第2節 急速に進む「魚離れ」 〜魚食大国に翳り〜

(1)かつてない「魚離れ」が起きている

(若年層に限らず中高年層も「魚離れ」)

 「国民健康・栄養調査報告」(平成14年までは「国民栄養の現状」)で年齢階級別に1人1日当たりの魚介類・肉類の摂取量をみると、19歳までは肉類の摂取量が多く、20歳以上では高齢になるほど肉類の摂取量が少なくなり魚介類の摂取量が多くなるという特徴があることがわかります。次に、平成7年から16年までの変化をみると、すべての年齢階級で、肉類が総じて横ばいの中、魚介類は減少しています。7年は、30代で肉類と魚介類がほぼ同量、40代以上では肉類より魚介類を多く摂取していました。しかし、16年では30代の肉類の摂取量が魚介類の摂取量を上回り、20代と同様の傾向を示しているほか、40代でも魚介類と肉類の摂取量が逆転、50代以上でも魚介類が大きく減少しています。その結果、全体でも魚介類と肉類がほぼ同量となっており、この9年間でかつて見られなかったほどの「魚離れ」が顕在化しています(図 I −2−1)。

(家計の購入量でも生鮮魚介類と生鮮肉類が逆転間近)

 「家計調査年報」(二人以上の世帯(農林漁家世帯を除く))で家計による1人1年当たりの購入量(外食における消費は含まれていない。)をみると、生鮮肉類は、昭和40年には約6kgでしたが、54年には2倍の12kgまで増加しました。その後は12kg台で推移しており、平成17年は12.6kgとなっています。他方、生鮮魚介類は、昭和40年頃は約16kgでしたが、生鮮肉類とは対照的に緩やかに減少を続けています。平成17年は生鮮肉類とほぼ同量の12.7kgとなり、生鮮肉類と逆転しそうな情勢です(図 I −2−2)。

 生鮮魚介類の購入量減少原因の一つに、消費者ニーズの変化に伴って切り身や刺身など予め不可食部(頭、骨、内蔵など)が除去された形態で購入されるようになった分だけ購入量が減少したことがあり、この分は割り引いて考える必要がありますが、購入量の変化にも魚離れの現状が明らかになっています。

表I−2−1

(若い人ほど魚を買わない)

 図 I −2−1で見たとおり、若年層は魚介類より肉類を多く摂取し、20歳以上では年齢が高くなるほど肉類が減少し魚介類が増え、中高年齢層では魚介類の方を多く摂取しているという構図があります。「家計調査年報」(二人以上の世帯(農林漁家世帯を除く))の世帯主の年齢階級別の世帯員1人当たり生鮮魚介類購入量でも同様の傾向がみられ、若年層ほど生鮮魚介類の購入量が少なくなっています*1(図 I −2−3)。

*1 世帯員には子供や年配者が含まれることに留意する必要があるが、その点を考慮しても、生鮮魚介類の購入量は、その世帯主の年齢に特徴づけられる結果となっている。

(失われつつある加齢効果)

 世代別にみると、昭和20年代以前に生まれた世代では、50代、60代と年を取るにつれて魚介類を食べるようになる「加齢効果」がみられますが、昭和30年代生まれの世代については40代から50歳となっている平成17年時点では加齢効果はみられません。また、同じ年齢で比較すると、同じ40歳代でも昭和10年代生まれよりは20年代生まれの方が魚介類購入量が少なく、30年代生まれはさらに少なくなっており、後の世代ほど魚介類を食べていません(図 I −2−4)。

(拡がる若年層と高齢層の魚介類購入量格差)

 「29歳以下」と「60歳以上」の生鮮魚介類購入量を比較すると、昭和55年の格差は1.64倍(生鮮魚介類全体)でしたが、平成17年には3.78倍に拡大しており、特に若い世代で「魚離れ」が顕著に進行しています(図 I −2−5)。

(魚種によって大きく異なる購入量の変化 −減少しているイカ、増加しているサケ−)

 世帯員1人1年当たりの生鮮魚介購入量の変化は魚種によっても大きな違いがあります。

 マグロ、カツオは、世代間格差はあるものの、全体としては堅調に推移しています。

 アジは、増加した後、減少に転じており、世代間格差は5.68倍(平成17年)と顕著です。

 イワシ、イカはすべての年齢階級で減少しています。イワシは平成に入ってから漁獲量が激減したためです。イカは、昭和55年には1.15倍だった世代間格差が平成17年には5.57倍にまで開いており、特に若い世代の減少が顕著です。

 塩サケもすべての年齢階級で減少していますが、これとは対照的にサケはすべての年齢階級で大きく伸びており、世代間格差も比較的小さく、若い世代からも支持されています。

 サンマは、平成12年までは減少傾向でしたが、平成17年はすべての年齢階級で増加に転じています。近年、豊漁が続いたことに加え、高鮮度での流通が行われるようになるなど、塩焼きだけでなく刺身でも美味しく食べられるようになったことが消費増にも結びついたと考えられます(図 I −2−6)。

(消費者ニーズの変化の分析が必要)

 このように、イカのようにすべての年齢階級で購入量が減少している魚種がある一方、サケのようにすべての年齢階級で増加している魚種がありますが、消費者ニーズがどのように変化しているのかさらに分析を進め、今後の魚食普及活動に役立てていくことが必要です。

(2)「魚離れ」の原因は何か

(肉料理派6割に対して魚介料理派は僅かに1割)

 (社)大日本水産会の調査によれば、食事の主菜について肉料理の方が多い人は56%であり、外食では62%、中食*1では65%とさらに多くなっています。これに対して魚介料理の方が多い人は11%、外食でも11%、中食では僅かに8%と食の形態を問わず肉料理派が圧倒的多数を占めています(図 I −2−7)。

*1 中食(なかしょく):持ち帰り弁当、惣菜等そのまま食事として食べられる状態に調理されたものを家などに持ち帰って利用するもの。

(理由は、子どもが嫌い、割高、調理が面倒)

 また、アンケート調査(図 I −2−7)の日ごろの主菜についての問に「肉料理の方が多い」または「どちらかというと肉料理の方が多い」と回答した約56%の「肉料理派」は、その理由について、「同居の家族(※)が魚介類を好まないから」(32%、※は「子ども」が68%で多数)、「肉より割高だから」(31%)、「魚介料理は調理が面倒だから」(25%)、「魚焼きグリルを洗うのが大変だから」(20%)などを挙げています(図 I −2−8)。

 ア 子どもの「魚嫌い」

(子どもの好みがメニューに影響)

 日ごろの主菜について魚介料理より肉料理の方が多い理由のトップは「家族が魚介類を好まないから」ですが、その魚介類を好まない家族は「子ども」が約7割で、子どもの好みが料理の選択に影響を与えています。小中学生が給食で嫌いな料理の1位は「魚全般」(表 I −2−2ダウンロード)、「高齢者のいる世帯」、「夫婦のみの世帯」より「夫婦と子ども2人の世帯」の方が、食料支出額に占める魚介類の割合が少なく肉類の割合が多い(図 I −2−9)というデータもあり、子どもの「魚嫌い」は大きな課題です。

 イ 魚介類は肉より割高

(肉類は30年前から価格安定、魚介類は15年前まで値上がり続く)

 「肉より割高だから」も、子どもの魚嫌いと並ぶ大きな魚離れの原因です。「家計調査年報」で100g当たり購入単価の推移をみると、昭和51年までは生鮮魚介類の単価は生鮮肉類の4〜6割の水準で両者とも上昇していましたが、その後は生鮮肉類が100g当たり160〜180円で安定したのに対して生鮮魚介類の価格は上昇を続け、平成以降は生鮮肉類と同水準となっています。生鮮魚介類については、切り身や刺身などの形態で購入されるようになり、加工コストが生じていることが単価上昇の一因と考えられますが、生鮮肉類との価格差がなくなったことで、相対的に割高感が生じたと考えられます(図 I −2−10)。

(ボリューム感のなさも割高感の一因)

 切り身や刺身での購入が多くはなりましたが、魚介類には、頭、骨、内臓などの不可食部分が含まれることから、可食部分で比較すると重量当たりの単価は肉類より高く、また、肉に比べて満腹感が得られない(図 I −2−8の「肉料理の方が多い理由」の8位)、ボリューム感がない(表 I −2−3)といったことも割高感を生んでいる原因と考えられます。

 ウ 魚介類は調理が面倒

(調理が面倒なものは敬遠される傾向)

 魚介料理が敬遠される理由の3番目は「魚介料理は調理が面倒だから」、4番目には「魚焼きグリルを洗うのが大変だから」が挙げられており、「魚介の調理法を知らないから」(6位)、「魚の骨を取り除くのが面倒だから」(7位)も少なくありません。

(30代主婦の7割は魚をおろさない)

 農林漁業金融公庫の調査によれば、30代主婦の7割が魚をおろさず、その理由は「おろし方がわからない」、「後片付けが面倒」、「料理が面倒」などとなっています(図 I −2−11)。

(焼き魚を作らない30代主婦も1割以上)

 また、「焼き魚」を作らない主婦も1割以上います。その理由は「後片付けが面倒」、「魚の匂いを残したくない」、「料理が面倒」などとなっています(図 I −2−12)。

(家事時間の減少の影響)

 単身・2人世帯の増加(図 I −2−13)や共働き世帯の増加を背景に家事時間が減少しており(図 I −2−14)、調理や後片づけに時間・手間のかかる魚介類の購入が減少することの大きな理由になっていると考えられます。

(3)今のままでは魚介類の消費量が昭和40年代の水準に逆戻りするおそれも

(魚介類消費量は平成7年頃をピークに減少)

 1人1日当たりの魚介類消費量について、「食料需給表」の昭和40年からの長期データを二次関数で近似して今後のすう勢を見通すと、平成29年は87g/人日となります。減少傾向に転じたとみられる平成8年以降のデータを一次回帰近似した場合もほぼ同じ値となります。このまま「魚離れ」が進行すると、10年後の平成29年の1人当たり魚介類消費量は昭和40年代半ばの水準まで後退するおそれもあり、水産物の有する優れた栄養特性を考えれば、国民の健全な食生活への悪影響が懸念される事態となっています(図 I −2−15)。