3 国際的な資源管理の推進と我が国漁業

(1) 世界の漁業生産の動向

 世界の漁業生産量(養殖業を含む。)は,1992年(平成4年)以降,中国の漁業生産量の増大等を背景に増加傾向で推移している。1997年(平成9年)は前年に比べ2%増加し1億3,057万トンとなった( 図II-3-1 )。

 漁業部門別にみると,養殖業の生産量が1992年以降急激に増加しており,1997年は前年に比べ6%増加して3,605万トンとなり,全漁業生産の28%を占めるに至っている。一方,養殖業を除いた漁業生産量は,横ばい状態が続いており,1997年は前年並みの9,452万トンとなっている( 図II-3-2 )。

 国別には,中国の漁業生産量は前年に比べ9%増加し,3,994万トンと世界の漁業生産量の3割を超え,1988年(昭和63年)以降世界第1位の生産国となっている。中国の生産量のうち,養殖業は淡水性魚類を中心に2,403万トン,また,養殖業を除いた漁業生産量は海水性魚類を中心に1,591万トンであり,それぞれ世界の67%,17%を占めている。一方,ペルー,日本,チリ等の主要国の漁業生産量は,横ばい又は減少傾向で推移している。

(2) 水産資源の持続的利用に向けた国際動向

ア FAOによる取組

 国連食糧農業機関(FAO)は,世界の主要魚種のうち過剰に漁獲されているものが16%,漁獲量が最大限に達しているか又はこれに近いものが44%に達しており,過剰な漁獲を削減又は抑制するための方策がとられない場合には,漁獲量が減少する可能性が増大している旨指摘している。

 漁獲能力を適切に管理していくことが世界的な課題となっている中で,平成11年2月,FAOの水産委員会において,各国が協調して過剰な漁船等を削減し,漁獲能力を適正な水準に下げるための国際的な枠組みを定めた「漁獲能力の管理に関する国際行動計画」が採択された。この計画には,我が国を始めFAOの加盟国が,国別行動計画を策定して過剰な漁獲能力削減のための取組や地域漁業管理機関等を通じた国際的な協力を推進すること等が盛り込まれるとともに,特に,遠洋まぐろはえ縄漁船については,直ちに20〜30%の漁船数を削減する必要性が指摘された。

 我が国は,責任ある漁業国としてこれに即応し,11年3月末までに,我が国遠洋まぐろはえ縄漁船の2割にあたる132隻の減船を実施した。また,まぐろ資源の保存,管理を適切に推進するためには,関係国等の協調が不可欠であるため,多数の遠洋まぐろはえ縄漁船を擁する台湾や韓国に対して,減船の早期実施を働きかけている。

イ 地域漁業管理機関をめぐる動き

(便宜置籍漁船等による操業の廃絶に向けた取組)

 公海においては,沿岸国や関係する漁業国によって,大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)等多くの地域漁業管理機関が設けられており,我が国をはじめとする加盟国は,それぞれの機関が水産資源の持続的利用を目的として定めた保存・管理措置に従って漁業を行っている。

 近年,地域漁業管理機関の非加盟国の漁船,とりわけ資源管理規制を逃れる意図で非加盟国に船籍を置くいわゆる「便宜置籍漁船」による無秩序な漁獲が重大な懸念となっており,便宜置籍漁船等による操業の廃絶に向けた動きが活発化している( 表II-3-1 )。

 我が国は,国際的な資源管理を推進する観点から,ベリーズ,ホンジュラス等からの大西洋くろまぐろの輸入を禁止するよう求めたICCATの勧告等に沿って,これらの国からの大西洋くろまぐろの輸入を禁止してきているほか,11年には,これらの国のまぐろはえなわ漁船の我が国への寄港禁止,大西洋くろまぐろ及びみなみまぐろの漁場となる大西洋,インド洋等の海域で操業する外国漁船で日本人がまぐろ等の採捕に従事する場合の許可取得の義務付けの対策を実施した。また,便宜置籍漁船等の漁獲物が我が国に相当数量輸入されており,これが無秩序な操業を助長していること等を踏まえ,「まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法」の規定に基づき,まぐろの輸入に際し漁獲した漁船名等の報告の義務付け等の措置を講じたほか,輸入業者等に対して便宜置籍漁船の漁獲物の輸入自粛を呼びかける等便宜置籍漁船対策を強化した。

(みなみまぐろの保存・管理をめぐる動き)

 みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)においては,みなみまぐろの資源について,回復しているとする我が国と資源状態は極めて悪いとするオーストラリア及びニュー・ジーランドとの間で評価が大きく分かれており,漁獲可能量及び国別漁獲割当量は1989年(平成元年)以降据え置かれ,1998年以降はそれらの決定ができない事態となっている。我が国は,みなみまぐろの適切な管理及び利用に必要な科学的データの蓄積を通じてこのようなCCSBTの膠着状況を打開するため,3か国による共同の漁獲調査の実施を提案してきたが,オーストラリア,ニュージーランド両国の同意が得られなかったことから,10年及び11年に,インド洋南東部等の公海水域で,自主的に調査漁獲を実施した。これに対し,両国は,みなみまぐろ保存条約加盟国である両国の合意のない調査漁獲は,「国連海洋法条約」等に違反するとして,仲裁裁判を開始することを通告し,また,調査漁獲の中止等を内容とする暫定措置の要請を国際海洋法裁判所に行った。11年8月,国際海洋法裁判所から3国に言い渡された暫定措置は,調査漁獲の実施を3国間の合意がある場合または最後に決定された1997年の国別漁獲割当量の範囲内で行う場合に限ること,3国のみなみまぐろの保存・管理措置の合意に向けた交渉を速やかに再開すること,みなみまぐろ漁業を行う他の国・地域と保存・管理措置等の合意を得るための一層の努力を払うこと等を内容としている。

 我が国は,この暫定措置に従いつつ,引き続き行われる仲裁裁判において,我が国が実施した調査漁獲の正当性,必要性に対する理解を求めていくこととしている。また,我が国は,CCSBTの一員としてその機能回復に努めるとともに,みなみまぐろの保存管理に非協力的な国・地域に対しては,「まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法」の規定に則った措置を視野に入れた強い姿勢で,CCSBTへの加入等の働きかけを行っていくこととしている。

(新たな地域漁業管理機関の設立に向けた動き)

 また,近年,地域漁業管理機関が設けられていない海域において,その設立に向けた動きが活発になっている。中部及び西部太平洋については「中部及び西部太平洋における高度回遊性魚種資源の保存管理に関する多国間ハイレベル会議」が開催され,我が国も参加してまぐろ類の資源管理体制の枠組み等の検討が進められている。また,北部太平洋については,「北太平洋まぐろ類暫定科学委員会」が設立され,この海域におけるまぐろ類の資源評価等が行われている。

ウ 国際捕鯨委員会

 国際捕鯨委員会(IWC)は,鯨資源の適切な保存と有効利用を図るための機関であるが,加盟国が鯨資源の利用に無関係な国に偏っていること等から,76万頭以上と豊富な資源量のある南氷洋のみんくくじらについても商業捕鯨の禁止を続けるなど,長期にわたり正常な機能を果たしていない状態にある。特に近年,科学委員会の意見が総会へ反映されず,総会においては科学的な根拠を無視した議論がなされる傾向が強まっている。こうした中で,我が国やノールウェー等は,科学的根拠に基づいた鯨資源の保存と持続的利用の必要性を一貫して主張している。

 11年の年次総会においても,捕鯨国,反捕鯨国の対立の構図は変わらず,科学的・客観的な捕鯨国側の主張にもかかわらず,多くの議題で反捕鯨国の意向が多数決により反映される結果となった。過去7年間の議論を踏まえて我が国が提案した鯨類の改訂管理制度 *1 (RMS)や,継続協議の捕鯨の部分的再開を含むアイルランド提案の審議等,委員会本来の活動については,捕鯨の再開に結びつくことから,反捕鯨国側は,検討等にさらに時間が必要として終始消極的対応を行ったため,進展は見られなかった。併せて,環境問題の鯨類資源への影響,人道的捕殺,小型鯨類(いるか)に関する問題等,委員会の管轄外の事項に会議の重点を誘導しようという動きを強めた。

 なお,我が国が持続的な捕鯨の再開に向けて行った提案のうち,鯨類を含む海洋生態系全体を視野に入れた水産資源管理については,科学委員会及び総会で今後の検討課題として認められた。

*1 改訂管理制度:資源に悪影響を及ぼさないくじらの捕獲可能頭数を算定する方法と捕鯨を行う船舶の監視を行う制度等を組み合わせた,くじらを持続的に利用する新しい捕鯨の仕組み(RMS:Revised Management Scheme)

コラム:想像以上に大量の魚を消費している鯨類

 海の中では,プランクトンを魚が食べ,それをさらに大きな魚などが食べるという「食物連鎖」が常に行われています。

 近年,我が国やノールウェーの鯨類捕獲調査(調査捕鯨)で,この食物連鎖の一番上にいる鯨類が,さんま,さば,いわし,するめいか,にしんなど漁業の対象魚を想像以上にたくさん食べていることがわかってきました。例えば,体長7.5mのみんくくじら摂餌量は,北太平洋では1日当たり131〜186kgと推定され,多くは主に魚介類を食べていると考えられます。他方,みんくくじらやまっこうくじらなど従来から資源量が健全であった鯨類が,商業捕鯨の一時停止措置(モラトリアム)により,大幅に増加しています。日本鯨類研究所が試算したところ,世界の鯨類が1年間に食べる魚などの量は,2.8〜5億トンと,世界の海面漁業の漁獲量(養殖を含めて約9,000万トン)の3〜6倍にも達しています。

( 写真 )

 21世紀には,世界の人口増加に食料生産が追いつかないことが心配されている一方で,漁業においては過剰漁獲の是正が国際的な課題となり減船が必要になっています。こうした中,我が国は,鯨やいるかを単に保護するのではなく,魚など他の生物とのかかわりを考慮しながら持続的に利用すべきであると国際捕鯨委員会などで主張しています。

(3) 我が国漁船の外国200海里水域内等での操業

(外国200海里水域及び公海における操業)

 外国200海里水域内における操業については,漁場を確保するための粘り強い交渉により入漁相手国は着実に増加しているが,漁獲割当量の削減等により,漁獲量は減少してきている( 図II-3-3 )。

 ロシアとの間では,「日ソ地先沖合漁業協定」に基づき相手国200海里水域内での相互入漁を行っており,沖合底びき網漁船,いか釣漁船等がロシア200海里水域内で操業している。カナダ,南太平洋島嶼国,アフリカ諸国の200海里水域内においては,政府間若しくは民間による協定の締結又は合弁事業により,我が国かつお一本釣漁船,まぐろはえ縄漁船の操業が確保されている。また,アルゼンティンの200海里水域内では,現地企業との用船契約により,いか釣漁船の操業が行われている。

 また,公海における操業については,水産資源の保存管理措置の強化のほか,野生生物の保護や海洋生態系の保全に向けた動き等により,これまで,さけ・ます流し網漁船やいか流し網漁船,すけとうだらトロール漁船等が操業を停止してきており,現在は,地域漁業管理機関の定める資源管理措置等の下で,まぐろはえ縄漁船等が操業を行っている。こうした背景の下,公海における漁獲量は,近年おおむね横ばい状態で推移している。

 我が国は,今後とも,国民に対する水産物の安定的供給の確保のため,強力な漁業外交の展開により海外漁場の確保に努めるとともに,世界の水産業のリーダーとして,また,世界有数の水産物消費国として,公海及び外国200海里水域における資源の保存・管理と持続的利用に向けて,積極的に貢献していくことが重要となっている。

(北方四島周辺12海里水域内における操業)

 また,10年5月に発効した日ロ間の操業枠組み協定に基づき10年10月から北方四島周辺12海里水域における我が国漁船の操業が実現しており,11年は,すけとうだら,ほっけ等を対象とした操業が行われた。

(4) 国際漁業協力の現状

 我が国は,遠洋漁業を通じて会得した開発途上国の水域での操業の技術・経験のほか,水産物の生産から消費に至る一貫した技術体系を有しており,開発途上国に対し,これらの技術等を活用した水産無償資金協力や各種の技術協力等を実施してきている。

 水産無償資金協力は,開発途上国に対して,製氷機等の流通関連施設,研究・研修施設の整備等に必要な資金を贈与するもので,これまでの供与国は,アジア,太洋州,中南米,アフリカの国々と,世界各地に広がっている( 図II-3-4 )。

 一方,国際協力事業団は,開発途上国の漁業振興を目的とした技術協力として,専門家の派遣,開発途上国からの研修員の受入れ,これらと機材供与と組み合わせた「プロジェクト方式技術協力」のほか,開発途上国の漁業振興に関する計画の策定に協力する開発調査事業を実施している。

 さらに,海外漁業協力財団では,開発途上国等の協力要望に迅速かつきめ細かに対応した専門家の派遣,研修生の受入れ,機材供与及び各種のプロジェクト方式の技術協力と,開発途上国等水域への入漁に関連した我が国漁業者の漁業合弁事業等に必要な資金の融資を行っている。同財団では,技術協力,融資及びこれらの連携によって当該国の漁業開発に寄与するとともに,我が国漁業者の当該国水域への入漁の確保を図っている。

 今後とも,我が国が有する技術体系の維持,改善を図りながら,我が国のみならず,相手国,ひいては世界の将来にわたる水産食料需給の安定に資する観点から,資源管理,増養殖,漁場環境保全,水産基盤整備等の分野における国際協力や合弁事業等により,海外漁場の水産資源の合理的利用を推進していくことが重要である。