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農林水産省

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「多様性と共存」の時代に資する21世紀の貿易ルールの構築を目指して

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―WTO交渉に向けての日本の提案―
(農業、GMO、林産物・水産物)

はじめに

  • 21世紀は、多様な価値観を持つ国・地域・人々がお互いを認めつつ共存できる時代、すなわち「多様性と共存」の時代であるべきです。
  • 今回の農林水産分野についての交渉は、農林水産業と環境の関係、資源の持続的な利用、8億人を超える飢餓人口への対応など、「多様性と共存」の時代の実現に向けて、人類と国際社会がどのように貢献できるかが問われる交渉であります。
  • これまでの貿易交渉は、貿易の自由化・円滑化が至上命題とされ、すべての議論は、輸出国の輸出貿易をどのように円滑にするかという観点からなされてきました。したがって、現行のWTO協定も輸入国に多大の義務を課する一方で、輸出禁止等輸出国側の措置に対する規律は緩やかなものとなっています。
  • こうした路線が推し進められる場合、輸入国の農林水産業は縮小に次ぐ縮小を余儀なくされ、遂にはそれぞれの国にとって農林水産業が果たしている極めて重要な多面的・公益的機能――例えば、国土や自然環境の保全、健全な産業構造の基盤としての一次産業の確保、民族の存続に関わる食料の安定供給の確保、国家社会の基盤としての地域社会の維持など―が危うくされる可能性があります。
  • 私たちは、国家のありようとして、このような事態を看過することはできません。このような事態をもたらし環境問題や資源の持続的利用などに正当な配慮を払わない貿易至上主義へのアンチ・テーゼとして、私たちは、以下の提案を、この地球に共存するすべての人々に共に考えて頂きたいテーマとして訴え、共通の理解を持っていただくよう要請したいと考えます。

農業

「日本提案」の5つのポイント

  1. 農業の多面的機能の重要性
  2. 食料安全保障の重要性
  3. 輸出国と輸入国の公平性
  4. 途上国への特別な配慮
  5. GMO(遺伝子組換え体)等新たな課題への対応

1.農業の多面的機能の重要性 

主張のポイント

農業は、自然環境と調和した生産活動を通じて、国土や自然環境の保全、良好な景観の形成等人間の生活に欠くことのできない多様な役割、すなわち「多面的機能」を果たしています。
この「多面的機能」は、それぞれの国において持続的に農業を営むことにより発揮されるものであり、貿易で確保することはできません。

農業の多面的機能は国際的にも認められています。 

  • OECD農業大臣会合コミニュケ(1998年3月)
    「農業活動は、食料や繊維の供給という基本的機能を超えて、景観を形成し、国土保全や再生できる自然資源の持続可能な管理、生物多様性の保全といった環境便益を提供し、そして、多くの農村地域における社会経済的存続に貢献することもできる。」
  • 我が国が考える「農業の多面的機能」の性格
  1. 生産活動と一体となって発揮されるものであること。
  2. 通常営まれている農業生産活動により発揮されるものであること。
  3. 当該国の国民がその価値について共有の認識を持っていること。
  • 農業の多面的機能のイメージ

 

2.食料安全保障の重要性

主張のポイント

平和を維持することと食料を安定的に確保することは、どの国にとっても、国民に対する国の基本的な責務です。したがって、世界のどの国でも、最低限必要と考える食料を得る権利、食料安全保障の重要性が認められるべきです。
この場合、今後の国際的な食料需給のひっ迫の可能性や開発途上国の飢餓・栄養不足問題を考慮すれば、それぞれの国において、その国の国内生産が基本とされるべきです。

食料安全保障は世界的な課題です。

  • FAO世界食料サミットにおける整理(1996年11月)
    「食料安全保障は、すべての人がいかなる時にも彼らの活動的で健康的な生活のために必要な食生活のニーズと嗜好に合致した、十分で、安全で、栄養ある食料を物理的にも経済的にも入手可能であるときに達成される。」
    「生産力の高い地域及び低い地域において、家庭、国、地域及び地球レベルで十分かつ信頼できる食料供給にとって不可欠で、(中略)持続可能な食料、農業、漁業、林業及び農村開発政策と行動を追求する。」

我が国は世界最大の農産物輸入国であり、先進国に例を見ないほど低い自給率となっています。

  • 主要国の農産物の純輸入額(1995年)

    (単位:億ドル)

    日本ロシアEU(15ヶ国)ドイツイギリスイタリア
    394 111 103 182 97 90
  • 人口1億人以上の国の穀物自給率

    注:日本は1997年、EUは1992年、その他は1996年の数値。

    国名人口穀物自給率   国名人口穀物自給率
    中国 12.4億人 94% ロシア 1.5億人 93%
    インド 9.6億人 100% パキスタン 1.4億人 104%
    EU 3.7億人 126% 日本 1.3億人 28%
    米国 2.7億人 138% バングラディシュ 1.2億人 89%
    インドネシア 2億人 91% ナイジェリア 1.2億人 94%
    ブラジル 1.6億人 85%      

農業生産は、次のような特質から、その需給は不安定になりやすいものです。

  1. 土地条件や水利、気象といった自然条件の制約を強く受ける。
  2. 生産量が変動しやすい。
  3. 生産に一定の期間を要し、生産物の貯蔵性も乏しいことから、需給事情の変動に迅速に対応することが困難。

中長期的な世界の食料事情はひっ迫の可能性があります。

  • FAOによる食料需要の予測(2050年/1995年)
    資料:FAO「食料需要と人口増加」(1996年)

    単位:倍

     アフリカ中南米アジア北米途上国先進国全体
    人口の増加 3.14  1.80  1.69  1.31  1.95  1.02  1.76
    食生活の変化 1.64  1.07  1.38  1.00  1.40  1.00  1.28
    全体 5.14  1.92  2.34  1.31  2.74  1.02  2.25

世界の耕地面積が今後大幅に増加する可能性は低いといった観点からも、輸入国において可能な限り国内生産力を維持することは重要です。

  • 世界の耕地面積及び穀物収穫面積はほぼ横ばい
    耕地面積 12.7億ha(1961~63年)→ 13.6億ha(1994~95年)
    穀物収穫面積 6.5億ha(1961~63年)→ 7.0億ha(1994~95年)
    (FAO資料)
  • 過度の放牧、森林の過伐、塩類集積による砂漠化の進行
    この他、放牧地でも多くの面積が砂漠化している。(UNEP(国連環境計画)報告(1991年))
    合計 500万ha/年以上
    うち、かんがい農地
    天水農地
    100~130万ha/年
    350~400万ha/年

3.輸出国と輸入国間の公平性

主張のポイント

ウルグアイ・ラウンド農業合意により、輸入国には多くの義務が課せられ、国内需給の状況にかかわらず輸入数量を制限することは原則として認められていませんが、輸出国には輸出数量制限の規律が緩やかであること等、現行のWTO農業協定は公平性を欠いています。
こうした状況を見直し、輸出国と輸入国間の公平性を回復することは、世界のいずれの国にとっても公平で公正な貿易ルールを構築する上で不可欠です。

現行の農業協定の規律は、輸出国側に偏った内容となっています。

  • 輸入側と輸出側の規律に関する対比表
     輸入側輸出側
    関税削減率 輸入関税は農産物全体で平均36%(品目ごとに最低15%)削減を約束。 輸出税に係る削減義務なし。
    輸出入の数量制限 輸入数量制限等は原則として認められていない。 輸出禁止・規制は一定の条件のもと存続。
    アクセス機会の提供 輸入実績が国内消費量の5%以下の産品について最低限の輸入機会を設定。 義務なし
    輸出補助金   財政支出額で36%削減、対象数量で21%削減。
    ただし、毎年の削減率について柔軟性をもたせる。

輸出国による輸出禁止措置、輸出税は現在も存続しており、輸出国側の事情により発動されています。

  • 米国の輸出禁止・規制の仕組み
    根拠法発動理由輸出禁止事例
    1979年
    輸出管理法
    ・安全保障上の理由がある場合
    ・外交政策上の理由がある場合
    ・国内で供給不足の場合
    ・大豆及び大豆製品の輸出禁止(1973年)
    ・旧ソ連、ポーランドに対する小麦の輸出規制(1974年、75年)
    ・旧ソ連に対する穀物の部分的輸出禁止(1980年)
  • 輸出税の実施の事例
    国名品目実施期間背景
    インドネシア パーム油 1998年4月~ ・国内相場不安定
    ・国内における不足
    アルゼンチン 大豆 1995年1月~ ・国内の供給確保
    (製品である大豆油には輸出税は課されていない)
    牛皮 1992年5月~ 1999年12月 ・国内の供給確保

4.途上国への特別な配慮

主張のポイント

多様性と共存の時代である21世紀においては、それぞれの国の置かれた状況やニーズに配慮した対応が大切です。
特にWTO加盟国の大半を占める途上国については、輸出先進国とは異なる立場を理解していく必要があります。例えば、飢餓・栄養不足問題を抱える途上国の最優先の政策課題である食料安全保障問題の解決のため、途上国の国内の食料生産能力向上に向けた取組みへの支援は欠かすことができないものです。
この交渉では、途上国に対する支援を含め特別な配慮を払うことにより、先進国と途上国との間の公平性を図り、途上国がWTO体制に積極的に参加できるような貿易ルールを構築することが必要と考えます。

今回の交渉において途上国に配慮した対応を行うことは、WTO農業協定第20条にも明記されています。

  • 農業協定第20条(抄)
    「加盟国は、根本的改革をもたらすように助成及び保護を実質的かつ漸進的に削減するという長期目標が進行中の過程であることを認識し、次のことを考慮に入れて、実施期間の終了の1年前にその過程を継続するための交渉を開始することを合意する。

    (c)非貿易的関心事項、開発途上加盟国に対する特別のかつ異なる待遇、公正で市場指向型の農業貿易体制を確立するという目標その他前文に規定する目標及び関心事項 」

WTO加盟国の約4分の3は途上国が占めており、途上国の事情に十分配慮した貿易ルールを構築することは、WTO交渉全体を成功裡に導くために不可欠です。

  • WTO加盟国数
      134ヶ国
    そのうち、農業協定上途上国待遇となっている国数 約100ヶ国
    (1999年3月現在)

開発途上国を中心とした人口増加、栄養不足人口の状況は極めて深刻です。我が国は主要先進国のうち唯一の農産物純輸入国として、途上国と共通の課題を抱える食料輸入国の代表という認識を持って交渉に臨みます。

  • 開発途上国を中心とする人口増加
    1950年 1998年 2010年 2025年 2050年
    25億人 59億人 69億人 80億人 94億人
    (1996年国連人口推計)
  • 開発途上国においては依然として多数の栄養不足人口が存在

    栄養不足人口       8億3千万人(1994/96年)
    (FAO資料)

5.GMO等新たな課題への対応

主張のポイント

近年、遺伝子組換え体(GMO)を含む食品の安全性、環境問題等に対する消費者の関心が高まっており、これら新しい課題に適切に対応していくことが不可欠です。
例えば、遺伝子組換え食品の取扱いについては、その生産や輸出入、表示、権利保護等多くの課題が生じています。
このような市民社会の関心が高く、ウルグアイ・ラウンド交渉時には想定していなかったような課題については、現状分析、問題整理を多角的に検討するための場を設置し、幅広い視点から積極的に取り組んでいく必要があります。

遺伝子組換え作物の生産は、ウルグアイ・ラウンド合意後の96年以降急増。その栽培は、米国、アルゼンチン、カナダの3ヶ国に集中しています(全体の99%、うち米国が74%)。

  • 世界の遺伝子組換え作物の栽培面積の推移

    (単位:万ha)

     1996年1997年1998年
    面積 170 1,100 2,780
  • 米国、カナダにおける遺伝子組換え作物の栽培状況

    (カナダ)

    作物名作付け面積(万ha)全作付け面積に対する割合(%)
    ナタネ 1997 約96 約20%
    1998 約200 約38%

    (米国)

    作物名作付け面積(万ha)全作付け面積に対する割合(%)
    大 豆 1997 約320~400 約11~14%
    1998 約800 約27%
    トウモロコシ 1997 約240 約7%
    1998 約750~1,100 約23~34%

遺伝子組換え体の議論は、研究・開発から販売までの各段階に応じて関係する複数の協定を横断的に検討して行うことが必要です。

  • 遺伝子組換え体(GMO)と各種の協定



    注1:TRIPs協定とは「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」
    注2:SPS協定とは「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」
    注3:TBT協定とは「貿易の技術的障害に関する協定」

林産物・水産物

1.森林・水産資源の適切な管理

主張のポイント

森林・水産資源は、適切に管理しなければ枯渇する再生可能な有限天然資源であり、また地球的規模の環境問題にも影響するという他の非農産物とは違った特徴があります。
したがって、森林・水産資源を扱う貿易ルールも特別なものが求められます。例えば、森林の有する公益的機能を発揮させる森林経営が可能になるような貿易ルール、水産資源の持続的利用のための保存管理に貢献する貿易ルールなどです。環境問題や資源管理に配慮しない自由貿易により、乱伐や乱獲が助長されてはならないと考えます。また、輸出入国双方にとって公平・公正なものとなるよう適切に対処していく必要があります。

我が国は、世界の木材貿易量の約2割、世界の水産物貿易金額の約3割を輸入する世界最大の木材・水産物輸入国であり、地球的規模の環境問題や資源の持続的利用の観点から林産物・水産物の貿易に取り組む必要があると考えています。

森林資源は、世界的に減少・劣化が進行しており、生物種の多様性の減少、二酸化炭素の増加による温暖化等が急速に進んでいます。
1992年の地球サミット以降、このような地球的規模の環境問題への関心が高まり、国際的にも持続可能な森林経営が最重要課題の1つと位置づけられています。それぞれの国が林業・木材産業の健全な維持や発展を通じて森林の公益的機能を高めることができるような貿易ルールが求められています。

水産資源は、各国の沿海及び国際的な漁場での保存管理措置を講じなければその持続的利用を図ることができません。適切な資源管理措置が講じられないまま自由貿易に向かうと、資源状態を無視した乱獲や保存管理ルールに従わない貿易が行われる恐れがあります。

森林は、様々な公益的機能を有する天然資源であり、その機能は林業生産活動を含む適切な管理を通じて発揮されます。

  • 森林の公益的機能

 

世界の主要漁獲対象資源のうちの69%は、最大限またはそれ以上に利用されており、特にまぐろ等の貴重な魚種については、過剰漁獲が深刻な事態となっています。

資料:FAO 「The State of  World Fisheries and Aquaculture 1998」

2.WTO交渉における林・水産物の取扱い

主張のポイント

林産物・水産物に係る貿易ルールの検討は、地球規模の環境問題や資源の持続的利用、他の国際的な枠組みにおける検討・規律等も十分考慮した総合的な〉見地から行うことが不可欠です。
このため、その他の非農産物とは区別した検討グループを設立して検討すべきです。

森林・水産資源の持続的利用については、国際的に検討されたり、規律が設定されています。 

  • 1992年地球サミット
    世界の森林の持続可能な経営や、海洋生物資源の持続可能な利用・保存を目指す国際的な枠組みについて、国連の場において検討が行われました。
  • 大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)
    大西洋くろまぐろの資源保存措置に協力しない国からの輸入制限が決議されました。
  • 遡河性魚種の保存に関する国際条約(NPAFC)
    非加盟国の北洋さけ・ますの漁獲防止に協力する旨、条約に規定されています。

3.WTO交渉における漁業補助金の取扱い

主張のポイント

漁業に関する補助金は、資源の乱獲を助長するので廃止しなければならないという議論がありますが、適切な水産資源の保存管理と持続的利用を確保していくためには、漁業補助金だけでなく、資源の持続的利用を阻害するすべての要因を抜き出し、対策を検討すべきです。また、漁業補助金の多くは減船や資源の保護・育成など漁業資源の保存管理等に貢献しているものであることにも留意すべきです。
漁業補助金については、資源の持続的利用や漁業管理に深い知見を有するFAOにおける専門的検討作業を促進しつつ、WTOにおける取扱いを検討していくべきと考えます。

世界の森林面積は約35億ha。毎年、我が国森林面積の約半分に相当する1,100万haもの森林が減少しており、特に生物資源の宝庫である熱帯林を中心とした森林の減少・劣化が急速に進行しています。

  • 世界の森林面積の年間減少(1990~1995年の平均)
地域 年間増減面積(千ha)年間増減率(%)
熱帯地域温帯地域等合計
アフリカ △3,695 △53 △3,748 △0.7
アジア △3,055 △273 △3,328 △0.7
中南米 △5,692 △119 △5,811 △0.6
世界計 △12,593 1,324 △11,269 △0.3

資料:FAO「State of  The World's Forests 1997」(世界森林資源現況)

  • FAO林業関係閣僚会合  1999年

林業に関するローマ宣言
「持続可能な森林経営を支援するためには、総合的な土地利用や貿易と環境の相互補完的な関係を担保する政策が必要である。」

  • FAO漁業関係閣僚会合  1999年

漁業に関するローマ宣言
「水産物貿易に関しては、FAOの「責任ある漁業のための行動規範」の枠組みの下で、貿易と環境の観点に取り組むこと」

注:FAOの「責任ある漁業のための行動規範」11条2の2「水産物の国際貿易は、漁業の持続的開発及び水生生物資源の責任ある利用を害するべきではない。」

減船や種苗放流などに対する漁業補助金は、次のような重要な役割を果たしています。

・過剰漁獲能力の削減 ・資源管理の推進 ・資源の保護・育成

お問い合わせ先

大臣官房国際部国際経済課WTO等交渉チーム
ダイヤルイン:03-3502-8057
FAX:03-3591-6765