V むすび

 以上のような我が国漁業をめぐる状況を踏まえ,我が国漁業の生産力を維持し,国民への水産物の安定供給を確保していくための基本的な課題について展望してみよう。

〔我が国周辺水域の高度利用〕

 我が国遠洋漁業が大幅な縮小を余儀なくされた現在,水産物の供給源としての我が国周辺水域の重要性はますます高まっており,その高度利用を図っていくことが求められている。

 我が国周辺水域は,寒暖両流が交錯しプランクトンの生育に適した極めて生産力の高い水域であるが,その漁業資源の状況は,漁船馬力数の増加,漁労設備の高度化等による漁獲強度の増大が資源の再生産機能の低下を招いたこと等もあって消費者ニーズの強い底魚類等を中心に総じて低水準にある。また,消費者ニーズに応じた計画的な生産と安定的な供給が可能であるという利点を有する養殖業についても,着実な発展はみられるものの,依然として特定の魚種や特定の海域に生産が集中する傾向にある。

 したがって,今後は,つくり育てる漁業を引き続き推進し,種苗放流,魚礁漁場・増殖場造成等の人為的な手法による資源の積極的回復とその効率的利用に努めることが急務である。また,養殖対象魚種の多様化,海域特性をいかした養殖業の普及等を通じた養殖業の振興に努めることも重要である。さらに,魚介類の産卵場や幼稚仔の生育場となっている沿岸域の天然の藻場,干潟等を保全していくことも極めて重要であり,沿岸域における各種開発事業の実施に当たってはこうした点に十分配慮する必要がある。

 また,資源の効率的かつ持続的な利用を図っていくためには,資源に見合った適正な漁獲強度を実現していくことが基本的に重要である。このため,漁業者の自主的な取組として全国各地で徐々に活発化している資源管理型漁業を,より広範な取組として推進し,資源を中心に考えた協調的な操業体制を確立することが重要である。なお,その際,地域や漁業種類によっては,適正な漁獲能力の実現のため,生産構造の再編整備を図ることも必要となろう。さらに,我が国周辺水域における外国漁船の操業秩序の維持に努め,資源管理の実効性の確保を図ることが重要である。

〔海洋生物資源の適切な管理と合理的利用〕

 200海里体制の定着に伴う公海漁業の発展や地球環境の保全に対する関心の高まりを背景に,最近,海洋生物資源の管理と利用の在り方をめぐる議論が国際的に活発化している。

 海洋生物資源の管理と利用に関しては,200海里水域内の資源に対する沿岸国の管轄権やさけ・ます類等の溯河性魚類資源に対するいわゆる母川国主義の考え方は,既に国際的に定着しており,こうした資源の利用については,沿岸国や母川国との政府間あるいは民間ベースでの交渉を通じて引き続き操業の維持・確保に努める必要がある。一方,ストラドリング・ストックやまぐろ類等の高度回遊性魚種の管理と利用の在り方については,必ずしも国際的に意見が一致しておらず,沿岸国と漁業国との間で対立がみられている。また,海産ほ乳動物の保護等環境保護の観点から漁業を規制しようとする動きも依然として活発である。世界有数の漁業国であり水産物消費国である我が国としては,国際的な協議の場等を通じて他の関係国と協力しながら,海洋環境の保全にも配慮しつつ,科学的根拠に基づいた海洋生物資源の適切な保存・管理体制を確立するとともに,国際的に漁業に対する正しい理解が得られるように努めることが重要である。

〔消費者ニーズに即応した水産物の供給〕

 我が国の漁業生産量が減少傾向にある中で国民への水産物の安定供給を確保していくためには,まず,国内生産による供給力の回復を図り,水産物供給の量的確保に努めることが緊急の課題であるが,一方,食の簡便化,外部化等が進行する中で多様化する消費者ニーズに即応した水産物を供給することによって,供給の質的充実に努めることも重要である。また,その際,生産者自らが漁獲物の付加価値向上や販路の拡大等に積極的に取り組むことも重要である。

 したがって,今後は,流通段階のみならず生産者サイドにおいても,活魚出荷等鮮度や品質をより一層重視した出荷体制の確立,フィレ,切身等加工や調理が簡便な形態への一次処理の実施,出荷規模の拡大等による水産物の規格や価格の安定化等に努めていくことが重要である。また,これと併せて,水産物の安定供給や消費者ニーズに対応した製品の提供等に重要な役割を果たしている水産加工業において原料の供給事情が大きく変化していることを踏まえ,未利用資源等の加工原料としての利用の促進等を図っていくことも重要である。

〔漁業経営の安定と漁業の担い手の確保〕

 最近の漁業の経営状況をみると,比較的規模の大きい漁業種類を中心に,漁獲量の減少や魚価の低下の影響から総じて厳しい状況にあり,また,資源の減少や国際規制の強化に伴い減船による生産構造の再編整備が必要となっている漁業種類もみられる。

 資源や漁場面での制約が強まっている中で,今後の漁業経営にあっては,生産の増大により経営の安定化を図っていくことが非常に困難な状況になるものと思われる。このため,資源管理型漁業を実践すること等によって協調的な操業体制を確立し,漁獲競争の下では過大になりがちな設備投資等の抑制に努め,生産コストの削減を図っていくことが重要である。また,特に中小漁業にあっては,若年齢層を始めとする労働力の不足が経営に深刻な影響を及ぼしているものもみられるため,幅広い雇用方法の採用や就労環境の改善等により労働力の確保に努めるとともに,一層の省力・省人化に取り組んでいくことが重要となっている。さらに,地域や経営の実情に応じ,漁獲物の高鮮度出荷,産地加工等による漁獲物の高付加価値化に取り組み漁業収入の向上を図ることや,海洋性レクリエーション関連事業等の漁業外事業に取り組み全体としての経営の安定化に努めることも重要である。

 漁業就業者の減少及び高齢化傾向が強まる中で,若者の漁村地域への定住を促進し,漁業生産力や漁村地域の活力を長期的に維持していくためには,こうした取組により,漁業経営の改善と安定化を図り,漁業を収入ややりがいの面で魅力ある産業とすることが何よりも重要であるが,これと併せて,漁業生産基盤の整備に加え,生活環境の整備や労働環境の改善などにより,若者が住み良い漁村環境の整備等に努めることも重要である。

 なお,今後,資源管理型漁業の推進母体や調整役として,あるいは漁村地域活性化の中核的存在として,その果たすべき役割がますます重要になっている漁協については,合併,事業統合等による組織体制の整備と事業基盤の強化が急務となっている。