遺伝資源をめぐる国際条約について
世界的な気候変動等に対応した持続的な農業の実現のためには、高温耐性等を有する新品種の開発等が重要です。新品種の開発等には遺伝資源が必須であり、遺伝資源が多様であるほど新品種の開発等の可能性は広がります。したがって、地球規模で多様な遺伝資源を保全し、利用することが、気候変動等に対応した持続可能な農業の実現につながります。
遺伝資源をめぐっては、以下に示すとおり3つの条約等(生物多様性条約、名古屋議定書、食料・農業植物遺伝資源条約)が存在しており、遺伝資源の保全と持続可能な利用のための原則を示しています。
1.生物多様性条約
最も基本的な原則を定めており、特にその第15条は遺伝資源アクセスの3原則ともいえる以下の原則を定めています。
(1)遺伝資源提供国の国内法令に従って取得すること
(2)遺伝資源提供国政府の事前同意のもとに取得すること
(3)遺伝資源提供者との間で、遺伝資源の移転や利用及び利益配分などの点につき、相互に合意する条件を確立して取得すること
2.名古屋議定書
生物多様性条約の下に定められたもので、生物多様性条約が定めるABSルールをきちんと実施するための具体的な手続きを定めるものです。我が国は名古屋議定書の的確かつ円滑な実施を確保し、生物多様性の保全及び持続可能な利用に貢献するために、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」を策定しています。
3.食料・農業植物遺伝資源条約
生物多様性条約及び名古屋議定書は植物・動物・微生物など全ての遺伝資源の取扱いについて定めたものです。一方で、食料・農業植物遺伝資源条約は、生物多様性条約及び名古屋議定書のルールと調和しつつも、植物遺伝資源の利用実態を踏まえた「多数国間の制度」を作って、この分野のABSを円滑に実施するものです。
生物多様性条約
正式名称
生物の多様性に関する条約(Convention on Biological Diversity (CBD) )
条約テキスト:英文(PDF:1,821KB) / 邦訳[外部リンク]
概要
生物多様性条約は、生物の多様性を包括的に保全し、生物資源の持続的な利用を行うため、1992年5月にナイロビ(ケニア)において採択され、我が国は1993年5月に条約を締結し、同年12月に発効しました。
本条約は、第1条において、(1)生物の多様性の保全、(2)その構成要素の持続可能な利用、(3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分、をその目的とし、第3条の原則において、遺伝資源に対する保有国の主権的権利を認めるとともに、第15条において、遺伝資源を取得する際には当該遺伝資源の提供国の事前同意(Prior Informed Consent : PIC)を得ること、遺伝資源の利用から生じる利益は、相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms : MAT)に従い遺伝資源提供国にも公正・衡平に配分することを定めています。
参考(外部リンク)
名古屋議定書
正式名称
生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書
(Nagoya Protocol on Access to Genetic Resources and the Fair and Equitable Sharing of Benefits Arising from their utilization to the Convention on Biological Diversity )
条約テキスト:英文(PDF:491KB)[外部リンク] / 邦訳(外務省仮訳)(PDF:308KB)[外部リンク]
概要
2010年に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において採択され、2014年10月12日に発効しました。我が国においては、2017年5月に締結、同年8月発効しました。
議定書では、CBDが定めるABSルール(遺伝資源の取得にあたって、提供国の国内法に従うこと等)が、遺伝資源提供国の外にある遺伝資源利用国でもきちんと守られることとなるよう、その手続が定められています。
我が国は、名古屋議定書の的確かつ円滑な実施を確保し、生物多様性の保全及び持続可能な利用に貢献するために、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する指針」を策定しています。
議定書の主な内容
(1)遺伝資源の利用者に事前同意(PIC)を得ることを要求する提供国は、事前同意(PIC)に係る制度(国内の法令等)を法的に確実明確・透明なものとするために必要な立法上、行政上又は政策上の措置をとる。
(2)アクセスされる遺伝資源について、提供国の法令等で定められている事前同意(PIC)を得ており、かつ、相互に同意する条件(MAT)を締結していることとなるよう、利用国は適当、効果的で均衡のとれた立法上、行政上又は政策上の措置をとる。
(3)利用国は、遺伝資源の利用に関するモニタリング等のための措置として「チェックポイント」を指定し、遺伝資源の利用に関する情報の収集等を行う。
(4)各締約国から提供された議定書の実施に関する情報について、利用の機会の提供の仕組みとして、ABSクリアリング・ハウスメカニズム(ABS Clearing-House Mechanism : ABS-CHM)を設置する。
正式名称
食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約
(International Treaty on Plant Genetic Resources for Food and Agriculture (ITPGR) )
条約テキスト:英文[外部リンク]/ 邦訳(PDF:428KB)[外部リンク]
概要
CBDと調和しつつ植物遺伝資源の保全及び持続可能な利用並びにその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を行うことを目的として、2001年の第31回国際連合食料農業機関(FAO)総会で採択され、2004年に発効しました。我が国では、第183回通常国会において承認され、2013年10月28日に加入しました。
その主な内容は、食料安全保障等の観点から特に重要な植物遺伝資源について、育種や研究を目的とした取得を容易にし、それを利用した新品種等から得られた利益の一部を途上国などにも公正かつ衡平に配分するための「多数国間の制度」(Multilateral System : MLS)を設立することです。
CBD及び名古屋議定書が、全ての遺伝資源を対象として一般的なルールを定めるものであるのに対し、本条約は、食料安全保障等の観点に基づいて選定された植物遺伝資源を対象として特別な取扱を定めるものであり、CBDに対する特別法としての位置付けとなっています。(名古屋議定書第4条第4項の規定により名古屋議定書の適用対象となりません。)
ITPGRに基づいて海外の植物遺伝資源を入手したい方は、農林水産技術会議事務局の「育種研究のための遺伝資源情報サイト[外部リンク]」をご覧下さい。
なお、ITPGRでは、各国が同条約運営に関する連絡窓口を設置しており、当室担当課長補佐が日本の連絡窓口(National Focal Point)をつとめています。
多数国間の制度(Multilateral System : MLS)
ITPGRの最も重要な部分は、「多数国間の制度」(Multilateral System : MLS)と呼ばれる部分です。
これは、遺伝資源提供国と個別に遺伝資源取得交渉を行わず、締約国が提供した遺伝資源を、これらの共通プールから取得できるようにし、その利用からの利益配分も個々の遺伝資源提供国に個別配分せず、一つの基金に払い込むというものです(それを原資に、開発途上国でプロジェクトを実施する)。
また、遺伝資源を取得する際に用いられる契約書も、関係国全体で交渉して世界共通のものを作りました(定型の素材移転契約(Standard Material Transfer Agreement : SMTA)。
このため、遺伝資源にアクセスするたびに取得条件を交渉する必要はなく、極めて簡便にABSが実現できます。
多数国間の制度(Multilateral System : MLS)の対象となる遺伝資源
ITPGRでは、MLSに登録すべき植物遺伝資源の範囲を、
(1) 食料安全保障等の観点から重要な作物として、締約国が合意したイネ、小麦、とうもろこし、牧草等の35種類の食用作物及び81種の飼料作物(条約の附属書1に掲載)を対象に、
(2) 「締約国の監督下」にあり、「公共のもの」となっているものの全て
と規定しています。従って、地方自治体・民間企業等が保有する植物遺伝資源や、種苗法に基づく育成権者が存続している種苗等については、登録の対象外です。
その他(イベント)
食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGRFA)第8回理事会が、令和元年11月11日~11月16日の期間、イタリア国ローマのFAO本部で開催され、農林水産省職員等が出席しました。同理事会初日の11月11日に、農研機構と共催で、サイドイベント「Japanese Activities of PGRFA: Genebank and International Cooperation」を開催し、農研機構が実施する農業生物資源ジーンバンクにおける、食料農業植物遺伝資源の保全及び持続可能な利用の取組について紹介しました。また、理事会期間を通じて、FAO内のオープンスペースで当該ジーンバンクにおける低温種子庫の展示を、制作会社である株式会社椿本チエインと共同で行い、バーチャルリアリティ(VR)によるシステムの紹介等を通じて、我が国の最先端の遺伝資源保存の取組について発信しました。
【サイドイベントの様子】
写真提供:株式会社椿本チエイン
【その他写真・動画】
参考(外部リンク)
その他参考(外部リンク)
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