、機械等での回復は大きいが、建設業、農林水産業、小売業等での回復の動きは鈍いなど、企業の規模や業種で格差がみられる。
このような格差を地域別にみると、デジタル家電や自動車等の輸出産業をかかえる南関東、東海、近畿等の地域と、公的需要への依存度が比較的大きく、中小企業や下請け企業の比率の高い北海道、東北、九州等との間の格差が拡大する傾向にある(図III-3)。
(地方圏の産業構造に変化もみられる)
地方圏の経済は、これまで地場産業、大手企業を中心とする工場の立地や公的需要等によって支えられてきたが、最近では変化もみられる。
製造業の企業の国内子会社数(製造業分野)は、9年から14年の5年間で17%減少しているのに対し、海外の子会社数は14%増加しており*1、さらに、工場の国内立地件数も5年から15年の10年間で4割減少している*2。こうしたなかで、地方圏の産業構造をみると、3年から13年の間に、財の生産額は14%減少する一方、サービスについては、生産額が13%増加し、全体に占める割合も6割から7割へと増加しており、産業構造のサービス化が進んでいる*3。
しかし、各地域ブロックごとの財とサービスの域際収支をみると、サービスについては、関東が大幅な黒字であるのに対し、近畿・沖縄を除く各地域は赤字額が大きい(図III-4)。
このように、地方圏においては財の生産が大きく減少する一方で、大都市圏を中心に提供されるサービスに依存する状況にあることがうかがわれる。
*1 経済産業省「企業活動基本調査」
*2 経済産業省「工業立地動向調査」。図III-22参照。
*3 内閣府「県民経済計算」。本章では、第一次産業・第二次産業の生産物を財、第三次産業の生産物をサービスとする。
(2)農村社会の現状
(農業集落のなかには、離農等により維持困難なものもでてきている)
農村社会は、地縁的なつながりのなかで農家を中心的な構成員とする農業集落を基礎として維持、形成されるとともに、大規模農家や兼業農家、農業以外の産業従事者等多様な主体によって成立している。
農業集落は、農地や農業水利施設の維持管理等の農業生産面の役割にとどまらず、農道や集会所の維持管理、祭りや伝統文化の継承、地域住民の相互扶助等、地域のコミュニティとして求められる役割を果たしてきている。このうち、水田農業地帯においては、農業集落を基礎とした自主的な水利組織のもとで、農業水利施設の維持管理や水利用量の調整等を通じて、農業集落のコミュニティとしての機能がより強固な形で築き上げられてきていた。
農林業センサスによれば、12年の農業集落数は約13万5千集落であり、2年からの10年間で約5千集落が減少している。この5千集落のうち、農家が不在となった集落は約1,500集落あり*1、その主な理由は「都市化・兼業化の進展により離農した」が約半数を占めているが、一方で10年以降に「挙家離農が相次ぎ地域社会が保てなくなった」とする割合が特に高くなっており、農業集落のなかには、離農等により維持困難なものもでてきている*2。
*1 3,500集落は農家数の減少によって「農家点在地」となり、農業集落機能を喪失したためセンサス調査の対象外となったものである。
*2 農林水産政策研究所「条件不利地域集落の存続要件と農地資源管理に関する研究」(15年)
(農業集落の農家率が急激に減少している)
全国の農業集落の1集落当たりの平均総戸数は、2年の172戸から12年の213戸へと23.8%増加しているが、農家戸数は減少しており、農家率は、2〜12年の間に15.7%から10.7%に低下している。また、農業集落の農家率別の構成比をみると、農家率が高い農業集落ほど低下の割合が大きく、農家率が50%以上の集落は全国の農業集落の39.3%まで低下している(図III-5)。
さらに、農業地域類型別にみた農業集落の農家率は、都市的地域、平地農業地域、中間農業地域、山間農業地域の順に高くなるが、最も高い山間農業地域においてもその率は31.2%にとどまっている。このように、都市的地域や平地農業地域のみならず、中山間農業地域においても混住化が進行している(図III-6)。
次に、農業集落の土地利用の変化を、農業地域類型別に過去10年間に減少した耕地の主因別にみると、都市的地域では、住宅敷地や耕作放棄*1等により耕地が減少している集落の割合が高くなっている(図III-7)。平地農業地域では、住宅敷地以外にも道路や工場敷地へ転換されている割合が他の地域に比べ比較的高く、都市化・混住化の進行がみられる。一方、中山間農業地域では、都市的地域や平地農業地域に比べ住宅敷地よりも耕作放棄や山林へ転換されている割合が高くなっている。このように、農業集落には、その立地条件の違いに応じて農家戸数の減少や都市化・混住化の進展、土地利用の変化等が生じている。
*1 巻末[用語の解説]を参照。
(農業集落の生活利便性は全体としては向上しているが、依然、地域格差が存在する)
社会資本の整備や自動車の普及、スーパー・コンビニの全国的な展開等により、農業集落の生活利便性は、全体としては向上してきている。DID(人口集中地区)のある旧市町村の中心地や病院、スーパー・百貨店、高速道路のインターチェンジまでの所要時間が30分以内の農業集落数は、それぞれ、全体の71.1%、96.7%、86.6%、44.7%を占めている(図III-8)。
しかしながら、山間農業地域の農業集落数の19.5%は、DIDまで1時間以上を要するなど、立地条件が悪い地域を中心として生活の利便性には依然として格差がみられる。
(農村の社会基盤の整備も依然として地域格差がある)
農村の生活関連施設の整備状況について、総務省「公共施設状況調」でみると、町村部においても基礎的な生活環境施設である道路、上水道、汚水処理施設の整備は着実に進展している。しかしながら、町村部の整備水準は、都市部に比べて依然として低く、特に汚水処理施設では10年前の中都市の整備水準にも達していない(図III-9)。
また、情報通信基盤については、町村部においてもその整備が進み、15年の町村部のインターネットの世帯への普及率は84.0%であり、都市部の90.2%と比べても大きな差はみられないが、実際にインターネットを利用した経験のある者の割合には格差がみられる(図III-10)。また、ブロードバンド*1サービスの提供状況をみると、一部地域でのサービスの開始も含めると(以下同じ。)、市部(特別区を含む)では100%であるのに対し、町村部では78.3%、過疎地域では60.9%と、その普及が遅れている*2。さらに、15年末の町村部のインターネット利用者に対するブロードバンドの利用比率は、前年度に比べて大幅に上昇して35.1%となったが、大都市部の49.5%とは依然として格差があり、早急な情報通信基盤の整備が必要となっている*3。
今後、インターネットや携帯電話等の情報通信基盤も含めた社会基盤の整備については、若者も含めた農村の定住化の促進や農村の活性化、都市と農村の共生・対流等を図るための基本的な条件の整備として、早急に促進していくことが重要である。
*1 巻末[用語の解説]を参照。
*2 総務省「情報通信に関する現状報告」(16年)
*3 総務省「通信利用動向調査」(16年3月公表)。図III-10の注釈参照。