2 水産資源の持続的利用に向けた取組

(1) 韓国,中国との新たな漁業秩序の構築

 我が国は,平成8年に「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約)を締結し,排他的経済水域を設定した。同条約においては,沿岸国が自国の排他的経済水域において水産資源の適切な保存管理措置を講じること等が定められており,我が国は,その趣旨に沿った水産資源の管理体制を確立するため,中国及び韓国との間で協議等を重ねてきた。

(日韓間の状況)

 11年1月,我が国と韓国との間で,新たな「漁業に関する日本国と大韓民国との間の協定」が発効し,両国間において「国連海洋法条約」の趣旨に沿った水産資源の保存・管理体制が整えられた。同年2月には,相互の入漁条件等が決定され,両国漁船はともに相手国から受けた許可及び漁獲割当ての範囲で,相手国水域における操業を開始した。

 一方,両国の排他的経済水域の境界画定が困難なこと等から日本海等の一部に設定された暫定水域においては,協定上,漁船が所属する国(旗国)により資源管理措置や取締りを行う,いわゆる旗国主義により両国漁船の操業が行われることとされている。このため,両国間で協力して,同水域の資源管理に努める必要がある。

(日中間の状況)

 我が国は,中国との間でも「国連海洋法条約」の趣旨に沿った資源管理体制を構築するため,9年11月に署名した新たな「漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定」の発効に向けて協議を重ね,12年2月,閣僚協議において,暫定措置水域北側の東シナ海の一部の水域において,日中両国漁船が相手国の許可証を取得せずに操業できることとすること,当該水域に隣接する日本側水域及び中国側水域における漁業種類,操業隻数等についての制限を行うこと,協定を12年6月1日に発効させるよう推進することについて意見の一致をみた。また,その他の操業条件等については,協定の発効までに協議し,決定することとされた。

(新たな漁業秩序の確立)

 このように,日韓,日中の新しい協定が発効することにより,我が国周辺水域の水産資源を自らの手で管理しうる体制が確立することから,両協定の的確な適用を通じ,水産資源の持続的利用を図る必要がある。

(2) 漁獲可能量制度の運用状況

 我が国においては,国連海洋法条約の趣旨に沿って平成9年から漁獲可能量(TAC *1 )制度を導入している。この制度は,漁獲量が多く経済的価値が高い魚種や資源状態が極めて悪く緊急に保存管理を行うべき魚種等について,あらかじめ漁獲量の上限を「漁獲可能量(TAC)」として定め,その範囲内に漁獲を収めるように漁業を管理するものである。TACは,資源の動向を基本に漁業の経営等も勘案して定めることとなっており,現在,さんま,すけとうだら,まあじ,まいわし,さば類,するめいか,ずわいがにの7魚種を対象にして制度が運用されている。

 11年のTACの設定においては,さんま,まあじ,さば類,するめいか,ずわいがにについて,資源状況に大きな変化がなかったものの,これまで資源評価に含まれていなかった韓国漁船等による漁獲実績を反映させて,10年の数量に比べ上方修正するとともに,すけとうだらについて,韓国漁船の漁獲実績のほか,太平洋系群で卓越年級群が確認されたことを加味して上方修正した( 表II-2-1 , ダウンロード )。まいわしについては,引き続き資源が低位水準で減少傾向が続くと見通されることから下方修正した。また,11年においては,韓国の漁業者に対してTAC対象魚種の漁獲割当てが行われた。

 TACの消化状況をみると,さんま,まあじ,さば類,するめいかにおいては低い状況になっている。これは,海況等の要因により漁場形成が悪かったことや,TACの設定時点に比べ,漁獲の対象となった資源量が少なかったこと等によると考えられる。

 TAC制度は,我が国排他的経済水域内の水産資源の保存・管理の中核となる公的制度である。TAC設定の基礎となる資源評価については,今後,資源調査の充実を図るとともに,評価精度の一層の向上等を図る必要がある。また,TAC制度の強制規定の適用に備えて,採捕数量の正確かつ迅速な管理体制を整備するとともに,TAC協定の締結による過剰な漁獲競争の排除等漁業者の自主的な取組が促進されるよう努めていく必要がある。

*1 TAC:Total Allowable Catch

(3) 資源管理型漁業の現状

 漁業者の話し合いに基づく自主的な漁獲の制限等を通じ,資源の合理的利用と漁業経営の安定を目指そうとする取組は,昭和50年代以降,漁協系統運動として全国的に普及・啓発が行われてきた。現在,各地の漁業実態に応じ,禁漁期間・区域の設定,漁具・漁法の制限等が行われている。

 このような資源管理型漁業の取組は,漁場又は漁業種類を同じくする漁業者が,漁業管理組織を結成して行っており,近年,漁業管理組織の数は増加している( 図II-2-1 )。また,複数の漁業地区に及ぶ漁業管理組織も増加しており,資源管理への取組は広域化しつつある。現在,我が国の全漁業経営体の40%にあたる60,179経営体が資源管理組織に参加している。

 今後,資源管理型漁業の推進に当たっては,試験研究機関や関係都道府県等との一層の連携の下で,広域を回遊する魚種に対する複数都道府県,複数漁業種類による協調的な取組を推進する必要がある。また,資源管理と漁業経営の安定を両立しうる対策も重要である。

(4) つくり育てる漁業

ア 栽培漁業の現状

 有用水産資源の維持・増大と漁業生産の向上を図るため,種苗 *1 生産,放流,育成管理等を行う栽培漁業への取組が全国で行われている。現在,我が国の種苗放流対象種は約80種類となっており,そのうち,さけ,まだい,ひらめ,くるまえび等10種については,年間1,000万尾を超える種苗が放流されている( 表II-2-2 )。

 種苗放流対象種のうち,貝類,うに類等移動範囲が限られるものは,放流効果がわかりやすく,受益者は漁業者がほとんどであるため,漁業者を主体とした種苗放流が各地で実施されている。

 一方,移動範囲が広域にわたる魚種については,放流の実施者が放流効果を実感しにくく,地域的な取組が行われにくい状況にあることから,受益の範囲と程度を明らかにするよう努めつつ,費用負担のあり方を検討していく必要がある。

 また,しろざけ及びほたてがいを除く魚種の種苗放流は,対象魚の資源量を全体的かつ大幅に増大させうる規模にまで至らず,地域的な効果等にとどまっている。今後,放流によって利益を受ける者が応分の経費を負担し,放流規模を拡大していく必要がある。

 さらに,栽培漁業を一層推進していくためには,関連技術の開発と平易化や種苗生産から放流に係る経費の低減を図る必要がある。また,放流効果が明確に発現するに至っていない魚種については,種苗の放流を適正な規模で継続して行い,放流効果の把握に努めるとともに,遊漁者等の協力も得て,対象種を中心とした適切な資源管理を実施していく必要がある。

*1 種苗:養殖用や放流用の稚魚,稚貝等

イ 海面養殖業の現状

 養殖業においては,収穫量の増大を目的とした過密養殖や飼餌料の過剰投与により,養殖漁場の環境悪化がみられており,魚病被害の原因にもなっている。

 また,近年,養殖対象魚種の多様化等に対応し,かんぱちをはじめとするぶり類等では種苗の輸入も増えており,これに伴い,海外から疾病が持ち込まれる可能性も増大している。

 このような中で,11年5月に,「持続的養殖生産確保法」が制定され,養殖漁場環境の維持・改善を図るための漁場改善計画制度や,特定疾病のまん延防止措置等を内容とする持続的な養殖生産の確保を図るための枠組みが定められた。

 近年,いわゆる「薄飼い」方式を採用し,飼育密度を大幅に減らすことにより,投餌量の削減,魚病の発生減少,投薬量の削減,歩留まりの向上等の成果を上げている養殖業者もみられるようになってきている。さらに,薄飼いによる生産物であることの積極的な宣伝や消費者団体,流通業者との提携等を通じて,生産物の販路拡大やブランド化に成功している事例もある。

ウ 内水面漁業・養殖業の現状

 河川,湖沼等の内水面は,海面に比較して,水産動植物の資源量が少ないこと等から,水産資源の維持・増大を図り,また,遊漁者のニーズに応えるため,漁業協同組合によって,漁業権の対象になっている魚類等について,種苗の放流や産卵場造成等による積極的な増殖が行われている。

 さらに,産卵や稚魚の成育等に適した水面で重要なものは,保護水面に指定され,工事の制限等の措置が講じられているほか,管理計画に基づき水産資源の増殖等が図られている。

 また,内水面養殖業は,海面養殖業に比べ歴史が古く,また,養殖の管理も容易であること等から,技術的に進んだ点も多く,養魚用配合飼料の開発・普及,魚病対策等の面で先駆的な役割を果たしている。

 近年,あゆについて,細菌感染症のひとつである冷水病が全国的に発生し,養殖業や河川漁業に大きな被害が出ていることから,水産庁,関係県,大学等から構成される「あゆ冷水病対策研究会」を平成10年度から発足させ,発生状況及び影響の調査や,予防,治療,防疫方法等の検討を行っているところである。また,かわう等の野鳥によるあゆ等の食害が各地で問題となっていることから,全国内水面漁業協同組合連合会等により,かわうによる食害の現状調査や食害防止対策に向けての取組等が行われている。

エ 漁場の造成・改良等

 我が国周辺水域においては,漁業生産力を高め,その効率的利用を図るため,漁場の造成と改良が行われている。特に,未・低利用の海域等においては,海中にコンクリートブロック等の耐久性構造物(魚礁)を設置することにより,有用水産生物が多く寄り集まり,また,繁殖が促進されることによって新たな漁場が造成されている。福島県相馬地区では,昭和52年から55年にかけて,漁場として低利用であった平坦な海域に魚礁を設置し,操業禁止期間を設ける等の漁場の管理を行った結果,めばるの好漁場が形成された( 図II-2-2 )。

 また,これまで主に浅海域を対象として小型の魚礁の設置が進められていたが,近年,大型の魚礁を深い海域に設置する技術が開発されたこと等から,魚礁による漁場造成は,沿岸域から沖合域等へと拡大している。

 このほか,有用水産生物の生息場等となる藻場・干潟の造成,増養殖場に適した静穏な海域を造成するための消波提の設置,漁場機能の回復を図るためのヘドロの除去や海水交流の促進等の事業が,海域や対象魚種の特性等を考慮して行われている。

 なお,近年では,漁港においても,防波堤や護岸等を藻場の形成や魚介類の産卵に適した形状にするなど,生物の生息環境に配慮した自然調和型の施設づくりが行われている。

(5) 遊漁と資源管理

ア 海面遊漁

 海面遊漁者数は,年々増加傾向にあり,10年では延べ3,868万人となった。その86%が釣りとなっており,内訳は,磯や岸壁等での釣りが2,096万人,船釣りが1,230万人となっている( 図II-2-3 )。

 近年,魚種によっては,一定の海域における遊漁者の採捕量が,漁業者の漁獲量を超えるものも出てきており,漁業者のみならず遊漁者も参加した水産資源の保存・管理措置が必要となっている。こうした中で,遊漁関係者と漁業者が資源の増殖等に向けて協調する事例もみられる。

 神奈川県では,近年,遊漁によるまだいの採捕量が漁業による漁獲量を上回ってきていることから,遊漁船業者においても20cm以下のまだいの再放流,まき餌の制限等の資源管理措置を導入するとともに,まだい等の種苗放流経費等の一部を協力金により負担するようになっている。

 漁業者のみならず遊漁者も含めた資源管理のあり方を検討するためには,採捕の実態が明らかになっていないプレジャーボートや磯,岸壁等における遊漁による採捕量等の実態を把握する必要がある。

イ 内水面遊漁

 内水面遊漁者数は,近年,増加傾向で推移してきたが,10年は1,323万人となり,5年に比べ1.5%減少した。これは,台風や長雨による河川の増水・濁水等により,あゆを対象とした遊漁者が大幅に減少したためである。しかし,湖沼における遊漁者数は,ブラックバス(おおくちばす,こくちばす)等を対象としたルアーフィッシングの普及により大幅に増加した。

 ブラックバス,ブルーギル等の外来魚は,主に釣りの愛好家等により各地に移植され,生息域を拡大しており,あゆ,わかさぎ等の有用資源を捕食し,多くの地域で漁業に被害を与えている。また,もろこ,めだか,てながえび等さまざまな水生生物を捕食していることが報告されていることから,我が国固有の希少な水生生物への影響も懸念されている。

 また,近年,おおくちばすに加え,平成3年に野尻湖で初めて確認されたこくちばすが生息域を拡大しており,12年1月末には21府県の75漁業権漁場で生息が確認されている( 図II-2-4 )。こくちばすは,冷水性で流水域にも適応できることから,おおくちばすが生息できない高地の湖沼や河川の上流域において,水産資源に影響を及ぼすことが懸念されている。

 このような状況に対処するため,42都府県(11年12月末現在)において,内水面漁業調整規則により,これら魚種等の移植が制限されたところである。また,各都道府県の内水面漁場管理委員会は,外来魚の生息・食害状況等の実態把握を行っているほか,全国内水面漁業協同組合連合会は,釣り人のマナー向上等を目的とした普及活動や密放流防止体制の強化に取り組んでいる。

コラム:外来魚の利用

 国内で繁殖し,内水面漁業や生態系に与える影響が危惧されているブラックバスなどの外来魚について,近年,各地で駆除などの対策が行われるようになっていますが,捕獲や処分に要する費用の工面は,関係者の頭の痛い問題となっています。

 このような中,滋賀県の琵琶湖では,駆除を目的に捕獲したブラックバスの処分の方法として,骨粉やペットの餌に加工する取組が始まっています。また,ブルーギルについては,食用にする試みが行われており,みりん干し,南蛮漬け,から揚げ,甘露煮などが試作されています。ブルーギルには,「ビタミンE」や血中のコレステロールを低下させる作用のある「タウリン」が他の魚種よりも多く含まれていることから,健康食品としての利用も検討されています。

 また,山口県では,遊漁者に「チリソース炒め」や「マヨネーズ焼き」など,ブラックバスの料理方法を紹介したパンフレットを配布し,釣り上げたブラックバスを持ち帰って食べてもらうなどの再放流防止に向けた取組を行っています。

 このように,無秩序な移植,放流などによって繁殖した外来魚を,少しでも利用しようと,各地でさまざまな取組が始まっていますが,これらはいずれも「苦肉の策」なのです。

(6) 試験研究の推進

 我が国周辺水域の水産資源の保存・管理とその高度利用を図るため,資源調査を始めとする試験研究の積極的な推進が重要となっている。

 我が国周辺水域に生息する主要魚種については,国や都道府県の水産試験研究機関を中心とした資源調査により,資源の現状分析等の資源評価が行われ,TAC制度による水産資源の量的な管理等の基礎として用いられている( 図II-2-5 )。

 資源評価には,漁船の漁獲実績や漁獲物の体長・体重等の生物データ,調査船の漁獲試験のデータ等が用いられているが,資源評価をさらに的確に行っていくためには,調査船を用いた資源量の直接把握や,幼魚資源の把握等による調査内容の一層の充実が求められている。さらに,資源が長期にわたって大規模な変動を繰り返す浮魚類の資源変動を正確に予測するため,変動の生物的,物理的要因を解明することにより資源量変動予測モデルの開発に努めているところである。

 このほか,まだい等の養殖魚に大きな被害を与えているイリドウィルス病を予防するワクチンの開発,いせえび増殖の基礎となるいせえび幼生の移動生態の解明等資源の持続的な利用等を図る上で重要な課題に対する試験研究が水産庁研究所を中心に行われている。

コラム:うなぎ“完全養殖”への挑戦

 夏のスタミナ源として欠かせないうなぎは,ほとんどが養殖で生産されており,我が国の内水面養殖生産量の3割以上を占めています。ところが,飼育下で親魚から養殖用の種苗をつくる技術ができていないため,今日でも河口で採捕した体長5〜6cm程度のしらすうなぎをもとに養殖が行われています。しかし,しらすうなぎは不漁,豊漁の差や価格変動が激しい上,近年採捕量が激減しているため,その人工生産技術を確立し,卵から親までの完全養殖を実現することが切望されています。

 うなぎの完全養殖への取組の歴史は古く,昭和48年には親魚から採卵して受精させ,ふ化させることに成功しました。しかしながら,ふ化仔魚に有効な餌が見つからず,しらすうなぎまで育てることができない状態が続いていました。このようにしらすうなぎの人工生産は極めて困難とされてきましたが,近年,その技術が急速に進展しつつあります。

 平成9年,水産庁養殖研究所は餌の工夫により,それまで7mm程度までしか育たなかった仔魚を10mm程度まで成長させることに成功しました。さらに,餌や飼育方法を改良することにより,10年には253日間で3cm以上の大きさまで成長させ,しらすうなぎまであと一歩の段階まで到達しました。今後の,もうひとがんばりに,養殖業者などの熱い視線が注がれています。

( 写真 )