3 世界の水産物需給

(1) 世界の漁業生産

 世界の漁業生産量は,一時横ばい状態にあったが,1992年(平成4年)以降増加傾向に転じた。1994年の漁業生産量は,前年に比べ7%増加し,1億1,743万トンとなった( 図IV-3-1 )。このうち,内水面での魚介類の生産量は,11%増加し1,917万トン,海面での魚介類の生産量は,7%増加し9,041万トン,藻類の生産量は,9%増加し784万トンとなった。世界の漁業生産を魚種別にみると,最も生産量が多かった魚種は,ペルーかたくちいわしで,前年に比べ43%増加し1,190万トンとなった。主な生産国はペルーで,918万トンと全体の77%を占めた。しかし,1995年の生産量は,ペルーが資源保護の観点から禁漁期間を延長した影響等を受け大きく減少し,1996年の生産量も引き続き減少している模様である。第2位はすけとうだらで,7%減少し430万トンとなった。主な生産国はロシアで,175万トンと全体の41%を占めた。第3位はチリまあじで,27%増加し425万トンとなった。主な生産国はチリで,404万トンと全体の95%を占めた。第4位ははくれん(こいの1種)で,17%増加し223万トンとなった。主な生産国は中国で,214万トンと96%を占めた。第5位は大西洋にしんで,16%増加し189万トンとなった。主な生産国はノールウェーで。54万トンと全体の28%を占めた。

 国別にみると,第1位は中国で,16%増加し2,563万トンと,世界の漁業生産量の22%を占めた。このうち内水面漁業は,21%増加し905万トン,海面漁業は,16%増加し1,167万トン,藻類は,8%増加し492万トンとなった。中国の漁業生産量の増加は,近年目覚ましいものがあり,5年前の1989年に比べ生産量をほぼ倍増させた。中国の漁業生産は,広大な国土面積を背景とした内水面養殖の比重が高く,魚種別では,はくれんを始めとしたこい類の生産量が多いが,国連食料農業機関(FAO)の統計で「その他」と分類されている魚介類の生産量が2割以上を占め,世界的にあまり知られていない魚介類の生産量が多いことを示している。

 第2位はぺルーで,37%増加し1,159万トンとなった。ペルーの漁業生産は,多獲性浮魚類であるペルーかたくちいわしに大きく依存しており,1994年はペルーの漁業生産量の79%を占めた。これは,主に魚粉の原料となり,食用に向けられる割合は,小さい。また,ペルーの漁業生産は,浮魚類に依存しているため,その漁業生産量は,不安定な面があり,1995年の漁業生産量は,ペルーかたくちいわしや南米まいわしの生産量が減少したため,900万トン程度にとどまったとみられる。

 第3位は我が国で,810万トンであった。第二次世界大戦後の我が国の漁業生産量は,終戦直後の混乱期を除き,1位あるいは2位を維持してきたが,1994年は3位に転落した。

 第4位はチリで,30%増加し802万トンとなったが,藻類を除いた生産量では,我が国を抜いて3位となった。チリの漁業生産もペルーと同じく多獲性浮魚類に依存した生産構造になっており,チリまあじが全体の52%,ペルーかたくちいわしが35%を占めている。また,これらの大半が魚粉の原料とされる点もペルーと同様である。

 第5位はアメリカで,ほぼ前年並みの606万トンとなった。最も生産量の多い魚種は,すけとうだらで142万トン,次はMenhaden(にしん科の魚)で77万トンであった。アメリカの漁業の魚種構造は,ペルーやチリと異なり,突出して生産量の多い魚種は,みられない。

 第6位はインドで,5%増加し454万トンとなった。インドの漁業生産は,中国と同じく内水面漁業の比重が高く,全体の45%を占めた。

(2) 世界の水産物貿易

 世界の水産物貿易の規模は,拡大傾向にある。1994年(平成6年)の水産物貿易をみると,輸入量は,前年に比べ11%増加し2,046万トン,輸入額は,16%増加し515億ドルとなり,輸出量は,11%増加し2,114万トン,輸出額は,13%増加し470億ドルとなった( 図IV-3-2 )。

 輸入額について,国別にみると,我が国が第1位で全体の31%を占め,以下アメリカ,フランス,スペイン,ドイツの順となった。

 一方,輸出額についてみると,タイが第1位で全体の9%を占め,以下アメリカ,ノールウェー,デンマーク,中国の順となった。タイの輸出額は,甲殻類等を中心に大きく伸びており,1994年には,甲殻類等の輸出額が水産物の総輸出額の70%以上を占めた。

 品目別では,近年の世界的な魚粉需要の増大により,魚粉の貿易が活発化している。1994年の魚粉の輸出量は,27%増加し454万トンとなった。魚粉の需要は,1995年から1996年にかけても引きつづき旺盛であるとみられるが,一方で,魚粉の生産量は,主要生産国のぺルーが漁業生産量の減少から魚粉生産量を減少させ,もう1つの主要生産国のチリの生産量も伸び悩むなど,需要の増大に供給が追いつかない状態にあり,魚粉需給は,逼迫している。そのため,1995年のペルーの魚粉価格は,平均21%高騰し,現在(1996年11月)に至るまで引き続き高値で推移している。

 世界の水産物貿易については,中国,東南アジア諸国等今後経済の発展が見込まれる国々ではますます盛んになるとの指摘がなされている。しかし,水産物貿易の拡大に不可欠な漁業生産量の増加に対して悲観的な意見も出されており,水産物の入手競合の激化や,格が上昇するなど,長期的には先行きが不透明な面もみられる。実際,我が国の主要な水産物輸入相手国から,自国の供給量に制約があるため,我が国の水産物市場の拡大に対応し切れないという声も出ており,水産物貿易の拡大に歯止めがかかる可能性があることを示唆している。このため,世界有数の水産物需要国である我が国としては,国民に長期的に安定して水産物を供給するためにも,その確実な供給源である我が国水産業の健全な育成を進めていく必要がある。

〔水産物貿易と環境問題〕

 近年では,漁業が海洋環境に与える影響について関心が高まっているが,水産物貿易の分野においてもその影響が直接的に現れており,近年では,海洋環境に悪影響を及ぼしているとの理由で水産物の輸入を規制しようとする事例もみられる。

 1996年からアメリカは,特定国以外の国からのえびの輸入を禁止しているが,これは,えび漁業がうみがめを混獲しているとの指摘が環境保護団体からなされたことによる措置で,うみがめの混獲回避装置を装着していることやうみがめが生息しない海域を操業海域としていること等が証明された国に限り輸入を認めることとしている。このため,輸入が認められなかった国々を中心に,このことについて世界貿易機関(WTO)ヘ提訴する動きがみられている。

 このほか,ICCATが,ICCATの保存管理措置の効果を減じる漁業活動を行っていること等を理由に特定の3か国からのくろまぐろの輸入を禁止するよう勧告するなどの動きもあり,今後,海洋環境に悪影響を及ぼす操業による水産物の貿易や取引に圧力をかける動きは,強まるものとみられる。

(3) 世界の水産物需給

 世界の水産物需給をみると,先進諸国では,健康に対する関心の高まり,開発途上国では,人口の増加や経済成長に伴う生活水準の向上等を背景にこれまで拡大傾向に推移してきた。また,供給量は,国別に出入りはあるものの,おおむね堅調に推移しているとみられてきたが,現在でも,一部の国々を除き,おおむね継続して拡大しているものと考えられる。

 1991(平成3年)〜1993年の平均値で年間1人当たり魚介類供給量をみると,人口で約8割を占める開発途上国は,前回(1988〜1990年)に比べ10%増加し10.3kgになった。特に,中国の伸びが著しく,32%増加し12.4kgとなった。しかし,先進国は,逆に14%減少し22.3kgとなった( 図IV-3-3 )。このため,世界全体では,2%減少し13.0kgとなった。先進国の1人当たり供給量が減少した原因としては,食用向け水産物供給量が12%減少したことがあげられる。特に,ロシア等旧社会主義国において,漁業生産量の減少等により供給量が大きく減少しており,これら諸国の1人当たり供給量は,46%減少した。一方,これら諸国を除いた先進国の1人当たり供給量は,3%の減少にとどまった。

 一方,FAOの予測によれば,世界の人口は1995年の57億人から2050年までに72%増加し98億人となり,この人口増加に対応するだけで1995年の76%,食生活の向上分を含めると125%の食料増産が必要であるとされており,このような状況を背景に中長期的な食料需給問題が指摘されている。さらに,気象災害等による食料需給の不安定性,価格の大幅な変動等の短期的な問題や,開発途上国を中心として約8億4千万人に達する慢性的栄養不足人口の問題にも取り組んでいく必要がある。これら世界の食料・農業及び食料安全保障問題の解決に向け,1996年11月に「世界食料サミット」がローマのFAO本部において開催された。この会合において,世界の食料安全保障の達成と,2015年までに栄養不足人口の半減を目指した「世界食料安全保障のためのローマ宣言」と,その具体的な方策を示した「世界食料サミット行動計画」が採択された。この中には,1995年に京都で開催された「食料安全保障のための漁業の持続的貢献に関する国際会議」で採択された京都宣言も盛り込まれており,漁業についても水産資源を持続的に利用することにより,食料安全保障に貢献することが求められている。

 特に,砂漠化や森林の破壊等によって農地の拡大が困難とされている中,これまで以上に水産物の重要性は増すものと考えられる。しかし,世界人ロが先の予測通りに推移する場合を考えると,2050年に現在の1人当たり食用水産物供給量を維持するためには,約1億3千万トン(98億人×13kg)の漁業生産量が必要である。さらに,水産物は,食用だけでなく,魚粉等飼肥料の重要な供給源となっており,これら非食用向けの供給量が,1989〜1991年の平均値である約3千万トンのまま推移したとしても,2050年には,約1億6千万トンの漁業生産が必要となるが,これは,1994年の漁業生産量に比べ35%以上多い数字である。

 一方,水産業を将来にわたって持続的に利用していくためには,水産資源の実態に見合った漁業生産が前提となるが,現在,海面漁業では,資源評価がなされている漁獲対象魚種の7割は許容範囲の上限近くあるいは上限を超えているとの指摘もあり,生産量の急速な増大は,海洋水産資源の持続的な利用に重大な支障を及ぼしかねない。そのため,未利用資源の大規模な開発等がない限り,今後の世界の漁業生産量が長期的に安定して増加する可能性は非常に小さく,今後の水産物需給については,予断を許さない状況にある。したがって,我が国においては,国民への水産物の安定供給を図るため,引き続き漁業生産力の維持・強化に努めていく必要がある。