4 漁船船員の動向

(1) 漁船船員の雇用・就労対策

 若年令層の漁業への就業が減少傾向にあること,国際規制の強化等の理由から実施された減船により沖合・遠洋漁業において漁業離職者が多数発生したこと等により,こうした漁業に従事する漁船船員は年々減少・高齢化している。このため,漁業種類や地域によっては労働力不足が生じており,中には深刻化しているところもみられる。

 こうした労働力不足の状況は,例えば,4年11月に公海流し網漁業の離職者対策のために開催された連絡会議において,約2千名の離職者に対し他の業種から2千5百名を超える求人があったことからもうかがえる。

 一方で,減船による離職者の再就職状況についてみると,財団法人海上労働科学研究所が3年度に実施した調査によれば,遠洋底びき網漁業,母船式さけ・ます漁業及び中型さけ・ます漁業に従事していて過去3年間に減船により離職を余儀なくされた者の再就職先は,陸上産業が52%,漁業が24%,商船が20%となっており,漁業への再就職は低い割合にとどまっていた( 図III-4-1 )。また,同調査によれば,減船離職後に住所を変更した者も9%と少なく,漁業労働力需給についての地域間,業種間のミスマッチが生じていると考えられる。

 また,若者の労働に対する考え方が変化する一方で,漁業労働は,天候,漁場の状況等の自然的条件に左右されることから労働が不規則かつ一時期に集中するため計画的な労働管理が困難であること,漁業種類によっては操業時期の関係から期間雇用が行われているなど雇用の不安定性があること等固有の不利な条件を有しており,さらには,漁業を取り巻く生産・経営環境が年々厳しさを増していることにより,漁業の将来への不安感が大きいこと,漁業の雇用労賃が他産業の給与額に対して相対的に低下してきていること等もあって,漁業労働力の確保をめぐる情勢は厳しい状況が続いている。

 このことは,2年に実施された全日本海員組合のアンケート調査において,「漁船船員の魅力が低下した原因」として,「賃金が見合わない」,「休暇が見合わない」,「漁業の将来が不安」,「雇用が不安」,「仕事がきつくなった」等を挙げた者が多かったことにも現れている( 図III-4-2 )。

 このような状況を踏まえると,今後,漁船船員を安定的に確保していくためには,まず,漁業生産構造の再編整備の計画的な実施,漁業生産コストの節減,収益性の向上を主眼とする経営の近代化,操業の効率化等を通じ,漁業労働の特殊性を勘案した賃金水準の確保を図ることが重要である。また,生活大国の実現に向けて,陸上各産業では6年4月から週40時間労働制に移行するなど就業環境の改善が着実に進展しているが,船員の労働条件を規定する「船員法」についても,週40時間制への移行を柱とする船員中央労働委員会の答申が出されたところである。こうした中,漁業労働に関しては,漁船船員に対する有給休暇制度の導入等が検討されているところであり,漁業労働の実態を踏まえながら,今後,漁船船員の雇用,就労環境の一層の改善に努める必要がある。

 また,漁船船員の採用に当たっては,依然として縁故を中心とした雇用方法がとられることが多いが,5年2月に東京都H島の漁業者が,一般求人誌に船員募集を行ったところ50件以上の問い合わせがあり,最終的に7人の新規就業者を確保することができた事例にもあるように,今後は,減船離職者の漁業への再就職の促進を図るとともに,公募等を含めた幅広い雇用にも取り組んでいく必要がある。さらには,水産系の高校,大学はもとより,その他の教育機関等に対しても積極的な求人活動を行うとともに,パンフレット,ビデオ等を通じたPRにより漁業に対する理解を深めるなどして新規就業者の確保に努めることも重要である。

 一方,中長期的には,労働力需給の引締まりが見通される中で,従来どおりの労働力を確保することが困難な状況となっており,労働力確保対策と併せ,漁業の省力・省人化を図ることが一層重要となっている。また,現在こうした省力・省人化に資するための漁労等に関する新技術の開発や操業形態の合理化に関する実証試験が行われているが,今後,これらの取組を引き続き推進し,その実用化に努めていくことが重要である( 表III-4-1 )。

 なお,遠洋かつお・まぐろ漁業等については,外国の港を基地として操業していることから,外国200海里周辺水域で操業する場合に沿岸国から自国民の雇用を要求される場合があること等の特殊事情を考慮して,2年9月から外国で乗下船させるなど一定の制限の下に外国人漁船船員の受入れが行われており,5年末現在では2,738人の外国人漁船船員が我が国漁船に乗船している。

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(2) 賃金の推移

 4年の中小漁業経営における年間1人当たりの雇用労賃は,前年に比べ1.4%,6万6千円減少し463万円となった( 表III-4-2 , ダウンロード )。中小漁業の雇用労賃を他産業の賃金水準と比較する場合,労働環境,労働時間,労働内容等の諸条件が大きく異なることに留意する必要があるが,製造業男子平均(事業規模30人以上)の給与額との比較において,57年以降10 年間の推移をみると,製造業の給与額の増加率が39%であるのに対し,中小漁業の雇用労賃の増加率は20%となっている。このような中小漁業の雇用労賃の他産業の給与額に対する相対的な低下が,最近の漁船乗組員の確保難の大きな要因の一つになっている。

 なお,漁業をめぐる厳しい内外の諸情勢の中で,漁船船員の生活を保証するため,56年に船員法適用船員に対する最低賃金制度が施行されている。5年においては,遠洋まぐろはえ縄漁業及び大型いか釣漁業の最低賃金額が6.40%引き上げられ,また,沖合底びき網漁業及び大中型まき網漁業についても,地域の実情に即して最低賃金の改善が図られており,今後とも漁船船員の生活の保証の観点から,制度の適正な運用を図っていくことが必要である。

(3) 海難と労働災害

ア 漁船の海難

 我が国周辺海域における救助を必要とする漁船海難の発生状況をみると,4年の漁船海難隻数は758隻で,台風及び異常気象による海難が多発した前年に比べ289隻減少した( 図III-4-3 )。また,海難による死亡・行方不明者を出した漁船は前年に比べ22隻減少し68隻となり,死亡・行方不明者は12人減少し119人となった。

 海難の種類では,衝突,乗揚げが多く,全体の41%を占めている。

 海難の原因としては,見張り不十分,操船不適切,機関整備不良等人為的な要因によると考えられるものが依然として多い。

 これらの海難の防止及び救助のための海難防止思想の普及・高揚,救助体制の拡充等種々の対策が講じられているが,こうした対策を効果あるものとするためには,乗組員だけでなく,船主の適切な労務管理についての自覚や国,漁協を始めとする関係者の強力な指導が不可欠である。また,万一事故が発生した場合に備え,救命設備を整備するなど関係者が一体となり操業の安全の確保に努める必要がある。

イ 船員の災害と疾病

 4年度における漁船船員(船員法適用者)の死亡及び休業3日以上に及ぶ労働災害の発生状況をみると,災害発生件数は1,841件と前年度に比べ8%減少し,漁船船員千人当たりの災害発生率(以下「災害発生率」という。)も低下した( 表III-4-3 , ダウンロード )。このうち,死亡災害は,90人と前年度より18人増加したが,原因別では,海難によるものを除くと,海中転落によるものが49%と依然として大きな割合を占めている。また,災害発生件数を作業種類別にみると,漁労作業中が最も多く,次いで,漁具・漁獲物取扱作業中,荷役作業中と続き,これらで全体の74%を占めている( 図III-4-4 )。

 また,職務上の休業4日以上の災害について,災害発生率を船員法適用船員についてみると,漁船は,汽船の1.8倍となっており,さらに,陸上産業労働者平均の7.3倍と非常に高い水準にある。

 一方,「労働者災害補償保険法」の適用を受ける漁業従事者(船員法非適用者)についてみても,4年度の死亡及び休業4日以上の新規受給者における災害発生率は,全産業平均の4倍という高率となっている。

 次に,漁船船員の死亡及び休業3日以上の疾病発生状況を船員法適用船員についてみると,4年度の疾病発生件数は1,755件と前年度に比べ11%減少し,漁船船員千人当りの疾病発生率も低下した。

 また,疾病の病類別発生状況をみると,依然として消化系,筋骨格系及び結合組織の疾患が多く,これらで全体の59%を占めている。