1 我が国周辺水域における水産資源の動向と持続的利用への取組

(1) 水産資源の動向

 我が国周辺水域は,寒暖両流が交錯し,多種類の魚介類が生息している。それらは,海洋の表中層に生息し比較的広範囲に分布・回遊する浮魚類と,主として底生生活を営み分布・回遊範囲も比較的狭い底魚類に大別される。

 最近の主要な資源の状況は,次のとおりである( 図IV-1-1 )。

〔浮魚類〕

 まいわしは,太平洋,日本海,東シナ海等広範な水域に分布し,現在,我が国で最も漁獲量の多い魚種である。まいわし資源は,昭和30年代後半から40年代後半までのほぼ10年間,極めて低位の水準にあったが,その後,急速に増加し,63年には史上最高の449万トンの水揚げを記録した。しかしながら,我が国周辺まいわし資源の過半を占めていた太平洋まいわし資源は,63年を境に漁獲量は減少傾向にあり,その主漁場である道東水域の漁獲物の年齢組成をみると,0〜4年魚が極めて少なくなっており,平成4年には5年魚以上の高齢魚主体となっている( 図IV-1-2 )。資源状態としては中位水準で減少傾向にある。日本海まいわし資源についても,資源は高位の水準にあるものの,近年漁獲の主体は4年魚以上の高齢魚が占めるようになってきており,太平洋まいわし資源と類似した状況がみられてきている。同様の傾向は東シナ海でもみられており,このため,今後のまいわし資源の動向については一層の注意が必要となっている。

 まさばは,太平洋,日本海,東シナ海等に分布する。太平洋のまさば資源の状況は,40年代後半から50年代前半には,数年おきに卓越年級群(特に資源量の多い年級群)が出現し,資源の高水準期を形成していたが,その後,資源は減少に転じ,近年は低位水準の横ばい傾向で推移している( 図IV-1-3 )。平成4年級群(4年生まれのもの)については,近年の資源低水準期の発生年級群の中ではその発生は比較的多いが,全体としては,低位水準で横ばい傾向にあることに変わりはなく,回復の兆候はみられていない。また,日本海及び東シナ海のまさば資源は,低位水準で減少傾向にある。

 まあじは,太平洋,日本海南西域から東シナ海にかけての日本周辺に広く分布する。東シナ海から日本海南西域におけるまあじ資源は,35年をピークとして55年まで減少傾向にあったが,その後,増加に転じ水準も中位となっている。太平洋側でも中位水準で漸増傾向にあり,全体として資源は中位水準で増加傾向にある。

 するめいかは,太平洋,日本海,東シナ海に広く分布している。するめいか資源の状況は,日本海側では,近年,中位水準の増加傾向で推移してきており,5年の主漁場である日本海沖合への来遊量も,前年に引き続き比較的高い水準となっている。一方,太平洋側では,3年以降低位水準の増加傾向で推移してきたが,5年の主漁場である太平洋北方沿岸海域への来遊量は,前年を下回りやや低い水準となっている。

 さんまは,太平洋北部に広く分布し,年々の資源変動が大きい魚種である。さんま資源は,60〜62年は中位水準で安定した推移を示していたが,63年以降資源水準が上昇し,漁場形成に恵まれたことから豊漁が続き,5年も同様に高位水準の横ばい傾向で推移している。

 かたくちいわしは,まいわし同様広範囲に分布し,特に太平洋側に多く分布している。かたくちいわし資源は,従来の夏・秋期の産卵に加え,近年春期産卵が復活し,しらす漁獲量が増え,産卵域も北に拡大していること等から,全体的に低水準期から脱却し,中位水準で増加傾向にある。

 かつおは,太平洋全体に広く分布しているが,我が国近海に来遊するかつおは,南方水域から北上し,5〜6月に伊豆半島に,6〜7月には房総半島以北の水域に達し,9月に南下回遊を行っている。資源は高位で安定した状態にある。

 まぐろ類は太平洋に広く分布し大回遊を行っている。まぐろ類の資源は,全体としては,漁獲状況からみて安定していると考えられる。

 さけ・ます類は,北太平洋に広く分布回遊しており,全体からみて,しろざけ,からふとます資源が増加傾向にある。日本系しろざけ資源はふ化放流の効果から高い水準で推移しているものの,各年の来遊量には比較的大きな変動がみられる。

〔底魚類等〕

 すけとうだらは,北海道周辺及び三陸沿岸を中心に分布する寒海性の魚種である。すけとうだら資源は,50年以降総じて中位で推移しているが,近年,太平洋系群(北方4島から常磐沖)及び根室海峡系群(根室海峡周辺)の資源量が減少傾向にある。

 まだらは,北海道近海及び太平洋北部水域に分布している。まだら資源は北海道近海では中位水準で横ばい,太平洋北部では中位水準で減少傾向にある。

 ひらめは,太平洋北部,日本海,東シナ海及び瀬戸内海に分布する魚種であり,その漁獲量は32年をピークに漸減傾向にあり,資源は総じて低位水準で減少傾向にある。しかしながら,瀬戸内海においては,50年代前半から本格的に行われている人工種苗放流の効果もあって,漁獲量は50年代後半から急激に増加しており,資源状態も増加傾向と考えられる。

 まだいは,東シナ海,九州沿岸から瀬戸内海を主分布域とする暖海性の魚種である。東シナ海及び黄海においては,近年は極めて低い資源水準で推移している。一方,瀬戸内海においては,40年代前半から人工種苗放流が本格的に行われており,現在の漁獲量は,20年代後半から30年代初期並みの水準に回復しており,資源状態も高位水準で横ばい傾向となっている。また,九州沿岸では東シナ海同様減少傾向にあるが,資源水準は,中位状態である。

 くるまえびは,暖海性のえびである。瀬戸内海では,30年代後半から人工種苗放流が本格的に行われており,資源は,44,45年を底として60年までは増加傾向を示したが,一時減少し,最近は高位水準で横ばい傾向にある。

 ずわいがには,我が国周辺水域では主として水深200mから450mの日本海,オホーツク海及び太平洋の一部に分布している。ずわいがに資源は,主漁場である日本海西部を中心に資源状態は極めて悪化しており,低位水準の減少傾向にある。このため,操業期間の短縮等資源保護の強化措置がとられている。

 べにずわいがには,ずわいがによりも深海性で,日本海では沿岸域や沖合堆の500mから2,700mの水深帯に生息する。べにずわいがに資源は,低位水準で減少傾向であり,近年,漁獲物の小型化や1かご当たりの漁獲量の減少等から資源状態の悪化が懸念され,体長制限の強化等の資源保護措置がとられている。

 ほたてがいは,北海道沿岸及び本州太平洋北部沿岸を主産地とする寒海性の二枚貝である。ほたてがい資源は,近年,種苗放流事業の増大と輪採方式を基本とした適切な資源管理により,資源状態は高位水準で増加傾向にある。

 以上のように,我が国周辺水域においては,さんま,かつお等のほか,人工種苗放流の効果等から日本系しろざけ,瀬戸内海におけるまだい及びひらめ等高水準を維持している魚種もあるが,全般的には中位又は低位水準で横ばい又は減少傾向にあるものが多いので,今後とも資源を回復,増加させることが重要な課題となっている。

(2) 我が国における資源管理の現状

〔漁業管理の手法と我が国の管理の現状〕

 漁業資源は,鉱物資源と異なり再生産が可能な資源であるため,漁獲強度を適正な水準に保つことによって,その持続的利用を図ることができる。漁具・漁法が改良され潜在的な漁獲能力の向上した今日では,適切な漁業管理を行うことが資源の持続的利用のために必要である。

 公的制度に基づく漁業管理には,漁獲量そのものを規制する直接的管理と漁獲能力等を規制することによって適正な漁獲量水準の維持を図ろうとする間接的管理とがある。直接的管理の手法として,対象資源の資源量を把握した上でそれに対する許容漁獲量を決定し,さらにそれを個別の漁業者に割り当てる場合を考えると,その利点としては,漁獲可能量の上限があらかじめ設定されているため漁業者間の漁獲競争の必要がなく,過大な資源開発と過剰な投資への動機が減少することや総許容漁獲量が正確であり,かつ割当量が守られる限りは,確実に最大の持続的生産を達成することができることが挙げられる。この場合の問題点としては,割当てを持っていない魚(混獲魚)の投棄,割当量の範囲内で最高価格となる漁獲物だけを水揚げするために行う低価格魚の投棄,実際の漁獲量チェックや違反の防止,取締りが困難であること等が挙げられる。

 一方,間接的管理の手法として,漁船の規模,隻数等の規制により漁獲強度を資源に見合った水準に抑制する場合を考えると,幅広い魚種に対し応用が可能で,取締りがしやすいといった利点を持つ。この場合の問題点としては,適正な漁獲量水準を維持するための適切な漁獲強度の設定が難しいこと,規制の対象外で技術開発が行われた場合,漁獲強度が増加するほか,過剰な設備投資等による経営の圧迫,効率的漁法の導入による乱獲の危険が存在すること等が挙げられる。

 我が国においては,利用する魚種が極めて多く漁獲方法が多種多様である,漁業経営体及び漁船隻数が極めて多い等の理由により,間接的手法を主体とした漁業管理を実施しているが,適切な漁獲強度を達成するためには,漁業者自身も自主的な取決めに基づき,よりきめ細かく資源の状況等に対応した管理を実施し,こうした公的制度に基づく資源の維持管理を補完していくことが重要である。

〔資源管理型漁業の推進〕

 我が国周辺水域においては,公的制度に基づく漁業管理に加え,漁業者自身の取決めに基づく管理が全国各地で行われている。その多くは定着性の強い貝類等の磯根資源を対象としたものであり,管理の範囲も単一漁協の漁業権の区域内にとどまるものが多い。

 63年の「第8次漁業センサス」において把握した漁業管理組織への漁業経営体の参画状況について,農林水産省が3年度に実施した調査の結果をみると,3年の漁業経営体数18万のうち,63年以来継続している漁業管理組織(継続漁業管理組織)に参画している漁業経営体数は,全体の37%に当たる6万7千であった。これを主とする漁業種類別にみると,採貝,その他の刺網,採藻,その他の釣,小型底びき網の順で経営体数が多くなっている( 表IV-1-1 , ダウンロード )。さらに,漁業種類別に継続漁業管理組織に参画している経営体の割合をみると,採藻,採貝,その他の刺網の順になっており,定着性の強い資源を利用する度合いの高い漁業種類ほど資源管理に参画する割合が高い傾向にある。しかしながら,近年では,回遊性のある魚種を対象とした複数の漁協による広域的な資源管理の事例もみられるようになってきており,県全域を管理の範囲としたものや複数の漁業種類を対象としたものも現れている( 表IV-1-2 )。

 現在,沿岸域における磯根資源とともに,広域を回遊する資源を対象として,行政や試験研究機関による資源量や水揚金額のシミュレーションを用いた科学的根拠に基づく適切な資源管理措置を漁業者自身が計画的に導入するという資源管理が広がりつつあり,今後も資源の維持管理を持続しつつ漁業収入の増加を図る「資源管理型漁業」を推進することが重要な課題となっている。

(3) つくり育てる漁業の推進

〔栽培漁業〕

 栽培漁業は,国民の需要,資源の状況等から必要性の高い水産動物について,種苗を大量に生産・放流し,これを経済的に適切な大きさまで育成することにより資源量の増大を図ることを目的としている。現在,14の国営栽培漁業センター事業場及び48の都道府県営栽培漁業センターが設置されているほか,市町村,漁協,漁業関係団体等が運営する栽培漁業センターが全国各地に設置されている。これらの栽培漁業センターでは,主として国の機関において基礎的な技術開発が,都道府県等において応用的技術開発及び地元に適した種苗の量産が行われている。現在,栽培漁業の対象種は約80種類に達しており,主要なものでは1,000万尾を超えるレベルでの放流が行われている( 図IV-1-4 )。これらの成果により,地域によってはかなりの放流効果が認められるようになっている。

 栽培漁業においては,生産された種苗の放流を行う事業は,実際に恩恵を受ける漁業者等の適切な負担の下に行うことが基本であり,現在,貝類,うに等定着性の強い魚種では漁協等が主体となって放流事業が行われている。一方,魚類,甲殻類等回遊性のある魚種については,魚種・地域によって差はあるものの,複数の漁業種類や遊漁により広い範囲にわたって漁獲されるため,(1)関係者が放流後の育成・管理を着実に行い効果の発現に結びつけることが難しいこと,(2)効果が発現した場合であっても,放流を行った漁業者がそれを実感し難いこと,(3)放流主体以外の漁業者・遊漁者の受益の程度を把握し難いこと等から,漁協等が主体となって放流事業が行われる割合は,定着性の強い魚種に比べ低い。

 今後は,コストの低減を含めた種苗生産,放流技術の確立に努め,安価で良質な種苗を生産し,より効果的に放流することが重要であるが,特に移動性のある魚類等については,放流適地を慎重に選定し,集中的な放流を継続して放流効果の発現に努めるとともに,「沿岸漁場整備開発法」に定める指定法人制度の活用(6年1月現在17道府県で指定)等によって対象種の移動性,漁業実態に応じた広域的な栽培漁業実施体制を整備し,適切な負担・資源管理に努めることが重要である。

〔さけ・ます類の増殖〕

 我が国におけるさけ・ます類のふ化放流事業は100年を超える歴史を持ち,国内の河川に回帰する日本系しろざけ資源の増大はこれによるものが大きい。現在,しろざけのふ化放流尾数は年間約20億尾で推移しており,その資源量は全体的に高水準を保っているものの,4年には来遊尾数が前年比24%減の4,589万尾となるなど年による変動が生じることもあり,各地域の回帰率にも差がある。このため,しろざけについては,資源の安定化とふ化放流事業の効率化を目指して,健苗育成,放流時期・手法の適正化,海洋生活期の生態把握,回帰率の低い日本海側資源の底上げ等に取り組んでいる。

 このほか,消費者ニーズが強く商品価値の高いさくらます,べにざけについても資源の増大に取り組んでいるところである。

 今後とも,これらの技術開発を推進することにより,効率的かつ安定的なふ化放流事業を行っていくことが重要である。

〔養殖〕

 養殖業は,水産物に対する需要の高級化,多様化に伴い,計画的かつ安定的な生産・供給が可能であることをいかして着実に発展を続けてきた。養殖生産量及び生産額の推移をみると,近年伸びの鈍化がみられるものの,引き続きおおむね増加傾向にあり,資源水準の低下,国際規制の強化等により低迷する漁業の多い中にあってその相対的な重要性を増している。

 現在,養殖対象種は,海産のものだけで約60種に達しており,多様化が進みつつあるが,依然としてぶり類,たい類,かき類,のり類,わかめ類等一部の対象種で養殖生産量の大半を占めている。また,これらの養殖対象種については,その生産が特定の地域や海域に特化しているものが多い( 図IV-1-5 )。このため,今後は,開発の余地の大きい日本海や北部太平洋の地域において海域特性をいかした養殖業の振興を図っていくことが重要である。

 一方,海面における魚類養殖の餌は,生餌が主体となっているものの,配合飼料の利用も近年大幅に増加している( 図IV-1-6 )。しかしながら,依然として過密養殖,生餌主体の給餌等により漁場環境が悪化している地域もみられるため,配合飼料の一層の普及に努めるとともに,給餌量の適正化,省給餌養殖に適した種の開発,残餌等の堆積物の回収等による養殖負荷の低減等の漁場環境対策を推進していくことが重要である。また,これらの餌料の大部分はまいわしに依存しているが,最近まいわしの漁獲量の減少により餌料不足が憂慮される状況となっているため,新たな餌料原料の導入及び現在低利用である原料の活用を検討していくことが重要となっている。

 なお,水産用医薬品については,用法,用量,使用禁止期間等の使用規制が行われているが,今後とも消費者の信頼にこたえる養殖生産物の安全性及び品質を確保していくため,漁協等を中心とした指導・管理体制の整備等を図っていくことが重要である。

〔漁場の造成・改良〕

 我が国周辺水域においては,漁業生産力を高めその効率的利用を図るための漁場の整備が,「沿岸漁場整備開発事業」を中心として行われている。その内容は,コンクリートブロック等の耐久性構造物の設置による魚礁漁場の造成,投石,離岸堤又は干潟の造成等による増殖場の造成,消波堤の設置等による養殖場の造成及び漁場の堆積物の除去,しゅんせつ,作れい等による既存漁場の機能の回復等であり,地域の状況,対象とする海域及び魚介類の特性,漁場利用の方向等を考慮しつつ,総合的かつ計画的に実施されている。また,うに,あわび等に代表されるように,栽培漁業との連携により相乗効果を得ている事例も多い。さらに,こうした漁場の整備は,藻場・干潟の造成,底質の改善等を通じて沿岸水域の水質の浄化,生態系の保全等にも貢献している。

 今後とも沿岸域の整備に当たっては,栽培漁業等との連携を一層強化するとともに,海洋環境や生態系の保全という観点にも着目して,沿岸漁場の整備を促進する必要がある。

〔技術開発〕

 近年,水産分野においてもバイオテクノロジー研究が盛んとなっている。遺伝子レベルにおいては研究段階にとどまっているものの,染色体操作による雌性発生,三倍体生産については一部実用化の段階に達しており,雌雄の選別がいらない,成長が速いなどの特徴を持つ水産生物が作出されている。このため,4年には染色体操作技術を用いて作出された水産生物の適正な利用を推進することを目的とする「三倍体魚等の水産生物の利用要領」が制定されたところである。これに基づき関係者への指導が行われており,現在までに,あまご,にじます等6魚種について,三倍体魚等の特性評価の確認が終了している。

 また,つくり育てる漁業を中心とした技術開発が,産・学・官の共同研究開発組織である社団法人マリノフォーラム21を始め,国,地方公共団体,民間企業等で積極的に行われている。現在,マリノフォーラム21においては,ぶり類等を対象とした沖合域での大規模養殖システム,まぐろ等高度回遊性魚種に適した養殖システム及び下層の栄養塩類を人工的に湧昇させ漁場生産力の向上を図るための人工湧昇流発生システムの実証試験が行われているほか,海産稚仔魚の種苗生産初期のクロレラ,わむし等の生物餌料に替わる超微粒子人工配合飼料の開発,音響馴致等を利用したくろそい,ひらめの資源管理システムの開発,人工的に海藻等の生育を図るための浮体構造物の開発等が行われている。一方,国及び地方公共団体等においては,生産性,耐病性及び食味の良さ等の品質について養殖対象種の品種改良を行うための技術開発等が行われている。

 今後これらの技術を早期に実用化し,つくり育てる漁業の一層の効率化を推進していくことが必要である。

( 写真 )