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農林水産省

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地球環境・人間生活に関わる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申の概要)

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総論

  1. 農業・森林の多面的機能論の背景と経緯
    • 人類は、これまで先進国を中心に、高度成長と国際化によってかつてない物的な豊かさを獲得した。しかしそれは他方で環境問題を生み、人間的な生を約束する真の豊かさとは何か、といった問題を提起した。
    • また農業に関しては、自然条件に恵まれた大農圏農業がEU諸国等の中農圏農業を脅かし、日本のような小農圏農業を大きな困難に陥れた。特に日本農業は、食料自給率(カロリー)40%という、世界的にもまれな状況となっている。また木材自給率は20%と低下している。同時に農山村は衰弱し、農地ならびに森林管理が滞っている。
  2. 市場の失敗としての多面的機能問題
    • こうした中でEU諸国は、貿易の拡大が環境保全及び地域社会の活力維持等、農業・森林を通じた公共財の提供機能を損なわないための政策を重視し、農林業生産・森林管理活動に付随するいわゆる多面的機能、すなわち国土・環境保全、安らぎ空間の提供、食料保障等々に着目し、農山村を活性化する方向を採ろうとしている。日本等の小農圏諸国も、この視点をより一層重視しつつある。
  3. 多面的機能と日本農山村の地域的特性
    • 日本は、高温多湿のアジア・モンスーン圏に属し、多くの村が水田稲作の適地として展開してきた。また日本は中央に高い山脈が走り、崩壊しやすい火山灰土に広く覆われ、河川は急流で、しかもしばしば大雨を伴う台風が襲来する。こうした条件の場所では、協同して適切な自然管理をするために、生産・生活・生態環境が有機的に一体化した地縁社会が形成された。同時に、下流域を意識した森林や里山管理、田畑や水の管理が心掛けられた。そこには、流域圏思想とでもいうべき考え方が存在したのである。
    • 戦後は一層の工業化・都市化によって、流域社会経済圏は衰弱し、一部の沿海社会経済圏が隆盛となった。しかし今日、沿海社会経済圏もまた問題を抱えるに至っており、両圏域をそれぞれに再生させ、その交流と結合が期待されている。そこに農林業・森林の多面的機能が、環境問題、人間的な生活のあり方も含めて、改めて浮上し注目される状況が生まれている。
  4. 地域視点から見た各国の多面的機能論
    • このような地域的視点から見たとき、多面的機能のありようと理解は、国や地域によって異なる。
    • アメリカ、カナダ、オーストラリアなど、平均200ヘクタールを超える恵まれた経営規模を持ち、移住・開発の当初から農業を輸出産業として育成した大農圏諸国では、多面的機能について「その概念はいまだ不明確で、保護主義思想の隠れ蓑となり、自由貿易を歪曲するものである」と主張している。しかし大農圏では、日本のような30~50戸の集落はなく、農家は1~1.5kmと離れ、点在している。また森も都市も遠く、多面的機能はあまり注目されない。
    • EU諸国は、天水依存による畑地農業が主で、平均経営規模30~40ヘクタール程度の中農圏である。日本より地縁性は弱いにしても、農村集落が点在し都市と結びついている。ドイツでは食料自給率70%以上が常識とされている。フランスなどは多面的機能の評価よりは、むしろその発現の基盤である農林業・森林を支える農山村地域の振興に、どれほどの支援が必要かとの視点が強い。
    • 国際関係においては、上記のような自然条件の差異、農業経営規模の差、中心となる作物などの違い、地域社会のあり方や都市との関係の差異などが、しばしば軽視される。その際には、各国農業の盛衰が、経済効率性という生産機能の側面、つまり内外価格差だけを直接的指標として決定づけられ、多面的機能の喪失をはじめ、他の様々な問題が生起する。
  5. 多面的機能の評価手法
    • 多面的機能の具体的評価について、現在、代替法、CVM=仮想状況評価法、ヘドニック法、トラベル・コスト法など、四つの主要な手法があり、その適用の対象と範囲がある。農業・森林の果たす洪水防止、土砂崩壊防止、河川流況安定化などの機能については、数量的評価は可能であり、ダムなど代替財の機能に換算する貨幣的評価もできないわけではない。しかし特に社会的・文化的機能については、主観的、地域的あるいは歴史的要素が入り込み、定量的評価には大きな限界がある。このような認識の下で一定の定量的評価を行った(三菱総合研究所において、特別委員会及び両ワーキング・グループの討議内容を踏まえた定量的評価を行った。そこでは従来の方法を、少しでも現実妥当性を高める方向で改善し、貨幣評価を行った。)。
  6. 貿易・環境問題と農業・森林
    • むろん近代的な農林業生産活動は、環境を汚染・破壊している面のあることは否定できない。しかしそれは、国によって多少の差はあれ、人類の直面する共通の問題である。環境破壊の側面があるからといって、多くを輸入に依存し、他国の森林伐採に頼れば、食料保障の基盤を失い、物質循環とりわけ窒素・リンの循環を撹乱し、多面的機能を失い、他方で輸出国の環境破壊を促進する。
    • 効率的な農林業生産、持続的農業と森林管理のための技術の開発、循環型社会の構築、人間的生の場の形成等は、それぞれの地域において、調和的・統合的に実現していくことが重要である。そうした地域や国の連鎖の上に、地球環境の保全と人類の安寧も展望されよう。これらと絡んだ農業・森林の多面的機能の問題を考えたとき、世界農林業・森林の適正な配置の構想と、新たな貿易政策の確立が望まれる。またその際、私たちの深い洞察力と相互理解が必要であり、新たな自然観の形成、環境倫理、食の倫理なども求められることとなろう。
    • 科学もまた新たな領域に踏み込み、貢献する必要がある。 

各論

  1. 農業の多面的機能の評価
    • 機能評価には、定性的な方法と定量的な(数量による)評価があるが、いずれも機能が発揮されるメカニズムに基づいてなされる必要がある。
    • 今回分類に基づく多面的機能にあっては、「農業が物質循環系を形成している」ことにより発現する機能に関しては、その多くが物理的あるいは化学的なメカニズムの解明が可能で、したがって定性的にはもとより、定量的な評価も進んでいる。
    • しかしながら、「農業が二次的な自然を形成・維持している」場合のように、生物多様性や土地空間の保全にかかわる機能に関しては、いまだその発現メカニズムにも諸説あり、定量的な評価法が定まらない機能が多い。
    • さらに、地域社会の生活あるいは文化などとの関係においては、関与の動態は認知されるものの、そのメカニズムの説明や数量的評価は、直接的にはきわめて困難となる。
    • 今後、農業・農村政策の立案、それも国際的な合意を必要とするような場面にあっては、経済評価法が確立されなければならないものと考えられ、その精緻化が喫緊の課題である。
  2. 森林の多面的な機能の評価の新しい視点
    • 森林の多面的な機能の価値は原理的に定量評価し得ないものを含む。定量評価可能な機能についても多くの留意点が挙げられる。それらを理解した上で定量評価を行うべきである。
    • 現状では貨幣評価を行い得る機能とそうでない機能を峻別して価値の意味づけを深化させていく必要があろう。したがって、定量的評価、特に貨幣評価を行う場合は、森林の多面的な機能の本質を十分理解し、評価に関する諸々の事情や評価法に関わる諸特性をも十分理解した上で、評価の際の仮定と基準を明示して行うことになるであろう。
    • 一方、現在の物理的定量評価などの現状を見ると、評価の精緻化が必要である。その場合、[1]地域の細分化により評価結果の向上を図る(データの整備が先決)、[2]機能発揮メカニズムの解明促進により評価結果の向上を図る、[3]評価法の開発・改良により評価結果の向上を図る、[4]複数の評価法を適用する、等が考えられる。

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お問い合わせ先

農業・農村の多面的機能については
農村振興局農村政策部地域振興課日本型直接支払室
担当者:多面的機能班
代表:03-3502-8111(内線5608)
FAX:03-6744-8543

森林の多面的機能については
林野庁森林整備部計画課
担当者:企画係
代表:03-3502-8111(内線6143)
FAX:03-3593-9565