3 活力ある漁村の創造

(1) 漁業の担い手の確保

 戦後における漁業就業者の動向をみると,昭和28年に79万人であった漁業就業者数は,40年代終盤にかけての高度経済成長期においては,第2次・第3次産業の発展に伴い都市部で労働力需要が増大したことに加え,漁村における労働力が戦後急速に増加し過剰な状態にあったこともあって比較的高い減少率を示した( 表III-3-1 , ダウンロード )。その後,石油危機等による経済成長率の低下に伴いこうした労働力需要が縮小したこともあって,減少率は一旦は低下したものの,近年減少率は再び高まる傾向にある。これは,若年令層の漁業への就業が減少傾向にある一方で,戦後の復興期に漁業に多数就業した世代が高齢化し引退の時期を迎えつつあることに加え,沖合・遠洋漁業において減船等による離職者が多数発生したこと等によるものである。高度経済成長期における漁業就業者の減少は,主にのり養殖業や採藻漁業等を営む零細な漁船非使用経営体の減少と個々の経営体における雇用労働者の減少によるところが大きく,したがって,漁船非使用経営体を除けば,漁業経営体数の減少は緩やかであり,また,個々の経営体においても,漁船の動力化,大型化や設備の機械化等による生産性の向上に努めたため,漁業就業者の減少による全体としての漁業生産力の低下はみられなかった。これに対し,近年は,自営漁業者が高齢化により引退した場合には経営体数の減少に直接反映されるなどの理由により,漁業経営体数の減少率も高まっている。戦後の復興期に漁業に就業した世代は最近においても漁業就業者の中で高い割合を占めているが,例えば,28年に20歳代であった階層が5年にはすべて60歳代となることからみても,このまま若年齢層の就業が低水準で推移すれば,今後漁業就業者と漁業経営体の更なる減少に伴う漁業生産力や漁村地域の活力の低下が懸念される。

 このような状況の中で,漁業の健全な発展を図り漁業生産力や漁村地域の活力を長期的に維持していくためには,限られた漁業資源の合理的利用,経営の合理化等により漁業経営の安定を図るとともに,今後の漁業生産の担い手となる若年齢層が地域の漁業の中核的存在として定住し,漁業技術を継承しつつ円滑な世代交代を通じてバランスのとれた就業構造が形成されることが重要である。

 若者の労働に対する価値観が変化する中で,今後若い漁業の担い手を確保していくためには,まず漁業によって安定した収入が確保されることが第1の要件であるが,さらには,漁業を,将来展望が持て,やりがいがあると感じられる産業とすることも重要である。「漁業センサス」によれば,若い漁業の担い手が全般的に減少傾向にある中でも,地域によっては,漁業就業者に占める若年齢層の割合が高く,かつ若年齢層が増加しているところもみられる( 表III-3-2 , ダウンロード )。例えば,北海道T地区においては,種苗放流と輪採制を基本とする漁場管理により,ほたてがいの水揚量が増加しており,共同経営化による過剰投資や過当競争の抑制とあいまって漁業所得が増加している。神奈川県K地区や兵庫県A地区では,大都市に近いという立地条件をむしろ利点としていかし,消費地市場におけるニーズを踏まえながら,自家加工や高鮮度出荷による漁獲物の高付加価値化が図られている。また,岩手県F地区や長崎県S地区では,F地区におけるさけ・ます類を対象とする大型定置網,S地区におけるまき網のように雇用労働力を必要とする漁業が地域の基幹的産業として存在し,しかもそれらの経営が比較的良好に推移していることから,若者が被雇用者として漁業に容易に着業できることに加え,養殖業への積極的な取組も進められており,こうした漁業と養殖業との組合せにより地域としての漁業生産力が高まっている。このように,これらの地域においては,{1}種苗放流事業の実施等により資源状況が比較的高水準で推移している,{2}消費地に近いこと等から高鮮度出荷等による付加価値向上が図られている,{3}養殖業への積極的な取組が行われている等収入面ばかりでなく,漁業者の意欲が発揮でき,将来展望が持てる漁業が営まれている。また,若者が容易に参入できる漁業が地域の基幹漁業として存在する地域もみられる。

 したがって,今後は,つくり育てる漁業や資源管理型漁業を積極的に推進することにより我が国周辺水域の漁場生産力を向上させ,自らの創意工夫次第で安定した収入の確保が期待できる環境をつくり出すことが何よりも重要である。また,これに加えて,生活環境の整備や一斉休漁による休日制の採用など若者の職業・生活意識に合った労働環境の改善を行うこと,海洋性レクリエーションヘの対応や加工事業への取組等により漁業外収入を確保するための方策を講じ所得の向上を図ること,若年齢層の漁業への参入が容易になるように配慮すること等を地域の特性に応じて積極的に推進することが重要である。

 なお,漁家子弟以外の者が漁業に就業しようとする場合,漁家子弟に比べ,漁労技術を習得する機会に恵まれない,着業に必要な漁船等の基礎的な装備の取得に経費がかかる等の問題があり,容易に着業し難い場合がみられる。このような状況にも対処し,幅広い青年層から漁業者を確保し,これらの者の円滑な漁業への就業に資するため,5年5月に「沿岸漁業改善資金助成法」の一部を改正し,新たに「青年漁業者等養成確保資金」を創設し,貸付対象者を拡大し漁家子弟以外の者も含めるとともに,貸付対象についても,現行の「経営方法又は技術を実地に習得する経費」に加え,漁船購入等「経営の基礎を形成するのに必要な資金」を新たに追加するなど,制度の充実・強化に努めたところである。

(2) 漁村と女性

 4年の就業者に占める女性の割合をみると,全産業平均が41%,漁業と同じ第1次産業である農業が49%であったのに対し,漁業においては,就業者数34万2千人中女性は6万3千人で18%とそれらの半分以下の水準であった。しかしながら,これは海上生活が長期にわたる沖合・遠洋漁業において女性の就業者が著しく少ないこと及び漁業就業者の把握方法において海上作業を主要な指標としてきたことから,漁業の陸上作業のみに従事した者の数は漁業就業者数に含まれていないことによるものであり,沿岸漁業についてみると女性就業者の割合は22%に高まり,沿岸漁業の中でも特に海上作業のウェイトが低いとみられる海面養殖業においては,この割合は34%と全産業平均にほぼ匹敵する水準となっている。また,漁獲物の荷揚げや選別,漁具の補修等の陸上作業は,漁業活動に欠くことのできない重要な作業であるが,漁業世帯員のうちこうした漁業の陸上作業のみに従事した者の数は,4年には8万7千人であったが,うち女性は9割以上の7万9千人であった。さらに,漁村における地場産業として重要な水産加工業にも女性は多数従事している。通商産業省「工業統計表」によれば,3年の水産食料品製造業従事者数は21万人であったが,うち女性は15万人と約7割を占めていた。このように,漁村において,女性は,漁業や水産加工業等漁業に関連する産業の担い手として地域の産業活動の維持に重要な役割を果たしている。

 また,一方で女性は,漁村における各種の地域活動の推進役としても重要である。

 漁村における女性の地域活動は,主として漁協婦人部を中心に行われている。5年4月現在,漁協婦人部は全国に1,344組織あり,部員数は14万3千人である。その活動内容をみると,漁協貯金や共済事業等への加入の促進,資源管理型漁業推進運動等への参加等漁協が行う事業や活動への協力・提携に加え,魚食普及活動等による消費者との交流,天然石けん使用の促進や海浜清掃等による海や渚の環境保全,健康・福祉活動の推進等による作業・生活環境の改善等非常に多岐にわたって展開されている( 表III-3-3 )。

 全国漁協婦人部連絡協議会が元年に漁協の婦人部員,婦人部長及び組合長に対し実施したアンケート調査によって,こうした漁村における女性の就業や地域活動に対する意識についてみると,まず,「漁協婦人部の必要性」については,組合長の9割が「必要と思う」としており,さらに,「漁協運営への婦人の参加」についても組合長の8割近くが「積極的に求めている」か又は「求めている」としているなど,女性の地域活動や意志決定の場への参画等に対する期待は大きいものがある( 図III-3-1 )。しかしながら,一方では,「男は仕事,女は家庭という考え方に同感する」とした者の割合は,婦人部員や婦人部長より組合長の方が高く,また,「自分が住んでいる漁村における男女の地位」については,婦人部員や婦人部長では「平等だと思わない」と感じている者の割合が「平等だと思う」と感じている者の割合の2倍以上に達しているのに対し,組合長では両者の割合はほぼ同じとなるなど,男女間の役割分担や女性の社会的地位に関する認識には未だに隔たりがみられる( 図III-3-2 )。

 今後,若者が漁村地域に定住し漁業生産力や地域の活力を長期的に維持していくためには,漁業を若者にとって魅力のある産業とし,漁村を若者にとって魅力のある生活,就業の場としていくことが重要であるが,特に若い女性が定住していくためには,男女間の役割分担の見直し,女性の社会的地位に関する男性の意識改革の徹底等により,女性が十分に能力を発揮でき,かつ,快適な生活が営めるような環境づくりに努めることが重要である。

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(3) 海洋性レクリエーションヘの対応

 近年,労働時間短縮による自由時間の増大,生活の中で余暇を重視する傾向への意識の変化等により,国民の余暇需要が増大かつ多様化している中で,自然志向,健康志向を背景に,ゆとりを提供する空間である海への関心が急速に高まっており,海水浴,遊漁,ヨット,水上オートバイ,ボードセイリング,スキューバダイビングなど,多種多様な海洋性レクリエーションが展開されている。

 このうち,遊漁についてみると,海面における遊漁者数は,「漁業センサス」によれば,63年には年間延べ3,500万人に達している。特に,ヨット,モーターボートなどのプレジャーボートの保有隻数の増加とともに,これらを使用する遊漁者数の伸びが顕著であり,年間延べ500万人に及んでいる。また,遊漁船業を利用した船釣りによる遊漁についてみると,3年10月から4年9月までの1年間において,船釣り客を案内した遊漁船業者数は全国で1万8千業者となっており,延べ船釣り客数は,約550万人であった。地域的には,太平洋中区及び瀬戸内海区で盛んに行われており,この2海区を合わせた業者数及び延べ釣り客数は,それぞれ全国の約5割及び約7割を占めていた。なお,この間の採捕量は,全国で約2万9千トンであり,魚種別にみると,まあじが最も多く,次いで,さば類,ぶりの順であった。

 スキューバダイビングについては,近年,若者を中心に急速な増加をみせており,スキューバダイビングの愛好者数の目安となる各ダイビング指導団体の認定書(Cカード)の発行数は,2年には約10万枚であり,2年までの累計が約47万枚となっている。潜水ポイントとしては,海域の自然が良く保全され,魚介類の豊富な海域に設定されることが多い。

 水上オートバイについては,ここ数年において急増しており,4年度末での水上オートバイの保有隻数は約6万隻となっている。

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 このような海洋性レクリエーションの拡大とともに,漁場においては,漁業と遊漁との水産動植物の採捕をめぐる競合の増大,スキューバダイビングとの海面利用の競合,プレジャーボートや水上オートバイ等の航行に伴う漁船航行や操業への支障,接触や衝突等による漁網等の漁業施設の損傷等の問題が発生してきている。また,漁港利用においては,プレジャーボートの無秩序係留,駐車場不足等による無秩序な駐車等の漁港施設の占用・利用の問題,漁具の破損等の財産侵害の問題,港内徐行不履行等の港内運行にかかわる問題,ごみの投棄や騒音等の環境の問題が発生している。さらに,海洋性レクリエーションを楽しむ側が組織化されていない場合があること,漁網等の漁業施設の損傷トラブルの加害者を特定できない場合があること,ボートの大型化,高性能化により航行区域が拡大していること等が,漁業と海洋性レクリエーションとの様々な調整を更に困難にしている。また,プレジャーボートや遊漁船の海難事故,プレジャーボートと他の海洋性レクリエーション利用者との人身事故なども発生している。

 このような状況の下で,トラブルの円滑な解決を図る上で,海洋性レクリエーションを楽しむ側の組織化の一層の推進や漁業操業を含めた海上における様々なルール等の啓発,協定の締結等による漁業と海洋性レクリエーションとの調和的な海面利用に関する新たなルールづくり等が必要となっており,各地において関係者間の取組が進められている。例えば,海区漁業調整委員会の指示と,漁業関係団体と遊漁船業者や遊漁者の団体等との間で締結された漁場利用に関する協定とを組み合わせることにより,漁業と遊漁との漁場利用のルールづくりが進められているところがある。また,プレジャーボート,水上オートバイ等の航行区域及び制限区域の設定やスキューバダイビングの潜水ポイントの指定,あるいは安全確保,マナー向上のための講習会や訪船・現場指導などが行われ,調和的な水面の利用が図られているところもある。このほか,プレジャーボートによる事故を防止する観点から,県条例により,操業中の漁船付近等でのプレジャーボートの航行を制限しているところもある。

 プレジャーボート等の漁港利用についても,係留場所をめぐるトラブルを解消し漁港利用の秩序を保持するため,それらを分離収容する施設(フィッシャリーナ)の整備が62年度から進められており,5年度までに6漁港において施設整備が完了し,分離収容が始まっている。なお,遊漁船業については,その健全な発展,遊漁船利用者の安全確保,漁場の安定的な利用関係の確保を図るため,遊漁船業者の都道府県知事への届出や社団法人全国遊漁船業協会による優良業者の登録等により,遊漁船業者の組織化や遊漁船業者への安全指導の徹底等の取組が行われている。

 一方,漁業者自らが主体となって海洋性レクリエーションに対応することにより,漁村活性化を図ろうとする取組も各地で行われるようになっている。遊漁船業やダイビング案内への取組や釣り場,宿泊施設,レストラン,水産物の産地直売所等の施設の整備等を通じ,就業機会の増大,都市住民との交流の場の創出等を図り,漁村活性化の起爆剤にしようとする例も増えている。例えば,静岡県A地区では,漁業者のほとんどが参画し,漁業のかたわらダイビング案内事業の経営に取り組んでおり,ボンベの貸出し,ダイビング案内及び休憩施設の運営を行っているほか,潜水ポイントヘの魚介類の放流を行うなど,魅力ある潜水ポイントの創出にも努めている。この結果,この地区では,漁業以外の収入が増加したほか,若い世代の定着もみられるなど漁村の活性化が図られている。

 今後,漁家所得の向上や漁村の活性化に資するよう,漁業と海洋性レクリエーションとの調和及び良好な自然環境の保全を図りつつ,地域の特性や漁業者としての経験をいかしながら,増大しつつある海洋性レクリエーション需要に適切に対応していくことが重要である。

(4) 漁港・漁村の整備

 我が国の沿岸域にくまなく分布する漁村は,漁業を主要産業として,就業の場を提供することにより,地域社会を形成しているとともに,良好な景観と豊かな自然が残されている場として,我が国の自然環境の維持に対して大きな役割を担っている。また,漁村は,漁場に近接し,漁船の出入りや停泊に便利な入り江やリアス式海岸に形成されているものが多く,概して,背後に山が迫る狭隘な土地に立地し,集密居的な集落を形成している。このため,漁村においては,道路,上下水道,廃棄物処理施設,緑地・広場等の生活関連公共施設等の整備が遅れている等生活環境の面に加え,漁港・漁村における労働が女性や高齢者にとって過重である等就労環境の面でも様々な問題を抱えているところが多い。このような状況に加え,漁村においては,若年齢層の流出等による漁業後継者の減少及び漁業就業者の高齢化に伴う地域の活力低下が大きな課題となっており,女性や高齢者にとりて快適であるとともに若者にとっても魅力的な生活・就労環境を提供する漁村・漁港を創造することが重要となっている。

 また,海岸線に沿って立地している漁村は,5年7月12日に発生し,236名の死者・行方不明者を出した北海道南西沖地震にみられるように,地震,台風等から引き起こされる大規模な土砂崩れ,高潮,津波等により漁村住民や漁船等が大きな被害を受けることがあることから,漁村住民や海岸利用者の安全を確保するための海岸保全施設等の防災施設の整備を引き続き推進していくことが緊要の課題となっている。

 さらに,遠洋漁業の大幅な縮小やそれに伴う我が国周辺水域の重要性の高まり,消費者ニーズの変化等を反映して,漁港に求められる機能も多様化している。漁業生産活動の場として漁村の中核的存在である漁港においては,近年,種苗生産施設,養殖用飼料保管施設等のつくり育てる漁業に関連した施設や,活魚流通の増加に対応した大規模な蓄養施設等新しい流通加工形態に対応した施設の整備が進められている。また,都市に近接した大規模な漁港においては,遠洋漁場の縮小等に伴い,近年,地元以外で漁獲された加工原料のウェイトが高くなってきており,トラック輸送等により搬入される水産物の増大等に対応した施設の整備が進められている。

 また,近年,国民の海洋性レクリエーション需要が高まる中で,豊かな自然と景観に恵まれた漁村・漁港をレクリエーションの場やその活動基地として利用する人々が増加しており,漁村・漁港に対する国民の期待も多様化している。これに伴い,遊漁船等と漁船との水産資源・漁場や漁港内の停泊地をめぐる競合,駐車場不足等地元のインフラ整備の遅れに伴う混乱等各種の問題が生じている。これらの課題を解決するため,漁村の良好な自然環境をいかしつつ,国民が豊かさとゆとりを実感できるような漁業と調和した海洋性レクリエーションの環境整備を図っていくことが求められており,良好な景観と快適でうるおいのある漁村環境を創出するための緑地・広場等の整備,フィッシャリーナの整備,安全に釣りを楽しむことが可能な防波堤や人工海浜等の親水施設の整備等が進められている。

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 一方,近年の経済・産業活動の急速な拡大や生活・レクリエーション活動の活発化等に伴い,漁村地域においても,埋立て等による自然海岸の喪失や各種の廃棄物・ごみ等による汚染が進行し,青く豊かな海や美しい浜辺が次第に失われつつある。地球的規模での環境保全に対する認識が高まる中,漁村・漁港においても,水産物流通・加工時に発生する残滓や排水,市場で使用される発泡スチロール等の廃棄物,漁村における生活排水等の処理を行うための施設の整備,泊地内の海水交流の促進,水産資源の生息・繁殖が可能な形状を有した防波堤・護岸など資源増殖機能を付加した漁港構造物の導入等自然環境の保全と水産資源の保護・育成に一層配慮した整備が求められている。

 このように,今日漁港において整備される施設は従来にも増して多種多様な機能が求められていることから,干満差の激しい漁港においても女性・高齢者の安全で快適な作業が可能となる揺れの少ない浮体式の係船岸やこれまで大水深,高波浪,漂砂等の条件により漁港の整備が困難であった海域における事業を可能にするための新技術の開発・導入が進められている。

(5) 漁業協同組合の現状と組織強化

ア 漁業協同組合の現状

 4年度末の漁協数は,3,213組合であり,このうち,沿海地区漁協は2,079組合,内水面地区漁協は899組合,業種別漁協は235組合であった( 表III-3-4 , ダウンロード )。

 3年度末の沿海地区出資漁協の1組合当たりの正組合員数及び職員数は,それぞれ166人,9.7人であった。これを前年度と比較すると,職員数では前年度並みであったものの正組合員数で3人減少しており,総じて零細な規模の漁協が多数存在している。なお,農協と比べると,1組合当たりの正組合員数では約1/10,職員数では約1/9となっている。

 また,漁協の地区の大きさをみると,市町村の区域以上の漁協は,若干増加傾向を示しているものの,依然として約8割の漁協は市町村の区域未満であり,そのうちの約半分は旧市町村の区域未満となっている。

 沿海地区出資漁協の3年度の事業実施状況をみると,信用,購買,販売事業を行っている組合は,いずれも全体の8割を超えており,事業実施状況は,信用事業貯金残高2兆608億円,貸付金残高7,692億円,販売事業取扱額1兆6,725億円,購買事業取扱額2,528億円となっている。これを前年度と比較すると,貯金残高については,5.0%増と前年度に引き続き順調に増加したが,貸付金残高,販売事業,購買事業については,いずれも前年度並みであった。

 漁協事業については,50年代前半までは順調に拡大したが,50年代後半以降は,漁業環境の変化を反映して,おおむね各事業とも伸び悩み又は縮小傾向で推移している。このため,3年度において当期欠損金を有する漁協は前年度より1.3ポイント増加し17.5%,繰越欠損金を有する漁協は1.1ポイント減少し22.3%を占めている。

イ 組織強化の方策

 漁協は,漁民の協同組織として,(1)経済事業の実施を通じた水産業の振興及び組合員の福祉の向上,(2)漁場における資源や漁業の管理,(3)水産業を核とする漁村地域の活性化等の役割を果たしている。近年,我が国周辺水域における資源水準の低下,国際的な漁業規制の一層の強化,消費者ニーズの多様化等漁協を取り巻く社会的,経済的状況は急速に変化しているが,特に,最近の金融自由化の進展等により,漁協の信用事業は,極めて厳しい状況に直面している。このような状況の変化に対応しつつ,漁協が将来にわたって漁村地域の中核的存在として,組合員の負託にこたえていくためには,組織体制の整備と事業基盤の強化が必要となっている。このため,関係機関の指導・協力の下に,合併や事業統合等を推進し,一層の規模拡大を図ることが重要である。

 合併や事業統合等の推進は,まず漁協自らの自主的な努力に負うところが大きく,漁協役職員等関係者が指導的役割を果たすことが重要である。また,合併の阻害要因となっている漁協間の財務内容の格差,漁場の利用をめぐる利害対立等の問題に対しては,「漁業協同組合合併助成法」や「漁協事業基盤強化総合対策事業」を積極的に活用するとともに,漁場利用計画の適正な樹立,計画的な財務の改善等を行うことが必要であり,その際,各種水産施策等についても合併等に資する方向で実施していくことが重要である。なお,合併や事業統合等を円滑に実施するため,5年に漁業協同組合合併助成法及び「水産業協同組合法」の一部を改正し,合併の際の漁業権の放棄・変更の手続に関する特例の創設や信用,販売,共済事業の事業譲渡についての規定の整備等を行ったところである。

 一方,漁協系統組織においては,4年11月に開催された第4回全国漁業協同組合大会において,合併・事業統合等による広域漁協への段階的再編を中心とした漁協の組織・事業の強化を図るための運動方針を決議し,9年度までに沿海地区出資漁協を2,103漁協(3年度末)からおおむね1,000漁協へ再編するとともに,併せて,1県1信用事業統合体を中心とする信用事業の統合・再編を推進することとしている。また,その具体的推進方法等を定めた「漁協合併等推進要綱」を策定するとともに,5年5月に全国漁業協同組合連合会の全会員で構成する「漁協合併等推進中央本部」を設置し,合併,事業統合等の早期実現のための推進方策の実行や行政と一体となった取組の促進を図る等組合員の期待と信頼にこたえる漁協づくりの実現を目指した具体的な実践活動に取り組んでいる。

 このような行政,系統が一体となった取組により,近年低調な水準で推移してきた漁協合併が,4年度には13件46組合行われ,さらに,5年度には前年度を上回る合併が予定される(6年1月15日現在で11件40組合が合併実施)等合併の気運は高まってきている。

(6) 内水面漁業の振興と地域活性化

 河川,湖沼等の内水面で営まれる漁業・養殖業の4年の生産量及び生産額は,18万8千トン及び1,665億円であった。これらを我が国の漁業生産に占める割合でみると,生産量では2%と低いものの,生産額では6%と,小型底びき網漁業や大中型まき網漁業に匹敵する水準に達している。また,魚類養殖についてみると,生産量に占める内水面養殖業の割合は25%と比較的高い水準にある。なお,内水面における魚類養殖は,海面における魚類養殖に比べ歴史が長いことから技術的に進んだ点も多く,養魚用配合飼料の開発・普及,魚病対策等の面で先駆的な役割を果たしてきている。

 このように,内水面は,比較的価格の高いいわゆる中高級魚の生産の場として重要であるが,一方,国民の余暇需要が増大かつ多様化する中で,遊漁を楽しむ場,自然と触れ合える場あるいは憩いの場としての内水面に対する関心も高まっている。このうち内水面における代表的なレクリエーションである遊漁についてみると,「漁業センサス」によれば,内水面における63年の年間遊漁者数は延べ1,100万人で,5年前の58年に比べ13%増加している。

 内水面においては,漁業生産の維持,増大や遊漁者のニーズにこたえるため,従来より,魚道や魚礁の設置,内水面漁協が行う種苗放流等により水産資源の維持,増大が図られているが,近年では,こうした内水面に対するレクリエーション需要の増大を踏まえ,釣り場等の遊漁関連施設,内水面に関する資料展示施設,水産物の直売施設,広場等を整備することにより,内水面を核として地域活性化を図ろうとする動きも各地でみられている。

 近年,河川,湖沼等における水質の悪化や水産動植物の繁殖場,生育場の減少,輸入品との競合等内水面漁業・養殖業を取り巻く情勢は年々厳しさを増しているが,漁業生産の場や国民のレクリエーションの場としての内水面の重要性を踏まえ,今後とも,内水面の環境を保全し,有効に活用していくことが重要である。

 なお,近年,ブラックバス,ブルーギル等魚食性の外来魚の生息が,全国各地の河川,湖沼において広く確認されている。これらの外来魚は,地域によっては遊漁等の対象魚種として当該地域の活性化に役立っているが,一方では,卵稚仔の捕食等によるあゆ,わかさぎ等在来の有用資源への被害やこれらの資源を利用する漁業や遊漁への悪影響等が懸念されている地域も多い。このような状況に対処し,外来魚の無秩序な放流を規制するため,必要に応じて各県の内水面漁業調整規則に基づき外来魚の移植制限を実施しているところであるが,このほか,場合によっては,これら外来魚の資源量を適正レベルに抑制する措置を講ずることも必要である。