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特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律附則第二条第一項の特定外来生物被害防止基本方針

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平成十六年十年二十六日 農林水産省環境省告示第四号

特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成十六年法律第七十八号)附則第二条第一項の規定に基づき、特定外来生物被害防止基本方針を次のとおり定めたので、同条第二項の規定により公表する。

特定外来生物被害防止基本方針

第1 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する基本構想

1 背景

野生生物の分布は、地形や気候など様々な条件によって制限されている。こうした制約条件のもとに進化の過程が進行し、種が分化し、地域に固有の生物相が形成されてきた。地域に固有な様々な生物が相互に作用し合うことにより成り立っている生態系は、外部からの生物の導入にもろい面を有しており、特に島国で独特の生物相や生態系が形成されている我が国においては典型的である。近代になって、人間活動の発展に伴い人と物資の移動が活発化し、国外又は国内の他地域から、生物が本来有する移動能力を超えて、人為によって意図的・非意図的に導入される生物が増加している。

このような生物の中には、家畜、栽培植物、園芸植物、造園緑化植物、漁業対象種等様々な用途に利用され、長い時間をかけて生活や文化に浸透・共存してきたり、工業利用が行われてきた等、様々な積極的役割を果たしてきたものもある。一方、それまで存在しなかった生物がある地域に人為的に持ち込まれると、その生物に対する防御機能を有していない在来生物が捕食、駆逐されるなどにより、持ち込まれた地域の生物多様性が大きく変質してしまう場合がある。そのような例が、我が国を始め世界各地で報告されており、また、人への危険性を有するものや農林水産業に被害を及ぼすような事例も見られている。

ある地域に人為的に導入されることにより、その自然分布域(その生物が本来有する能力で移動できる範囲により定まる地域)を越えて存在することとなる生物は一般的に外来生物と呼ばれ、このような生物による生態系、人の生命・身体又は農林水産業への被害の問題は、一般的に「外来生物の問題」として認識されている。国際的にも生物多様性条約第8条(h)において、侵略的な外来生物への対応の必要性が位置付けられ、予防的な観点に立って、侵入の防止、早期発見・早期対応、防除(影響緩和)を図ることが重要であるとされている。

これらの外来生物の問題のうち、海外から我が国に人為によって意図的・非意図的に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物(以下、単に「外来生物」という。)による我が国の生態系、人の生命・身体又は農林水産業(以下「生態系等」という。)に係る被害を防止することを目的として、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(平成16年法律第78号。以下「本法」という。)が制定されている。

2 課題認識

外来生物の中には、在来生物(我が国にその本来の生息地又は生育地を有する生物をいう。以下同じ。)の捕食、採食や踏み付けによる自然植生への影響、在来生物との競合による在来生物の駆逐、土壌環境のかく乱、在来生物との交雑による遺伝的なかく乱等の生態系への被害や、かみつきや毒等による人の生命や身体への被害、農林水産物の食害等による農林水産業への被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものがあり、このような外来生物への対策が必要となっている。

外来生物による影響には不可逆的なものもあり、定着した外来生物が個体数を急激に増加させることなどによりその影響がさらに大きくなる可能性がある。このため、そのような外来生物については我が国へ不必要に導入されることがないよう生物多様性条約の考え方を踏まえて対応することが重要であり、飼養その他の取扱いに当たっても、野外に遺棄や逸出等をすることのないよう適切な管理が行われることが重要である。

また、このような外来生物による被害やそのおそれが新たに確認された場合には、緊急に当該外来生物の防除の措置を採ることが必要であり、すでにまん延して被害を及ぼしている外来生物については、計画的に防除を行うことが必要である。

3 被害防止の基本的な方針

生態系等に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物が問題を引き起こすのは、当該外来生物が意図的又は非意図的に野外へ放出等されることに起因している。このため、第一義的には野外への逸出を予防することが重要であり、生態系等に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物を特定外来生物として指定し、国内における適正な管理が確保された者以外にはその輸入や飼養、栽培、保管又は運搬(以下「飼養等」という。)を認めないものとする。

また、特定外来生物に該当するか否かの知見がなく、被害を及ぼすおそれがあるものである疑いのある外来生物については、未判定外来生物として指定し、おそれがあるか否かの判定を了するまで輸入制限を実施する。

特定外来生物に指定されていない外来生物についても、その状況把握に努め、被害又はそのおそれが確認できた場合には、既存制度での対応状況等を踏まえ、特定外来生物の選定について適切に検討する。

野外に逸出した特定外来生物については、分布が拡大する前に早期に防除することが被害を防止する上で効果が高い。特定外来生物を早期に発見し、早期に対処するため、監視等に努めることとする。

既に定着し被害を及ぼしている特定外来生物については、被害の程度と必要性に応じて生態系からの完全排除、封じ込め等の防除を計画的かつ順応的に実施する。防除の実施に際しては、地域の生態系に悪影響を及ぼすことのないよう配慮する。

外来生物の中には様々な用途で利用され、例えば国土保全等の役割を果たしてきたものもあり、特定外来生物として規制を検討する際に、その役割について考慮することが必要である。

特定外来生物による被害には、我が国への導入から被害発生までの間に様々な関係者が関わっており、その対策を効果的に実施するためには、広く国民の理解と協力が重要である。このため、外来生物の野外への遺棄や逸出等が生態系等への脅威となる可能性があることの認識を深め、特定外来生物の適切な取扱いが図られることとなるよう多様な関係者がそれぞれに具体的に何をなすべきかについての普及啓発を推進する。

さらに、今後の外来生物対策の基盤を作る上で不可欠である外来生物の分布や生態的特性等に係る基礎的な調査研究及び防除や監視等に係る技術開発を推進することが必要である。その際、外来生物に係る問題が国際的な野生生物の移動に起因していることを踏まえ、外国の政府機関や専門家等との情報交換を行い、外来生物に係る科学的な知見の収集に努める。

第2 特定外来生物の選定に関する基本的な事項

外来生物による生態系等に係る被害を適正かつ効果的に防止するため、外来生物を一様に規制の対象とするのではなく、特に被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物を適切に選定する必要がある。

特定外来生物の選定に当たっては、以下の各事項に照らして適当な外来生物について、原則として種(亜種又は変種がある種にあっては、その亜種又は変種とする。以下同じ。)を単位として行うものとし、必要に応じ、属、科等一定の生物分類群を単位とする。

1 選定の前提

ア 我が国において生物の種の同定の前提となる生物分類学が発展し、かつ、海外との物流が増加したのが明治時代以降であることを踏まえ、概ね明治元年以降に我が国に導入されたと考えるのが妥当な生物を特定外来生物の選定の対象とする。

イ 個体としての識別が容易な大きさ及び形態を有し、特別な機器を使用しなくとも種類の判別が可能な生物分類群を特定外来生物の選定の対象とし、菌類、細菌類、ウイルス等の微生物は当分の間対象としない。

ウ 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)や、植物防疫法(昭和25年法律第151号)など他法令上の措置により、本法と同等程度の輸入、飼養その他の規制がなされていると認められる外来生物については、特定外来生物の選定の対象としない。

2 被害の判定の考え方

(1) 被害の判定

特定外来生物については、以下のいずれかに該当する外来生物を選定する。

ア 生態系に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物として、[1]在来生物の捕食、[2]生息地若しくは生育地又は餌動植物等に係る在来生物との競合による在来生物の駆逐、[3]植生の破壊や変質等を介した生態系基盤の損壊、[4]交雑による遺伝的かく乱等により、在来生物の種の存続又は我が国の生態系に関し、重大な被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物を選定する。

イ 人の生命又は身体に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物として、危険の回避や対処の方法についての経験に乏しいため危険性が大きくなることが考えられる、人に重度の障害をもたらす危険がある毒を有する外来生物や、重傷を負わせる可能性のある外来生物を選定する。なお、他法令上の措置の状況を踏まえ、人の生命又は身体に係る被害には、感染症に係る被害は含まない。

ウ 農林水産業に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物として、単に我が国の農林水産物に対する食性があるというだけではなく、農林水産物の食害等により、農林水産業に重大な被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある外来生物を選定する。なお、他法令上の措置の状況を踏まえ、農林水産業に係る被害には、家畜の伝染性疾病などに係る被害は含まない。

(2) 被害の判定に活用する知見の考え方

被害の判定に際しては、次の知見を活用し、特定外来生物の選定を進める。

ア 生態系等に係る被害又はそのおそれに関する国内の科学的知見を活用する。なお、被害のおそれに関しては、現に被害が確認されていない場合であっても既存の知見により被害を及ぼす可能性が高いことが推測される場合には、その知見を活用するものとする。

イ 国外で現に生態系等に係る被害が確認されており、又は被害を及ぼすおそれがあるという科学的知見を活用する。ただし、国外の知見については、日本の気候、地形等の自然環境の状況や社会状況に照らし、国内で被害を生じるおそれがあると認められる場合に活用するものとする。

3 選定の際の考慮事項

特定外来生物の選定に当たっては、原則として生態系等に係る被害の防止を第一義に、外来生物の生態的特性や被害に係る現在の科学的知見の現状、適正な執行体制の確保、社会的に積極的な役割を果たしている外来生物に係る代替物の入手可能性など特定外来生物の指定に伴う社会的・経済的影響も考慮し、随時選定していくものとする。

なお、選定の結果については、可能な限りその判断の理由を明らかにするものとする。

4 特定外来生物の選定に係る意見の聴取

(1) 生物の性質に関する専門の学識経験者からの意見聴取

ア 生態学、農学、林学、水産学等生物の性質に関し専門性を有する学識経験者の意見を聴くこととする。

イ 学識経験者の選定は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫類、維管束植物等の生物の分類群に対応するよう留意する。

ウ 特定外来生物の選定に際しては、当該生物に最も深い知識を有する学識経験者に意見を聴くことができるよう、最も関係の深い分野の学識経験者をあらかじめ登録しておくなど、必要に応じて意見を聴くことができる体制を構築する。

エ 意見の聴取に際しては、学識経験者への個別ヒアリングや委員会形式での学識経験者間の意見交換など、外来生物の特性に柔軟に対応できる形式を検討する。

オ 学識経験者個人からの意見聴取だけでなく、必要に応じ、関連する学会から知見を収集するとともに、当該生物を利用する者等関係者の意見を聴取することを検討する。

カ 意見の聴取に際しては、透明性の確保の観点から適切な情報公開に努める。

(2) パブリック・コメント手続

学識経験者の意見を聴いて作成した特定外来生物の選定案については、「規制の設定又は改廃に関する意見提出手続」(平成11年3月閣議決定)に基づく意見提出手続(パブリック・コメント手続)を実施し、提出された意見及び情報を考慮した上で特定外来生物を指定する。

(3) WTO通報手続

特定外来生物の指定に当たっては、世界貿易機関(WTO)・衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)に整合するよう、WTO加盟国への通報手続を行い、特定外来生物の指定を的確に進める。

第3 特定外来生物の取扱いに関する基本的な事項

特定外来生物による被害の多くは、一部の者が不適切な管理のもと飼育等をした結果、遺棄や逸出等によって野外に放たれることに起因している。

このため、特定外来生物を飼養、栽培、保管又は運搬する行為や輸入、譲渡等は原則禁止とし、適切な飼養等を行うことができると認められる目的、施設、方法等の要件を満たしている者に限り主務大臣による許可をもってその国内での飼養等を認めることとする。

1 飼養等の許可の考え方

(1) 特定外来生物の飼養等をするに当たり、許可が不要な場合

特定外来生物の飼養等をするに当たり、許可が不要な場合としては、本法に基づく防除に伴う行為など許可を受けずとも特定外来生物の遺棄や逸出等の防止が図られている場合や、災害時において緊急に対処すべき場合、違法飼養個体の押収など公的機関がその職務を遂行するために必要な飼養等であって、許可手続を経る時間的余裕がなく、かつ、その取扱いが適正と認められる場合等に限る。

(2) 飼養等の目的

学術研究のほか、展示や教育、許可規制を行うことで遺棄や逸出等に対して十分な抑止力が働く生業などの場合に限り、飼養等の許可の対象とする。なお、これまで安易な飼養等により遺棄や逸出等がなされ、外来生物が野生化して生態系等に被害を及ぼしている例がある愛玩飼養等の目的については許可の対象としない。

(3) 特定飼養等施設の施設基準

特定外来生物の遺棄や逸出等を防止するために必要な施設の基準を定める際には、原則として、次の考え方によるものとする。

ア 特定外来生物の逸出を防ぐ構造及び強度とすること。

イ 人の生命・身体に危害を及ぼす外来生物については、第三者が容易に特定外来生物に接触できない構造及び強度とすること。

(4) 許可条件

飼養等の許可に当たっては、特定外来生物の遺棄や逸出等を起こさない適正な取扱いを確保するため、必要に応じ、許可の有効期間や、特定飼養等施設で取り扱うことのできる特定外来生物の数量の制限、譲渡し等に係る届出等について条件を付すものとする。

(5) 飼養等の方法

許可者に対し、次の方法に従った飼養等を義務付けるものとする。

ア 特定外来生物の飼養等の状況の確認及び特定飼養等施設の保守点検を定期的に行うこと。

イ 許可を受けていることを明らかにするため、マイクロチップ、タグ、脚環、標識、写真等生物に応じて技術的に可能な方法での識別措置を講ずること。

ウ 許可された特定外来生物の飼養等について繁殖が認められる場合にあっても、みだりに繁殖させることにより特定外来生物の適正な飼養等に支障が生じないよう、自己の管理する施設の収容力、当該生物の年齢、健康状態等を勘案し、計画的な繁殖を行うこと。また、その繁殖を制限させるための措置又は施設への譲渡し等については、当該生物の生理、生態等を勘案し、適切に講ずること。

(6) その他

特定外来生物が指定された時点以前から、愛玩目的等主務省令に規定されない目的で飼養等をしていた場合については、その指定前より飼養等をされていた特定外来生物の個体について、特定飼養等施設の施設基準に照らして適切であり、かつ繁殖を行わない場合に限り、飼養等の許可の対象とする。

国は、愛玩等の目的で飼養等されていた特定外来生物の遺棄や逸出等を起こさないため、関係機関の連携のもと、適正な飼養等が確保されるよう普及啓発等に努める。

2 個体の処分

特定外来生物をやむを得ず殺処分しなければならない場合には、できる限り苦痛を与えない適切な方法で行うものとする。

3 輸入の禁止

許可を受けていない者により特定外来生物を我が国へ導入させることがないようにするため、関係府省で連携し輸入の禁止の徹底に努める。

4 譲渡し等の禁止

譲渡し等の禁止の例外として主務省令で定める場合は、許可者同士が許可の範囲内で譲渡し等をする場合や、本法に基づく防除等により飼養等をすることとなった特定外来生物をその防除等の一環として適正に処理するため譲渡し等をする場合、災害時において緊急に対処すべき場合、また、公的機関に対する譲渡しや引渡しに該当する場合で飼養等の許可手続を経ることが事実上不可能なやむを得ない場合に限ることとする。

5 放つこと、植えること又はまくことの禁止

特定外来生物による被害を防止する上で最も重要なことは、特定外来生物の遺棄や逸出等を防ぐことであり、本法第9条の規定の実効性の確保には最大限配慮する必要がある。特定外来生物を取り扱っている者がその管理を放棄し、野外に放つ行為等は、生態系等に係る被害を及ぼす危険が高くなるため、例外なく禁止とする。

既に野外に存在することで飼養等又は譲渡し等に係らない特定外来生物を捕獲又は採取した直後に放つ等の行為は本法第9条の対象とはならないが、捕獲又は採取後の特定外来生物の飼養等や譲渡し等については、引き続き本法の規制が適用されることに留意する。

6 飼養等許可者に対する立入り等

本法の規制の実効性を確保するため、立入りの徹底などにより飼養その他の取扱いの状況に関する情報収集に努めるものとする。

第4 国等による特定外来生物の防除に関する基本的な事項

特定外来生物については、[1]指定時に既に野外等に存在する場合や、[2]指定後、野外へ遺棄や逸出等をされることにより、生態系等に被害を及ぼすおそれが生じる場合も考えられることから、必要に応じ、特定外来生物の防除(捕獲、採取又は殺処分、被害防止措置の実施等)を行うこととする。

その際、既に野外等に存在する場合には、計画的な防除の取組が必要であるとともに、新たに逸出等したものについては緊急の取組が必要であることに留意する。

防除が必要な場合には、都道府県からの意見を聴いて地域の状況を踏まえつつ、かつ、関係者と連携を図りながら、国が防除の公示を行い、その上で科学的知見に基づき適切に防除を実施する。

なお、防除の実施に当たっては、防除に係る費用及び人員を有効に活用するため、費用対効果や実現可能性の観点からの優先順位を考慮し、効率的かつ効果的に防除を推進する。

1 防除の公示に関する事項

(1) 防除の主体と公示の方法

国は、制度上その保全を図ることとされている地域など、全国的な観点から防除を進める優先度の高い地域から、防除を進める。

地域の生態系等に生ずる被害を防止する観点から地域の事情に精通している地方公共団体や民間団体等が行う防除も重要であり、これらの者により防除の公示内容に沿って防除が積極的に進められることが期待される。

実際には、国、地方公共団体、民間団体等が防除を行うべき地域が相互に関わり合っている場合が多く、このような場合には、各主体の役割に応じて適切な防除がなされることにより、全体として効果的な防除が推進されるものである。

防除の公示は、防除の対象となる特定外来生物ごとに関係都道府県の意見を聴いて行うものとし、防除の公示は国民に広く知らせることができるよう、官報に掲載して行うほか、掲示板への掲示やインターネット等の手段も活用して迅速に行うものとする。

(2) 防除を行う区域及び期間

防除区域は、現に特定外来生物による被害が確認されている地域又は特定外来生物による被害が今後生じるおそれがある地域を設定する。ただし、全国的に広くまん延している場合など、必ずしも区域が特定できない場合には全国や広範な地域を対象に防除の区域を定めることとする。

防除期間としては、当該区域において被害の発生を防止するために必要な期間を定めるものとする。

なお、被害を受けている地域が広がるおそれが生じたり、防除が長期間にわたる可能性が高い場合には、適宜防除の効果を評価し、必要に応じ区域の変更や期間の延長等を行うものとする。

(3) 防除の内容

防除の公示では、次の内容を定めるものとする。

ア 防除の目標

防除の対象となる特定外来生物の生態的特性と、予想される被害の状況を勘案し、区域からの完全排除、影響の封じ込め、影響の低減等の目標を設定する。

イ 防除の方法

防除の目標に照らし、捕獲、採取、殺処分、防護柵の設置等の方法を明らかにするとともに、捕獲等した個体の取扱いの方法についても明らかにする。

ウ その他の主務省令で定める事項

鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下「鳥獣保護法」という。)の対象となる特定外来生物の防除を行う場合には、在来鳥獣の錯誤捕獲を避けることとするなど、適正な防除を進めるに当たり必要な事項を主務省令に定めるものとする。

2 防除の実施に関する事項

特定外来生物の防除の実施に際しては、被害の状況に応じて最適な防除の方法を採用することが重要である。人の生命・身体に被害を及ぼす特定外来生物が野外で発見された場合や希少な野生生物が多く生息・生育する地域に捕食性や繁殖力が強い特定外来生物が発見された場合などには、緊急的に防除を実施することが必要である。一方、既に広範囲にまん延して生態系等に被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある場合には、優先的に防除を進めるべき地域や手法を考慮し計画的に防除を進めることが必要である。

(1) 緊急的な防除の実施

人の生命・身体に被害を及ぼす特定外来生物が野外で発見された場合や希少な野生生物が多く生息・生育する地域に捕食性の高い特定外来生物が発見された場合などには、緊急的に防除を実施することが必要である。このため、国は関係行政機関や関係地方公共団体と連絡調整の上、速やかに防除の公示を行い、連携を図りつつ防除を実施する。

緊急的な防除を必要とする原因となった行為をした者が存在するときは、防除に要した費用について、当該原因者に求償することを原則とする。

(2) 計画的な防除の実施

特定外来生物が、既に広範囲にまん延して生態系等に被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがある場合には、国、地方公共団体、民間団体及び土地の所有者・管理者等の関係者が連携して計画的に防除を進めることが必要であり、その際には、防除の目標、区域、期間、方法、実施体制等を防除の主体ごと、地域ごとに具体的に定めた防除実施計画を策定し、防除開始後もモニタリングを行い、その結果を防除実施計画の見直しに反映するなど柔軟な防除の実施に努めることが必要である。

また、適切な情報公開の下に合意形成を図りつつ、科学的知見に基づいた適正な目標を設定し、防除を円滑に行うため、可能な限り次の手順で防除実施計画を作成し実行するものとする。

ア 協議及び検討の場の設置

科学的知見及び地域に根ざした情報に基づき、合意形成を図りながら防除を実施するため、学識経験者、関係行政機関、自然保護団体、地域住民のほか、必要に応じて農林水産業団体や狩猟者団体等からなる協議のための場を設け、防除実施計画の作成、実施方法についての検討、防除活動の評価等を行えるようにする。この場合、必要に応じて生物学等の専門的な観点から防除実施計画の実施可能性及び実施状況を分析・評価するための検討の場を、別途設ける。

イ 関係行政機関等との連携

特定外来生物が、森林、農地、河川、海岸等様々な生態系に分布する場合や、行政界を越えて分布する場合があることを踏まえ、国の関係行政機関や関係地方公共団体と十分調整し、必要に応じて連携を図るものとする。その際、特に、森林、河川、海岸等で関連する計画が既に策定されている場合は、当該計画との整合性を図る必要がある。

ウ 土地所有者等との調整

防除を行う地域の土地や水面の所有者等に対しては、必要に応じ防除の内容を説明し、可能な限り理解を得るものとする。

エ モニタリングの実施

特定外来生物の存在状況や特定外来生物による被害の状況等についてモニタリングし、防除実施計画の進捗状況を点検するとともに、その結果を防除の実施に反映させるものとする。

オ 実施体制の整備

防除を適切かつ効果的に進めるため、地域の関係者が一体となった防除の実施体制を整備するとともに、必要に応じて地域の大学、研究機関及び専門家との連携に努める。

また、防除を実施していく上で、地域住民の理解や協力が不可欠であることから、特定外来生物の被害に関する情報や被害予防についての方策などの普及啓発を促進するものとする。

(3) 防除の実施に当たっての留意事項

ア 防除の実施に当たっては、設置した猟具を適切に管理できる体制の確保など錯誤捕獲や事故の発生防止に万全の対策を講じるものとし、また、事前に関係地域住民等への周知を図るとともに、本法に基づく防除を実施していることを証する書類の携帯をするものとする。

イ 防除に使用する捕獲猟具(銃器を除く。)には、猟具ごとに、実施者の住所、氏名、電話番号等の連絡先を記載した標識の装着等を行うものとする。ただし、猟具の大きさ等の理由で用具ごとに標識を装着できない場合にあっては、猟具を設置した場所周辺に立て札等の方法で標識を設置する方法によることもできるものとする。

ウ 捕獲個体等は防除実施主体の責任のもと、適切に処分することとし、個人的な持ち帰りや、野外への放置のないようにするものとする。

エ 捕獲個体をやむを得ず殺処分しなければならない場合には、できる限り苦痛を与えない適切な方法で行うものとする。

オ 既に国土保全等において大きな役割を果たしている特定外来生物については、当該特定外来生物の果たしている役割を考慮し、防除の実施に際して関係者と十分調整を図るものとする。

カ 防除の対象とする特定外来生物が鳥獣の場合には、次の事項に留意するものとする。

[1] 防除の対象となる生物以外の野生鳥獣の繁殖に支障がある期間、区域は避けるよう配慮するものとする。

[2] 狩猟期間中及びその前後における捕獲に当たっては、登録狩猟又は狩猟期間の延長と誤認されることのないよう適切に実施すること。

[3] 空気銃を使用した捕獲等は、対象を負傷させた状態で取り逃がす危険性があるため、中・小型鳥類に限って使用するものとする。

[4] わなを設置する際に防除の対象生物の嗜好する餌を用いて捕獲を行う場合は、他の鳥獣を誘引し、結果として当該鳥獣による被害の発生の遠因を生じさせることのないよう適切に行うこと。

キ その他、防除の実施に当たっては、関係法令を遵守するものとする。

(4) 防除の確認・認定

ア 防除を行う主体は、原則として、下記の要件を満たす者とする。

[1] 緊急的に対応する防除を除き、原則として防除の公示に沿う防除実施計画を策定し、当該防除実施計画を実行する財政的、人員的能力を有していること。

[2] 被害の発生地域の地理及び特定外来生物の存在の状況を把握している者が含まれていること。

[3] 特定外来生物が鳥獣の場合には、原則として使用する猟具に応じた鳥獣保護法の狩猟免許を有する者が行うこと。なお、従事者が適切な捕獲と安全に関する知識及び技術を有している団体による防除については、免許非所持者を含めることができる。

[4] 従事者に対し防除の内容を具体的に指示するとともに、従事者の台帳を整備することができること。

イ 防除の実施の際には、確認又は認定を受けていることを証明する書類を携帯するとともに、原則として、捕獲等を行う区域における安全の確保や静穏の保持を行うとともに、地域の生態系へ支障がないよう配慮するものとする。

ウ 防除の対象とする特定外来生物が鳥獣の場合には、下記の要件を満たすものとする。

[1] 鳥獣保護法第12条第1項又は第2項で禁止されている方法は使用しないこと。

[2] 鳥獣保護法第15条第1項に基づき指定された指定猟法禁止区域内では、同区域内において使用を禁止された猟法は使用しないこと。

[3] 鳥獣保護法第35条第1項で銃猟禁止区域として指定されている区域においては、銃器による防除は行わないこと。

[4] 鳥獣保護法第36条に基づき危険猟法として規定される手段による防除は行わないこと。

[5] 銃器による防除を行う場合は、鳥獣保護法第38条において禁止されている行為を行わないこと。

エ その他、防除の実施に当たっては、関係法令を遵守するものとする。

3 その他

特定外来生物による被害を効果的に防止するという観点から、上記1及び2による本法に基づく防除のみならず、国以外の者が独自に行う取組についても重要である。また、国は、国以外の者が行う取組を促進するため、効果的な防除手法の紹介、防除技術の開発、防除体制の整備等に努めるものとする。

第5 その他特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する重要事項

1 未判定外来生物

(1) 選定の前提

ア 原則として、我が国に導入された記録のない生物又は過去に導入されたが野外で定着しておらず、現在は輸入されていない外来生物を未判定外来生物の選定の対象とする。

イ 個体としての識別が容易な大きさ及び形態を有し、特別な機器を使用しなくとも種の同定が可能な生物分類群を未判定外来生物の選定の対象とし、菌類、細菌類、ウイルス等の微生物は当分の間対象としない。

ウ 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律や植物防疫法など他法令上の措置により、本法と同等程度の輸入、飼養その他の規制がなされていると認められる外来生物については、未判定外来生物の選定の対象としない。

(2) 選定対象となる外来生物

未判定外来生物については、特定外来生物のように被害事例の報告や被害を及ぼすおそれの指摘はなされていないものの、ある特定外来生物と似た生態的特性を有しており、その特定外来生物と生態系等に係る同様の被害を及ぼすおそれがあるものである疑いのある外来生物について、原則として当該特定外来生物が属する属の範囲内で、種を単位とし、必要に応じて属、科等一定の生物分類群を単位として選定する。

(3) 選定に係る意見の聴取

ア 生物の性質に関する専門の学識経験者からの意見聴取

特定外来生物の指定に関して、生物の性質に関する専門の学識経験者から意見を聴く際には、併せて未判定外来生物の指定に関する意見を聴くものとする。

イ パブリック・コメント手続

未判定外来生物の指定に際しても、特定外来生物の選定に係る場合に準じて、パブリック・コメント手続を実施し、提出された意見及び情報を考慮して未判定外来生物の選定を行うものとする。

ウ WTO通報手続

未判定外来生物の指定に当たっては、WTO・衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)に整合するよう、WTO加盟国への通報手続を行い、未判定外来生物の指定を的確に進めるものとする。

(4) 判定に係る届出事項の内容

未判定外来生物を輸入しようとする者又は未判定外来生物を本邦に輸出しようとする者に対しては、当該未判定外来生物の正式学名、原産国、生態的特性等に関する情報を主務大臣に届け出させるものとする。

当該未判定外来生物が生態系等に係る被害を及ぼすおそれがあるか否かの判定は主務大臣が行うものであり、当該おそれがあるか否かについて輸入しようとする者等に情報提供の義務は課さないが、自主的な情報の提供は受けることとする。

(5) 判定の手続

届出があった場合は、第2の2から4の考え方に沿って、予防的な観点を踏まえつつ、最新の科学的知見を用いて適正に判定することとする。その際、判定に支障がない範囲で判定期間を極力短くするよう努めるものとする。

(6) その他

届出の行われない未判定外来生物についても、国は科学的知見を充実させ、被害を及ぼすかどうかの判定を順次行うよう努めるものとする。

2 種類名証明書の添付を要しない生物

(1) 選定に係る考え方

特定外来生物又は未判定外来生物に該当しないことを外見から容易に判別することができる生物は、種類名証明書の添付を要しない。そのような生物としては、外来生物であるか在来生物であるかを問わず、原則として特定外来生物が属する属以外の生物を選定し、また、必要に応じ特定外来生物が属する属の中の生物からも選定する。この選定に当たっては、税関等での水際規制の実効性を高めるために、関税定率法に基づく関税率表等の区分の採用が合理的である場合は、当該区分の活用を図る。

特定外来生物、未判定外来生物及び証明書添付不要生物の選定は、同時に、かつ、相互調整しつつ行うこととする。

さらに、学識経験者の協力を得て、関係府省が連携し、外来生物の種類名同定のためのデータベースの構築、識別マニュアルの整備等を行うことにより、税関等における審査の円滑化を図るよう努める。

(2) 証明書の発行

種類名証明書の発行について、外国の政府機関の協力を得るよう努めるとともに、他の法令又は各種条約に基づき発行される既存の証明書類や、政府機関と同等の知見と公平さを有する組織が発行する証明書類を本法で認める証明書として活用し、輸入者の負担が過度に増加しないよう配慮するものとする。

また、外国において証明書を発行できない場合には、主務大臣の指定する国内の機関が種類名証明書を発行する体制を整備するよう努める。

3 科学的知見の充実

外来生物の対応施策を的確かつ効果的に推進するためには、何よりも生物の特性及び導入により影響を受ける生態系に関する科学的知見の充実が重要である。このため、関係府省、学識経験者、民間団体等と連携し、外来生物の存在、生息・生育状況、生態的特性に関する調査の実施や、外来生物による被害を評価する技術や防除手法の技術の開発など施策推進に必要な各分野の調査研究を推進する。また、地方公共団体や民間団体等が各地域で知見の集積や調査研究を進めることも重要であり、国はそのような取組を促進するよう努めるものとする。

調査研究に際しては、国内においてだけでなく、外来生物問題が国際的な野生生物の移動に起因することを踏まえ、外国政府機関、海外の専門家及び民間団体との情報交換を進め、科学的知見のより一層の充実に努めていくものとする。

外来生物対策には、早期発見、早期対応が重要であることから、平素から監視に努めるとともに、被害の発生を初期の段階で発見し、迅速に対応できるよう情報収集のための監視体制を専門家を含む地域の協力を得て構築していくことが重要である。

4 国民の理解の増進

外来生物対策を円滑に進めるためには、国民各層の理解と協力が不可欠である。このため、あらゆる機会を活用して国民に対し普及啓発を図るものとし、外来生物を取り扱う事業者等の各関係者に対しては、法律の仕組みや具体的に取るべき措置を明らかにしていくなどにより、より効果的な普及啓発を進める。

また、学校教育、社会教育その他の多様な場で行われる環境教育において、外来生物対策に係る基本的な理解を高めるための学習機会の提供などを行うとともに、博物館等の各種教育機関との連携を推進し、国民の理解の増進に努めるものとする。

5 その他

(1) 非意図的に導入される特定外来生物への対応の考え方

人体や物資に付着あるいは物資に混入するなどして持ち込まれる特定外来生物のうち、輸入、飼養等その他の取扱いの意思なくなされる導入については、本法の直接的な規制の対象とはならない。しかし、このような場合でも、生態系等への被害が生じるおそれがあれば防除等の対応が必要な場合がある。このため、特定外来生物の非意図的な導入についても、主務大臣は関係者と調整をして導入経路や存在状況の把握に努め、被害が生じ、又は生じるおそれがある場合は、必要に応じ防除等の措置を採る。

なお、バラスト水に含まれる生物の移動に関しては、本法で対象とするものではないが、海域において特定外来生物の存在が確認された場合には、本基本方針の考え方に基づき、必要に応じて防除等の措置を検討することとする。

(2) 動物の取扱いに係る考え方

特定外来生物に指定された動物について、輸入、飼養等その他の取扱いや、防除を行う際には、それが命あるものであることにかんがみ、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)の考え方に沿った適切な方法により個体の取扱いを行うよう留意する。

(3) 経過措置の考え方

特定外来生物が指定された際、既に当該特定外来生物を飼養等している者について、当該飼養等を継続するための諸手続に関し、必要に応じ経過措置を設けるものとする。

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