2 漁業をめぐる国際情勢

(1) 国連海洋法条約と海洋における漁業管理

 「海洋は自由である」とする考え方は,長い間海洋における国際慣習であったが,大陸棚の鉱物資源の開発が現実的になり,大陸棚及びその上部水域をめぐる管轄権が重要な問題となるにつれて,国連においても海洋法の成文化を目指すこととなり,33年の第1次国連海洋法会議において「ジュネーヴ海洋法四条約」が採択された。しかしながら,以前から議論が分かれている領海の幅員については結論が得られず,引き続き35年に招集された第2次国連海洋法会議においてもその解決をみなかったため,領海を200海里に拡大する国,経済水域や漁業水域を設定する国等が出現し,沿岸国の主権及び管轄権についての混乱が世界的に生じることとなった。また,一方では,第2次世界大戦後における植民地の独立の結果として多数の新興国が国際社会に参加することとなったが,これらの国々は,自国が独立する以前に採択されたジュネーヴ海洋法四条約の見直しを主張していた。このような諸情勢を踏まえ,45年の第25回国連総会において,公海,大陸棚,領海,漁業と生物資源保存といった問題に加えて,深海底制度,海洋環境の保護・保全,科学調査といった広範な問題をも含む海洋法全般の審議を行い,海洋法の新制度を制定するため,第3次国連海洋法会議の開催が決定された。同会議は48年から57年までの10年間11会期にわたり行われ,「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」が57年4月のニューヨークでの第11会期において採択され,同年12月のジャマイカでの最終議定書署名会議において各国の署名のため開放された(我が国は58年2月7日に署名)。

 このうち漁業問題については,200海里排他的経済水域の導入並びに自国200海里水域及びそれと隣接する公海の双方にまたがって分布する魚種の資源(ストラドリング・ストック),高度回遊性魚種,海産ほ乳動物,溯河性資源等の取扱いが主要な争点となったが,最終的には,排他的経済水域の内側では沿岸国に生物資源の探査,開発,保存及び管理のための主権的権利が認められることとなり,さらに,排他的経済水域や公海における一般の生物資源の保存・管理に関する規定のほか,ストラドリング・ストック,高度回遊性魚種,海産ほ乳動物,溯河性資源等については別条項を設けて取扱いを規定することとなった。それによれば,ストラドリング・ストックについては排他的経済水域に隣接する公海において沿岸国と漁業国とが直接に又は地域的機関を通じて管理を行うこと,高度回遊性魚種については排他的経済水域の内外を問わず当該地域全体において関係国が直接に又は国際機関を通じて管理を行うこと,海産ほ乳動物については本条約の規定が国際機関又は沿岸国による,より厳しい規制の実施を妨げるものではないこと,溯河性資源については母川の所在する国が第一義的利益及び責任を有すること等が規定されている。

 国連海洋法条約は,批准・加入数が60に達した日から12か月後に発効することとなっている。5年11月16日にガイアナが批准を行い60に達したので,本条約は6年11月16日に発効することとなった。

(2) 公海漁業をめぐる動き

 200海里体制の定着により外国200海里内漁場での操業の縮小を余儀なくされた我が国は,公海にその代替漁場を求め,公海漁業が急速な発展を遂げた。我が国の公海での漁獲量は,200海里体制当初の53年に40万トンであったが,10年後の63年には163万トンにまで増大した。しかしながら,その後漁獲量は減少傾向にあり,4年には65万トンとなっている。一方で,近年地球環境問題に対する関心が世界的に高まるにつれて,欧米の環境保護団体等を中心に野生生物保護の観点から公海漁業に対する規制を求める声が年々強まっており,このような情勢の中で捕鯨や公海大規模流し網漁業の一時停止が決議されるなど,公海漁業は大きな制約を受けることとなった。また,公海漁業の発展に伴う漁業資源に対する影響も懸念されており,4年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」においても,ストラドリング・ストック及び高度回遊性魚種の取扱いについては,「アジェンダ21」への記述をめぐって議論となったところである。

 公海漁業については,環境保護や資源に対する各国の異なる立場をいかに調整するかという困難な問題が存在するが,世界人口が増加を続ける中で,海洋の食糧供給の場としての役割は以前にも増して重要なものとなっている。動物性たんぱく質の約4割を水産物から得ている我が国としても,今後,持続的に公海資源を利用していくこと及び責任ある漁業の管理を行うことが将来にわたっての課題である。そのためには,国際的な協議の場等を通じて他の関係国と協力しながら科学的根拠に基づいた海洋生物資源の保存・管理体制を確立し,各国の理解を得るように努めることが重要である。

 なお,責任ある漁業管理の在り方については,現在,国連食糧農業機関(FAO)において検討が進められているが,その一環として,5年11月のFAO総会において,旗国の許可を得ない公海漁業を禁止する等公海で操業を行う漁船の旗国の責任を規定した「公海上の漁船に対する国際的な保存管理措置の遵守を促進するための協定(仮称)」が採択されたところである。

〔捕鯨問題〕

 鯨類の管理は,鯨類資源の保存及び有効利用を図り捕鯨産業の秩序ある発展を目的とする「国際捕鯨取締条約」に基づき設立された国際捕鯨委員会(IWC)を通じて行われてきた。しかしながら,欧米等においては,反捕鯨の立場にある環境保護団体等が社会に大きな影響力を持ち,IWCに対しても積極的な働きかけを行っている。このため,現在のIWCは反捕鯨国が大多数を占め,我が国,ノールウェー等の捕鯨国は少数派となっている。これらの捕鯨国は,鯨類を含む海洋水産資源の合理的利用の実践が重要との観点から,科学的根拠に基づいた鯨類資源の持続的利用を主張し,捕鯨の再開に向けて各国の理解を得るべく粘り強く努力を行っているところである。商業捕鯨全面停止(モラトリアム)は,鯨類資源の包括的評価を行うことにより見直すこととなっており,既に,4年6月の第44回IWC年次会議までには,IWCの科学委員会において,南氷洋及び北太平洋のミンク鯨の頭数が確認され,南氷洋については100年間で少なくとも20万頭捕獲可能との計算結果が得られている。

 5年4月から5月にかけて京都で行われた第45回IWC年次会議では捕鯨再開への前提である改訂管理制度(RMS)について検討が行われ,科学委員会においては,調査に必要な最低限のデータの基準と調査方法のガイドラインについて完成をみたが,本会議においては,米国がRMSの新たな条件としてモニタリングシステムを設けることを要求し,モラトリアムの見直しはまたも先送りとなった。さらに,我が国の要求していたミンク鯨50頭の沿岸小型捕鯨の暫定救済枠については,具体的な行動計画を提出したが否決された。しかしながら,「次回年次会議で,IWCは,沿岸小型捕鯨地域の窮状を緩和するため迅速に作業を進める」旨の決議が採択された。一方,南氷洋を鯨のサンクチュアリーとして一切の捕鯨活動を禁止するとの提案が昨年に引き続きフランスより提出されたが,次回の年次会議で検討する旨の決議が採択され,サンクチュアリーの今次総会での採択は回避された。また,我が国が提案した絶滅に瀕した種の積極的回復を目指す「大型ひげ鯨類の保存に関する決議」が全会一致で採択された。なお,モラトリアムに対して異議申立てを行っているノールウェーは,5年6月より捕鯨を再開させた。

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 捕鯨問題は,単に鯨の保存管理の問題として捉えるのではなく,海洋生物資源全般の合理的利用に関する問題の一環として捉える必要があり,我が国としては,UNCEDで合意された持続的開発の原則に沿って,科学的な調査研究や客観的な事実に基づく保存管理措置を引き続き訴えていくことが重要である。

〔かつお・まぐろ漁業〕

 かつお・まぐろ類は,公海,各国200海里水域を通じ回遊する高度回遊性魚種であるため,国際的な保存管理の枠組みの下に,環境保護の要請にも配慮しつつ,各国が操業を行うことが肝要である。現在,大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT),全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)等の多数国間条約に基づく国際機関が設立されており,条約の適用水域においては定められた条件の下で操業が行われている。しかしながら,これらの水域においては,近年,条約非締約国漁船による無秩序な操業が,国際的な資源管理措置の効果を減殺するとして大きな問題となっている。このような状況を踏まえ,我が国を含むICCAT加盟国は,非加盟国による漁獲を含むすべての大西洋くろまぐろの漁獲実態の把握のため,輸入されるくろまぐろの量,漁獲水域等の情報が提供される統計証明制度を5年9月から実施している。

 また,みなみまぐろについては,57年より毎年,我が国,オーストラリア及びニュー・ジーランドの3国の間で総漁獲量及び各国別割当量につき協議を行うことを通じて資源の保存管理を図ってきたところであるが,近年の漁業資源の保存に対する国際的な関心の高まりを背景として,みなみまぐろの保存管理に係る枠組みを一層整備することが必要であるとの認識から「みなみまぐろの保存のための条約」を締結することで意見が一致し,3国間で協議を重ねた結果,5年1月に条約案文についても実質的に合意をみるに至った。これを受けて,5年5月キャンベラにおいて本条約への署名が行われたところであり,その後各国において,本条約の発効に向け国内手続が進められているところである。

 さらに,インド洋においては,インド洋におけるまぐろ類資源の保存管理を目的とした「インド洋まぐろ類委員会設立協定(仮称)」が5年11月にFAO理事会で採択され,今後10か国が同協定を受諾した時点で発効することとなっている。

 なお,中西部太平洋水域は我が国かつお・まぐろ漁船の重要な漁場となっている。当該水域に位置する島嶼国・地域の大部分は,地域の社会経済的発展を図ることを目的とした南太平洋フォーラムに加入し,特に漁業分野に関する組織としてフォーラム漁業機関(FFA)を設置している。FFAは,沿岸国だけで公海域を含むまぐろ類資源の管理を行うとの姿勢を示している。こうした動きは,当該水域における我が国漁船の操業の一方的な規制につながるおそれがあるため,我が国は,従来よりFFAに対しかつお・まぐろ等の高度回遊性魚種は沿岸国及び漁業国が同じ立場で参加する国際機関により管理すべき旨主張するとともに,適正な漁業管理体制の確立のために粘り強くFFAと協議を続けているところである。

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〔べーリング公海漁業〕

 米国200海里水域における外国漁船に対する漁獲割当量の大幅な減少に伴い,我が国を始めとする漁業国は,60年頃からその代替漁場としてべーリング公海におけるすけとうだら漁業を活発化させた。このため,同海域におけるすけとうだらの漁獲量は,最盛期の元年には140万トンを超えたが,その後急激に減少した(4年の漁獲量は約1万トン)。

 このような状況の中で,沿岸国である米国及びロシア(ソ連)は,べーリング公海における漁業が自国200海里内の資源に悪影響を与えるとして規制導入の動きを強め,2年6月には,米ソ首脳会談において,べーリング公海漁業問題に関して早急に保存措置がとられるべき旨の共同声明を発表した。

 これらの動きを背景として,3年2月以降,べーリング公海のすけとうだら資源の保存管理問題を協議するため,漁業国である我が国,ポーランド,韓国及び中国を含めた関係国会議が開催されてきた。4年8月にモスクワで開催された第5回関係国会議においては,5年及び6年の2年間の期限を設け,各国が自主的に操業の一時停止を行うこと及びその間資源の回復状況を科学調査と漁船による試験操業により調査することで意見の一致をみた。さらに,6年2月にワシントンで開催された第10回関係国会議において,べーリング公海のすけとうだら資源の保存管理に関する長期的な枠組みとして「中央べーリング海のすけとうだら資源の保存管理に関する条約(仮称)」が作成された。

〔ワシントン条約のクライテリアの改正について〕

 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」においては,4年3月の締約国会議における決定により,条約の規制対象にすべき種の掲載基準(クライテリア)を,従来の定性的なものからより定量的,科学的かつ客観的な新基準にするための改正作業を行っており,6年11月の第9回締約国会議で採択される予定となっている。

 このため,ワシントン条約事務局は国際自然保護連合に原案の作成を依頼したが,作成された新クライテリア案においては,漁業や狩猟が付属書I(取引禁止品目)及びII(貿易監視品目)の掲載種をかなりの量混獲する場合にはこうした漁業や狩猟の対象種を付属書IIに掲載すること,付属書I及びIIの掲載種の生存にとって必須な種(餌生物等)についても付属書IIに掲載すること,大量に取引されている海洋生物種が付属書IIに掲載された場合には,ワシントン条約締約国会議で定める管理プログラムと輸出枠の下でのみ漁業活動及び取引が認められること等が盛り込まれており,漁業にとって重要な影響を及ぼしかねない内容となっていた。その後,ワシントン条約内部での検討を重ねた結果,とりあえずこうした内容の大部分は削除されることとなった。しかしながら,本件については今後の検討過程を経て最終的にどのようなものになるか予断を許さず,その動向について注意深く対応していく必要がある。

〔ストラドリング・ストック及び高度回遊性魚種に関する国連会議〕

 ストラドリング・ストック及び高度回遊性魚種の保存・管理については,UNCEDの場において,早急に国連主催の会議を開催することが合意されていたが,その合意を受け,5年7月,ニューヨークにおいて「ストラドリング・ストック及び高度回遊性魚種に関する国連会議」が開催され,両資源の保存・管理の在り方について討議が行われた。主な議題は,200海里水域内と公海上の資源管理措置の一貫性の確保,監視及び取締りの方法,沿岸国と公海漁業国で構成される管理機関の機能等であった。今回の会議においては,UNCEDにおける議論と同様に,200海里水域に隣接する公海においては沿岸国に優先的権利が認められるべきであるとするカナダ等の沿岸国とすべての沿岸国と漁業国は対等の立場で全回遊水域を対象として協力するべきであるという我が国,EC等の公海漁業国との間で主張が対立し,合意には至らなかった。本件に関する議論は,第49回国連総会までに完了させることが4年末の第47回国連総会において決議されており,引き続き6年の春及び夏に同趣旨の国連会議が開催される予定となっている。

(3) 外国200海里内操業をめぐる動き

 200海里水域の設定問題に関しては,第3次国連海洋法会議における大きな争点の一つであったが,本問題が検討されている最中の52年に米国が200海里水域を設定すると,これに引き続きカナダ,EC諸国,ソ連,我が国等が相次いで200海里水域を設定し,世界は,第3次国連海洋法会議の帰結を待たずして200海里体制に突入することとなった。このため我が国遠洋漁場の大部分は沿岸国の200海里水域に取り込まれることとなり,我が国は従来の漁場及び漁獲実績を確保するために多数の沿岸国と入漁交渉を行うこととなった。しかしながら,これらの国々との漁業交渉は従来の双方が原則として対等の立場で公海における資源の評価を行い,資源の適正な保存・利用を図るものから,沿岸国の漁業に関する管轄権を前提としたものとなった。このため外国200海里内水域における漁獲割当量等の操業条件は,沿岸国の漁業自国化政策等とあいまって年々厳しさを増し,主要漁場においても,米国水域における割当量が63年以降ゼロとなり,ソ連水域等でも漁獲割当量が大幅に減少することとなった。現在においても各国との漁業交渉は厳しい状況が続いている。

〔ロシア〕

 我が国及びロシアは,各々が200海里水域を設定した52年以降,「日ソ地先沖合漁業協定」に基づき相手国200海里水域への相互入漁を行っている。入漁条件については毎年開催される日ロ(ソ)漁業委員会の中で決定されているが,我が国漁船に対する漁獲割当量等の入漁条件は年々厳しさを増す傾向となっている。このため62年以降は相互入漁以外にも有償入漁による我が国漁船への割当量の確保を行っている。6年の我が国漁船の操業条件は,相互入漁10万トン,有償入漁1.8万トン(見返り金額7.2億円)となった。なお,相互入漁による漁獲割当量の確保に関連して,ロシア側に対し,科学調査船等の供与を含む,民間による協力事業を実施することとなった。また,ロシア漁船の漁獲割当量は,10万トンとなった。このほか,ロシア200海里内では,民間ベースの契約による操業,洋上買魚等が行われている。

 一方,ロシア系さけ・ます類を対象とする北洋さけ・ます漁業については,公海沖獲り禁止を受け入れたことにより,4年以降はロシア及び我が国200海里内での操業のみが行われている。5年の我が国200海里内での漁獲可能量は,前年より2千トン増加し4,819トン,ロシア200海里内での漁獲割当量は,前年より若干増加し2万2千トンとなった。

〔その他〕

 このほか,カナダ,ニュー・ジーランド,オーストラリア,アルゼンチン,南太平洋島嶼国等の200海里水域においては,政府間又は民間レベルによる協定の締結や個別入漁,合弁事業等により操業の確保が図られているが,その交渉は年々厳しさを増す傾向にある。

(4) 我が国周辺水域における外国漁船の操業

 我が国は,52年に200海里水域を設定したものの,韓国及び中国が200海里水域を設定していないことや「日韓漁業協定」及び「日中漁業協定」に基づき漁業秩序の維持が図られていることへの配慮等から,東経135度以西の日本海,東シナ海等においては漁業水域を設定していない。また,設定されている漁業水域においても,韓国及び中国の国民が行う漁業等については,「漁業水域に関する暫定措置法」による規制を適用していない。

 現在,我が国周辺水域においては,韓国漁船や中国漁船による活発な操業が行われており,我が国漁業者への種々の影響が生じているほか,漁業資源に対する影響も懸念されている。こうした中,我が国漁船の安全かつ円滑な操業を確保するとともに,資源の保存・管理措置の実効性を確保するという観点から,我が国周辺水域における外国漁船の操業秩序の確保に努めることが重要な課題となっている。

〔韓国〕

 我が国と韓国との間では,40年に締結された日韓漁業協定を基本とする操業が行われてきた。その後,北海道周辺水域及び西日本周辺水域における韓国漁船の操業問題に対処するため,55年以降両国間の合意に基づく自主規制措置を実施しており,現在は4年3月に合意された自主規制措置に基づき操業が行われている。しかしながら,現状では西日本水域を中心として韓国漁船の協定,自主規制違反が跡を絶たない状況にあり,我が国漁業者との間で漁船間のトラブル,漁具被害等が発生しているため,操業の安全性の確保や資源の枯渇に対する懸念が生じるなど,現行の枠組みに対する我が国漁業者の不満は強く,韓国漁船等に対し200海里水域の適用等実効ある資源管理措置を望む声が高まっている。なお,現在の自主規制措置は6年末までとなっており,7年以降の日韓漁業の在り方については,今後,両国間で協議を行っていく予定となっている。

〔中国〕

 我が国と中国との間では,50年に締結された日中漁業協定に基づき漁業秩序の維持が図られている。協定締結当時の中国漁業は中国沿岸域での操業が多かったが,近年,沖合・遠洋漁業の振興に力を入れてきている。我が国対馬周辺水域等においても底びき網漁船やまき網漁船による操業が活発化しており,漁場の競合や大量の中国漁船の緊急避難等我が国漁業者への影響が生じている。このため,現在,両国間の協議の場において,我が国沖合底びき網漁業禁止区域における中国漁船の操業自粛,中国漁船の緊急避難の適正化等について中国側に要請を行っているところである。

(5) 国際漁業協力の現状

 現在,世界の人口は50億人を超えており,開発途上国の中には食料の不足に苦しんでいるところもある。今後も開発途上国を中心として人口の増加が続くものと予想されており,将来にわたり食料を安定的に確保・供給していくことが人類共通の課題となっている。こうした中で,水産物は,動物性たんぱく質の供給源として重要性を増しており,各途上国においても自国の水産業の振興と水産資源の開発に積極的に取り組んでいる。我が国は,相手国の漁業の発展と我が国漁船の漁場確保に資するため,従来から幅広い国際漁業協力を行っており,世界でも有数の水産技術と経験を有する我が国に対しては数多くの協力要請が寄せられている。

〔無償援助,技術協力の現状〕

 我が国は,開発途上国の水産振興に寄与するため,政府開発援助(ODA)の一環として水産無償資金協力と各種の技術協力を行っている。水産無償資金協力の協力内容は,漁港や流通施設等の産業基盤施設の整備,漁業訓練船や研究所等の研究・研修施設の充実及び船外機,漁具等の供与による零細漁業の振興等幅広い分野にわたっている。技術協力については,国際協力事業団が,漁業や水産物の加工・流通を指導していく人材の育成を主体に,我が国からの専門家の派遣や相手国からの研修員の受入れを行っている。4年度の水産分野での我が国からの専門家派遣数は48か国196人,また我が国への研修員の受入数は49か国138人となっている。また,国際協力事業団は,日本人専門家の派遣,研修員の受入れと必要な機材の供与を組み合わせたプロジェクト方式の技術協力を行っている。こうした協力は,無償資金協力により建設,整備される施設を有効活用して行われる場合も多い。

 他方,民間主体でも,海外漁業協力財団において,4年度は,17か国34人の個別専門家の派遣及び21か国112人の海外研修生の受入れのほか,漁労等の技術,漁場の調査,離島振興,水産関係施設の修理・修復等の各種の技術移転のため,専門家派遣と機材供与を組み合わせた技術協力を行っている。

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〔合弁事業等海外直接投資の現状〕

 200海里体制の定着以降,我が国の漁船が外国の200海里内で操業することは次第に困難な状況となっている。このため,合弁事業による操業の確保が図られている。これらの合弁事業は,相手国側からも,我が国の資本と技術の導入により自国漁業の振興に資するものとして期待されている。5年3月現在,我が国からの海外投資によって設立されている漁業を主たる事業内容とする現地法人数は198となっている。

 近年は,ロシアとの間で合弁事業の設立の動きが積極的になってきており,63年以降5年3月までに19件の合弁事業が設立されている。その内容は,さけ・ます類の人工ふ化場設立,まだら,かに,えび等の漁獲,水産加工等であり,北洋における我が国漁船の操業機会の確保の観点からも我が国漁業者の期待を集めている。

 また,海外漁業協力財団では,合弁事業が相手国の漁業開発,振興等に寄与すると認められた場合に,合弁主体の我が国企業等に対して事業促進のための融資を行う制度を設け,国際漁業協力に貢献する形での合弁事業を支援している。

 我が国漁業への国際規制が厳しさを増す中で,合弁事業は,我が国への水産物の供給,海外漁場の確保,現地における漁業の振興等大きな役割を果たしているが,実際の投資に際しては海外での企業経営の困難さを考慮し,現地の状況を十分に調査し,採算性を見極めた上で長期的な視野に立った投資を行うことが重要である。