1 我が国の水産物消費

 四面を海に囲まれている我が国においては,古来から水産物を食料等として利用してきた。現在,我が国の国民1人当たり水産物消費量は,世界のトップクラスの水準にあり,食生活における重要なたんぱく質供給源等として,多様な水産物がさまざまな形態で消費されている。また,地域ごとに特色ある水産物消費のあり方は,地域の伝統行事や食文化にも結びついている。

 このような我が国の水産物消費は,国民の生活様式や食料消費に対する需要の変化等に伴って大きく変貌しつつある。

(1) 水産物の消費量

ア 食料消費に占める水産物の位置

 我が国の食料供給においては,経済発展に伴う所得水準の向上の中で,米の減少と畜産物及び油脂類の増加を伴いながら,供給熱量及び供給たんぱく質量が増加してきた。魚介類の供給量も増加傾向で推移してきたが,食料総供給量がほぼ頭打ちの状態となるのに伴い,近年では横ばいで推移している。純食料 *1 の供給熱量ベースでは,1人1日当たり総供給熱量の約5%を魚介類が占めている( 図I-1-1 )。

 また,魚介類は,供給総たんぱく質の2割,動物性たんぱく質の4割をそれぞれ占めている( 図I-1-2 )。

 さらに,魚介類や海藻類は,カルシウム,微量元素(鉄,亜鉛等),ビタミン類等の各種栄養素の重要な供給源ともなっている( 図I-1-3 )。

*1 純食料:食料供給量の示し方のひとつで,実際に消費者が食用として利用可能な数量(例えば,頭,骨等の非可食部分を除いた部分の数量)

イ 我が国の水産物消費の特徴

(世界各国との比較)

 世界各国の魚介類の消費状況を国民1人当たりの供給量(原魚換算 *1 )で比較してみると,世界の平均は15.9kgであるのに対し,我が国の供給量は70.6kgとこれを大きく上回り,世界で4番目の水準である( 表I-1-1 , ダウンロード )。我が国と主要国の食生活を比較すると,我が国の魚介類供給量が高水準であることを反映し,動物性たんぱく質の供給に占める魚介類の比率が高いことが特徴のひとつにあげられる( 図I-1-4 )。我が国の食生活は,さまざまな栄養素のバランスがとれ,健康面で優れたものとして世界的にも高く評価されているが,このような魚介類消費のあり方もバランスの良い食生活の形成に貢献していると考えられる。

(地域ごとの消費の特徴)

 魚介類の消費状況を国内の地域ごとに比較してみると,北海道及び東北で摂取量が多く,沖縄県を含む南九州で少ない状況にある( 図I-1-5 )。摂取量が最も多い北海道では,最も少ない南九州の約1.4倍の水準となっている。北海道,東北において摂取量が多いのは,これらの地域が我が国における水産物の主要な水揚地であることから,流通量が豊富で相対的に価格が安いこと等が寄与していると考えられる。

 また,家庭において購入する魚介類の内容についても,地域により水揚げされる魚介類の種類や量が異なっていること等から,北海道地方ではいかやさけが,関東地方ではまぐろが,北陸地方ではいかやぶりが多いなど地域による特色がある( 図I-1-6 )。

 さらに,祝事等において各地で固有の魚介類が用いられていることにみられるように,水産物は地域の伝統行事や食文化の形成に深くかかわっている。

(年齢による摂取の特徴)

 年齢階層別に魚介類の摂取量をみると,若年齢層よりも高年齢層で多く,50歳代で頂点となっている。10年前との比較によって加齢に伴う摂取量の変化をみると,50歳代までの各年齢層で摂取量を増加させており,若い頃には魚介類をあまり食べていなくても,年齢を加えるにつれて食べる量が増えてきていることがわかる( 図I-1-7 )。

*1 原魚換算:切り身や加工品として食用に供給された魚介類の重量を,頭や骨,貝殻等の非可食部分を含んだ採捕時の原型重量に置き換えること

コラム:伝統習慣と水産物

 我が国の水産物の中には,伝統習慣と深くかかわっているものがあります。例えば,「祝事」にたいを用いることや「結納」の品としてのし(あわびを薄く伸ばしたもの)やこんぶを納めることなどは,全国的に定着している慣わしといえるでしょう。これらの水産物は,長寿,幸福,繁栄,円満などを願う縁起物であり,のしには不老長寿の願いが,こんぶには子孫繁栄の願いが込められています。

 このように,水産物に食べ物以上の意味を持たせているところに,我が国の魚食の歴史の長さや水産物とのかかわりの深さが表われています。

コラム:子供たちの魚介類摂取と学校給食

 子供たちの好きな料理を調査したところ,カレーライスやハンバーグに人気が集まったといった話はよく耳にします。

 そのような中で,子供たちの魚離れが懸念されますが,日本体育・学校健康センターの調査によると,若年齢層(小学校5年生,中学校2年生)の魚介類の摂取は,学校給食がある日にあってはおおむね目標摂取量に達しているものの,学校給食がない日にあっては,摂取量が減少するそうです。

 このことから,学校給食は,若年齢層の魚離れの防止や魚介類の適正な摂取に大きな役割を果たしているといえます。

( 図表 )

(2) 多様化する水産物消費

ア 流通品目の多様化

 国内で流通する水産物の内容の変化を東京都中央卸売市場の取扱品目の推移でみると,魚類,いか類,えび類,貝類,淡水魚類,鯨類及び海藻類をあわせた品目数は,昭和43年に181種であったものが,平成10年には223種に増加している( 図I-1-8 )。また,その間,品目内容も,31種が削除される一方,72種が追加されるという変化を伴っている。削除されたものとしては,むしかれい,めぬけ類等主に我が国周辺水域で漁獲されていた底魚類で漁獲量が減少したものが多い。一方,追加されたものは,えぞあわび,けがに,ほっきがい,ほや等のように,以前は産地周辺を中心に流通していたものが全国的に流通するようになった品目と,べにざけ,ぎんだら,メルルーサ,ほき,えび類等海外漁場での漁獲物や輸入品が目立っている。

 このように,国内で流通する水産物の品目の多様化には,消費者の需要の変化とともに,内外の水産資源の変化,高速交通網の整備等の水産物流通体系の改善等の状況が反映されている。

イ 消費形態の多様化

(家庭で購入する魚種の変化)

 家庭における魚介類の購入量の推移をみると,昭和38年当時,あじ,さば,いかの3魚種で全体の31%を占めていたが,平成10年では,これらの魚種の割合は14%に減少する一方で,まぐろ,さけ,ぶり,えび,かに等の中高級魚介類が増加している( 図I-1-9 )。この結果,近年では,かつてのような特定の魚種への消費の偏りは見られなくなっている。

 平成10年において購入量の多い魚介類は,魚種別に,いか,まぐろ,さけ,あじの順となっている。

(家庭における購入形態の変化)

 家庭における生鮮,塩干魚介類別の購入量の推移をみると,これまで,保存性や調理の簡便性に優れた塩干魚介類の割合が増加してきたが,近年では,食生活が塩分を控える方向に変化していることや冷凍技術の発達で年間を通じて高品質の生鮮魚介類の供給ができるようになったこと等により,生鮮魚介類の割合が高まってきている( 図I-1-9 )。

 また,生鮮魚介類の購入形態についても,家族構成員が減少していることに加え,調理が容易で内臓,骨等の廃棄物が生じにくいものの需要が高まっていること等から,尾頭付きの魚から,切り身等一定の加工が施された小口のパックや刺身盛り合わせのようにそのまま食卓に供することができるものへと変化してきている。

(中食,外食を通じた水産物消費の増加)

 水産物は,家庭でのほかに,弁当やそう菜等の調理食品の購入(いわゆる「中食」)や外食を通じても消費されている。食料支出総額に占める調理食品と外食支出額の合計の割合は,昭和38年の10%から平成10年には27%へと増加しており,水産物についても,こうした中食,外食形態での消費が増加していると考えられる( 図I-1-10 )。

 中食における水産物の利用状況を水産物を用いた冷凍調理食品の品目数でみると,昭和53年の245品目から平成10年の1,140品目へと大幅に増加している( 図I-1-11 )。

(水産物購入の動向)

 家計における魚介類購入への支出額は,中食及び外食への支出の増加等もあり,減少傾向で推移している。平成10年の1人当たり魚介類消費支出額をみると,個人消費の冷え込み等の要因もあって,前年に比べ名目額で1.8%,実質額で3.1%,それぞれ減少した( 表I-1-2 , ダウンロード )。品目別にみても全ての品目で減少しており,特に塩干魚介類については,減少の程度が大きい。

ウ 購入先の変化

 家庭における魚介類の購入先は,かつては専門小売店(いわゆる魚屋)が主体であったが,近年では,スーパーマーケットの割合が高まっている。また,販売品目や販売方針の特色を活かし,生活協同組合やデパートもウェイトを高めている( 図I-1-12 )。さらに近年では,カタログやインターネットを利用した購入も進んでおり,水産物の購入先も多様化してきている( 図I-1-13 )。

(3) 水産物消費に関する消費者の意識

(健康に良いとの評価が高い魚料理)

 魚料理に関する消費者の意識を社団法人大日本水産会のアンケート調査結果からみると,「健康に良い」との回答が9割を超え,特に高い評価となっている( 図I-1-14 )。

 これは,近年,我が国の食生活において脂質の過剰摂取やカルシウムの摂取不足等が懸念されている中で,水産物の優れた栄養特性が注目されるようになっていることを反映していると考えられる。すなわち,魚介類の脂質には,生活習慣病の予防や脳の発育等に効果がある高度不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が多く含まれることが知られるようになってきている。また,魚介類や海藻類が,カルシウムをはじめとする各種の微量栄養素の重要な摂取源になっていることがあらためて見直されている。

 今後の水産物の利用については,8割の人が「出来れば利用したい」又は「積極的に利用したい」と回答しており,水産物を利用したいという意向は極めて高い( 図I-1-15 )。

(水産物についての的確な表示等への要請)

 魚介類は水中に生息することから,普段目にする機会に乏しく,また,漁獲や水揚げといった生産活動が一般的には国民の生活の場と離れたところで営まれていることから,消費者にとって水産物の生産,流通等の事情を理解しにくい面がある。また,輸入品を含め多種多様な水産物がさまざまな形態で供給されている中で,魚介類については,地域によって名称が異なるといった特別の事情がある上,スーパーマーケット等の伸展により対面販売の機会が減少していることもあって,消費者にとって購入しようとする水産物の素性が従来に増してわかりにくくなっている。

 一方,消費者は食料についての鮮度や安全性への関心を高めており,また,自らの判断に従って商品選択を行うことへの要請を強めている。このため,水産物についても,品質表示等消費者にとって的確でわかりやすい情報提供を行うことが求められている( 図I-1-16 )。

コラム:水産物に含まれる成分と機能

エイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)

 魚類,特にいわし,まぐろなど海産魚の脂質に多く含まれる脂肪酸の一種です。血栓を防ぐとともに血中のLDL(悪玉)コレステロール値を低下させ,脳梗塞,心筋梗塞などの血管障害を予防するほか,アレルギー反応を抑制する作用などがあります。さらに,DHAは,脳神経系に高濃度で分布し,情報の伝達をスムーズにするほか,脳の発育や視力の向上に関与しています。

タウリン

 たこ,いか,貝,えび,かに類などに多く含まれているアミノ酸の一種です。生活習慣病予防物質として注目されており,動物実験により高血圧の下降,血液中のコレステロールの低下など多くの生理作用が確認されています。

アスタキサンチン

 さけ,いくら,たい,えびなどの赤橙色の色素です。ビタミンEを上回る抗酸化作用を持つことが明らかにされており,活性酸素 *1 の作用による諸疾患を抑制することなどが期待されています。

アルギン酸,フコイダン

 こんぶ,わかめ,ひじきなど海藻類に含まれる水溶性の食物繊維です。アルギン酸は,便通をよくするほか,人の腸管内で有害物質などを取り込み,体外へ持ち出す作用を有していることから,大腸ガンの予防効果などが期待されています。フコイダンは,ガン細胞の増殖を抑制する作用などが明らかになっています。

*1 活性酸素:呼吸により体内に取り入れられた酸素がエネルギーを生み出す過程でつくられる他の分子と結合しやすい状態の酸素分子。殺菌,解毒等の作用をもつ一方,老化,発がん,腎障害,動脈硬化,白内障などの促進にかかわる

コラム:魚の名前を知らない子供たち

 こども生活科学研究会の調査で,子供たちは魚介類の名前について,いか,たこ,えびなどは知っているものの,魚については,普段よく食卓に上っているものでもあまり知らないという実態が明らかになっています。

 近年では,切り身や調理済みの魚が多く売られているため,子供が魚の本来の姿を知る機会が少なくなっていると考えられます。しかし,尾頭付きで売られていることが多いさばやあじ,いわしなどについても名前を知っている子供が少ないという状況から,調理の手伝いなど家庭で子供が魚と接する機会も少ないことがうかがわれます。

 食べているものが何かわからないということは,その素材が,どこで生産され,どのように運ばれたのか,口に届くまでの過程に至っては見当もつかないということにもなります。

( 図表 )

アンケートの対象となった魚介類と名称の正答率アンケートの対象となった魚介類と名称の正答率