5 流通と加工

(1) 水産加工の動向

 水産加工業は,量的変動の大きい漁獲物の供給の安定や価格の低い漁獲物の付加価値向上に資するとともに,消費者ニーズに対応した生産物の提供,地方における雇用機会の提供等多様な役割を果たしている。

 近年,近海漁業資源水準の低下や国際漁業規制の強化による原料供給事情の変化,消費者ニーズの多様化・高度化等水産加工業を取り巻く環境は大きく変化しており,加工原料の安定的な確保,新たな消費者ニーズに即応した商品の開発・供給等が重要な課題となっている。

〔水産加工品の生産動向〕

 水産加工品の生産動向を,主要加工品の種類別にみると,ねり製品の生産量は,原料のすり身価格の高騰に伴う製品価格の上昇が需要の減退を招いたこと等から減少した( 表I-5-1 , ダウンロード )。

 冷凍食品の生産量は,近年増加傾向が続いている。4年は,フィレ,切身等の魚介類が増加しており,フライ類,天ぷら等の水産物調理食品は前年並みであった。

 塩蔵・乾製品等の4年の生産量は,いわし類,たら類等の水揚量の減少等により減少した。

 缶詰の生産量は,輸出先における第三国との競合の激化等により56年以降減少傾向が続いていたが,4年は,国内市場向け生産が増加したため,わずかながら増加に転じた。

 その他の食用加工品の生産量は,増加傾向が続いている。4年は,調味加工品,塩辛類は増加したが,水産物漬物は減少した。

 油脂・飼肥料の生産量は,まいわしの水揚量の急速な減少に伴い引き続き大幅に減少している。

〔加工原料の供給状況〕

 近年,近海漁業資源水準の低下及び国際漁業規制の強化等により,加工原料の供給状況は大きく変化している。

 ねり製品の主要原料である冷凍すり身の近年の供給状況についてみると,その大部分を占めるすけとうだら冷凍すり身は,べーリング公海等におけるすけとうだら漁獲量の大幅な減少等により国内生産量が減少を続けている( 図I-5-1 )。一方,輸入量は,3年に主要輸出国の米国の生産量の減少等から一時的に減少したが,4年は,米国の生産量の回復に伴い再び増加している。また,最近ではロシアからの輸入が増加している。その他の冷凍すり身では,国産原料としてはほっけ,まいわし等,輸入原料としては東南アジアのいとより,チリのあじ,アルゼンチンのみなみだら等が利用されており,近年その供給量は増加傾向にあったが,4年は,すけとうだら冷凍すり身輸入量の回復に伴い若干減少した。

 さば加工品の原料供給状況をみると,我が国のさば類漁獲量が62年以降急速に減少したため,原料不足によりノールウェー等からの輸入が急増した。4年の輸入量は前年より減少したが,依然として高い水準となっている。

 いか加工品に関しては,主要な原料として利用されていたあかいかの漁獲が,国連決議による公海流し網漁業の停止により激減することとなった。このため,我が国周辺水域において漁獲量が増加しているするめいかが代替原料として活用されているほか,ペルー沖等で漁獲されるあめりかおおあかいかについても利用が進められつつある。

 以上のように,近年加工原料の供給状況は大きく変化しているが,今後加工原料を安定的に確保し,安定した生産を続けていくためには,現在利用されている魚種の資源の動向等に十分注意するとともに,原料を特定の魚種に依存することを避け,近海資源の有効利用等による原料の多角化を図っていくことが重要である。

〔水産加工業の経営状況等〕

 水産加工業の経営形態をみると,従業員数が10人未満の事業所が約6割を占めており,従業員数が30人以上の事業所は約1割に過ぎないなど中小・零細の事業所の占める比率が極めて高く,経営体質も概してぜい弱なものとなっている。また,食品に対する消費者ニーズが多様化・高度化する中で,鮮度,安定性,旬の味等を追求した消費者にとって魅力のある製品の開発・供給に努めるとともに,量販店等の流通部門のニーズに即応した供給等を図っていくことがますます重要になっている。

 また,最近,労働力需給は総体的には緩和しているものの,水産加工業では,雇用条件や作業環境が劣っていること等から,労働力の確保が困難な状況にあるほか,就業者の高齢化も進行している。

 このような状況に対処し,水産加工業の健全な発展を図るためには,省力・省人化設備の導入等による合理化の推進,労働時間の短縮等雇用条件の改善による若年労働力の確保等に取り組むとともに,現に就業者の中において高い割合を占める高齢者や女子のための職場環境の整備を図っていくことも重要となっている。

 なお,水産加工業は製造の過程において原料の魚肉たんぱく質に由来する窒素,燐を含んだ排水や加工残滓の発生が避けられない面があるが,近年,環境問題への関心が高まっている中で,環境に負荷の少ない生産活動,廃棄物の再資源化等への積極的な取組が求められており,排水処理施設等の共同設置や排出物に含まれる有用物質の利用の促進等に取り組んでいくことも重要である。

(2) 水産物流通をめぐる動き

 水産物流通においては,漁獲時期の季節性等による水揚げの集中,漁獲物の種類の多様性,鮮度保持のための迅速な分荷の必要性等により,産地市場及び消費地市場又はいずれか一方を経由する経路が発達しており,現在でも中心的な役割を果たしている。しかし最近では,市場外流通が活発化するなど,水産物流通の多様化がみられる。

〔産地市場〕

 近年,漁業生産量の減少に伴い産地市場の水揚量は減少傾向にある。4年の全国主要51港における水揚量(貝類及び海藻類を除く。)は,前年に比べ17%減少し446万トンとなった( 図I-5-2 )。水揚量の上位5港は,境,釧路,八戸,銚子,焼津の順であった。特に,54年から3年まで13年連続して水揚量が全国第1位であった釧路は,まいわし及びすけとうだらの大幅な減少等により41万2千トン減と大幅に減少し,14年振りに全国第2位となった。

 産地市場の卸売業務は,その大部分が地元漁協によって運営されている。産地市場における現状と問題点を把握するため,漁協が卸売人となっている全国の産地市場に対し社団法人漁業情報サービスセンターが4年に実施したアンケート調査によれば,これらの産地市場は年間取扱金額50億円未満の中小,零細市場が大部分を占めているが,過去10年間における取扱金額の変化では,「減少した」と回答した市場が全体の54%に達しており,そのうち「大幅に減少した」と回答した市場も全体の20%を超えている( 図I-5-3 )。これを取扱金額による規模別にみると,取扱金額に占める沖合・遠洋漁業の割合が比較的高いとみられる取扱金額100億円以上の階層で「大幅に減少した」と回答した市場の割合が特に高く,近年における沖合・遠洋漁業の不振が反映された結果となっている。また,こうした市場における問題点としては,「水揚げの減少」のほか,「買受人の販売・処理能力」,「労働力の確保」,「施設の老朽化」等が指摘されている( 表I-5-2 , ダウンロード )。さらに,現在施設面で改善を検討している内容としては,比較的規模の大きい市場では「省力・省人化のための機器導入」,「伝票等の電算化」等,比較的規模の小さい市場では「活魚施設の新設,拡充」及び「直販・直売所の経営」でそれぞれ回答率が高くなっている( 図I-5-4 )。

〔消費地市場〕

 近年,消費地市場における水産物の取扱量は,産地における水揚量の減少,市場外流通の発達等により減少傾向にある。4年の6大都市消費地市場における卸売数量は,前年に比べ3%減少し192万トンとなった。

 これを形態別にみると,生鮮品は,かつお,さば類等は減少したものの,するめいか,まだい,まあじ等が増加したことから前年に比べ4%増加し65万9千トンとなった。一方,冷凍品は,たこ類,さんま等は増加したものの,すり身,するめいか,きはだ等が減少したことから前年に比べ7%減少し55万6千トン,水産加工品は,ます類等が増加したものの,さけ類,まあじ等が減少したことから,前年に比べ6%減少し68万9千トンとなった。生鮮品はやや増加傾向となっているものの,水産加工品,冷凍品については市場外流通の増加等により減少が続いている( 図I-5-5 )。

〔水産物流通をめぐる新たな動き〕

 近年,量販店,外食産業等の大口需要者の増加,輸入水産物の増加,鮮度保持技術や道路網等輸送手段の発達,消費者ニーズの多様化等に伴い,市場を経由しない多様な流通経路が開拓されてきている。

 水産物の購入先として最近伸長が著しい量販店においては,各店舗への配送の都合上,市場の取引時間にとらわれない取引や大量販売に適した安定した数量・価格水準での供給を求める傾向が強く,特に冷凍品を中心に場外問屋,大手水産会社等卸売市場外からの仕入れを行う割合が高くなっている。

 また,生産者による鮮魚・加工品等の直売所や宅配便を利用した消費者に対する直接販売の試み,小売店等と提携しての直接出荷の試み等新たな流通ルートを開拓する動きがみられる。さらに,産地において漁業者が自らフィレ加工等に取り組み,消費地における処理加工や残滓処理等の負担軽減の要請にこたえるとともに,消費者の簡便化志向に対応した製品を開発する例がみられるようになっている。生産者自らが行うこれらの流通・加工への試みは,漁獲物の高付加価値化及び生産者の価格形成力の向上を図る上で,今後ますます重要なものとなると考えられる。

 一方で,産地市場及び消費地市場を経由するシステムは,幅広い種類の水産物の効率的かつ安定的な供給を担うとともに,中小零細な漁業者にも開かれた公正な取引の場を提供しており,今後とも重要な役割を果たすものと考えられる。したがって,近年における水産物流通をめぐる変化に即応しつつ,一層の市場機能の充実を図ることが重要である。