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栄養面から見た日本的特質

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 I 食生活と健康、寿命の関係

1 日本人の平均寿命は世界一

国民の平均寿命は、国民の健康度を推しはかる、重要な「めやす」のひとつである。日本人の平均寿命は、昭和初期には男女ともに50歳に達していなかったが、2008年の簡易生命表によると男性79.29歳、女性86.05歳と飛躍的に伸張した。図1に示した国々の間で比べると、女性は世界1位、男性は世界2位、男女平均で世界1位の長命であった。異論もあるだろうが、日本人の「平均寿命が世界一長い」ことから、日本人は「世界一健康」であるということができる。なお、「健康とは完全な肉体的、精神的及び社会的に安寧な状態であり、単に疾病または病弱ではないということではない」;

平均寿命の推移

図1 主要先進国における平均寿命の推移―日本人男女の平均寿命は世界一だった

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1610.html

 

"Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. " という、WHOによる健康の定義がよく知られている。この定義を、1988年、"Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity." に改正することが提案されたが、付け加えられたspiritual(日本語の霊、魂、気に相当)という言葉を巡って委員会が紛糾したあげく、採択されるに至らなかった。「健康の定義を改正するといった大問題にはもっと時間をかけて議論すべきである」、との意見が大勢を占めたためだというが、その後、何らかの進展があったとは聞かない。健康とは、国の内外で一般に理解されるところでは、「日常生活を普通に営むことができる; 痛みがなく、厄介な病気にも罹っていない;病気になりにくい;運動能力が高くて速く走れ、高く跳べ、重いものも持ちあげることができる;よく成長して骨格も発達している;生活の質が高い;そして最後に、活動的な長命を楽しんでいる」、といった、心身ともに健全な状態のことである、と理解されている。この定義に魂、精神の健康を付け加えることに異論があったと聞くが、この異論も理解しがたい。

 

死因別死亡率の推移

図2 主要死因別死亡率の推移(1899~2007)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/2080.gifより

 

2 「がん」、「心疾患」、「脳血管疾患」が現代日本人の三大死因

現代日本人の主な死因は、「平成19年人口動態統計」(厚生労働省)によると(図2参照)、男性では(1)悪性新生物(上皮細胞由来の狭義のがん、肉腫、白血病)20万2743人(34.2%)、(2)心疾患8万3,090人(14.0%)、(3)脳血管疾患(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)6万0,992人(10.3%)、(4)肺炎5万8,575人(9.9%); 女性では、(1) がん 13万3,725人(25.9%)、(2) 心疾患 9万2449人(17.9%)、(3)脳血管疾患(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)6万6,049人(13.3%)、(4)肺炎5万1584人(9.9%)であった。1980年より以前は、脳血管疾患による死亡率が第1位を占めていたが、その後は悪性新生物(がん)による死亡率が第1位にとってかわり、その死亡数も増加の一途をたどっている(図2)。なお、平成19年の糖尿病による年間死亡数は1万3999人(男性 7395 人、女性 6,604人)であった。 糖尿病による死亡は、加齢に伴って増加し、そのピーク年齢も90歳以上の高齢側に移行していることが認められている。

脳血管傷害(脳梗塞と脳出血、急に発症したものは脳卒中)は喫煙や乱れた食生活、ストレス、運動不足が原因となるもので、その予防にはこれらの原因の排除と、減塩、減脂肪、摂取エネルギーの調節、栄養摂取のバランス調節、食物繊維の摂取など、が推奨されている。特に脳卒中は肉、牛乳・乳製品などの動物性タンパク質の摂取が少なく、高塩分摂取による高血圧で、血清コレステロール値の低い人がよく発症する。

食塩摂取量は昭和54年から10g以下が適正摂取量もしくは目標摂取量として設定されたが、食塩のとり過ぎが高血圧、がん、脳卒中などの生活習慣病のリスクを高めることから、減塩が勧められた。「日本人の食事摂取基準」の2005年版から2010年版では、食塩の1日摂取目標量として、男性(12歳以上)は10gから9g未満に、女性(10歳以上)は8gから7.5g未満に低減されている。 

癌による死亡率

図3 がんによる粗死亡率と年齢調整死亡率の推移(1960~2005)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2080.htmlより

 

3 年齢調整死亡率-がんによる死亡率は増えたか?

図2の中に示した悪性新生物による死亡率(人口10万人当たり)は、年を経るごとに急増しているように見える。しかしこれは、人口の高齢化による年齢分布の偏りの影響を受けた、見かけ上のことに過ぎない。図3は、1960年の死亡率を100として、年齢分布の偏りを補正した基準人口(1985年の国勢調査人口に基づいて補正した人口)当たりで計算しなおした年齢調整死亡率(平成17年都道府県別年齢調整死亡率)(ひし形のマーク)と、年齢未調整の粗死亡率(正方形のマーク)をくらべたものである。年齢未調整粗死亡率は、男女ともに2005年まで一意的に増加しているのに対して、人口構成で調整した年齢調整死亡率は、男性では1995年がピークで、その後は減少し、女性では1960年以降減少する一方である。つまり、がんによる死亡率が、見かけ上、増えたように見えているのは、日本人の寿命が延びて、高齢者人口が増えたせいなのである(黒木登志夫著「健康・老化・寿命」、p.157-159、2007、中公新書)。「年をとると皆、がんで死ぬ」のではない。なお、年齢調整法の詳細は、http://ncrp.ncc.go.jp/file/seibi/tebiki/tebiki_s_4_2.pdf、を参照されたい。

 

II 再認識された日本型食生活

1 日本人の平均寿命が飛躍的に伸びた

日本人の平均寿命が延びたのは、ひとつには、乳児死亡率[≡1,000 X(年間の乳児死亡数)/(年間の出生数);1,000出生児中の出生後1年以内に死亡した数]が激減したからである。乳児死亡率は、昭和初期には100以上であったが、近年では2000年3.83、2001年2.96、2002年2.9、2006年2.6と、年を経るごとに減少している。このことに加えて、進歩した医療技術も我々の寿命延長に貢献した。社会経済の発展によって安全で暮らしやすくなったことも寿命延長に寄与している。

しかし、日本人の平均寿命を世界一にまで延長するのに最も貢献したのは、「日本型食生活」と呼ばれる、この国の特徴的な食事様式である。この国の住民の平均的な食生活(≡日本型食生活)を支えた食事、つまり日本食(和食)は、日本人になじみの深い食材を用いて整えられた、伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事のことである。生食、素材の味を生かした薄口の味付け、そして繊細な盛り付けの3点が日本食の特徴とされ、世界的にも評価が高い。

この成人の死亡率を低下させ、日本人の平均寿命を世界一にまで引き上げた実績のある、国内でできるコメと、近海でとれる魚介類や海草類、大豆、野菜・果実類、牛乳など、様々の食材を組み合わせた、エネルギー摂取が過剰になり難い「日本型食生活」は、コムギと畜肉に依存した「欧米型食生活」に比べて、低脂肪、低カロリーで、栄養供給の面でバランスがとれていて、健康保持のためにも望ましいものであった。さらに、自然環境にかける負荷を軽減し、自給可能な農業資源を有効利用するためにも、また、長い歴史のなかで形成されたこの国の住民の生活様式と食文化から見ても、日本型食生活は望ましいものであった。


2 日本型食生活の定着

1980年、農政審議会は内閣総理大臣(佐藤栄作)に対する答申「80年代の農政の基本方向」の第1章「日本型食生活の形成と定着-食生活の将来像」の中で、欧米諸国と比較して優れたバランスを持つ日本の食生活を評価し、栄養学的な観点はもとより、総合的な食料自給力維持の観点からも(しかし、2008年現在、食料自給率はカロリーベースで約41%に低下した)、この「日本型食生活」を定着させる努力が必要であることを提言した。この提言を受けた農林水産省から、「食生活のあり方に関する研究」を委託された「食生活懇談会」(座長小倉武一、元食糧庁長官)が、1983年3月、「私達の望ましい食生活-日本型食生活のあり方を求めて」と題する、以下の8項目からなる提言をとりまとめた:

  1. 総熱量の摂り過ぎを避け、適正な体重の維持に務めること
  2. 多様な食物をバランスよく食べること
  3. お米の基本食料としての役割とその意味を認識すること
  4. 牛乳の摂取に心がけること
  5. 脂肪、特に動物性脂肪の摂り過ぎに注意すること
  6. 塩や砂糖の摂り過ぎには注意すること
  7. 緑黄色野菜や海草の摂取に心がけること
  8. 朝食をしっかりとること。

「食生活懇談会」は、「コメを基本に、魚介類、野菜、果実、牛乳を組み合わせたこの国の住民の平均的な食生活、つまり日本型食生活は、コムギと畜肉に依存した欧米型の食生活にくらべて、栄養供給の面でバランスがとれていて、健康保持のために望ましいものである」とし、さらに、「日本型食生活は、自然環境にかける負荷を少なくし、自給できる農業資源を有効に利用するためにも、また長い歴史の中で形成されたこの国の住民たちの生活様式の観点からも望ましい」と考えたのであった。なお、1990(平成2)年、日本型食生活指針検討会(座長:福場博保、昭和女子大(当時))が、その後の食環境の変化を考慮して、1983年策定の『食生活指針』の実効性を確保するための食行動指針「新たな食文化の形成に向けてー『90年代の食卓への提案』」をとりまとめて公表した。

農林水産省はこれら二つの指針を基にして、「日本型食生活」の維持・定着に努めた。この「日本型食生活」と呼ばれる食事パターンは、より正確には、1970(昭和45)~1980(昭和55)年代の、この国の住民達にとってごく普通の、平均的な食事パターンを指していた。そのころの食生活パターンは現在のものとは少し違っているが、それでも、国民の平均的な食事は、概して健康を支え、少なくとも見かけ上は豊かな生活の基盤を築きあげるのに貢献するものであった。

この国の住民の場合、成長期には好んで肉食をするが、歳を重ねると淡泊な味の、植物性の食物を好むようになる傾向がある。この傾向を、谷崎潤一郎が随筆「懶惰の説」(篠田一士編、谷崎潤一郎随筆集、岩波文庫、p.15-36)の中で次のように表現している:『イギリス人は老人でも朝から濃厚なビフテキを食い、そして盛んにスポーツをして精力を貯え、体力を養う。これも一つの養生法であるには違いない。しかしながら無精な人間の眼から見ると、刺戟性の食物を多量に摂取するために、否が応でも運動しなければ消化しきれないということになっては、スポーツも一種の苦役である。(中略)昔、といってもついわれわれの祖母の時代の頃までは、堅気な家の女房というものは殆ど一年中日の目も見ないような薄暗い部屋の奥にいて、めったに外へでることはなかった。京大阪あたりの旧家では、(中略)「ご隠居さん」といわれるような身分になれば、一日べったりと据わったきり座布団の上をさえうごきはしない。(中略)彼女らのたべる物といっては、ほんの僅かな、ごく淡泊な、鳥の摺り餌のようなものだった。粥、梅干、梅びしお、でんぶ、煮豆、佃煮―私は今でも祖母の膳の上にあったそういう品々を思い出すことができる。彼女たちには彼女たち相応な消極的な摂生法があって、多くの場合活動的な男子よりも長寿を保っていたのである。』

このような、加齢にともなう食嗜好の切り替わりが、現在でも、日本人の寿命延長に役立っている筈である。摂取する全食料のうちで、穀物・いも・豆・果実・野菜の合計量と、魚・畜肉・卵・油脂の合計摂取量の占める重量割合を、「国民栄養調査報告」と「国民健康・栄養調査報告」(平成15年以降)から見ると、動物性食品の摂取割合が50歳前後から次第に低下し、代わって植物性食品の摂取割合が増える傾向が認められる。このような加齢にともなう、食べ物に対する嗜好の切り替わりが、「日本型食生活」の食物摂取パターンと相俟って、日本人の平均寿命を世界一に押し上げている原動力になっているに違いない。

 

3 日本型食生活スタイルの特徴

日本型食生活は、世界でもその類を見ない特徴的なスタイルである。1996年にローマで開催された、第1回世界食料サミットのために作成された、国際連合食糧農業機関(編)「FAO世界の食糧・農業データブック―世界食料サミットとその背景」(国際食料農業協会訳、国際食料農業協会、1998)、のなかでも特異な位置づけがされた。FAOは、世界の151カ国を食生活パターンに基づいて、第1類コメ、第2類トウモロコシ、第3類コムギ、第4類牛乳・食肉・コムギ、第5類ミレット・ソルガム、第6類キャッサバ・ヤムイモ・タロイモ・プランテーン(料理用バナナ)の6階層に分類した。日本は、第1類のコメを特徴的な食料とする国ではなくて、第2類のトウモロコシを特徴的な食料とする国に分類された。その理由は、日本人の食事パターンが;

  • 第4類の高所得国よりもエネルギー摂取量が少ない、
  • 食肉の消費量が少ない、
  • コメの消費量が第1類のコメ消費国よりも少ない、

ことから、トウモロコシを常食としないにもかかわらず、コメ以外の植物性食料の消費状況を勘案して、例外的に第2類のトウモロコシ消費国に、無理矢理に分類したのであった。つまり、日本型食生活は、他の国・地域にはその例が見当たらない、きわめて特異的な食生活スタイルであることが、認識されたのであった。

 

4 なぜ日本食が栄養学的に優れているのか?

日本型食生活を支える食事、つまり日本食(和食)を中心とした伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事を摂ることによって、健康の維持増進に必要なエネルギーとバランスの取れた栄養成分が、ごく自然に確保することができる。ヒトの血圧は植物性タンパク質の摂取量と逆相関するので、植物性食品(つまり、植物性タンパク質と植物性油脂)の多い日本型食生活では高血圧になりにくい。このような日本食の健全性は、「日本人男女の平均寿命が世界一である」という事実が証明している、と理解されている。

日本食の三大栄養素:たんぱく質、脂肪、炭水化物の適正な摂取バランスとして、厚生省が「第六次改訂日本人の栄養所要量」(平成12―16年度使用)において、摂取する総エネルギー量に対するPFCバランス、つまり[タンパク質]:[脂肪]:[炭水化物] の摂取エネルギー比率が、10~20%:20~25%:50~70%の割合となるように摂取することを推奨した(ただし高齢者と乳幼児を除く)。食物繊維の摂取量も、望ましい栄養素として策定された(成人に対して10g /1,000 kcal)。

図4は主要国におけるPFC.の供給割合(≒消費割合)を比較したものである。2005年における日本の脂質(F)供給割合が理想的とされる割合20~25%を有意に超えていること、炭水化物(C)の供給割合が50%以下になっていることに、国民の注意を喚起する必要がある。

主要国の栄養素別割合

図4 主要国の栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)別エネルギー供給割合の比較

http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_1_3_01.htmより

 

かつての離乳食は成人用の米飯食を流用した自家製が主流を占めていた。近年に成長した市販離乳食市場は、洋風レシピの離乳食が席巻している。このように、米飯中心の離乳食が少なくなりつつある趨勢に対して、米飯食(重湯、お粥を含む)とだしの味を中心に据えた、味覚啓発型あるいは日本型とも称すべき離乳食が提唱されている(伏木亨:http://www.pal-system.co.jp/ikuji/rinyu/kangaeru/index.html)。

一方、「民以食為天―漢書」(民は食をもって天となす)とし、「民生主義の第一の問題は、飯を食う問題にほかならない」(孫文「三民主義」下、p.145、岩波文庫、1957)とする中国は、2003年、脂質供給量が危険域に達した(図4)。2004年10月13日号のForbes.com (http://www.forbes.com/2004月10日/13/cx_da_1013topnews.html) のトップニュースは“Fat in China”であった。2008年11月24日の中国新聞網(ネット)によると、中国衛生部副部長兼中華予防医学学会会長・王隴徳が記者会見の席上で、「中国都市部では、0~6歳児の8%、7~17歳の青少年の21%が肥満であり、このままに推移すると、大変なことになる」、「肥満になる原因のひとつは、糖分の多い飲み物を飲み過ぎるためだ」との警告を発している。(http://www.recordchina.co.jp/group/g26170.html)

 

5 不老長生にも役立つ日本的要素:酒と茶の効用

(1) 日本酒の効用

アルコール飲料は適量を超えなければ、健康的な飲料である。その主成分であるエチルアルコールには、(a)胃粘膜の知覚終端を刺戟する、(b)ガストリン分泌を促進する、(c)ヒスタミンを遊離する、などの作用によって、胃液の分泌を促進する働きがある。この場合、ペプシン分泌量には影響なく、胃酸の分泌高進によって胃液酸度が高まるのが特徴的である。そのため、少量のアルコールを飲用すると食欲が増進されることから、この働きを利用する目的で食前酒が飲用されている。なお、日本酒には血圧の上昇を防ぎ、HDLコレステロール(通称:善玉コレステロール)を増加させる効果のある成分が含まれていることも知られている。しかしながら、日本酒を含むアルコール飲料は連用して飲みすぎると、そのアルコールが胃の消化性潰瘍を増悪し、肝に多くの病変をもたらすことが知られている:

  • 1細胞のタンパク質合成の抑制、タンパク質の分泌抑制・肝内蓄積の高進、
  • 2肝内脂肪合成の促進、末梢組織からの脂肪放出の促進、脂肪肝の形成、
  • 3アルコールの直接作用による肝細胞傷害、脂肪肝に起因する肝細胞傷害、

などを経て、肝の繊維化・肝硬変に至る(糸川嘉則、栗山欣弥、安本教傳 編、「アルコールと栄養-お酒とうまく付き合うために」、p. 58-90、光生館、1992)。

 

表1 煎茶水溶性成分の含量と期待されている効能・効果

物質名

乾物1 g中含有量

保健機能(効能・効果)

カテキン
(タンニン)類
110~170 mg
抗酸化、抗突然変異、抗がん、血中コレステロール上昇抑制、 血圧上昇抑制、血糖上昇抑制、血小板凝集抑制、抗菌 抗虫歯菌、抗ウイルス、腸内菌叢改善、抗アレルギー、消臭
カフェイン
16~35 mg
中枢神経興奮、眠気防止、強心、利尿、代謝促進
テアニン
6~20 mg
脳・神経機能調節、リラックス効果
フラボノール類
~6 mg
毛細血管抵抗性増強、抗酸化、抗癌、心疾患予防、
消臭
複合多糖類
~6 mg
血糖値上昇抑制
ビタミンC
3~5 mg
抗壊血病、抗酸化、抗がん、かぜ予防、白内障予防
免疫機能増強
γ-アミノ酪酸
(GABA)
1 mg
嫌気処理
1~2 mg
血圧上昇抑制効果、脳、神経機能調節
サポニン
2 mg
抗喘息、抗菌、血圧上昇抑制
ビタミンB2
12 mg%
口角炎、皮膚炎防止、脂質過酸化抑制
食物繊維
30~70 mg
抗がん(大腸がん)、血糖値上昇抑制
ミネラル類
10~15 mg%
亜鉛:味覚異常防止、免疫能低下抑制、皮膚炎防止
フッ素―虫歯予防;マンガン、銅、亜鉛、セレンー
抗酸化、カリウムーイオン平衡

村松敬一郎他編「茶の機能」、 p.13, 学会出版センター、2002.より

 (2) 日本茶の効用

日本茶を淹れたときに、茶葉から浸出される画分には、食物繊維(茶葉に含まれる量の30~40%)、タンパク質(茶葉に含まれる量の20~30%)、15~30 mg のβ-カロテン、クロロフィル、その他、表1にリストアップした保健機能のある成分が含まれていることが確かめられている。なお、茶の古葉には多量のアルミニウムやフッ素(いずれも1,000 ppm以上 )が蓄積していることが知られている。

 

6 変質しはじめた日本型食生活

1950年代中盤から1970年代前半まで、日本経済が年率10%前後の成長を遂げた時期は「高度経済成長期」と呼ばれた。朝鮮戦争(1950年~1953年)による特需を契機にして、日本経済が1955年頃には戦前の水準までに復興し、1968年にはGNPが世界の資本主義国中第2位にまで成長したのであった。この経済成長に伴って、国民のタンパク質摂取量、すなわち、肉類、鶏卵、牛乳・乳製品、魚介類の供給量、も急速に増加し、それに反比例するかのように、コメ・イモ類の消費量が1910年代の半分以下になった(表2)。

 

表2 タンパク質供給量の推移 (1人1日当たりg)

 

1911-1915

1960

2005

コメ
26.1
19.6
10.3
コムギ
3.3
7.1
9.6
イモ類
1.9
1.3
0.8
ダイズ
11.2
11.2
6.3
みそ
*
3.0
1.3
しょうゆ
*
2.6
1.5
野菜
2.0
3.9
3.3
果実
0.2
0.4
0.9
肉類
0.7
2.7
14.3
鶏卵
0.2
2.2
5.6
牛乳・乳製品
0.1
1.7
8.1
魚介類
1.8
14.6
18.2
その他
10.1
5.2
3.8
合計
57.6
75.5
84.0
内動物性
12.9
26.4
50.0
* 原料のダイズ等に含めた。

 

この高度経済成長期に至るまでの日本人の食生活、つまり日本型食生活は、動物性食品よりも植物性食品に依存することが多かった(図5)。コメなどの穀類、大豆などの豆類と、さまざまな新鮮野菜類、つまり植物性食品が、エネルギーとタンパク質、ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素の重要な供給源であった。動物性食品の国内生産量は国内需要をまかなうには十分でなかった。そのような時代や地域では、穀類と豆類が必要なタンパク質の主な供給源になっていたが、人々は慢性的な食料不足、栄養不足に悩まされることが少なくなかった。また、昭和時代の初期、これは谷崎潤一郎の小説『細雪』のはじめの方に出てくるプロットであるが、人々は「Bたらんねん」と、当時国民病とまでいわれていた脚気を怖れて、東京湾や大阪湾が米ぬか臭くなるほど、ビタミンB1 注射や製剤を多用した。

日本人の食生活の変化

図5 日本人の食生活は1950年代から急激に変化した

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0280.htmlよリ

 

食事で重視することを(1つだけ選択)を調べた結果によると(図6,NHK放送研究所『食生活に関する世論調査』2006年調査)、日本人全体では、「おいしいものを食べること」、「栄養がとれること」、「楽しく食べること」を重視するが、「空腹が満たされること」、「簡単に済ませること」は軽視されるのに対して、男性16~29歳は「空腹が満たされること」を重視し、60歳以上の女性が「栄養がとれること」と「楽しく食べること」を重視した。その他の年齢階層は、男女ともに「おいしく食べること」を重視した。これに対して、60歳以上の現代日本人は、孤食・欠食が多いためか、おそらく「みんなと一緒に、楽しく食べたい」、「栄養欠乏」が心配だと認識している。その他の年齢階層は、男女ともに「栄養欠乏を怖れる必要がない」との認識のもとで、グルメになったかのように「美味しく食べること」を重視している。

食事で重視すること

図6 現代日本人(16~29歳、30~59歳、60歳以上に区分)が食事で特に重視すること(1つだけ選択:単位%)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0322.htmlよリ

 

7 食生活指針の変遷

日本国民が、毎日食べる食品数を意識しはじめたのは、1985年5月、厚生省が「健康づくりのための食生活指針」のなかで、「1日30食品を目標に」と呼びかけて以来のことである。当時、弁当・総菜などの調理済み食品、加工食品、ファーストフードなどが広く出まわるようになり、飲食店などの外食産業も急成長した。その結果、国民の栄養素摂取源が多様化したが、必要な栄養素の量比が偏っている可能性のあることが危惧された。栄養成分をバランスよく摂るためには、偏食をさけて、できるだけ多種類の食品を組み合わせて食べることが肝要だとして、数値目標:1日30品目の食品摂取が、当時の「健康づくりのための食生活指針」のなかで提唱されたのであった:

 

健康づくりのための食生活指針 (1985年5月)

1. 多様な食品で栄養バランスを

  • 1日30食品を目標に
  • 主食、主菜、副棄をそろえて

2. 日常の生活活動に見合ったエネルギーを

  • 食べすぎに気をつけて、肥満を予防
  • よくからだを動かし、食事内容にゆとりを

3. 脂肪は量と質を考えて

  • 脂肪はとりすぎないように
  • 動物性の脂肪より植物性の油を多めに

4. 食塩をとりすぎないように

  • 食塩は一日10グラム以下を目標に
  • 調理の工夫で、むりなく減塩

5. こころのふれあう楽しい食生活を

  • 食卓を家族ふれあいの場に
  • 家庭の味、手づくりのこころを大切に。

 

ところが、筆者が実際に見聞したことであるが、この食生活指針が目標とした「1日30品目」を呼び込みに利用して、スーパーの店先では「30品目ふりかけ」が、デパート地下の惣菜売り場でも「15品目サラダ」が、短期間であったが、販売されていたことがあった。

2000年3月、厚生省(現厚生労働省)は農林水産省、文部省(現文部科学省)と連携を図って、新しい食生活指針を策定・公表したが、その食生活指針では、「主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」とあるだけで、「1日30品目」の表現は削除された。厚生省の担当者は、「30の数字を絶対視して食べ過ぎてしまうことがありかねないので、誤解を避けるために、数値表示をしなかった」のだという。

なお、以上の食生活指針は成長期~青年期~壮年期の日本人を対象としたものであるが、1990(平成2)年11月20日、 農林水産省は、策定した7項目の「新たな食文化の形成に向けて-'90年代の食卓への提案-」の中で、ライフステージ別に心がけたいこととして以下の提案を行った:

幼児期には-多様な素材と多様な味に慣れさせ、豊かな食歴をつくりあげよう。
青少年期には-生活リズムにあった食生活を確立しよう。
壮年期には-ゆとりとうるおいのある食卓づくりに心がけよう。
高齢期には-食を通じて、世代を超えたコミュニケーションの輪を広げよう。

ここで、初めて、幼児期に対する指針(成長期の偏食を予防することを目的として)が提唱された。これ以後、幼児期に対する指針は改訂されていない。少子化の傾向が益々著しくなるなかで、育児経験の浅い母親が、育児上の助言と支援や、より具体的な指針を必要としていることに、関係機関は対応する必要があるだろう。

1998年までに策定された食生活指針については、『坂本元子、木村修一、五十嵐脩編「世界の食事指針の動向」、建帛社、1998』が詳しい。

 

8 食生活スタイルを環境保全型に再構築を

振り返ってみると、19世紀までの人類は飢餓に悩まされ続けてきた。食べ物が欠乏すると、ヒトは非常、非道になり、諸々のタブーなどの約束事などは、飢えを癒す上で、いかほどの障りにもならなかった。

食べ物に多少のゆとりができたのは20世紀になってからのことである。現在の日本人は、進歩した食品保蔵・輸送・加工技術と、地球規模にまで広げた食料確保の体制を利用して、有史以来、最も豊かな食生活を享受している。しかし、これからの日本人の食生活が、現在の豊かさの延長線上にあるとは考えられない。私達は、質と量の両方に関わる、重大にしてかつ緊急な食料問題を抱えているからである。

まず、私達が超雑食性になってしまったことである。これは、スーパー・コンビニ症候群と呼称すべきかも知れないが、個人の嗜好と食欲が押し枉げられた偏食と飽食のせいで、がん、心臓病、糖尿病、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などの生活習慣病が蔓延している。各種の調査結果を見ると、家庭内の食行動、食生活スタイルも正常ではなくなってきた。過半の若年層が、朝食を孤食もしくは外食し、あるいは欠食し、夕食を家庭で食べない。1日3食食べない食生活=“崩食”している人や、健康への影響や栄養効果を考慮しない、成り行きまかせの食生活=“放食”している割合も増加の一途をたどっている。

伝統社会や途上国社会では、現在でも慢性的な食料不足に悩んでおり、さらに地球全体の人口増加と畜産物の消費が増えたために、世界の穀物需要が逼迫している。世界人口時計(http://arkot.com/jinkou/)によると、地球上の人口は2006年2月25日に65億人を超え(2010年2月4日正午現在で68億4577万人、毎日22万人増加)、2050年までに100億人を超えると予測されている。はたして地球は100億人を、心身ともに健全な状態に養うことができるだろうか?

中国、インドでは、現段階ですでに穀物の消費量が生産量を上回っている。中国は1995年以来の食肉消費の増大によって、穀物在庫を大規模に取り崩している。年に80億ブッシェル(約2億3000万t)の穀物が家畜飼料に転換され、このまま進むと2010年9月には世界の穀物在庫が空っぽになる可能性がある、と危惧されている:http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/foodsecurity/news/08050201.htm。その一方で、米国では、トウモロコシを主な原料にする代替燃料エタノールの生産が急増し、豊作なのに、2008~2009年のトウモロコシ価格が2005年の2倍近くに跳ね上がり、その余波は他の穀物、例えばコメ、の価格上昇を導いている。

我が国が抱えている食料問題も深刻である。食料の供給と消費を1日1人当たりのエネルギーで比較してみると、供給量はほぼ2,600 kcal前後と変わりなく推移してきたが、70年代にはほぼ2,200 kcalであった摂取量が、2008年には1,883 kcal (20歳以上)に低下した。供給量と摂取量の差が廃棄された食料の量に等しいとすると、70年代には消費エネルギーの18%相当量が廃棄されたのであったが、2008年には廃棄されるエネルギーは30%近くまでになった。供給エネルギーと消費エネルギーの差は年々拡大しているのである。平成18年度における、日本の飼料用を含む穀物自給率は27%で、カロリーベースの自給率は連続横ばいの40%であった。これでは「世界中から穀物をかき集めて、まさに飽食し、食べ散らかしている」と言われても抗弁することができない。

今日の社会経済システムの中では、個人の食生活スタイルを再構築しても、その直接的な影響はごく些細なものに過ぎないかも知れない。しかし、些細と見える変化も、家庭から始まって、食料問題、環境問題などに影響を及ぼし、社会経済システム転換の引き金になる可能性を潜ませていることを見逃してはならないだろう。

以上は筆者の-巻頭言『食生活スタイルを環境保全型に再構築』、化学と生物、45 (11),739 (2007)-を、数値などを新しくしたがそれ以外はおおよそ原文のまま、再掲したものである。なお、平成21年度筑波大学生命環境学群生物資源学類が、推薦入学試験の小論文選択問題2問中1問に、これを元の文章のまま用いて、設問2題を与えて回答させた。

 

9 沖縄の長寿食と「26ショック」

沖縄県民は、長年、男女ともに長寿日本一だった。ところが、2002年12月に公表された2000年時点における都道府県別平均寿命表では、女性は全国で1位の86.1歳であったが、男性の平均寿命は77.64歳(全国平均77.71歳)で全国26位に転落した。2005年までの5年間でも寿命の伸び率は全国で最低であった。このことは、沖縄県民にとってショッキングなことで、俗に「26ショック」と呼ばれている。「26ショック」の原因は、「伝統的な長寿食の食生活から、『栄養バランスの崩れた都会型食生活に移行』した結果、多くの成人男子がメタボリック・シンドローム体型になったことにある」、と分析されている。肥満者が多くなった原因として、運動不足(車社会で余り歩かない)、過食、日本の都道府県中で最も高い脂肪摂取量、野菜の摂取不足、過剰な飲酒に加えて、慢性的な失業によるストレス、などが挙げられている。しかし、沖縄県の人口10万人あたりの長寿率、百寿率(人口10万人当たりの100歳以上の高齢者数)は依然として全国都道府県中で首位を占めていることからか、男性の平均寿命が全国で26位に転落した「26ショック」を、当の沖縄男性はさほど深刻に受け止めていないように見受けられる。なお、尚弘子琉球大学名誉教授が「26ショック」に関するブログを公開している:http://longstory.blog.so-net.ne.jp/2009-02-10。

沖縄食の特徴は「素材」×「調理法」×「摂取法」にあるといわれる。その素材は、ゴーヤ、モズク、パパイヤ、フーチバー、グアバ、島豆腐(木綿豆腐)、根菜類、昆布、黒糖、豚肉(よく食べるようになったのは戦後のことであるが)などが特徴的である。強い紫外線と亜熱帯性気候のもとで育った野菜類には抗酸化性物質やミネラルの蓄積量が多くなる傾向がある。飲料水には、琉球石灰岩から湧出した、硬度~200程度(那覇市水道水)の、カルシウムやマグネシウムの豊富な水が用いられる。なお、本州水道水の硬度は10~100、京都市水道水42;伏見の御香水44である。

これらの素材を用いて、食材の旨みを損なわない低塩分の調理、長時間煮込んだ後分離してきた豚脂を取り除いた料理、 肉と野菜の同時摂取、などによって、コレステロール吸収や脂質過酸化の抑制が期待できる。沖縄県人の脂肪摂取量は全国都道府県中で最多量で、従って肥満率も高いが、心疾患、脳卒中、がんによる死亡率は最も低い。特徴のある食材(豆腐、豚肉、瓜類、野菜、昆布等);食塩量が少なく、タンパク質とミネラルのレベルが高い食事;温暖な亜熱帯気候とゆったりしたライフスタイル、などを持続することによって、早晩、「26ショック」は払拭されるものと期待したい。

 

10 倹約遺伝子を持たないものは長生きする?

日本人には「倹約遺伝形質」を獲得している人が多いようである。日本人とアメリカ白人について糖負荷試験を行って、空腹時血糖値とインスリン分泌量の間の関係を調べた研究によると、インスリン応答の最大値は日本人の方がアメリカ白人のほぼ半分と低い。また、インスリン応答が最大に達する空腹時血糖値も日本人は~100 mg/100 mlで、これもアメリカ白人よりも15%ほど低い。つまり、日本人には膵のβ細胞の機能が倹約型になっている人が多いということになる。

倹約型の遺伝形質の本体として、βアドレナリン受容体、脱共役タンパク質、アディポネクチン、PPARγ(ペルオキシソーム増殖因子応答性受容体)が主な候補として考えられている。これらの倹約型の遺伝子を持っていると(図7)、食糧が不足しがちな原始社会でも生き延びることができたが、食糧が十分供給される現代社会では、倹約遺伝子を持っていることが仇となって、肥満・過血糖・糖尿病になって、生き長らえることが次第に難しくなっている、と考えられる。私達は神から授け賜った倹約形質のせいで、生命を縮めているのかも知れない。

 倹約遺伝子

図7 次世代の高度文明化社会では倹約遺伝子を持たないものが生き延びる?

安本教傳 「血糖値が気になる人達を支援するために」、生活の科学、27,1-11 (2005)より

  

III 栄養学の進展

1 ニュートリゲノミクスによる栄養アドバイス

2000年6月26日、米国大統領ビル・クリントンと英国首相トニー・ブレアが、1990年から始まった世界規模のヒトゲノムプロジェクト-国際共同チームとセレーラ社による「ヒトDNA の塩基配列の解読」計画によるゲノム・ドラフト-が予定より大幅に短縮されて完了したことを宣言した。

この成果を基にして、まず米国で、ニュートリゲノミクス(食品および食品成分が遺伝子発現に及ぼす影響に関する研究;タンパク質・代謝産物を解析して、食品成分が身体に与える影響を明らかにする)による個人向けの遺伝子検査と栄養アドバイス提供サービスが始まった。日本でも、それぞれの個人の体質にあったオーダーメイド医療・オーダーメイド栄養アドバイスが始まっている。肥満に関わる遺伝子:β3アドレナリン受容体、脱共役タンパク質1、β2アドレナリン受容体、レプチン受容体の異常を検査する業務が、商業ベースで行われている。例えば、β3アドレナリン受容体(アドレナリンと反応して脂肪を分解する)は64番目のアミノ酸がトリプトファンからアルギニンに入れ替わると倹約型(日本人の約35%)になり、アドレナリンと反応せず、脂肪を分解しなくなるので、肥満(おなか周りが太い、リンゴ型)になりやすい。

なお、遺伝子検査の結果は、個人情報保護法などの適用対象として保護されるべきものである。その取り扱いに当たっては慎重を期すべきであり、早急に法制化をする必要がある。医学領域における遺伝子検査[感染症、遺伝病、造血器腫瘍(白血病など)、固形腫瘍(肺がん、乳がんなど)、遺伝子多型解析、など]の結果は、その取り扱い指針やガイドライン、個人情報保護法などの適用対象として保護されるべきものとされている。例えば、「がんになる可能性」を推測できる個人情報が、本人以外に漏れてはならないのは当然であるが、ニュートリゲノミクスによる遺伝子検査の結果もまた、当然、保護されるべき個人情報であることを、関係者は認識すべきである。

参考文献:

  • 大石正道「入門ビジュアルサイエンス ヒトゲノムのしくみ」、日本実業出版社、2001.
  • 香川靖雄、四童子好廣 編「ゲノムビタミン学-遺伝子対応栄養教育の基礎」、建帛社、2008.
  • 合田敏尚、岡崎光子 編「テーラーメード個人対応栄養学」、建帛社、2009.

 

2 おいしく、ゆっくり食べる(≡ガツガツと食べない)栄養効果

「早飯、早寝、早糞、芸のうち(あるいは、健康のもと)」という俚諺があるが、これとは反対に「早飯は、食べ過ぎになる結果、肥満、不健康につながる」、ということも、巷間、よく聞かれる。平均的な日本人(10代~50代以上)が朝食にかける時間は、ある調査によると(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0904月17日/news077.html)、平日は11.3分、休日では14.0分だったという。平日でも、せめて休日並みに、できれば20~30分以上の時間をかけて、楽しみながら、朝食をとるのが望ましい。このことを強く支持する幾つかの研究成果があるからだ。

ロイターヘルス (通信社)が、学術雑誌Journal of Clinical Endocrinology & Metabolismの2010年1月号に掲載予定であった論文を紹介している記事“To eat less, your body may want you to eat slowly(食事量を減らしたいなら、ゆっくり食べる必要があるだろう)”によると(http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/news/fullstory_91653.html)、「ゆっくり食べなさい」という母親の指示は、正しいのだという。食事を急いで掻き込むと、食欲の自然な調節機構がブロックされるので、「食べ過ぎて、太ってしまう」ことが、いくつかの研究ですでに明らかにされている。しかし、食欲をコントロールするには「ゆっくり食事するのが、良いのか、悪いのか」、ということについては明らかではなかった。

この問題を明らかにするために、ギリシャのアテネ医科大学と英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンのA.コッキノス医師らは、健康な男性17名を、2つの異なる条件下で、大量のアイスクリームを食べさせて調べた:大量のアイスクリームを、1群には2回に分けて5分間で食べてもらい、別の群には小分けにして30分間かけて、ゆっくり、食べてもらった。どちらのグループも満腹感や空腹感の感じ方に差は無かったが、ゆっくり食べた男性には、2種類のホルモン、 ペプチドYY (PPY) とグルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1) の血中レベルが、アイスクリームを食べ終わったほぼ3時間後にピークに達していた。PYYもGLP-1も消化管から分泌されるホルモンで、「満腹」シグナルを脳に伝え、食欲を減じてカロリー摂取をひかえさせる働きがある。

この研究で得られた知見は、「食事をゆっくり楽しむ」という昔からの食べ方の知恵を支持するものである。「食事をよく咀嚼して、食事を楽しむ時間を十分取れば、同じ食事でも早食い競争のようにして食べた場合よりも、摂取カロリーの利用率は少なくなる」ことを明らかにした研究報告は今までにもあったが(後述)、その理由は明らかにされていなかった。この研究から、「過食を止めるシグナルを脳に伝える消化管ホルモンの分泌量が、食物の摂取速度によって影響を受けている」ことが分かった。このことから、「食事をする速度と過食の関係を説明することができる」、とコッキノス医師は説明した。

この知見は、特に、ファーストフードなどを利用して、短時間内に食事を済まさねばならない人達にとって重要な示唆を与えるものと思われる。「食事に時間をかけて、ゆっくり食べることによって、食欲をコントロールすることができ、最終的には体重コントロールにも役立てることができる」、というこの研究の結論は、子供達に「食事をガツガツ食べると太ってしまうよ」と、注意する母親にとっても、有力な拠り所になるものと考えられる。

「ゆっくり、味わって食べたい」と思うのは、もちろん日本人も同じである。 先の図6に示した、NHK放送文化研究所が2006年に16歳以上の男女に対して行った「食生活に関する世論調査」でも、食事で重視することを5項目のうちから1つだけ選択させると、「おいしいものを食べること」38%、「栄養がとれること」21%、「楽しく食べること」20%、「空腹が満たされること」18%で、「簡単に済ませること」は僅かに3%であった(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0322.html)。この調査結果は、「おいしいものを、手早く簡単に済ませないで、『ゆっくり、楽しく、味わって食べる』と、トータルとしての摂食量も少なくて済む」ことを意味しているからである。大相撲の力士は、体重維持・増加の目的で、早飯(摂食量も多くなる)が強制されていると聞く。

英国のインデペンデント誌のウエブ版、2006年12月3日号に、“Women who eat slowly stay slim(ゆっくり食べるご婦人はスリムである)”を見出しにして、米国ロード・アイランド大学の研究者が1970年代から取り組んできた研究の成果を紹介している。ゆっくり食べる(一口食べるごとに、ナイフ・フォークを下ろしてひと休みする)と、1食当たり70 kcal、1日で210 kcal、食べる量が少なくなった、というのである。

日本の箸は、調理済みの食品からなる食事を「少しずつ、ゆっくり、味わって食べる」のに適した、又、食品衛生の観点からも(割り箸は日本独特のもの)好都合な道具である(食事を掻き込むには、食器を持ち上げない限り、スプーンにくらべて不便)。崩れやすい米飯食塊を、テキスチュア(歯応え)にほとんど影響させることなく取り上げ、茶碗から口腔まで搬送、摂食するのに適している。他方、スプーンやフォークは、食べる前の食塊の整形・細分化や、混和、調味にも利用されるが、液状や固形の食塊を、一匙分、一口分、あるいはひとかたまりの食塊として、口腔までの短距離を移動するのに好都合である。スプーンは、液状・不定形の食品ばかりでなく、米飯のような小粒の集塊、幼児食を「掻き込む」のにも重宝されている。なお、箸、スプーン、ナイフ・フォークの扱い方によって、食べ物の食味や消化の程度に心理的影響が及ぶことがあるとしても、食べ物自体の生理的効果・栄養効果が有意に影響されるとは考え難い。それよりも、食べ物やその食べ方に対する好悪の判断・感情が摂食速度(ゆっくりvs 速く)や消化速度におよぼす影響の方がはるかに大きいだろう。

 

3 なぜ日本食が栄養学的にも優れているのか

日本型食生活を支える食事、つまり日本食(和食)とは、日本人になじみの深い食材を用いて、伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事のことで、日本の風土の中で発達してきたものである。生食、素材の味を生かした薄口の味付け、そして繊細な盛り付けの3点が日本食の特徴とされる。日本食を中心とした伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事を摂ることによって、健康の維持増進に必要なエネルギーとバランスの取れた栄養成分を、ごく普通に補給することができる。ヒトの血圧は植物性タンパク質の摂取量と逆相関することが知られているので、植物性食材の多い日本食では、食塩を摂りすぎなければ、本来、高血圧になり難いのである。日本食は、かつて、中性脂肪(トリアシルグリセロール)を低減する食事療法に用いられたことがあった。その低カロリーで、獣脂のような飽和脂肪が少なく、コレステロール低減効果があること、などが知られていたからである。このような日本食の健全性は、「日本人男女の平均寿命が、長年、世界一である」という事実が証明していると、理解されている。

日本食の三大栄養素:たんぱく質(P)、脂肪(F)、炭水化物(C)の、適正な摂取バランスとして、厚生省(当時)が、「第六次改定日本人の栄養所要量」(平成12~16年度使用)において、摂取する総エネルギー量に対して、P:F:C=10~20%:20~25%:50~70%の割合で摂取することを推奨した(高齢者、乳幼児を除く)。食物繊維の摂取量も、「第六次改定日本人の栄養所要量」から望ましい栄養素(成人で10 g/1,000 kcal)として策定された。

なお、禅宗で獣・魚肉食を禁じて、植物性食品のみの禅的食事をする理由(少なくともその一つ)は、睡眠時間が短くなる(従って修行のための時間を長くとれる)からであって、単に肉欲を抑制するだけのためではないという(五木寛之「息の発見-対話者玄侑宗久」、p.205~212、2008年, 平凡社)。

 

4 米飯給食はさらに改善する必要があるのではないか?

文部科学省の米飯給食実施調査の結果(平成18年5月1日現在)によると(http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/kyusyoku/07022019/001.htm)、米飯給食実施率は99.7%(学校数31,386校)に達し、1週当たりの平均実施回数は2.9回にも及んでいる。しかしながら、小学校の教員や給食担当の管理栄養士、栄養教諭などからは、「日本食の健全性が世界中に認められているというが、回数が増えてきた米飯給食では残食が以前よりも、目に見えて多くなった」という悲鳴とも聞こえる意見が伝わってくる。小中学校の米飯給食は、質的にも改善する必要があるようだが、これは家庭食からの乖離が著しい(家庭での米飯食が少なくなった)からであろう。

 

5 人間の最大寿命とその延長戦術:摂取カロリーの制限

文語訳旧約聖書の創世紀第6章3節には、「我霊永く人と争はじ 其は彼も肉なればなり 然れど彼の日は百二十年なるべし」と、人間の最大寿命がおよそ120年であるという。公式記録上もっとも長生きしたのは、フランスのジャンヌ・ルイーズ・カルマン (122年164日)で、日本人としては泉重千代(120年185日)である。南方熊楠によると、鎌倉時代に書かれた「養生教」にも、「人生じて一百二十年 中寿は百年 下寿は八十年にしておわんぬ 然らざるはみな夭するのみ」とあるという(南方熊楠、「百二十年の寿命」、南方熊楠全集五、p.496、1972、平凡社)。ヒトの最大寿命は昔も今も変わっていないのである。なお、厚生労働省がまとめた平成20年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性79.29年,女性86.05年で、いずれも過去最長であった。

このように人間の最大寿命は、現在までのところ、およそ120年であると理解されている。人間以外の動物の最大寿命は成長期の5~7倍であることが判明している。例えば犬の成長期は2年、寿命は約10~14年;馬の成長期5年、寿命25~35年、つまり動物の成長期間の5~7倍がその動物の寿命に相当している。このことを、そのまま人間に当てはめると、成長期が20~25年であるとすると、人間の最大寿命は100~175年ということになる。人類は今なお夭折しているのかも知れない。

人間の最大寿命、現在のところ120~130年、をそれ以上に引き延ばすことが可能だろうか?イギリスとロシアの科学者の中には、「それは可能だ、人間は1000歳までも生きられるはずだ」と主張する研究者がいる。人間の通常細胞は、分裂増殖できる回数がほぼ50回止まりで、その後は分裂を停止して死滅する、つまり、年齢120~130歳で老衰死する。これに対してガン細胞は不老不死、際限なく分裂・増殖を繰り返すことができる。ガン細胞がなぜ不老不死であるのか、そのメカニズムが解明されれば、それを応用して人間の寿命を何百歳にも延長することも決して不可能ではない、と考えられる。人間が何百歳も生き延びることができる社会で、「ヒトは果たして、幸せな、ヒトとしての尊厳を保ちながら、充実した生活を送ることができるのだろうか?」と、この種の研究に対して疑問を投げかけざるを得ない。

アポトーシス(プログラムされた細胞死)のメカニズムが研究され、人の加齢や老化、従って寿命、は遺伝的にプログラムされている、と考えられたことがあった。成熟期間が完了すると、「加齢遺伝子」が人をして死に赴かせる、というのである。しかし、最近の研究によるとどうもそうではないらしい。加齢による変化は単なる疲弊にすぎず、死は正常な維持・修復のメカニズムが衰えた結果である、というのである。従って、維持・修復に関係する遺伝子を活性化して健康状態を改善することができれば、寿命を延長することができるはずだ、と考えられる。そのように考えると、維持・修復に関与する遺伝子は「加齢遺伝子」とは逆の機能を有する「長寿遺伝子」ということになる。

この「長寿遺伝子」発見のきっかけになったのは、ハーバード大学のD. A. シンクレアの単細胞の酵母を使った研究であった。酵母は出芽、つまり細胞分裂、によって増殖するが、その平均分裂回数はおよそ20回であり、そこまで分裂すると親細胞は分裂能力を失ってアポトーシス≡プログラムされた細胞死を引き起こす。ところが研究者たちは突然変異させた酵母の中に、寿命が30%延長したものを見つけだし、これが長生き遺伝子サーチュイン(Sirtuin)の発見に結びついた。D. A. シンクレアは、マサチューセッツ工科大学のL.ガランテとの共同研究で、この遺伝子のつくるタンパク質は補酵素、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)、の存在下に、細胞核の中でDNAに巻きついているヒストン・タンパク質を脱アセチル化して活性化し、その結果、細胞分裂の際にできる環状DNAの生成を防ぎ、細胞は若さを保ち続ける、ということを突き止めたのであった。

酵母の細胞分裂回数が増えたからといって、それがヒトの寿命延長に結びつくと即断することはできないので、当初はこの研究成果に関心を寄せる研究者は少なかった。しかしその後、酵母の寿命を延長する遺伝子SIR2によく似た遺伝子が、ヒトを含む哺乳動物にもあることが分かった。この遺伝子はヒトではSIRT1と呼ばれる(酵母の遺伝子SIRと区別するために、SIRにTが追加された)。また、カロリー制限(節食)がヒトの寿命延長に役立つことや、飽食を続けると早死にすることは、以前から良く知られていたことであるが、その機構がサーチュインの役割として説明することができるようになった。カロリー制限が細胞中のミトコンドリアの呼吸能を高め、このサーチュインの働きに必要なNADの生成を促すためであると考えられている。

カロリー制限、つまり食事制限、と並んで以前から、赤ワインの飲用が健康に好ましい影響をもたらすことが喧伝されてきた*。この赤ワインに含まれるポリフェノールの一種レスベラトロールは、サーチュインを活性化することが判明している。赤ワインのポリフェノールには多くの種類があり、いずれも大なり小なりこの作用を持つが、特にレスベラトロールは活性が高い、と言われている。ショウジョウバエにレスベラトロールを与えると、好きなだけ食べていても長生きした、と言う。この実験結果から類推すると、レスベラトロールのように人のサーチュインを活性化する物質が見つかれば、不老長生の妙薬になるだろう、と期待される。

フランス人はコレステロールを多量摂取しているにも関わらず、虚血性心疾患の発症が低く、平均寿命も長いのは、「赤ワインを飲むからである」とされ、このことはフレンチ・パラドックスと呼ばれた。

参考文献:D. A. シンクレア、L. ガランテ「長生き遺伝子」の秘密を探る、日経サイエンス 2006, 5月号、48-57; http://en.wikipedia.org/wiki/Resveratrol.


IV マイクロアレイ法によって日本食の健全性を明らかにしようとした研究例

1950年代以降の日本食が、欧米食に比べてより健康的であることについて、DNAマイクロアレイを用いて評価した研究結果が、2008年12月に公表された。これは、宮澤陽夫らの研究グループ(東北大学)が、実験用シロネズミ(SD系ラット)に日本食(1999年の国民栄養調査結果に準拠)あるいは米国食(1996年の米国栄養調査結果に準拠)を給与して、ネズミ肝の10,399個の遺伝子についてその発現レベルに及ぼす影響を、網羅的に解析したものである。この研究で得られた結論は、「日本食を給与したネズミは、米国食を給与したネズミに比べて、ストレス応答遺伝子の発現量が少なく、糖・脂質代謝系の遺伝子発現量が多かった。とくに、日本食ネズミでは摂取した脂質量が少なかったにもかかわらず、コレステロールの異化・排泄に関わる遺伝子の発現量が顕著に高く、肝へのコレステロール蓄積が低かった。」というものであった。著者らは、得られた実験結果が「日本食ラットは、米国食ラットに比べて代謝が活発に進行し、ストレス負荷が低い」ことを示しているとして、「日本食の健康有益性が推察される」と結論した。表3はその実験成績の要約にあたるもので、米国食と日本食の間で発現量に1.5倍以上の違いのあった遺伝子の数とそれらの機能をまとめたものである。

これらの結果から、宮澤らは、「日本食群ではストレス応答に関与する遺伝子の発現が低い、つまり日本食が動物に与えるストレスは、米国食よりも低い」、と結論した。また、日本食群ではコレステロールを胆汁酸に異化する速度を支配する酵素の発現量が有意に上昇していたことから、「コレステロールを胆汁酸として代謝・排泄する能力が高い」ことを示唆した。このことは、実験後に肝に蓄積したコレステロール量が、米国食投与群の方で有意に高かったことを観察したことからも、支持されると考えた。

しかしながら、これらのマイクロアレイ解析で1.5倍以上の差をもって、「有意差有り」と判定することに対して、「マイクロアレイ法には『再現性に問題がある』とから、大雑把に目星をつけるにはよいが、別の方法で再確認するのが妥当である」とする批判(http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com/blog/2006月05日/post_e0e4.html)のあることを付記しておきたい。食事組成が遺伝子発現に及ぼす影響についての研究は、まだ黎明期を脱していない。今後の研究の発展に期待したい。

 

表3 米国食群に対して日本食群の遺伝子発現量が1.5倍以上の差があった遺伝子の数

 

遺伝子の機能

 

遺伝子の数

発現比上昇

発現比低下

ストレス応答

0

7

エネルギー・糖質・脂質代謝

14

6

タンパク質代謝

6

11

イオンチャネル/輸送

14

25

シグナル伝達

16

31

細胞構造/成長/接着

10

17

都築ら、日本栄養・食糧学会誌 61(6) 255-264(2008)より

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