3 活力ある漁村の創造

(1) 漁業の担い手の育成・確保

ア 担い手の確保の状況

 「漁業センサス」によれば,個人経営体のうち,自営漁業の後継者が確保されている経営体(現在,後継者が漁業に従事している個人漁業経営体)は,全体の14%と,7世帯のうち1世帯に過ぎない。

 「漁業センサス」から個人漁業経営体のうち,後継者が確保されている経営体の比率が30%以上の市町村をみると,北海道では,オホーツク海沿岸及び内浦湾(噴火湾)沿岸のさけ定置網,ほたてがい養殖等を中心に漁業を営んでいる経営体が多い市町村があげられる( 図V-3-1 )。その他の地域では,三陸沿岸のほたてがい,わかめ,ぎんざけ養殖等,九州地域のぶり類,のり養殖等を中心に養殖業を営んでいる経営体が多い一部の市町村のほか,福井県越前町や福島県相馬市等にみられるようなずわいがに,ひらめ等の漁獲物のブランド化,付加価値向上を図っている一部の市町村においても後継者が確保されている。

 また,男子漁業就業者に占める15〜39歳の若年男子漁業就業者の比率が40%以上である市町村をみると,北海道においては,後継者が確保されている市町村と同じような傾向がみられる。一方,その他の地域では,小型底びき網漁業やぶり養殖等を中心に漁業を営んでいる経営体が多い兵庫県家島町や長崎県小佐々町の2市町村に過ぎない。

 これらの市町村において担い手が確保されている背景としては,その地域の漁業が,大型定置網等の労働集約的漁業や,家族労働に強く依存する養殖業等を中心に営まれており,特に意識することなく自然に後継者となりうる土壌を有していることがあげられる。また,資源管理型漁業の推進等により,小型底びき網漁業,刺網漁業等での漁獲物の活魚出荷等の付加価値向上が積極的に行われており,漁業経営の安定化が図られていること,さらに,若年漁業就業者自身が,漁業は,努力や工夫次第で他産業に就業するより収入を多く得られると感じ,意欲をもって漁業に取り組んでいること等もあげられる。

 しかし,沿岸域では,総じて担い手の確保が不十分であり,今後,漁業の健全な発展を図り,漁村地域の活力を長期的に維持していくことが困難な状況になっている。

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イ 新たな担い手の確保

 高齢化が進む漁村においては,将来の漁業就業者が大幅に減少すると考えられることから,漁家の出身者の就業促進のみでこれを補うことは,難しい状況にあり,地域外の者を含めた漁家出身以外の中で漁業に積極的に取り組もうとする,意欲ある若者を受け入れる環境づくりが必要である。このような中,地域によっては,漁業の振興を図りながら,他産業からの新たな漁業の担い手を積極的に確保する動きも見られる。

〔村役場の公募により定住した新規漁業者のAさんの事例〕

 高校卒業後,民間企業に勤めていたAさんは,日ごろ,家族と田舎で暮らしたいという希望をもっていた。そのような折に,島根県知夫里島 知夫村役場の「島に住みませんか牛や漁船をあげます」という新聞記事を見付け,応募した。漁船については,村からの全面的な助成を受け,1トンの動力船と船外機船を購入し,住宅についても村のあっせんを受けた。家族も最初は戸惑いを感じたが,徐々に村の人たちの交流を深めることで解消された。最初は周囲の人々から心配されたが,徐々にさざえ漁のほか,一本釣も取り入れ,今では,いたやがい,いわがき等の養殖にも取り組み,漁業収入も年々伸びてきた。

 Aさんは,生活に合わせて仕事をすることができ,都会に比べ家族と一緒に過ごす時間が増え,努力や工夫をすれば相応の成果が得られるので漁業にやりがいを感じている。また,新規就業者にとって,漁業技術を習得する期間の収入が不安定となるので,一定期間の助成措置があればいいと感じている。

〔フィッシャ一マンズ・トレーニングセンターを卒業したBさんの事例〕

 大学卒業後,民間企業に勤めていたBさんは,宮城県北部船主協会の30歳以下の若者を対象にしたまぐろ漁業の担い手の育成機関「宮城県漁船乗組員短期養成所」(フィッシャーマンズ・トレーニングセンター)の存在を知り,生産者としての喜びを感じたいとして,3期生として入所した。その後,約4週間にわたって漁船員としての知識や技能を習得する研修を経た上で,遠洋まぐろはえ縄漁船の機関員として約10カ月の航海に出た。

 このように,若年齢層の労働ヘの価値観が変化してきている中で,漁業への円滑な参入を促進するためには,漁村の中核的存在である漁協が,その家族の居住環境の整備を含めた指導力を発揮することが不可欠であり,青年漁業者グループの研究実践活動を育成しつつ,漁業技術の的確な指導,漁業生産が軌道に乗るまでの資金面の助成,省力化の推進,定休日の設定等の就業環境の整備,居住地の確保,地域住民との交流が図ることができる生活環境の整備等を図っていくことが必要である。

(2) 漁村における女性の役割

 平成7年の女性漁業就業者数は,総漁業就業者数30万1千人の18%に相当する5万4千人となっており,そのうち99%沿岸漁業に携わっている。

 女性の労働状況等について,自営漁業に従事した65歳未満の女性を対象にしたアンケート調査結果でみると,漁業に従事する女性が家の漁業にどのようにかかわっているかをみると,「夫や親等と一緒に漁業経営の全体に参画している」と回答した女性が44%と最も多く,「漁業経営の全体を取り仕切っている」と「特定の作業をまかされている」を含めると61%となり,多くの女性が直接漁業にかかわっていることがうかかえる。しかし,報酬,給与等の状況をみると,漁業に従事している女性の40%は,特に報酬を受け取っていない。さらに,休日については,43%の女性が,荒天等で出漁できない時だけ休めるか,ほとんど休めない状況にある( 図V-3-2 )。一般に女性が漁業に従事する場合,家事・育児等を行いながら従事するといった過重負担を強いられる事例が多いが,漁村において漁業の担い手の減少や漁業者の高齢化が著しい中にあって,女性が,漁村において安定的に就業するためには,報酬等の充実,定期的な休日の設定等の労働環境の整備を図ることが求められている。

 また,漁村における女性の地域活動は,主として漁協の婦人部を中心として行われている。8年4月現在,漁協婦人部は,1,254組織,部員数12万8千人となっており,その活動は,漁協が行う各種事業や活動への協力・提携に加え,海浜清掃・植林等の環境保全のための活動,水産加工品の開発,料理教室の開催等の魚食普及のための活動貯金や共済事業等への加入促進等極めて多岐にわたる活動を行っている。

 また,長崎県有明町漁協婦人部では,将来の漁業後継者となりうる野外活動地元で水揚げの多いかに,いいだこ漁業の勉強会を開催し,子供に漁業及び環境問題に関心を持たせる活動を行っている。また,宮城県石巻市佐須浜漁協婦人部では,約10年の歳月を費やし,地域の冠婚葬祭等の交際費の簡素化に努め,生活改善等に大きな成果をあげた。

 このような,地域生活に密着した多岐にわたる活動を行っている女性の意見を漁協の運営に反映させることが重要であるが,全国の沿海出資漁協において女性の正組合員は,全体の1割に満たない状況にあり,今後とも,正組合員化の推進と役員への登用を積極的に行うことが重要である。また,8年12月には総理府において,男女共同参画社会の形成の促進に関する12年(2000年)度までの国内行動計画として「男女共同参画2000年プラン」が策定されており,その取組を総合的かつ効果的に推進するための体制の整備・強化に努めることも重要である。

 このように,漁村において女性は,漁業生産の担い手,漁村の魚食文化や伝統文化の継承の担い手として,将来の後継名に対する教育,家族の健康管理等の面でも重要な役割を果たしており,今後とも,女性が十分に能力を発揮でき,かつ,快適な生活が常まれるような環境づくりに努めることが重要である。

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(3) 漁港・漁村の整備

〔漁港・漁村の役割〕

 漁村は,漁業以外の産業の立地が少ない辺地,半島,離島等の条件不利地域に位置するものが多く,国土の均衡ある発展に寄与している。このような漁村は,住民の海浜清掃等により沿岸域の管理・環境保全にも大きな役割を果たしている。

 漁港は,漁獲物の陸揚げ,流通加工の拠点として,水産物に対する国民の多様な需要にこたえつつ,良質な動物性たんぱく質等を供給するだけでなく,地域の一般住民にも各種集会や祭り等を通して広く利用されており,地域の中核的な空間を形成している。

 漁村は,背後に山が追っている集落が約6割を占めており,狭隘な立地条件にあるため,家屋が密集し,集密店での住民生活を余儀なくされているなど,災害に対し脆弱な面を有しており,漁村の前面にある漁港施設及び海岸保全施設は,漁港背後に居住する住民の生命・財産を津波,高潮等の自然災害から保護している。

 また,地震等の災害発生時に,漁村住民の古くからの連帯感による自主的な救援活動が行われ,人的被害が少なかったこと,近接の漁港,他府県の漁港から,救援物資,救援人員が,漁協等の協力により漁船等を利用して被災地の漁港に搬入されるなど,災害時における漁港・漁村の役割が改めて認識されたところである。

 近年,海洋性レクリエーション等国民の余暇活動に対する需要の高まりによって,周辺都市から漁港・漁村を訪れる人が増えている。漁村は,これらの人々に対し,優れた自然景観,新鮮な魚介類あるいは自然とのふれあいの場を提供している。

〔漁港・漁村の整備の方向性〕

 漁港の整備については,9次にわたる漁港整備長期計画により,着実に進められているところであるが,新海洋秩序への移行を背景として,水産資源の適正な管理,つくり育てる漁業の推進等に対応するために,地域の特性に応じた漁港間の機能分担の明確化と連携の強化を図ることにより,早急に地域水産物の流通・加工,水産資源の管理の拠点となる漁港の機能向上を図ることを重要課題として取り組んでいるところである。

 漁村は,概して集密居的な集落を形成していることから,道路,上下水道,廃棄物処理施設,緑地・広場等の生活関連公共施設の整備が他の地域に比べ立ち後れていることから,このような生活関連施設の整備を推進する必要がある( 図V-3-3 )。

 また,近年では,阪神・淡路大震災を契機として,地震等の災害時における漁港・漁村の果たす役割が見直されていることから,防災の拠点となる漁港に対し耐震強化岸壁等の整備を行うとともに,漁業集落についても,避難場所としても使える広場,集落道,防潮堤等の整備を行い,災害に強い漁港漁村づくりを推進していく必要がある。

 漁港・漁村は,海洋性レクリエーション活動の場として利用される場合も多く,そのため,遊漁船等と漁船の間の海面や漁港利用をめぐる競合,駐車場不足等基盤整備の遅れに伴う各種の問題が生じている。このため,遊漁船等を漁船と分離収容するフィッシャリーナ,水産物の直売所等を備え周辺住民と漁村住民が交流を図ることができる緑地・広場の整備等を進め,周辺住民に対し快適な余暇活動の場を提供することにより,漁村における就労機会や収入機会の創出による地域の活性化にも役立てる必要がある。

 さらに,漁村は,高齢者や女性の割合が比較的高いことから,漁港・漁村の整備に際しては,高齢者や女性に優しい就労環境・生活環境に配慮する必要があるとともに,自然環境保全の重要性に対する国民の関心の高まりに対応して,漁港周辺の環境や藻場,干潟の保全や景観にも配慮した工法の選択等を進めることが重要となっている。

(4) 海の多面的利用

 余暇時間の増大,国民の自然志向・健康志向を背景として,快適な余暇空間を提供する場である海と親しむ海洋性レクリエーションは,国民の余暇活動の中で定着している。近年の海洋性レクリエーションは,多様化しており,海水浴,釣り等の遊漁をはじめ,海浜でのオートキャンプ,ヨット,ダイビング,ホエールウオッチング等が行われており,利用者も増加傾向にある。

 こうした海洋性レクリエーションの定着に伴い,漁船とプレジャーボートの航行・係留をめぐるトラブル,漁業者と遊漁者の間の海面利用上のトラブルが各地でみられ,漁業と海洋性レクリエーションとの海面利用の調整とトラブルの未然防止が緊急の課題となっている。漁協及び海洋性レクリエーション愛好者を対象に実施した「海面利用の実態に関する意識調査」によると,漁協の今後の海洋性レクリエーションによる海面利用に対する考え方は,「明確なルールのもとで行われるならば,海洋性レクリエーション活動は良い」と回答する漁協が最も多くなっている( 図V-3-4 )。また,基本的なマナーやルールを守る海洋性レクリエーション活動であれば良いと回答する漁協は,7割を超えている。一方,いかなる場合でも海洋性レクリエーション活動は行われて欲しくないと回答する割合は,約1割に過ぎない。

 このように,多くの漁業関係者が秩序のとれた海洋性レクリエーション活動を基本的に認めており,漁協と海洋性レクリエーション愛好者団体が共同で,漁業者から漁網の仕掛けや古くから伝わる天気を予知する方法等を学ぶ海の学校を開設し,事故やトラブルの防止に努める活動もみられる。漁業と海洋性レクリエーションとの共存を図っていくためには,今後とも,各県に設置された海面利用協議会の場等を通じ,漁業関係者,海洋性レクリエーション関係者及び行政関係者等がお互いに十分な理解と認識を深め,共通の意識を醸成した上で,海面利用秩序の形成の促進を図ることが重要となっている。

 また,我が国の沿岸域では,海洋性レクリエーションのみならず,豊かな海,新鮮な魚介類,漁港・漁村での伝統的な文化を活用したブルー・ツーリズム(漁業活動や漁村の生活と調和した海洋や沿岸域における余暇活動)等がさまざまな形で展開されつつあり,水産物の消費拡大,水産業の発展等に寄与している地域もある( 表V-3-1 )。このほか,愛知県西浦町の漁協婦人部が長野県の山村の婦人部との間で料理を通じた交流,大分県蒲江町と内陸の日田市が提携し,漁業体験での交流等を行うなど漁業地域と他地域との交流・提携も各地で行われている。今後とも,このような漁業・魚食文化の継承,地域資源の有効活用,都市住民との交流の場の創出により,漁村の活性化を図ることが重要である。

 さらに,「海の日」の制定を契機として,海の重要な役割について広く国民の認識を高めるため,さまざまな活動が全国で展開されている( 表V-3-2 )。