1 漁業生産構造

(1) 漁業経営体の動向

 海面における漁業経営体数は,経営主の高齢化,後継者不足等により減少を続けている。平成10年の漁業経営体数は,5年に比べ12%減少し15万1千となった。昭和63年から平成5年までの5年間の変化と比較し,減少率が大きくなっている( 表III-1-1 , ダウンロード )。このうち,全経営体の95%を占める沿岸漁業経営体は,12%減少し14万3千となった。動力船1〜3トン階層やのり類養殖及びわかめ類養殖で大きく減少した。

 また,中小漁業経営体は,5年に比べ9%減少し7千8百となった。経営体階層別にみると,動力船50〜100トン階層と500〜1,000トン階層で大きく減少した。

 大規模漁業経営体は,5年に比べ22%減少し139となった。

 個人経営体は,5年に比べ13%減少し14万3千となり,専業の割合は35%となっている( 図III-1-1 )。

 団体経営体の4割を占める会社経営は,個人経営体からの移行等により昭和28年以降一貫して増加してきたが,初めて減少に転じた。

 内水面における漁業経営体は,湖沼漁業,養殖業とも減少傾向で推移している。湖沼漁業の経営体は,5年に比べ16%減少し3千6百となった( 表III-1-2 , ダウンロード )。内水面養殖業の経営体は,5年に比べ21%減少し5千7百となった。魚種別経営体でみると,うなぎ養殖(種苗生産を除く。)とこい養殖(種苗生産を除く。)で大きく減少した。

(2) 漁業就業者の動向

(高齢化の進展と低水準の若年齢層の参入)

 漁業就業者は,昭和28年の約80万人を頂点として,減少傾向が続いており,平成10年には5年に比べ15%減少し27万7千人となった( 表III-1-3 , ダウンロード )。これを漁業部門別にみると,沿岸漁業就業者は,14%減少し23万8千人,沖合・遠洋漁業就業者は,20%減少し4万人となった。

 また,自営・雇われ別にみると,自営漁業就業者は,15%減少し20万2千人となり,雇われ漁業就業者は,15%減少し7万5千人となった。性別では,男子が14%減少し23万1千人となり,女子が19%減少し4万6千人となった。

 男子漁業就業者について年齢階層別にみると,60歳以上の割合は,8ポイント増加し42%となり,25歳未満の割合は,1ポイント減少し3%となった( 図III-1-2 )。

 一方,11年の新規漁業就業者数は,1,280人であり,新規学卒就業者と離職転入者が半数ずつである。また,離職転入者の64%は39歳以下の若年層である。このように新規学卒者及び離職者の就業により若年齢層の漁業への参入がみられるものの,漁業の離職者数に比較して就業者数は低水準にとどまっており,今後,昭和一桁世代の引退等から,就業者の減少が急激に進むことが見込まれている。

(担い手確保の現状等)

 平成10年の海面漁業の個人経営体において,漁業後継者がいる割合は全体で15%である。中小漁業や海面養殖業では比較的後継者がいる比率が高いが,沿岸漁船漁業等の後継者不足は深刻になっている( 図III-1-3 )。

 現在,新規漁業就業者の過半数は漁家の出身者が占めているが,今後,漁業の活性化を図るためには,漁家出身者以外も含め,漁業に取り組もうとする意欲ある若い担い手を積極的に確保していく必要がある。近年,都市生活者の自然志向の高まり,労働に対する価値観の多様化等を背景に,他産業からの漁業への参入がみられるようになっている。このような新規参入者の拡大及び定着を図るため,情報提供,漁業技術や経営技術の習得の支援,居住環境の整備,地元漁業者との交流促進等,漁業・生活双方にわたる総合的な支援策を講じることが必要となっている。こうした中で,全国26か所の漁業就業者確保育成センターにおいて,ハローワーク等と連携し,全国の求人情報の収集・紹介等が行われているほか,全国5か所の漁業関係研修所において,漁業技術,経営技術の習得等のための研修が実施されている。

(3) 漁村の女性の役割

(沿岸漁業に不可欠な役割を果たす女性漁業従事者)

 平成10年の女性の漁業就業者数は,全漁業就業者数の17%を占める4万6千人であり,そのほとんどが沿岸漁業に従事している。「基幹的漁業従事者 *1 」に占める女性の割合は2%にすぎないものの,「その他の漁業従事者」においては,3人に1人が女性となっている( 表III-1-4 , ダウンロード )。

 また,女性漁業就業者の平均週間就業時間は農業,林業よりも長い( 表III-1-5 , ダウンロード )。

(漁村の女性の地域活動)

 漁村における女性の地域活動は,主として女性漁業就業者や漁業者の配偶者,魚市場で働く女性等で構成される漁業協同組合(漁協)婦人部を中心として行われており,11年4月現在の漁協婦人部員は約11万3千人である。

( 写真 )

 その活動は,生活改善,魚食普及,海浜清掃,健康管理,植林等多岐にわたっている。特に,20年以上前から合成洗剤の追放運動として天然石鹸の普及に取り組んでおり,こうした環境問題についての地道な活動は,現在,農山村部や都市部との交流を通じて広域的な取組として展開されるようになっている。

 また,全国漁協婦人部連絡協議会のアンケート調査によると,漁協婦人部では,今後の漁村の高齢化が急速に進行すること等の見通しを踏まえ,高齢者福祉や健康管理等の課題に取り組む意向を強めている( 図III-1-4 )。

(女性が能力を発揮できる地域づくりに向けて)

 漁村の女性は,漁業への従事のほか,地域に密着した社会活動を担っており,女性の意見を漁業生産や地域社会の中核的な役割を果たす漁協の運営に反映させていくことが重要である。しかしながら,漁協の正組合員に占める女性の割合は6%にすぎず,漁協役員にあっては,0.2%と極めて少ない状況にある。全国漁協婦人部連絡協議会の調査によると,漁協の正組合員の資格を1戸当たり1名に制限している漁協が4割にのぼっており,このような制限が女性の正組合員化等を難しくしている一因と考えられる。

 漁村における漁業就業者の高齢化の進行や後継者不足が深刻化する中で,漁村における女性の役割は従来にも増して重要となっている。このため,今後とも,漁労作業時の安全性の確保や報酬の充実,定休日の設定等女性が安定的に漁業に就業できるようにするための労働環境の整備を図るとともに,地域社会におけるさまざまな方針決定の場への女性の参加を促進するための具体的な取組を進めることが重要となっている。また,一般に女性漁業就業者は,家事,育児等を担っており,負担が大きくなっている場合も多いことから,女性が男性と対等なパートナーとして社会に参画していくことができる体制整備に努めることが重要である。

 11年6月に,男女が対等な立場で責任を担う社会の実現を総合的,計画的に推進することを目的として「男女共同参画社会基本法」が成立した。また,同年11月には「農山漁村男女共同参画推進指針」が策定され,農山漁村地域の女性の参画の推進に向けた自治体の具体的な取組等が促進されることとなっている。

*1 基幹的漁業従事者:自営漁業世帯のうち,海上作業日数が最も多い者

コラム:漁協婦人部の魚食普及活動 ―低利用魚の加工販売の取組―

 漁協婦人部が取り組む魚食普及活動の中には,漁業と消費者を結ぶ太いパイプになっているものもあります。そんな事例を紹介します。

(パートI 魚食普及の活動の動機)

 とびうお幼魚の買い手がないまま捨てられるのを見て,忍びない思いをしたこと,いわしが記録的な豊漁で市場にあふれているにもかかわらず,消費者が思うように買ってくれないので捨てたこと,漁船が出漁を見合わせる状態が続いて,漁家として身を切られる思いをしたこと・・・。

 昭和52年,島根県恵曇(えとも)漁協婦人部は,このような状況を少しでも改善しようと,漁協の炊事場で部員たちが資金を出し合って購入した粉末機を使い,とびうお粉末づくりを始めました。これが,今日まで続く魚食普及活動の最初の一歩でした。

(パートII 加工場の完成と活動の充実)

 その後,婦人部では,手探り状態ながら,いわしのカレーなどの開発・販売,料理講習会の開催などの魚食普及活動を続けました。学校給食,地元量販店への加工品販売が定着した62年,直営の水産加工センター(加工施設)が完成して加工品の量産が可能になり,いわしの開きなどの宅配便や生干しなどの中元・歳暮セットの販売など,活動に弾みがつきました。さらに,農業・消費者グループとの交流会の開催,「えともフレッシュ朝市」の運営開始と取組を充実させています。

 現在,婦人部が開発した製品は40品目となり,生産は当初とは比べものにならない大規模なものになりました。一方,恵曇漁協では,まいわしの不漁などによって漁業生産量が減少してきています。婦人部では新しい特産品の開発などによって地域の活性化に貢献できればと,決意を新たにしています。婦人部の一層の活躍を願わずにはいられません。

(4) 漁船労働

ア 漁船船員の動向

 長期にわたる航海や洋上作業等の漁船労働の特殊性,雇用労賃の他産業に対する相対的な低下,雇用の不安定性等から,漁船船員の減少が進行しており,更に,今後,高齢化に伴う離職者の増大が見込まれることから,漁船船員の不足が懸念されている。特に航海士,機関士等の資格を有する漁船職員については,現在でも絶対数が不足している上に,11年2月から海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS *1 )の完全実施により資格要件が強化されたことから,その将来にわたる安定的確保に向けた的確な対応が必要である。

 こうした状況の下で,海外を基地にしている漁業では,日本人の漁船部員不足に対応するため,一定の条件の下で外国人漁船部員の配乗が認められてきた。さらに10年7月からは,外国人漁船部員の混乗率の拡大と我が国における乗下船を実現するため,我が国の漁船を外国企業に貸し出し,外国人漁船部員を乗船させてこれを用船する,いわゆる「マルシップ方式」の導入が認められ,既に遠洋まぐろはえなわ漁船,遠洋かつお一本釣漁船,海外まき網漁船,大型いか釣漁船,遠洋底びき網漁船において実施されている。外国人漁船部員の就業者数は11年3月末現在で,前年同期に比べて15%増の7,090人となっている( 図III-1-5 )。

 漁船船員の育成・確保は,漁業の将来にわたる発展を図る上で極めて重要な基礎的な課題であり,漁船労働を魅力あるものにするため,船内居住環境の改善,省力機器の導入による労働の軽減,労働時間の短縮,漁船安全装備の近代化等に努める必要がある。

*1 GMDSS:Global Maritime Distress And Safety System通信衛星等の最新の通信技術を駆使した世界的な海難救助のための船舶通信システム

イ 労働条件

 10年の中小漁業における年間1人当たりの雇用労賃は,前年に比べ6%減少し438万円となった( 表III-1-6 , ダウンロード )。中小漁業の雇用労賃を他産業の賃金水準と比較する場合,労働環境,労働時間,労働内容,さらには平均年齢等の諸条件が大きく異なることに留意する必要があるが,事業所規模30人以上の製造業との比較において,中小漁業の雇用労賃は,製造業の給与額を下回って推移している。このような中小漁業の雇用労賃の他産業の給与額に対する相対的な低下が,最近の漁船乗組員の確保難の大きな要因のひとつになっている。

 このような状況の下,漁船船員(船員法適用船員 *1 )に対する最低賃金制度に基づき,11年度の遠洋まぐろ漁業,大型いか釣漁業の最低賃金の改正が審議されたが,同漁業における現下の厳しい漁業経営の状況を反映し,前年度と同額に据え置かれることとなった。

*1 船員法適用船員:総トン数5トン以上の日本の漁船に乗り組む船員

ウ 海難と労働災害等

(漁船の海難)

 我が国周辺海域における漁船海難の発生状況をみると,10年の漁船海難隻数は622隻で,前年に比べ26隻増加した。これは全海難隻数1,726隻の36%にあたる。

 漁船海難による死亡・行方不明者数は92人で,前年に比べ19人減少したが,全船舶の海難による死亡・行方不明者数の6割は漁船海難によるものである( 図III-1-6 )。

 海難の種類では,衝突,乗揚げ,火災,機関故障が多く,海難の原因としては,見張り不十分,操船不適切,気象海象不注意,機関の整備不良,居眠運行等の人為的要因によるものが多い。

 このような中,海難等による死亡・行方不明事故を未然に防止するため,安全対策に関するマニュアル等の作成・配布や,漁業協同組合等による沿岸漁業者を対象とした救命衣の着用等の取組が各地で行われている。

(漁船の災害と疾病)

 10年度における漁船船員の死亡及び休業3日以上に及ぶ労働災害の発生状況をみると,災害発生数は,1,116人で前年度に比べ10%減少し,災害発生率も減少した( 表III-1-7 , ダウンロード )。この災害の発生数を作業別にみると,漁労作業中が51%を占め,次いで荷役作業中,漁獲物取扱作業中の順となっており,死亡災害は,海中転落,海難によるものが依然として多い。また,疾病発生数は,950人で前年度に比べ16%減少し,疾病発生率も減少した。