むすび ―国民生活と水産業,漁業地域とのかかわりを考える―

 本報告においては,水産業,漁業地域の動向について,国民生活とのかかわりに重点を置いて検討を行った。

 水産業は,毎日の食生活に欠かせない水産物を供給する産業であり,国民生活に密着したものである。しかしながら,我が国においては,飽食ともいえる豊かな食生活が実現していることから,かえって国民は,食料としての水産物やそれを生産する漁業,水産加工業の役割等を意識せずに生活している面がある。

 また,漁業や水産加工業等が展開されている漁業地域は,水産物の供給基地としての役割のほかに,国民の健全なレクリエーションの場の提供をはじめ国民の豊かで安全な生活を支える多面的な役割を果たしている。しかしながら,漁業生産活動や漁業地域と国民の日常生活の距離が開いてきていることから,こうした役割が十分に理解されていない面がある。

 21世紀における国民生活の安定向上を実現する上で,水産業や漁業地域の果たす役割について,あらためて国民全体で考えることが重要である。その際の国民生活と水産業,漁業地域とのかかわりについての論点を整理すると,以下のとおりである。

(国民の食生活における水産物の重要性)

 近年,水産物の純食料供給量は横ばい傾向にあるが,水産物は,国民への供給総たんぱく質の2割,動物性たんぱく質の4割を占める重要な食料である。また,水産物は,カルシウムをはじめとする各種栄養素のほか,生活習慣病を予防する働きを持つEPA等他の食品にない多くの有用成分をそなえている。

 近年,我が国の食生活においては,脂質の過剰摂取やカルシウムの摂取不足等が懸念されているが,今後急速な高齢化が進む我が国において,健康で豊かな食生活を実現する上での水産物の重要性はますます増大してくるものと考えられる。

(安定的な水産物供給の確保)

 我が国は,世界でも有数の漁業生産を行う水産国であるが,同時に世界最大の水産物輸入国となっている。しかしながら,世界の水産物需給は,中長期的には不安定な局面が現れることが懸念されているほか,我が国の水産物輸入が,国際的な水産資源の保存・管理に悪影響を与えている状況もみられることから,国民への水産物供給を安易に輸入に依存することには問題がある。

 今後とも,国民に対する水産物の安定供給を確保するためには,200海里体制の下で,国際的な水産資源の保存・管理と持続的利用に向けた取組を推進しつつ,我が国周辺水域の水産資源の適切な管理と持続的利用を基本とし,国内生産力の強化に努めていく必要がある。このことは,不測の事態が発生した場合の国民への水産物供給の確保にも資するものである。

(国民にとっての水産業,漁業地域)

 水産業や漁業地域は,国民への水産物供給,沿海地域の経済社会の発展,国民の健全なレクリエーションの場の提供,環境の保全,固有の文化の継承等多面的な役割を果たしている。こうした役割は,21世紀における豊かで安全な国民生活の実現を図る上で不可欠なものであると考えられることから,水産業や漁業地域についての実態等について国民全体で理解を深め,我が国経済社会における水産業,漁業地域の位置付けについて,国民の合意として明確にしていくことが必要である。