6 世界の漁業生産と水産物貿易

(1) 漁業生産

 世界の漁業生産量は,1980年代終盤までは年々増大してきたが,1988年に初めて1億トンを超えて以降はおおむね横ばい傾向で推移しており,1993年の漁業生産量は前年比3%増の1億859万トンとなった( 図II-6-1 )。その内訳をみると,主として養殖の伸びに支えられた内水面漁業と藻類の増加が著しく,それぞれ前年比9%増の1,717万トン,15%増の718万トンとなっている一方,海面漁業はほぼ前年並み(前年比1%増)の8,425万トンとなっている。

〔国別の動向〕

 1993年における国別の漁業生産量をみると,中国の急増ぶりが目立ち,引き続き第1位となり,続いて我が国,ペルー,チリ,アメリカの順となっている。

 中国の漁業生産量は,1979年以降15年連続で増加しており,1993年は前年に比べ19%増加して2,210万トンとなった。中国は,他の国と比べて淡水魚類と藻類の生産の増加が目立ち,特にこい類を中心とした内水面養殖の伸びが著しいものとなっている。内水面養殖面積は,1991年には我が国の国土面積の10%強に相当する約4万km2にのぼり,淡水魚養殖生産量の大きさを裏付けている。また,漁業生産全体に占める養殖生産の割合も年々高くなっており,1993年には全漁業生産に占める養殖生産の割合が5割を超えるなど,他国とは異なる生産構造になっている。

 ペルーの漁業生産量は,ここ数年横ばい傾向にあったが,1993年は23%と大幅に増加して845万トンとなり,藻類を含めた生産量では世界第3位であるが,藻類を除いた生産量では第2位となった。ペルーの総生産量の大部分は南米まいわし及びペルーかたくちいわしで,1993年にはこれら2魚種で総生産量の94%を占めている。

 チリの漁業生産量は,7%減少し619万トンとなった。チリの漁業生産も,ペルーと同様にあじ,いわし類等の多獲性浮魚類に依存しており,チリまあじ及びペルーかたくちいわしの2魚種で生産量の75%前後を占めている。

 アメリカの漁業生産量は,8%増加し602万トンであった。これはたら類等の生産が伸びたことによる。アメリカの漁業生産は前述の3か国にみられるような突出して生産量の多い魚種はみられない。

 ロシアの漁業生産量は,1991年の旧ソ連邦崩壊以降漁業生産量が急減しており,1993年の生産量は前年に比べ20%減少し446万トンにとどまった。魚種別では,すけとうだらが漁業生産量の47%を占めている。

〔1993年の漁業生産の特徴〕

 1993年における世界の漁業生産の増加部分の大半は,内水面漁業と藻類の生産である。

 内水面漁業の生産量は主に養殖に支えられているが,前年に比べ146万トン増と大きく生産量を伸ばした。この伸びは中国のこい類養殖を中心としたアジアの内水面漁業によるものであり,アジア以外の地域の内水面漁業は,1990年をピークに減少傾向をみせている状況にある。また,藻類の生産も,増加が著しいものは中国の褐藻類である。

 他方,全漁業生産の約8割を占めている海産魚介類の生産量については,1993年は近年では生産量が比較的大きく伸びた年になり,117万トン増加したが,生産量のピークを示した1988〜89年の水準には及ばず,また,内水面漁業の増加量よりも少ないものであった。海面漁業の増加は,いわし類が5%増の2,144万トン,さば類が15%増の390万トン漁獲されたこと等によるものであるが,特に,南米沖で主に魚粉原料として利用されている浮魚類の漁獲が目立っている。その一方で,食用として需要の大きい底魚類の漁業生産量は,これまで最も生産量が多かった1988年には2,761万トンであったが,1993年には約1割減少し2,533万トンにとどまっている( 図II-6-2 )。

 このような状況から,漁業生産量に占める内水面漁業及び藻類の割合は年々増加しており,漁業生産量に占める海面漁業(海面養殖を含む。)の割合の変化をみると,1984年には84%であったものが1993年には77%に減少している。

(2) 水産物貿易

 世界の水産物貿易は,これまで拡大傾向を続けてきている( 図II-6-3 )。1993年は,輸出については,数量は前年に比べ13%増加し1,908万トンとなり,金額は2%増加し412億ドルとなった。一方,輸入については,数量は6%増加し1,853万トンとなったものの,金額は2%減少し446億ドルとなった。

 輸入額について,国別にみると,我が国が第1位で全体の32%を占め,以下アメリカ,スペイン,フランス,イタリアの順となっている。

 一方,輸出額については,タイが第1位で,以下,アメリカ,ノールウェー,デンマーク,カナダの順となっており,1992年には第2位であったタイがアメリカを抜いて第1位となったが,輸出では輸入に比べると突出した国が存在しないことが特徴として挙げられる。タイは,輸出額は缶詰を中心にここ数年で大きく伸びているが,それにあわせて缶詰原料となる生鮮魚介類の輸入も増えており,水産物の加工貿易が盛んに行われていることがうかがえる。また,ペルーは,主要輸出品目は比較的安価な魚粉であるため,輸出額は第19位であるが,数量では第1位となっている。我が国は,かつては世界有数の水産物輸出国であったが,1993年では第18位に後退している。

 なお,水産物貿易における輸出入収支について,輸入額上位国で比較すると,我が国,イタリア以外の国は輸入額の3割以上の輸出額があるのに対して,特に我が国は輸入額に対する輸出額の割合は低いものとなっている( 図II-6-4 )。

〔水産物貿易と国際資源管理〕

 貿易と環境との相互に影響を及ぼす問題については,近年,経済協力開発機構(OECD)や世界貿易機関(WTO)等において取り上げられるようになっている。貿易と環境の問題は,1990年,アメリカが,メキシコ漁民によるきはだまぐろ操業はアメリカ国内法で定める基準以上のイルカを混獲しているとして,メキシコ原産のまぐろ製品の輸入を禁止する措置を採ったことを契機にして,注目されるようになった(同措置は1991年及び1994年のGATTパネルにおいてGATT違反とされた)。また,ICCATにおいては,近年の非加盟国の漁船による無秩序な操業が大西洋くろまぐろ資源の保存管理措置の効果を減殺するとして大きな問題となった。そのため,1993年より貿易を通じて非加盟国の漁獲実態を把握するための統計証明制度が開始されたほか,1994年の年次会議ではこのような操業を改めなかった国に対しては貿易制限措置を採ることを内容とする行動計画が定められ,さらに,1995年の年次会議ではパナマ,ベリーズ及びホンジュラスに対し漁業活動の改善要請を行うことが合意された。水産物貿易が資源の保存管理を害してはならないという考え方は,FAOの「責任ある漁業のための行動規範」においても認められているものであり,WTOとの整合性を確保し,水産物貿易が海洋生態系の保全や水産資源の維持・保全等に悪影響を与えないよう今後とも適切に対応していく必要がある。

(3) 水産物需給

 近年においては,先進国における健康に対する関心の高まりや,開発途上国における人口の増加,経済成長に伴う生活水準の向上等を背景として,世界の食用魚介類の需要は強まる傾向にある。また,食用魚介類の供給量についても堅調に推移しており,世界の食用魚介類の需給規模は拡大傾向で推移している。

 1988〜1990年の世界の食用魚介類の平均年間1人当たり供給量は,13.3kgで増加傾向にある( 図II-6-5 )。その中で先進国は平均25.9kgの供給量があるのに対し,開発途上国は平均9.3kgと,両者の供給量の格差は依然として大きい。しかし,同供給量の1982〜1984年の平均供給量に対する伸びについてみると,先進国は3%の伸びであるのに対し,開発途上国は21%と大幅な伸びを示しており,特に中国は92%と飛躍的に伸びて平均9.4kgとなっている。

 また,世界の年間1人当たりたんぱく質供給量をみると,67.5kg(1979〜1981年平均)から70.9kg(1988〜1990年平均)と増加し,加えて,摂取するたんぱく質の中で動物性たんぱく質の割合が増加していることから,今後も水産物の1人当たり供給量は増加傾向が続くとみられる。さらに,FAOが行った予測によれば,2010年における人間の直接消費のための水産物の需要は,水産物価格が一定である場合,1億1,000万〜1億2,000万トンの範囲に達すると推定されるのに対し,それに対する供給量は7,000万〜1億1,000万トンの範囲にとどまると予想されており,世界の漁業生産の動向次第では,世界的に水産物需給が引き締まり,水産物貿易への影響が生じることも考えられる。

〔「食料安全保障のための漁業の持続的貢献に関する国際会議」〕

 将来の人口増に伴う水産物需要の増加が見込まれる中,今後世界的に水産物の供給を増加していく必要があるが,その一方で,水産物供給は頭打ち傾向がみられている。このような状況下にあって,漁業生産を増大して,漁業の食料安全保障の面での貢献を維持するための方策について国際的に話し合うため,「食料安全保障のための漁業の持続的貢献に関する国際会議」が7年(1995年)12月,京都にてFAOの協力の下,我が国政府の主催で開催され,95か国の政府関係者,11の国際機関,9の国際的な非政府組織(NGO)が参加した。

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 この会議において,漁業は食料供給・雇用創出・所得確保等多くの面から食料安全保障に大きく貢献しているとの認識が表明されるとともに,将来の水産物供給を増大させるためには,適切な資源管理措置,資源の有効利用,適切な水産物貿易等を実施するほか,水産物利用における地域間・国家間の経済的・文化的差異の尊重とその重要性の研究を推進するべきとした京都宣言及び具体的な行動計画が採択された。