2 消費者ニーズに対応した水産物の供給

 水産物の供給は,我が国の沿岸漁業・養殖業,沖合漁業,遠洋漁業及び内水面漁業・養殖業における漁業生産のほか,海外からの輸入によって賄われている。また,水産物は,生鮮,冷凍の形態のほか,さまざまな水産加工品として家庭や食品産業へ供給されている。こうした水産物の生産,流通には,漁業,水産加工業のほか水産物卸売業や水産物小売業,貨物輸送業,冷蔵倉庫業等の多数の関連産業がかかわっている。

 また,近年,消費者が水産物を含め食料についての鮮度や安全性への関心を高めていることに対応し,漁業,水産加工業及び関連産業においても,水産物の生産,加工,流通等の各段階において,高鮮度の水産物の供給や安全性の確保のための対策を講じている。

(1) 漁業

(水産物の生産を担う我が国漁業)

 漁業は,天然資源である魚介類等を採捕し,食料等として供給する産業である。我が国の周辺水域は世界的に見ても生産力の豊かな好漁場であることから,古くから工夫をこらしたさまざまな漁具漁法による漁獲が行われてきている。漁獲する対象魚種や漁獲方法の違い等を調整するため,漁業の操業や漁場の利用については一定のルールが定められ,これに基づいて多様な生産が行われている。

 我が国の漁業生産量は,漁船の漁獲能力の向上,沿岸から沖合へ,沖合から遠洋への漁場の外延的拡大,まいわし資源の増大等により,昭和59年には1,282万トンに達したものの,まいわしをはじめとする水産資源の減少,国際的な漁業規制の強まり等によって,遠洋漁業,沖合漁業を中心として,近年,減少傾向で推移しており,平成10年の漁業生産量は668万トンと昭和30年代後半の水準まで減少している( 図I-2-1 )。

 沿岸漁業では,沿岸に生息する魚介類や海藻類が小規模な漁船を用いて採取されている。水揚げされる魚介類は地域色が強いものが多く,また,漁獲は少量単位ではあるが多品種で,比較的単価は高い。津々浦々の漁港に水揚げされ,地場流通するものも多い。養殖業では,まだい,ぶり,ほたてがい等のような比較的需要の強い中高級魚介類を中心に生産が行われている。( 図I-2-2 )

( 写真 )

 沖合漁業では,比較的大きな漁船により,さんま,まいわし,さば,するめいか等の多獲性の浮魚(うきうお) *1 やすけとうだら,かれい類等の底魚(そこうお) *2 等が漁獲され,地域の拠点的な漁港を中心に大量に水揚げされている。

 遠洋漁業は,諸外国との間の入漁協定や多国間条約の下で,公海や外国200海里水域の漁場で行われる漁業である。遠洋漁業では,まぐろをはじめ我が国周辺水域では需要に応じた漁獲ができない魚種の生産が行われており,消費者ニーズに応じた水産物の供給に重要な役割を果たしている。遠洋における漁獲物は,我が国漁船によるものは国産水産物として流通している。

 内水面漁業では,河川に遡上するさけ類や湖沼等に生息するしじみ等が採捕されている。また,養殖池や湖沼内の生け簀等でうなぎ,にじまず,あゆ,こい等の養殖が行われている。

(高品質の水産物生産と供給に向けた取組)

 良質な水産物を求める消費者ニーズに対応して,各地で高品質の水産物の生産・出荷に向けた取組が行われるようになっている。

 鹿児島県東町のぶり養殖業においては,投餌量や疾病発生時の投薬量の管理等を徹底するとともに,生産者名を付した鮮魚の出荷,HACCP *3 方式によるフィレー *4 等の加工を行うことにより,消費地の高い品質評価を得ている。

 大分県佐賀関のあじ,さば等の一本釣漁業においては,漁獲物の品質の保持・改善のための蓄養 *5 ,出荷直前の活けじめ *6 ・血抜き・氷冷等の品質管理に加え,産地のブランド化により,全国的に高い評価と知名度を得ている。

(漁業生産段階での安全性の確保)

 水産物の衛生上の危害の発生を防止するため,「食品衛生法」においては,ふぐ類,生食用かき,毒化した貝類の取扱いや,抗生物質の残留基準等が定められている。これに基づき,漁業者や産地市場において,有毒ふぐの選別や生食用かきの清浄海水による浄化等が行われているほか,都道府県水産試験場等において,貝毒の原因となるプランクトンの発生等の監視,プランクトン発生時の漁業者関係への周知や出荷自粛等の指導が行われている。

 養殖において使用される抗生物質等の薬剤については,「薬事法」に基づく使用基準を踏まえ,水産試験場等から養殖業者に対し,休薬期間 *7 の遵守等の指導が行われている。

 そのほか,環境汚染物質である水銀,PCB,ドリン系殺虫剤(ディルドリン)について,魚介類に含まれる濃度の暫定的な規制値が定められており,規制値を超える魚介類が採捕される水域等においては,都道府県により漁獲の自主規制の指導が行われている。

(ダイオキシン類の蓄積状況の調査)

 10年度に行われた食品中のダイオキシン類の蓄積状況についてのサンプル調査の結果によれば,魚介類には肉類,乳製品,野菜類等を上回る蓄積がみられるものの,食品,大気,土壌からの摂取をあわせたダイオキシン類の総摂取量は,耐容1日摂取量(TDI)の範囲内となっており,平均的な食生活において,ダイオキシン類の摂取が健康に影響を及ぼすことはないと考えられる( 表1-2-1 )。

 しかしながら,ダイオキシン類の摂取による健康への悪影響の不安を払拭するため,各種の発生源対策のほか,食品への蓄積状況の調査の充実等を図る必要がある。

*1 浮魚:海洋の表層あるいは中層で生活する魚の総称

*2 底魚:主に海底近く,または海底の砂泥中にすむ魚の総称

*3 HACCP:Hazard Analysis and Critical Control Pointこれまでのような最終製品の抜き取り検査を中心とする管理手法とは異なり,原材料から加工・包装・出荷・消費に至るまでのすべての段階で発生する可能性のある危害を検討し,その発生を防止または減少させる重要管理点を設定して管理する方式

*4 フィレー:魚体から頭部,尾・ひれ,内蔵,中骨等を除いた片身の部分

*5 蓄養:成長させることを目的とせずに,魚介類を生け簀,池などに一時的に収容して生かしておくこと

*6 活けじめ:魚の急所を切る等により即殺すること

*7 休薬期間:出荷までに魚介類の体内から薬剤が消失するよう薬剤投与を行わない期間

(2) 水産物貿易

ア 水産物輸入

 経済発展に伴う所得水準の向上の中で,水産物に対する消費者ニーズが国内漁業生産では十分に賄えない中高級魚介類に移行してきたことや,我が国の漁業生産量が減少してきていること等を背景に,我が国の水産物輸入は,総じて増加傾向で推移している( 図I-2-3 )。現在,食用魚介類の約4割は輸入水産物によって賄われている。

 輸入品目は,まぐろ・かじき類,さけ・ます類,たら類,さば類,えび類,かに類,いか・たこ類等の多品目に及んでいる。

 また,近年,輸入元国においては,冷凍技術等の進歩に加え,サイズの規格化や安定供給の体制が整備されてきており,サイズ等のそろった魚介類を大量に必要とする外食,中食産業や水産加工業においては,輸入水産物の使用割合を高めている。さらに,輸入元国においては,調理等による水産加工品の高付加価値化への取組も盛んになっており,うなぎ蒲焼きをはじめとする調製品 *1 の輸入も増加している。

 我が国の水産物の輸入元国数は,平成10年においては146か国(地域を含む。)にも及んでいる。

(近年の水産物輸入の動向)

 近年の我が国の水産物輸入は,景気低迷に伴って国内需要が停滞していることに加え,ペルー,チリの魚粉生産が低迷していること等から,数量(通関時の形態による重量。以下同じ。)ベースでは8年以降減少傾向にあり,10年の輸入量は,前年に比べ9%減少し310万トンとなった。食用水産物では,まぐろ・かじき類,さけ・ます類で増加したものの,えび類,たら類,ひらめ・かれい類,うなぎ調製品等で減少した( 図I-2-4 )。金額ベースでは,前年に比べ10%減少し1兆7,416億円となり,5年ぶりの減少となった。

 輸入額でみると,第1位の輸入元国は中国で,主な品目は,うなぎ調製品,さわら,えび等である。中国からの輸入は,近年,数量,金額とも増加傾向にあったが,10年においては,はまぐり等が増加したものの,うなぎ調製品,えび,いか等が減少したことから,数量,金額とも減少した。第2位は米国であり,主な品目は,さけ・ます類,たら,かに等である。米国からの輸入は,近年,さけ・ます類の減少等により数量,金額とも減少傾向にある( 図I-2-5 )。

(世界の水産物貿易と我が国の水産物輸入)

 世界の漁業生産のうち,水産物貿易に向けられるものの割合は,おおむね4割である。世界の水産物貿易の規模は,世界的な水産物に対する需要の強まりや,開発途上国において外貨獲得のため積極的な輸出振興策がとられていること等を背景として,拡大傾向で推移してきている。

 我が国は,世界の輸入貿易額全体の28%,輸入貿易量の15%を占め,一国としては世界最大の水産物貿易市場となっている。また,我が国の輸入品目の単価は北米と並び世界でも高い水準にあり,我が国には,世界各国から高価な水産物が輸入されている( 図I-2-6 )。

 我が国が大きな水産物市場であることに着目し,近年,我が国への輸出を目的として,資源に対して無秩序で過剰な漁獲が行われる事例がみられるようになっている。特に,国際機関による資源管理が行われているまぐろ類については,国際機関による資源管理規制を逃れる意図で国際機関の非加盟国に船籍を置くいわゆる「便宜置籍漁船」による無秩序な漁獲が行われ,その漁獲物の多くが,高値で取引される我が国へ輸出されるという問題が生じている。我が国のまぐろ類総輸入量に占める便宜置籍漁船の漁獲物の割合は,近年では2割に達していると推定されている。

 こうした中で,我が国は,国際的な資源管理を推進する観点から,大西洋くろまぐろ資源の国際的な保存管理措置を損なっているベリーズ,ホンジュラス等からの大西洋くろまぐろの輸入を禁止する等の措置を講じている。

 また,えび類についても,東南アジア諸国等において,我が国への輸出向けの養殖場造成を目的とした過度の開発がマングローブ林の破壊を招いている等の事例が生じている。

 さらに,我が国の漁業者が周辺水域等において資源管理措置を講じている資源について,我が国への輸出を目的に無秩序な漁獲が行われた場合には,我が国漁業者による水産資源の適正な管理に向けた努力を減殺することになる。

 我が国は,世界最大の水産物輸入を通じて世界の水産資源の保存・管理に対して大きな影響力を有していることを自覚し,水産資源の保存・管理に配慮した国際的な貿易ルールの確立に努めることが必要である。

(水産物輸入の一層の自由化等を求める動き)

 一方,米国,オーストラリア,ニュー・ジーランド等の水産物の主要輸出国は,我が国をはじめとする水産物輸入国に対して,輸入関税の撤廃等水産物貿易の一層の自由化を求める動きを強めており,世界貿易機関(WTO),アジア太平洋経済協力会議(APEC)等において国際的な貿易の枠組みのあり方等について議論が行われている。

 我が国は,水産資源が適切に管理しなければ枯渇する有限天然資源であるにもかかわらずその多くが過剰に漁獲されている実態や,世界の漁業生産量の約4割が国際貿易に向けられている現状等を踏まえれば,水産物貿易の一方的な自由化は適切ではなく,水産資源の持続的利用に貢献する貿易ルールの確立が必要との考えを粘り強く主張してきている。

 1999年(平成11年)12月,米国シアトルで,2000年からの新しい多角的貿易交渉(ラウンド)を立ち上げるためのWTO第3回閣僚会議が開催された。我が国は,我が国の考えに同調するEU(欧州連合),韓国等と連携し,水産物貿易の枠組みの検討に当たっては,地球規模の環境問題や資源の持続的利用の観点を踏まえるべきとの考えを盛り込んだ共同提案をとりまとめ,その趣旨を閣僚宣言に盛り込むよう主張した。同会議においては新ラウンドの立ち上げの合意には至らなかったが,我が国は主要国とともに引き続き新ラウンドの早期立ち上げに向けての努力を継続している。

 なお,水産分野の今後の交渉について,あくまでもラウンドの一環として,環境問題や資源の持続的利用の観点を重視して臨むこととしている。

*1 調製品:調理し又は調理用に調味したもの

イ 水産物輸出

 我が国の水産物輸出は,昭和40年代には,欧米諸国向けを中心にさけ・ます,まぐろ,かに等の水産缶詰,冷凍まぐろ等の冷凍水産物,真珠等を主要品目として活発に行われ,我が国は世界有数の水産物輸出国であった。60年代には,米国向け等にかに風味かまぼこ等のねり製品の輸出が増加したが,缶詰やねり製品の海外生産が進んだこと等により,これら食用加工品の輸出は減少している。近年では,真珠のほか,開発途上国の缶詰原料向けの冷凍魚類等が輸出の主体となっているが,総じて低調に推移している。

 平成10年の水産物輸出は,まぐろ類,さけ・ます類,さば類等の生産が減少したこと等から,前年に比べ数量で18%,金額で10%減少し,それぞれ28万トン,1,524億円となり,3年ぶりに減少した( 図I-2-7 )。

(3) 水産加工業

(消費者ニーズに対応した水産物の供給を担う水産加工業)

 水産加工業は,魚介類を塩蔵・乾製品,ねり製品,冷凍食品等の多様な形態に加工することにより,食生活の多様化,調理の簡便化等の消費者ニーズに対応した水産物の供給を担っている。また,漁業生産サイドにとって,水産加工業は漁獲物の最大の仕向先であり,時期により量的変動の大きい漁獲物の供給の安定化,高付加価値化等を通じて,漁業者の所得の安定にも貢献している。

 水産加工業の経営規模は,従業員数が20人に満たない事業所が全体の4分の3を占めるなど中小・零細なものが多い。経営体数は減少傾向にあり,平成10年には,1万4,863経営体となった。

 近年,水産加工業の経営は,国内漁業生産量の減少による原料魚介類の減少,輸入原料の価格上昇,製品の売れ行き不振や低価格化等が相まって収益性が低下している。さらに,他の製造業に比べ雇用条件や作業環境が劣ること等から労働力の確保が難しくなっているなど,さまざまな問題に直面している。

(水産加工品生産の動向)

 水産加工品の生産は,総じて横ばい又は減少傾向で推移している( 図I-2-8 )。特に,ねり製品は,高年齢層を中心に根強い需要があるものの,総体的な消費の低迷や原料供給の不安定等により,減少傾向で推移している。一方油脂・飼肥料は,主原料であるまいわしの生産の減少に伴い減少してきたが,近年,加工残滓等を原料としたあらかす *1 や肥料用貝殻粉の生産が増加していること等から,7年以降増加傾向にある。

(求められる品質・衛生管理の向上)

 10年5月に,いくら製品が原因となって腸管出血性大腸菌O157による食中毒事故が発生し,その後,水産加工品を原因とした腸炎ビブリオやサルモネラ菌による広域的な食中毒も発生した。水産加工業においては,一連の食中毒の発生の反省を踏まえ,使用水や機械器具の衛生管理等を徹底し,業界全体の衛生管理水準の底上げを図ることが急務となっている。

 農林漁業金融公庫が実施したアンケート調査結果により,水産加工業者が今後取り組む必要があると考えている課題をみても,製品の品質・衛生管理の徹底に関する意識が高くなっていることがうかがえる( 図I-2-9 )。

(加工段階における品質,安全性の確保に向けた取組)

 7年に,製品の欠陥により被害が生じた場合の損害賠償責任のルールを定めた「製造物責任法」(PL法)が施行された。これに伴い,水産加工食品にも,使用上の注意事項の表示等消費者に対する積極的な情報提供が行われるようになっているなど,製品に対する企業側の責任の意識は高まっている。

 また,最近では,大手水産加工業者を中心に,製造工程の品質・衛生管理にHACCP方式を採用する企業が増えてきている。HACCPに基づく製造工程管理は,国外においては,先ず水産物から導入される傾向にあり,消費者に対する高品質で安全な水産物供給への対応のみならず,国際的な市場競争力の確保等の観点からも,HACCPによる品質・衛生管理体制の早急な確立が必要となっている。

 HACCP方式の導入に当たって,品質・衛生管理の専門知識を有した人材の配置等が必要であるほか,導入後の効率的な維持管理が重要である。また,施設整備等への投資が必要となる場合がある。中小・零細な企業が多い我が国の水産加工業においては,その導入に際し解決すべき課題も多く,施設整備に対する融資制度はもとより,専門的な知識を有する人材育成のための講習会の開催等HACCP方式の導入に向けた適切な支援を継続・強化する必要がある。

( 写真 )

(廃棄物の有効利用の状況)

 水産加工業においては,製造過程で,魚介類の頭や内臓,骨等の残滓が大量に発生する。また,近年,小売り段階においても,フィレーや切り身等の割合が高まっているほか,そう菜等の調理品が増加していることから,従来家庭で発生していた残滓が流通段階でもまとまって発生するようになっている。

 このような残滓の一部は飼肥料に加工され,農業,畜産業等で再利用されている。我が国の漁業生産量の減少により魚粉原料となる魚類が減少していることもあって,魚粉原料に占める残滓の割合は高まっており,近年では,おおむね90%を超えている。また,貝殻を粉砕した肥料用の貝殻粉の生産も増加傾向にあり,廃棄物の有効利用に向けた取組が進んでいる。

 生産活動が環境に与える負荷を少なくすることが求められている中で,水産物の流通・加工において,このような資源の循環利用を一層推進していくことが重要である。

*1 あらかす:魚類の不可食部分(骨,内臓等)を水蒸気等で加熱後,圧搾して乾燥したもの

(4) 水産物流通

ア 水産物流通の仕組み

(水産物の流通経路)

 水産物の流通は,卸売業,小売業のほか,貨物輸送業,冷蔵倉庫業等の関連産業により担われている。これらの産業は,多種多様な水産物を,消費者や加工業者に安定的・効率的に供給する役割を果たしている。

 魚介類については,漁港への水揚げ後,産地卸売市場で価格形成と用途別・仕向地別の仕分けが行われ,消費地卸売市場を経由して消費者に供給されるという経路が流通の中心である( 図I-2-10 )。水産物を取り扱う卸売市場は,産地と消費地をあわせて1,073市場が運営されている。

 しかし,近年は,輸入水産物が増加していることや,スーパーマーケットや外食産業等の大口需要者が産地市場から直接買い付けることが増加していること等から,消費地市場を経由しない流通や市場を全く経由しない流通の比重が高まっている( 図I-2-11 )。

(生鮮魚介類の流通システム)

 生鮮魚介類については,現在,そのほとんどが産地市場においてスチロール製魚箱に氷詰めされ,トラック輸送により消費地等へ搬送されている。保冷性にすぐれたスチロール製魚箱に氷詰めされた魚体はO℃以下に保って搬送することが可能であり,これにより,消費者の高鮮度志向に対応している。

 また,一部の高級魚介類については,産地及び消費地市場における生け簀設備や活魚運搬車等を利用し,産地から消費地まで活魚として流通している。

 さらに,近年,小口の保冷宅配輸送のネットワークが全国化するとともに急成長しており,水産物についても産地直送等に利用されている。

(冷凍水産物の流通システム)

 冷凍水産物については,一貫した冷凍流通システム(コールドチェーン)を通じて,多種多様な水産物が高い鮮度で供給されている( 図I-2-12 )。

 我が国においては,昭和40年代に,遠洋で漁獲されるまぐろを高品質で流通させるため,-40℃以下の急速冷凍機で船上凍結し,陸上の超低温冷蔵庫や冷凍トラックを通じて消費地まで流通させる一貫した冷凍流通体制が確立された。その後,冷凍機の能力向上や陸上冷蔵・冷凍施設の整備等が進み,また,冷凍魚介類の品質を低下させない解凍技術の確立もあり,コールドチェーンは高度化してきている。

 また,コールドチェーンにおいては,水産物の品質を1年以上保持することが可能であることから,水産物の年間を通じた安定供給にも寄与している。

(卸売市場における衛生管理の向上に向けた動き)

 岩手県金ヶ崎町内の水産物卸売市場においては,屋内型の低温卸売場を設け,市場内での一貫した温度管理を行うとともに,所定の区画で脱臭,殺菌処理を行う等により水産物の衛生管理の水準を高めている。こうした施設整備は卸売市場では先駆的なものであり,生産から消費に至る途切れのない衛生管理体制を構築する上で注目される。

(流通段階における安全性の確保)

 水産物卸売市場や,冷蔵倉庫,小売店等の流通の各段階においては,「食品衛生法」に基づき,地方自治体の食品衛生監視員による魚介類等の抜き取り検査によって,細菌数,抗菌性物質や環境汚染物質の残留,食品添加物の適正使用等についての監視が行われている。この検査は,国産品,輸入品を問わず国内で流通する水産物の全てが対象となっている。

イ 水産物流通関連産業をめぐる動き

(卸売業をめぐる状況)

 近年,産地市場においては水揚量が減少傾向で推移していること,消費地市場においては取扱高・取扱量が減少していること等により,卸売業者の経営状況は厳しいものになっている( 図I-2-13 )。

(市場取引をめぐる状況)

 スーパーマーケット等の量販店は,計画的な営業を推進するため,卸売市場に対し,効率的,安定的な取引への要請を強めており,卸売市場における取引形態も,せり及び入札の割合が低下し,相対取引が増加している( 図I-2-14 )。

 このような状況の下で,卸売市場における取引の活性化及び効率化を図っていくため,平成11年7月,「卸売市場法」が改正され,卸売市場においては公正・公開・効率の原則の下に,市場・品目ごとの実態に即してせり・入札取引と相対取引が活用されるような新たな取引ルールが導入された。

(小売業をめぐる状況)

 水産物の小売は,専門小売店(いわゆる魚屋)のほか,食料品スーパー,総合スーパー,百貨店等により担われている。9年の店舗数は,専門店が3万339,食料品スーパーが1万7,626,総合スーパーが1,886となっている。

 近年,食料品スーパー,総合スーパー等のセルフ販売方式による大規模な店舗数が増加傾向にあり,専門店においても,規模の大きな店舗がシェアを高めている( 図I-2-15 )。

 このような中で,小売業における水産物の販売競争は激化している。大規模スーパーマーケット等では,他店との差別化を図り消費者をひきつけるため,地域特産魚介類の販売フェアを開催したり,鮮魚販売部門に専門店を出店させて魚介類の対面販売を行うなどのさまざまな試みが行われている。

(水産物に関する表示)

 水産物についての的確な情報提供への要請が強まっている中で,財団法人食品流通構造改善促進機構では,一定の魚介類について,品名,産地,解凍ものである場合は「解凍」の表示,養殖ものである場合は「養殖」の表示を行うこと等とする民間の自主的な「水産物表示ガイドライン」を策定しており,小売業者における表示の実施率も年々上がってきている。

 さらに,11年7月,「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)が改正され,全ての生鮮食品について原産地表示を行うこと等が義務付けられた。

コラム:魚と旬

 著名な俳句やことわざには,魚の「旬」にまつわるものが見受けられます。「目には青葉,山ほととぎす,初鰹」,「秋鯖は嫁に食わすな」,「六月の鱚(きす)は絵に描いたものでも食え」など,いずれも魚が豊富に水揚げされ,安くておいしい季節を示したもので,先人達の季節感豊かな食生活がうかがわれます。

 現在でも,消費者がさんまを多く購入するのは9月から11月,かつおは3月から8月で,いずれも「旬」の頃です。

 しかしながら,魚の中には,旬が感じられなくなってきているものがあります。その代表はさけやさばで,冷凍技術の発達や輸入品の増加によって年中購入できるようになったことから,季節ごとの購入数量の差が小さくなってきています。こうしたことから,特に若い世代には,魚の旬がわからない人が増えています。

(5) 水産物価格

(水産物価格の推移)

 消費者物価指数により生鮮魚介類価格の推移をみると,高度経済成長期や50年代初めの諸外国の200海里水域設定期に,食料品全体の価格や肉類の価格を大きく上回って上昇した( 図I-2-16 )。このため,動物性食料としてみた場合,魚介類は肉類に比較して割高感が生じ,かつ,強まった。60年以降の魚介類の価格は,肉類とともに総じて食料品全体の価格の上昇を下回って推移しているものの,消費者の間には,肉類に比較した水産物の割高感が依然として残っている状況にある。

(水産物の価格形成の特徴)

 水産物の小売価格の水準については,産地価格のほかに,流通段階における箱詰め,輸送等の経費や小売段階における加工,包装処理等の経費が関係している。

 主要な鮮魚において,小売価格から産地市場価格を差し引いた流通マージン *1 の比率は,小売価格の約7割を占めている( 図I-2-17 )。鮮魚は流通過程における温度管理等が必要であるという面もあり,流通マージンが5割程度かそれにも満たないものが多い野菜類と比較した場合,水産物の流通マージンの割合は高い状況にある。

 さらに近年,スーパーマーケット等においては,食料品売場全体への集客を図るため,多様なパック包装,工夫を凝らした商品の陳列等の鮮魚売場づくりを進めていることや,より高い鮮度を求める消費者ニーズに対応した温度管理等のため,流通段階における経費の増大等を招きやすくなっていることから,水産物の産地と消費地の価格差は拡大する傾向にある。なお,近年,水産物の小売りにおいてスーパーマーケット等の量販店の比重が高まっていること等を背景として,小売価格を前提として産地価格が決定される傾向が強まっており,これが産地価格の低迷の一因ともなっている。

(近年の水産物価格の動向)

 近年の水産物価格の動向をみると,魚介類消費者物価指数(7年=100)は,昭和63年以降,おおむね横ばいないし上昇基調で推移しており,平成10年には1.4ポイント上昇し105.6となった( 図I-2-18 )。一方,水産物産地卸売価格指数(7年=100)は,2年を頂点として低下基調で推移しており,10年は1.2ポイント低下し104.3となった。

 水産物輸入価格指数(7年=100)は,世界的な水産物需要の高まり等を背景として8年以降上昇していたが,10年は,アジア地域の輸入元国において通貨が下落したこと等から,資すと名4.8ポイント低下し107.5となった。

*1 流通マージン:各流通段階ごとに要した経費と利潤の総和

(6) 我が国の水産物需給

(食用水産物の自給率)

 我が国の食用魚介類の需要量は,国内消費と輸出をあわせて近年800〜900万トン程度の水準でおおむね横ばい傾向で推移している( 図I-2-19 )。平成10年は,景気の低迷等から前年に比べ3.7%減少して846万トンとなり,3年連続の減少となった。

 こうした需要に対し,供給面では国内生産量が減少する一方で水産物輸入が増加傾向にあることから,我が国の食用魚介類の自給率は低下傾向で推移しており,10年においては57%と過去最も低い水準となった( 図I-2-20 )。

 また,海藻類については,健康志向等から需要は増加傾向を示してきたものの,国内生産量は横ばい傾向にあることから,自給率は徐々に低下し,10年では63%となった。

 主要魚種について,昭和60年と平成10年における自給率を比較すると,ほとんどの魚種で低下しており,10年の魚種別自給率は,まぐろ・かじき類47%,さけ・ます類51%,さば類65%,あじ類76%,いわし類96%,えび類6%等となっている( 図I-2-21 )。

 世界の主要漁業生産国等の食用水産物の自給率をみると,自給率が100%を下回っているのは我が国と米国のみであり,米国に比べても我が国の自給率は低い水準にある( 図I-2-22 )。

 12年3月,「食料・農業・農村基本法」に基づく食料・農業・農村基本計画が策定され,その中で,魚介類と海藻を含めた食料自給率の目標が示された。

(水産物輸入の不安定要素)

 我が国の主要な輸入元国の水産物消費の動向をみると,多くの国で自国内の消費量を増加させている( 図I-2-23 )。特に我が国にとって最大の輸入元国である中国では,10年間で国内供給量が4倍近くに急増している。これら輸入元国内の供給量の増加は,基本的には,自国の漁業生産量の増大によっているものの,中国では,近年,過剰な漁獲により周辺水域の資源状況が悪化しており,中国政府は,漁業生産圧力の増加を抑制するため,1995年から東シナ海及び黄海水域における休漁政策を導入し,夏期にこれら水域における中国底びき網漁船等の操業を休止している。

 我が国において,輸入水産物は豊かな食生活を支える重要な役割を担っている。しかしながら,水産物の輸入は,輸入元国における国内需要の増大及び資源状況の悪化の両面から,中長期的には不安定な要素をはらんでおり,我が国としては,国際的な水産資源の保存・管理と持続的利用に向けた取組を推進しつつ,引き続き,国内生産力の強化に努めていく必要がある。