2 林業生産活動を巡る動き

(1) 林産物の生産 ―国産材時代の芽生えとして高まりつつあるスギの生産量―

(丸太の生産)

 我が国の丸太の生産量は,長期的に木材価格が生産コストに比し低水準にあることなどから,昭和42年の5,181万m3をピークに減少傾向にあり,平成5年は前年に比べ6%減少して2,557万m3となっている。

 これを保有形態別にみると,国産材供給量の約7割を占める私有林は4%減少して1,776万m3になり,林野庁所管の国有林は14%減少して617万m3となっている。

 このような動向の中で,製材用の丸太生産は,近年,減少を続けていたが,平成5年には微増に転じた。特に,製材用の丸太生産に大きな割合を占めるスギの動向に注目すると,利用可能な年齢に達した資源の増加等を背景として,昭和60年に増加に転じ,昭和62年から平成4年までは830万m3から880万m3台の水準で推移している。平成5年は前年に比べ2%増加し900万m3となり,国産材供給量の35%,うち製材用は国産製材用素材の供給量の50%と,その割合が年々高まってきている( 図II-4 , 参考付表II-3 , ダウンロード )。

 このように,国産材時代への芽生えがみられる中で,今後,安定的に木材を供給していくためには,量的にまとまりのある丸太が計画的に生産されることが不可欠であり,森林の流域管理システムの確立を推進し,早急にその体制整備を図っていくことが必要となっている。

(特用林産物の生産)

 近年,特用林産物の生産額は,消費者の健康・自然志向を背景として増加傾向にあり,平成5年の生産額は,前年に比べ1%増加して3,902億円となっている( 図II-5 )。

 これを食用,非食用別にみると,しいたけをはじめとするきのこ類,山菜,木の実等の食用は,前年に比べ1%増加して3,700億円となり,竹,桐,木炭等の非食用は,前年を下回る203億円となっている。このうち木炭については,植物の生長促進など様々な効果が期待される土壌改良資材や水質浄化資材等の新たな用途の拡大により,その生産量は増加した。しかしながら,輸入による供給増加の影響もあって価格が低下したことから,生産額は減少した。

 特用林産物の大宗を占めるきのこ類の動向をみると,比較的新しい栽培きのこであるぶなしめじ,まいたけが,周年栽培技術の確立等により,順調にその生産を伸ばしている。前年は生産額が減少したなめこ,えのきたけも,前年に比べ生産を伸ばしており,需給のひっ迫から前年より価格が上昇したため,生産額は前々年の水準まで持ち直している( 参考付表II-4 , ダウンロード )。

 一方,乾しいたけについては,近年中国産を主体とした輸入の増加が続いており,国内消費の約2分の1が輸入で賄われる状況となっている。また,生しいたけも円高の進行等を反映して,平成4年から5年にかけて中国産の輸入が増加している。

 特用林産物の生産は,農山村における収入源として重要な役割を果たしており,近年,木材の生産活動が低迷している中で,地域経済の振興と農山村住民の定住化に貢献している。また,特用林産物は,種類が豊富であるため,工夫次第によっては,地域独自の特産品として開発,商品化される可能性も高く,そのような産品の企画・開発を含む需要拡大の推進や,生産・流通体制の整備等を進めることが必要である。

(2) 造林,間伐と路網の整備 ―人工林の健全な育成のために不可欠な間伐―

(造林)

 我が国の人工造林面積は,近年,拡大造林適地の減少,長伐期施業,育成天然林施業の導入,長期にわたる林業の採算性の低下,林業労働力の確保難等から減少傾向を示していたが,九州地方における台風被害跡地の造林の進展等により,平成5年度は前年度に比べ2%増加して5万4千haとなった。これを実施主体別にみると,民有林は私営が前年度に比べ11%増加したことから,全体でも3%増加して4万7千haとなった。国有林はやや減少の幅が小さくなったものの,前年度に比べ7%減少して7千haとなった( 図II-6 , 参考付表II-5 , ダウンロード )。

 このうち民有林についてみると,森林整備法人等による分収造林面積の割合は,近年,横ばい傾向で推移していたが,平成5年度は,前年度に比べて2ポイント低下して31%となっている。また,人工林における下刈,除伐等の保育実施面積は,前年度に比べ3%減の74万4千haとなっている。

 一方,人工造林の長期的な減少傾向の中で,国内の苗木生産量は減少を続けており,平成5年度は前年度に比べ10%減の1億8千万本となっている。

 露地栽培の緑化木の平成5年の生産量は,前年に比べ2%減の3億8千万本となっている。これは,近年,緑化木の需要は総じて拡大傾向にあったが,ツツジ等の低木性樹木が前年に比べ2%増加したものの,他の種類で減少したためである。しかしながら,緑化木は,公共事業等の動向に影響を受けながらも,都市部を中心に堅調な需要が期待されることから,これに対応した供給体制の整備が必要となっている。

(間伐)

 間伐は,人工林を健全に育成する上で,また,林内に適度な光を入れ,下草の発生を促すことにより表土の流出を防止するなど,森林のもつ様々な機能を高度に発揮させる上で重要な作業の一つである。

 平成5年度の民有林における間伐実施面積は,前年度を若干下回る23万5千haとなった。一方,間伐材積については,前年度並の395万m3となったものの,このうち運び出されて利用されたものは,全体の51%に当たる202万m3にとどまっている( 参考付表II-6 , ダウンロード )。

 これは,間伐材の価格の低迷や搬出経費等経営コストの増大による収益性の悪化から,森林所有者の間伐意欲が減退したことなどによるものである。

 このため,今後は,路網の整備や,これと併せた高能率な機械の導入等により集団的な間伐を推進するなど,間伐をより効率的に行っていくことが重要となっている。また,間伐材の利用面では,従来の利用方法に加え,加工して集成材に利用することや,木炭にして土壌改良資材,水質浄化資材等に利用することなどにより,付加価値を高めていくことが必要である。さらに,森林資源の有効利用の観点から,これまで利用されなかった間伐材を移動式の製材機等を用いて現地で簡易に加工し,土木用資材,公園施設用資材等として公共事業等の分野において利用するなど,一層の利用促進を図ることが必要となっている。

( 写真 )

(路網の整備)

 路網の整備は,森林の適切な維持,管理に必要であるとともに,流域全体としての森林施業の共同化,高性能林業機械を主体とした新たな作業システムの導入等の促進により生産性の高い林業の確立を図る上で欠くことのできないものである。特に,広域な森林・林業地域の骨格となる基幹林道は,山村の生活道路等としても重要な役割を担っており,その整備を積極的に推進することが必要である。加えて,路網の機能を高めるため,既設作業道の林道への改修及び連絡線形にするための開設による路網のネットワーク化や既設林道の改良による輸送力の向上,通行の安全確保等を図ることも重要である。

 また,林業が基幹的な産業である山村においては,林業生産基盤である林道の整備と,集落排水施設等の生活環境施設の整備とを一体的に進め,森林の適切な維持,管理を担う者等の定住条件等を改善していくことが必要となっている。

 林道の開設量は,開設コストの増大等から減少を続けている。平成5年度は,ふるさと林道緊急整備事業の創設に伴う地方単独事業の増加により民有林では前年度並となったものの,国有林で減少したため,全体で前年度に比べ5%減少して1,886kmとなっている。また,林道のうち自動車道について,「森林資源に関する基本計画」(昭和62年閣議決定)」の目標延長に対する達成率をみると,約4割とまだ低位にあり,今後,自然環境の保全への配慮,地形,地質に適応した線形の採用等による開設コストの低減に努めながら,地方単独事業の活用等により林道等路網の積極的な整備を進めていくことが重要な課題となっている( 図II-7 , 参考付表II-7 , ダウンロード )。

(3) 林業技術等の向上と普及 ―急速に導入が進む高性能林業機械―

(林業機械)

 現在の林業を巡る厳しい環境や林業労働力の減少,高齢化に適切に対応するためには,高性能林業機械の開発・導入により,林業の生産性の飛躍的な向上と労働強度の軽減を図ることが必要である。例えば,1960年代から高性能林業機械の導入が進められたスウェーデンでは,労働生産性(丸太生産)が大きく向上し,現在,我が国のおおむね3倍の水準に達しているといわれている。我が国においても,自然条件等に適応した林業機械の開発・改良を産・学・官一体となって進めており,プロセッサ(自走式枝払い・玉切り機),フォワーダ(荷台に積載して集材する集材専用車両),タワーヤーダ(人工支柱を装備した移動可能な架線式集材機)等では国産機械が主流を占めつつある。

 我が国における高性能林業機械の導入は,急速に進んできており,平成6年3月末現在739台で,前年同期の1.5倍に増加している。内訳をみると,プロセッサが台数で40%を占め最も多く導入されており,その伸びも堅調で対前年61%増となった。また,フォワーダ,タワーヤーダともに前年に引き続き大きく増加している。さらに,ハーベスタ(自走式伐採・枝払い・玉切り機械)は対前年92%増と大幅な伸びをみせている( 図II-8 , 参考付表II-8 , ダウンロード )。

 これを地域的にみると,当初は北海道が中心であったが,平成6年3月末現在で北海道の導入台数を超えた九州地方をはじめ,東北地方,その他の導入が進んでいなかった地方でも導入が進んでおり,全国的な広がりをもつに至っている。

 在来型の機械については,チェーンソー,刈払機の保有台数は横ばいから減少傾向に転じ,改良の進んでいる動力枝打機,自走式搬器は増加傾向にある( 参考付表II-8 , ダウンロード )。

 今後とも林業の機械化の促進を図るためには,既存の機械の普及,改良に加えて,(1)我が国の地形,樹材種等に適応した伐出用機械,育林用機械等の開発,(2)センサー技術及び自動制御システム等の先端技術を採用した高性能林業機械の開発,(3)機械と路網の整備等を組み合わせた効率的な林内作業システムの開発,(4)森林施業及び機械に関する知識と安全に操作できる技能を合わせもつオペレータの養成,確保,(5)新たな機械の研修,展示会等を通じた普及活動の展開など,林業の機械化を促進するための条件整備を積極的に推進していくことが重要な課題である。

 さらに,導入促進の条件として機械の稼働率を向上させることが必要である。このため,機械を保有する事業体等への森林施業の委託,機械の共同利用体制の整備,レンタル・リース制度の導入等を図ることが重要である。また,流域林業のオルガナイザーとしての流域林業サービスセンターによる事業量,労働力の調整等を核として,素材生産業者に対する高性能林業機械等の導入を促進し,その構造改善を図っていくことも必要となっている。

(育種)

 樹木の種子,苗木といった種苗の良否は,将来の木材生産の質及び量を大きく左右するため,成長,材質,被害に対する抵抗性等の面で遺伝的に優れた種苗を確保することが重要である。また,森林・林業に対する国民の要請の多様化,高度化に対応し,育種事業の多角的な展開が必要となっている。このため,林木育種センターが,営林(支)局,各都道府県等と連携を図りつつ,育種対象樹種の拡大,多様な育種目標の設定等を行い,育種事業の推進に積極的に取り組んでいる。その成果の一つとして,平成6年度には,緑化木に適したトドマツの品種として「北林育1号」が品種登録されたところである。また,農林水産ジーンバンク事業の一環として,林木育種センターが関係機関との連携により,学術上価値が高く,遺伝資源としても貴重な巨樹・古木等名木(国指定天然記念物)の遺伝子の収集・保存に取り組んでおり,平成6年12月までに新潟県松之山町の「松之山の大ケヤキ(推定樹齢1,900年)」をはじめとする54点の遺伝子の収集・保存を行った。

 育種事業の成果である育種種苗を使用した造林面積の割合は,近年,増加傾向にあり,平成5年度は44%となっている。今後とも育種種苗の一層の普及を図ることにより,質及び量ともに優れた森林資源を整備していくことが必要である。さらに,近年急速に進展してきているバイオテクノロジーの林木育種への応用,育種素材としての生物遺伝資源を確保するための保存林の設定や特性調査等が重要となっている。

(林業技術の普及)

 林業技術の普及は,林業専門技術員(通称SP)と林業改良指導員(通称AG)等の活動により行われている。

 このうち,林業専門技術員(平成6年4月現在385名)は,各都道府県の本庁や試験研究機関において各種の調査,研究を行い,その成果の普及を図っており,林業改良指導員の指導も行っている。

 また,林業改良指導員(平成6年4月現在2,032名)は,各都道府県の出先機関である林業事務所等を拠点として,地域の森林所有者や林業研究グループ等に対し,直接,施業技術マニュアルに基づく森林施業の指導,労働安全衛生の指導等を行っている。さらには,経営相談に応じるなど地域に密着した活動を続け,林業技術や知識の普及に成果を上げている。

 このほか,森林土木等技術的業務に関する専門的資格者として,林業技士(平成6年5月末現在6,879名)が養成されている。

 なお,今後,林業技術の普及指導に当たっては,平成5年11月に林野庁に設置された林業普及指導事業検討会の検討結果を踏まえて,{1}森林の流域管理システムの円滑な運営に当たっての諸課題の調整,{2}山村における地域林業や地域づくりに関するリーダーの発掘と育成,{3}高性能林業機械を中心とした新しい作業システムの確立と普及,{4}森林・林業教育及び普及啓発の推進と強化,{5}林業ボランティア活動や若者の山村への定住等に対する支援などを進めることが重要な課題となっている。

(森林・林業教育)

 林業知識を習得させる教育機関の実態をみると,平成5年度においては,林業関係学科をもつ大学は25校(うち国立22校),また,林業関係学科をもつ高等学校は72校があり,毎年3,500人程度の卒業生を送り出している。また,全国には,地方自治体が設置している林業短期大学校が5校あり,中核的林業技術者を養成する場としてその重要性はますます高まっている。これらの卒業生の専攻は,林業,木材産業から森林生態にまで幅広い分野に及び,その活躍の場も広がっており,今後とも,森林・林業教育体制の一層の充実を図っていくことが必要である。

 一方,主に小中学生や高校生を対象に,都道府県,営林署等において森林教室を開催し,森林の機能や林業の役割についての知識の普及,林業体験の推進等を行っている。

 このような中で,林業後継者などにより組織されている林業研究グループにおいても,森林教室の開催等の取組がみられる。和歌山県の林業研究グループ(和歌山県林業研究グループ連絡協議会)は,平成5年度から,教育関係者及び林業改良指導員と連携し,森林・林業教室を開催している。これは,「森林を支える林業」等のテーマで林業研究グループ員自らが教壇に立ち,実物の木材やビデオを用いて森林や林業に対する理解を深めようとするもので,小学5年生を対象に平成5年度には8小学校(600人),6年度には25小学校(2,000人)で実施している。同グループは,活動を更に拡大することとしているが,実際の体験でしか得られない教育効果と,それに加えて林業研究グループ員自らの職業の自信等の深まりが期待されている。

 また,平成5年には,青少年をはじめ広く国民を対象とし,森林・林業教育情報の収集・提供を通じ国民の森林・林業に対する理解と関心を深めていくことを目的に,(社)全国林業改良普及協会内に「森林・林業教育センター」が設置された。同センターでは,より多くの人が森林・林業に親しんでいけるよう,指導者となる人材,体験学習フィールド,各種活動事例等の情報の収集と提供,さらに森林学習等の際に使用する青少年向け学習書,指導者向けの手引書等の作成を行っている。

( 写真 )

(森林インストラクター,樹木医)

 平成3年に開始された森林インストラクター制度は,一般の人々に森林・林業に関する知識を提供し,森林の案内や野外活動の指導などを行う者を森林インストラクターとして資格認定するものである。森林インストラクターの活動を通じて森林の総合的な利用の推進や山村及び林業の活性化に資することを目的としており,平成7年1月現在311人が認定されている。余暇時間の増加,自然とのふれあいを求める志向の高まり等を背景として,森林を自然探勝,自然観察,スキー等の野外スポーツ,キャンプ,きのこ狩り,釣りなどレクリエーションの場として利用しようとする動きが盛んになっている中で,森林インストラクターの役割は,今後ますます重要になると考えられ,その養成と活用が必要となっている。

 また,平成3年に発足した樹木医制度は,「ふるさとのシンボル」として親しまれている巨樹・古木林等の保護や樹勢回復・治療に必要な知識・技術を習得した者を樹木医として認定するもので,平成6年11月現在305名が認定されている。樹木医は,全国各地の学校,社寺等に生育する天然記念物クラスの樹木等の調査,診断,治療を手がけることも多く,その技術の向上と今後の活躍が期待されている。