2 漁業経営の現状

(1) 沿岸漁船漁業の経営

 沿岸漁船漁業の経営体は,家族労働を中心とした小規模経営体が多く,経営基盤がぜい弱であるとともに,近年の我が国沿岸水域の水産資源の悪化,魚価の低迷等により漁業所得は伸び悩んでいる。

 平成10年の沿岸漁船漁業の経営状況をみると,漁獲量が前年に比べ4%減少したこと等から,漁業収入は,前年に比べ7%減少し,491万円となった( 表III-2-1 , ダウンロード )。一方,漁業支出は,販売手数料及び雇用労賃等が減少したため,前年に比べ2%減少し,276万円となった。この結果,漁業所得は前年より12%減少し216万円となった。

 漁船トン数階層別にみると,すべての階層で前年を下回っているが,中でも5〜10トン階層は前年に比べ17%と大きく減少し,353万円となっている( 図III-2-1 )。これは,漁獲量の減少により漁業収入が減少したことに加え,減価償却費,漁船・漁具費等の漁業支出が増加したためである。

 沿岸漁船漁業の経営状況を海区別にみると,漁業収入が日本海西区を除くすべての海区で減少し,また,漁業支出については,各海区でほぼ前年並みであったが,日本海西区では雇用労賃等が増加した。このため,漁業所得については,すべての海区で前年を下回り,特に,太平洋南区,太平洋北区,北海道区の減少率が大きかった( 図III-2-2 )。

 漁業収入に占める所得率は,全国平均では前年より3ポイント下回り,44%となった。

(2) 海面養殖業の経営

(海面養殖業の漁業所得)

 これまで,海面養殖業は,中高級魚介類の需要の増大に伴い,総じて着実な発展を遂げてきた。しかしながら,近年,業種によっては,餌料価格の高騰,過密養殖や赤潮等による漁場環境の悪化等の生産面の問題に加え,経済の低迷による需要の低下,供給過剰による価格の伸び悩み等の販売面での問題から,厳しい経営を強いられているものもある。このような状況から,養殖魚種の転換や魚種の複数化を行う経営体もみられるようになっている。

 平成10年度の海面養殖業の漁業所得は,わかめ養殖,たい類養殖,真珠母貝養殖漁家では前年度を上回ったものの,その他の養殖部門では前年度を下回ったため,平均では前年度に比べ20%減少し603万円となった。10年度における個人経営体当たりの養殖業種別の経営状況は以下のとおりである( 図III-2-3 )。

(ぶり類養殖業)

 漁業収入は,収獲量が増加したものの,価格が低下したため,前年度並みの1億3,036万円となった。漁業支出は,種苗代,えさ代等が増加したため,14%増加し1億1,776万円となった。この結果,漁業所得は54%減少し,1,261万円となった。

(たい類養殖業)

 漁業収入は,価格が低下したものの,収獲量が増加したため,前年度に比べ2%増加し6,366万円となった。漁業支出は,収獲量の増加により雇用労賃,販売手数料等が増加したものの,えさ代が減少したため,3%減少し5,180万円となった。この結果,漁業所得は34%増加し1,186万円となった。

(かき養殖業)

 漁業収入は,前年度並みの2,221万円となったものの,赤潮等によるへい死貝の処理等による雇用労賃等が増加したため,漁業支出が10%増加し1,534万円となった。この結果,漁業所得は16%減少し687万円となった。

(ほたてがい養殖業)

 漁業収入は,えさ不足による成育不良により,収獲量が減少したため,前年度に比べ5%減少し1,627万円となった。漁業支出は,収獲量の減少により販売手数料等が減少したが,雇用労働時間の増加により雇用労賃等が増加したため,10%増加し887万円となった。この結果,漁業所得は18%減少し741万円となった。

(真珠母貝養殖業)

 8年夏以降の母貝のへい死は10年も発生し,厳しい経営状況となっている。漁業収入は,収獲量が減少したため,前年度に比べ14%減少し427万円となった。漁業支出は,雇用労働時間の減少に伴い雇用労賃等が減少したため,46%減少し270万円となった。この結果,漁業所得は前年度の赤字から157万円の黒字となった。

(真珠養殖業)

 漁業収入は,品薄感から価格が上昇したものの,養殖数量を控えたこと等により収獲量が減少したため,前年度に比べ27%減少し1,210万円となった。漁業支出は,雇用労賃,種苗代,核代等が減少したため,23%減少し969万円となった。この結果,漁業所得は37%減少し241万円となった。

(のり養殖業)

 漁業収入は,収獲量が増加したものの,品質低下により価格が低下したため,前年度に比べ8%減少し1,640万円となった。漁業支出は,収獲量の増加により諸材料費,油代,雇用労賃等が増加したため,3%増加し997万円となった。この結果,漁業所得は22%減少し644万円となった。

( 写真 )

(わかめ養殖業)

 漁業収入は,収獲量が増加したことに加え価格も上昇したため,前年度に比べ18%増加し608万円となった。漁業支出は,収獲量の増加により販売手数料,雇用労賃等が増加したため,14%増加し247万円となった。この結果,漁業所得は20%増加し361万円となった。

(3) 漁家の所得

(減少に転じた漁家所得)

 平成10年の漁家(沿岸漁船漁家,海面養殖漁家のほか,小型定置網漁家を含む。)所得は,沿岸漁船漁業の漁家所得,海面養殖業の漁家所得がともに減少したことにより,前年に比べ9%減少し649万円となった( 図III-2-4 )。漁業所得は,前年に比べ16%減少し287万円となったことから,漁家所得に占める割合(漁業依存度)は前年に比べ4ポイント低下し44%となった。沿岸漁船漁業の漁家所得は571万円で,漁業依存度は38%,海面養殖業の漁家所得は996万円で,漁業依存度は61%である。

(全国勤労者世帯等との比較)

 近年の一世帯当たり漁家所得と全国勤労者世帯の所得を比較すると,8年及び9年は養殖漁家所得の大幅な増加により全国勤労者世帯を若干上回ったが,10年には,沿岸漁船漁業,養殖業ともに漁業所得が減少したことにより,全国勤労者世帯所得を下回る結果となった( 図III-2-5 , ダウンロード )。また,世帯員1人当たりの所得では,これまでも漁家世帯は,全国勤労者世帯を下回って推移していたが,10年ではその格差は拡大した。

 また,漁家所得を農家世帯と比較すると,10年では一世帯当たりの所得,世帯員一人当たりの所得ともに農家の7〜8割程度の水準である。

(4) 中小・大規模漁業の経営

ア 中小漁業の経営

(収益性の一般動向)

 中小漁業は,これまで漁獲能力向上のため,漁船・漁労装置等の設備投資を積極的に進めてきたが,近年,漁獲対象資源の水準の悪化等から生産量が大幅に減少している。

 平成10年度の中小漁業の漁業収入は,かたくちいわし,かつお,ほっけ等の漁獲量が増加したものの,さば類,するめいか,さんま等の漁獲量が減少したことに加え,あじ類,すけとうだら等の価格が低下したため,前年度に比べ6%減少し1億1,512万円となった。

 また,見積り家族労賃を含む漁業経営費は,雇用労賃,油代等の減少により,3%減少し1億1,698万円となった( 表III-2-2 , ダウンロード )。この結果,漁業利益はマイナス186万円となり,前年度の黒字から赤字に転じた。これは,10〜30トン階層の漁業利益が増加したものの,その他のすべてのトン数階層で前年度に比べ漁業利益が減少したためである。なお,漁業利益に,水産加工業等の漁業外利益及び事業外利益を加えた経常利益は,前年度に比べ93%減少し14万円となり,減価償却前の経常利益は898万円となった。また,1人当たりの売上高は,前年度に比べて漁業収入が減少したため,8%減少し1,174万円となった。

 また,中小漁業全体について,漁業利益段階における黒字,赤字別の経営体の構成割合をみると,前年度に比べ黒字経営体が3ポイント増加し,60%となった。これは,10〜30トン階層及び50〜100トン階層の黒字経営体が前年度に比べ増加したことが影響しているが,その他のトン数階層では赤字経営体が増加した( 図III-2-6 )。

(財務内容の一般動向)

 中小漁業の経営は,漁船建造等に多額の投資が必要であり,また,操業のため燃油等に多額の経費を要する等の構造的な問題を抱えている。こうした中で,漁獲対象資源の悪化による生産量の減少により,多くの経営体で過剰投資状態となっていること等から,経営状態が悪化している。

 10年度の経営体の資産及び負債・資本の財務内容の状況について,前年度と比較してみると,資金運用方では,固定資産は3%減少し110百万円となった。これは,固定資産の約5割を占める漁船・漁具等の漁業用有形固定資産が,6%減少し49百万円となったためである。また,流動資産は,預貯金の減少により5%減少し78百万円となった。この結果,総資産は,4%減少し177百万円となった( 表III-2-3 , ダウンロード )。資金調達方では,負債の約8割を占める短期・長期合わせた借入金が,3%減少し131百万円となったため,負債は2%減少し167百万円となった。

 売上高に占める借入金の比率をみると,前年度に比べ借入金が3%減少し131百万円となったものの,漁業収入が6%減少し115百万円となったため,前年度に比べ4ポイント上昇し114%となり,依然として借入金の比率は高いものとなっている。さらに,総資本に対する自己資本の比率は,前年度に比べ減少し5.8%となった。自己資本比率をトン数階層別にみると,10〜30トン階層では前年度に比べ3ポイント増加し57%となったものの,それ以上のトン数階層では,いずれも前年度に比べ減少しており,特に50〜100トン階層以上の階層では更に悪化し,マイナス39%となった( 図III-2-7 )。

(主要漁業種類の収益性の動向)

 沖合底びき網漁業(50〜100トン,主業)は,すけとうだら,ほっけの価格が低下したため,漁業収入は前年度に比べ6%減少し115百万円となった。漁業支出は2%減少し111百万円となったため,売上利益率は3ポイント減少し3%となった( 表III-2-4 , ダウンロード )。

 大中型まき網漁業(500トン以上,主業)は,対象魚種のさば類,まいわし等の漁獲量の大幅な減少によって,漁業収入は4%減少し1,180百万円となった。漁業支出は前年並であったため,売上利益率は4ポイント減少し0.4%となった。

 遠洋まぐろはえ縄漁業(500トン以上,専業)は,漁獲量が増加したものの,まぐろ類の価格が低下したため,漁業収入は16%減少し698百万円となった。漁業支出は雇用労賃,減価償却費等が8%減少し740百万円となったため,売上利益率は前年度のプラスからマイナスに転じた。

 遠洋かつお一本釣漁業(200〜500トン,専業)は,かつおの価格が前年並みであったものの漁獲量が減少したため,漁業収入は5%減少し582百万円となった。漁業支出は前年度に比べて7%減少し523百万円となったため,売上利益率は2ポイント増加し10%となった。

 いか釣漁業(100〜200トン,主業)は,主要魚種のするめいかの価格が前年に比べ上昇したものの,漁獲量が大幅に減少したことから,漁業収入は9%減少し95百万円となった。漁業支出は雇用労賃,販売手数料等の減少により5%減少し100百万円となったため,売上利益率は4年連続してマイナスとなった。

(主要漁業種類の財務内容の状況)

 自己資本比率は,10年度の収益の悪化により,大中型まき網,遠洋まぐろはえ縄及びいか釣で,前年度に比べ悪化した。また,遠洋かつお一本釣では,前年度のプラスからマイナスに転じた。

 資産と負債の関係を示す固定長期適合率は,年々わずかずつではあるが改善されている漁業種類もみられるものの,いずれの漁業種類も100%を超えており,固定資産が自己資本を含めた長期資金でまかないきれず短期資金の流動負債に依存するといった,ぜい弱な経営体質となっている。

 また,売上高に対する借入金の比率は,大中型まき網,遠洋まぐろはえ縄では,200%前後と借入金依存体質となっている。沖合底びき網では,漁業収入の増加等により,7年度以降100%を下回って推移していたものの,10年度には借入金の増加及び売上高の減少により前年度を上回った。遠洋かつお一本釣では,新船建造による長期借入金の増加により,6年度以降100%を超えて推移しており,10年度は借入金が減少したものの,売上高も減少したため,9年度と同水準となった。いか釣は6年度以降9年度まで100%を下回って推移していたものの,10年度は借入金の増加等により100%を超えた。

イ 大規模漁業の経営

 資本金1億円以上の漁業会社(大規模漁業会社)においては,漁労部門の一部維持を図りながら,海外からの水産物買付等の商事部門,冷凍食品製造等の食品加工部門を中心に,食品全般に関する水産系の総合製造販売業として事業内容の再構築が図られている。平成10年度の1社当たり平均の売上高は,前年度に比べ28%減少し957億円となった。これは,売上高構成割合の約7割を占める商事部門の売上高が,27%減少し699億円となったことに加え,加工部門の売上高が,32%減少し212億円となったためである( 図III-2-8 )。また,漁労部門の売上高は,4%増加し31億円となり,売上高に占める漁労部門の割合は,前年度に比べ1ポイント増加し3%となった。