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農薬の基礎知識  詳細

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1.農薬とは

(1)農薬とは

農薬取締法では、「農薬」とは、「農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」という。)を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる植物成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。」とされ、また農作物等の病害虫を防除するための「天敵」も農薬とみなす、とされています。

ア  殺虫剤 農作物を加害する害虫を防除する薬剤
イ  殺菌剤 農作物を加害する病気を防除する薬剤
ウ  殺虫殺菌剤 農作物の害虫、病気を同時に防除する薬剤
エ  除草剤 雑草を防除する薬剤
オ  殺そ剤 農作物を加害するノネズミなどを防除する薬剤
カ  植物成長調整剤 農作物の生育を促進したり、抑制する薬剤
キ  誘引剤 主として害虫をにおいなどで誘き寄せる薬剤
ク  展着剤 ほかの農薬と混合して用い、その農薬の付着性を高める薬剤
ケ  天敵 農作物を加害する害虫の天敵
コ  微生物剤 微生物を用いて農作物を加害する害虫病気等を防除する剤


(2)なぜ、農薬が使われるのか

農業を始めて以来、人は病害虫や雑草から農作物を守るための努力を行ってきました。その方法としては、病害虫に強い品種の利用、耕起や作物を収穫した残りの部分の除去による病害虫発生対策などの耕種的防除、ビニールシートや敷きわらによる雑草抑制、太陽熱利用による土壌の消毒などの物理的防除、クモ等の天敵等を利用した生物的防除も行われていますが、少ない労力で一定の効果が得られる点で農薬の使用が行われています。


(3)病害虫や雑草による被害はどの位か

病害虫の有効な防除方法がなかった時代には、例えば我が国では、享保年間に稲にウンカによる大被害の発生によって多くの人が餓死したと記録があります。また、外国では1845年にアイルランドで人々の主食であるジャガイモの疫病が大発生し、悲惨な飢饉が生じました。

過去に行われた調査結果では、一般的な栽培を行っていて病害虫防除対策を行わなかった場合、農作物の収穫量が大幅に減少することを示しています(表1、2参照)。


表1.日本の例
作物名 推定収穫減少率(平均)%
水稲(10) 28
小麦(4) 36
大豆(8) 30
りんご(6) 97
もも(1) 100
キャベツ(10) 63
だいこん(5) 24
きゅうり(5) 61
トマト(6) 39
ばれいしょ(2) 31
なす(1) 21
とうもろこし(1) 28

作物名右(  )は試験例数(1991-1992年に実施)
・社団法人日本植物防疫協会「農薬を使用しないで栽培した場合の病害虫等の被害に関する調査」(1993年)

表2.アメリカの例
作物名 収穫減少率(平均)%
とうもろこし 32
わた 39
ピーナッツ 78
イネ 57
ダイズ 37
小麦 24
ばれいしょ 57
りんご 100
ぶどう 89
もも 81
オレンジ 55
レタス 67
タマネギ 64
トマト 77
(Knuston, 1990-1993)
(4)農薬の歴史

日本では、その昔、いわゆる「虫追い」、「虫送り」といって、農家がみんなで太鼓、半鐘、たいまつ等をもち、声を出しながら田んぼのまわりを歩き、稲に付く虫を追い払ったといわれています。江戸時代には鯨からとった油を水田に撒き、稲に付いている害虫を払い落とす方法が発明され、昭和の初期まで続けられました。また、戦前には除虫菊(蚊取り線香と同じ成分)、硫酸ニコチン(タバコから)などを用いた殺虫剤、銅、石灰硫黄などの殺菌剤など天然物由来の農薬が使われていました。しかし、雑草に対しては手取りによる除草が中心で、戦後、除草剤が開発されるまで続けられました。炎天下のこの作業は大変な重労働でした。

戦後、科学技術の進歩により化学合成農薬が登場し、収穫量の増大や農作業の効率化につながりました。図1は、水稲における総労働時間と除草時間の変化を表したものです。除草時間の場合、1949年では除草時間10アール当たり50時間であったものが、1999年では約2時間/10アールとなり、除草剤を使用することで除草作業は効率的に行えるようになりました。これらの農薬の中には、人に対する毒性が強く、農薬使用中の事故が多発したもの、農作物に残留する性質(作物残留性)が高いもの、土壌への残留性が高いものなどがあったため、このことが昭和40年代に社会問題となりました(図2)。


図1 水稲作業の労働時間の推移
図1.水稲作業の労働時間の推移
((財)日本植物成長調節剤研究会調べ)
図2 農薬による死亡事故数
図2.農薬による死亡事故数

このため、昭和46年に農薬取締法を改正し、目的規定に「国民の健康の保護」と「国民の生活環境の保全」を位置付けるとともに、農薬の登録の際に、登録申請を行う農薬製造業者や輸入業者は、農薬のほ乳類に対する急性毒性試験成績書及び慢性毒性試験成績書、農作物及び土壌において残留する性質に関する試験成績書を新たに提出することとなりました。その結果、これまで使用されてきたBHC、DDT、ドリン剤などの残留性が高く、人に対する毒性が強い農薬の販売禁止や制限がなされました。この頃から農薬の開発方向は、人に対する毒性が弱く、残留性の低いものへと移行していきました(図3)。また、近年は生物由来の農薬も開発され普及が進んでいます。

図3 有効登録件数の急性毒性別割合

注)普通物:毒劇物に該当しないものを指していう通称

 

図3.有効登録件数の急性毒性別割合



2.農薬の安全性はどのようにして確保されているのか

農薬は、使い方を間違うと生物や環境に影響を与えてしまう薬剤や天敵です。その安全性は、登録制度によって審査され、安全が確保されるよう、作物への残留や水産動植物への影響に関する基準が設定され、この基準を超えないよう使用方法が定められます。

農薬の安全は、登録された農薬について定められた使用方法を遵守することで確保されます。


3.農薬の登録制度とは

(1)農薬の登録制度

農薬は、その安全性の確保を図るため、「農薬取締法」に基づき、製造、輸入から販売そして使用に至る全ての過程で厳しく規制されます(従来は販売規制が中心でしたが、平成14年12月の法改正で製造・輸入・使用の規制が加わりました。)。その中心となっているのが、「登録制度」です。これは、一部の例外を除き、国(農林水産省)に登録された農薬だけが製造、輸入及び販売できるという仕組みです。


(2)登録の手続き

農薬の登録を受けるに当たって農薬の製造者や輸入者は、その農薬の品質や安全性を確認するための資料として病害虫などへの効果、作物への害、人への毒性、作物への残留性などに関する様々な試験成績等を整えて、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(以下、FAMIC)を経由して農林水産大臣に申請します。新たな農薬の開発には、およそ10年の歳月と数十億円にのぼる経費を必要とするといわれています(図4)。


図4 農薬の開発
図4.農薬の開発

農薬は、人が食べる作物等に使用され、環境への影響も注意すべき化学物質や生物であるため、安全性を確保するための試験を、十分行うことが必要とされています。


(3)検査の仕組み

申請を受けた農林水産省はFAMICにその農薬を登録しても良いか否かの検査をするよう指示します。FAMICでは、提出された試験成績等に基づいて、農薬の品質の適正化とその安全かつ適正な使用の確保のため、農薬の薬効をはじめ毒性や作物・土壌に対する残留性などについて総合的に検査し、農林水産省にその結果を報告します。この結果から、農林水産省はその農薬を登録するか否かを判断します(図5)。
図5.農薬登録のしくみ
図5.農薬登録のしくみ

(4)検査の内容

FAMICでは、農薬の薬効、薬害、安全性及び製品の性質について検査を行います。

ア  薬効の検査
薬効については、その農薬が実際に申請された方法に基づいて使用された場合、病害虫や雑草の防除に確実に効くかどうか、検査します。


イ  薬害の検査
薬害については、その農薬が実際に申請された方法に基づき使用された場合、使用した作物とその周辺の作物に対して害を与えないことを検査します。


ウ  安全性の検査
安全性については、農薬使用者の安全性、農薬が使用された農作物を食べた場合の安全性及び散布された環境に対する安全性に関する検査を行っています。
これらの安全性を確認するために、登録申請者は、信頼性のおける試験機関においていくつもの毒性試験、残留試験、環境への影響試験などを行います。FAMICでは、提出された試験の結果から総合的に判断し、農薬が人や環境に与える影響について検査します。
人や家畜に対する毒性を調べるために行われる毒性試験は、大きく分けて、短期間に多量の農薬を摂取した場合の毒性(急性毒性)と、少量であっても長期間に農薬を摂取した場合の毒性(慢性毒性)を試験するものがあり、急性毒性試験は主に農薬を使用する人への影響を、慢性毒性試験は農薬が使用された農作物を食べる人に与える影響を調べるものです。
なお、提出する試験成績を以下に示します(表3)。


(1)薬効に関する試験成績
適用病害虫に対する薬効に関する試験成績
(農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる薬剤にあっては、適用農作物等に対する薬効に関する試験成績)
(2)薬害に関する試験成績
ア  適用農作物に対する薬害に関する試験成績
イ  周辺農作物に対する薬害に関する試験成績
ウ  後作物に対する薬害に関する試験成績
(3)毒性に関する試験成績
急性毒性を調べる試験
ア  急性経口毒性試験成績
イ  急性経皮毒性試験成績
ウ  急性吸入毒性試験成績
エ  皮膚刺激性試験成績
オ  眼刺激性試験成績
カ  皮膚感作性試験成績
キ  急性神経毒性試験成績
ク  急性遅発性神経毒性試験成績
中長期的影響を調べる試験
ケ  90日間反復経口投与毒性試験成績
コ  21日間反復経皮投与毒性試験成績
サ  90日間反復吸入毒性試験成績
シ  反復経口投与神経毒性試験成績
ス  28日間反復投与遅発性神経毒性試験成績
セ  1年間反復経口投与毒性試験成績
ソ  発がん性試験成績
タ  繁殖毒性試験成績
チ  催奇形性試験成績
ツ  変異原性に関する試験成績
急性中毒症の処置を考える上で有益な情報を得る試験
テ  生体機能への影響に関する試験成績
動植物体内での農薬の分解経路と分解物の構造等の情報を把握する試験
ト  動物体内運命に関する試験成績
ナ  植物体内運命に関する試験成績
環境中での影響をみる試験
ニ  土壌中運命に関する試験成績
ヌ  水中運命に関する試験成績
ネ  水産動植物への影響に関する試験成績
ノ  水産動植物以外の有用生物への影響に関する試験成績
ハ  有効成分の性状、安定性、分解性等に関する試験成績
ヒ  水質汚濁性に関する試験成績
(4)残留性に関する試験成績
ア  農作物への残留性に関する試験成績
イ  土壌への残留性に関する試験成績

エ  登録保留基準
農薬取締法では、農薬の作物残留、土壌残留、水質汚濁による人畜への被害や水産動植物への被害を防止する観点から国が基準を定めることとされており、申請された農薬ごとにこれらの基準を超えないことを確認して登録することとされています。
これらの基準は、審査の結果、基準を超えると判断された場合には登録が保留されることから「登録保留基準」と呼ばれ、環境大臣が定めて告示することとなっています。このうち作物残留に係る基準については、食品衛生法に基づく食品規格(残留農薬基準)が定められている場合、その基準が登録保留基準となります。(図6)。

図6 残留農薬基準、農薬登録保留基準、農薬使用基準
図6.残留農薬基準、農薬登録保留基準、農薬使用基準


4.農薬の残留基準はどのようにして決められるのか

(1)残留農薬とは

農薬は、病害虫や雑草などの防除、作物の生理機能の抑制などを目的として農作物に散布されますが、目的とした作用を発揮した後、ただちに消失するわけではありません。

このため作物に付着した農薬が収穫された農作物に残り、これが人の口に入ったり、農薬が残っている農作物が家畜の飼料として利用され、ミルクや食肉を通して人の口に入ることも考えられます。このように農薬を使用した結果、作物などに残った農薬を「残留農薬」と言います。この残留農薬が人の健康に害を及ぼすことがないように、農薬の登録に際して安全性に関する厳重な審査が実施されています。


(2)残留農薬の毒性評価

農薬の登録申請時に提出される毒性試験成績の結果から、人がその農薬を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量(一日摂取許容量, ADI:Acceptable Daily Intake)及び人がその農薬を24時間又はそれより短い時間経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないと推定される一日当たりの摂取量(急性参照用量, ARfD:Acute Reference Dose)が設定されます。

 

(3)一日摂取許容量(ADI)及び急性参照用量(ARfD)の決め方

ADI及びARfD設定のためには、まず、ラットやマウスの動物を用いた毒性試験を実施します。各々の毒性試験では、明らかな毒性変化を起こす用量及び毒性変化が認められない用量を求めます。ADIの設定の際には主に長期毒性試験などで認められる毒性所見から、ARfDの設定の際には主に単回投与試験や短期毒性試験の投与の初期に示される症状から、それぞれ毒性変化が認められない量(無毒性量/NOAEL:no-observed adverse effect level(mg/kg/日))を求めます。これらの値は動物試験による結果であることと人においては個人差があることを考慮して、安全係数(通常1/100[1/(10[種間差]×10[個人差])])を乗じヒトに影響のない量を求め(図7)、それぞれADI及びARfDとして定められます。

 

図7.動物を用いた毒性試験における反応出現率と農薬投与量の関係
図7.動物を用いた毒性試験における反応出現率と農薬投与量の関係
図8.許容1日摂取量(ADI)及び急性参照用量(ARfD)算出の流れ図
図8.許容1日摂取量(ADI)及び急性参照用量(ARfD)算出の流れ図

 

(4)残留農薬の曝露評価と残留基準の設定

  通常、作物の表面に散布された農薬は、大気中への蒸発、風雨による洗い流し、光および水との反応による分解で、散布日から時間が経つにつれて減少していきますが、その一部は収穫時の作物に残留します。ある使用方法で農薬を使用した場合に最終的に農産物に残留する農薬の濃度を把握するために実施される試験を「作物残留試験」といい、申請されている使用方法で実施された作物残留試験の結果を用いて、その農薬の様々な食品を通じた長期的な摂取量の総計がADIの8割を超えないこと及び個別の食品からの短期的な摂取量がARfDを超えないことを確認します。その上で、定められた使用方法に従って適正に使用した場合に残留し得る農薬の最大の濃度が、食品衛生法に基づき厚生労働大臣が定める「残留農薬基準」として設定されます。作物に残留し得る農薬の最大濃度を推定するに当たっては、気象条件など種々の外的要因により残留濃度が変動する可能性を考慮しています。

【残留農薬の曝露評価と残留基準設定の具体例

  表7-1、7-2に示すような大豆、かんしょ等に使用される農薬を例として長期および短期曝露評価と残留基準の設定について説明します。

1.長期曝露評価

各作物への使用方法にしたがって実施した作物残留試験の結果、各作物への最大残留濃度が、大豆で1.5 ppm、かんしょで0.54 ppm、いちごで2.8 ppmであった場合、残留濃度のばらつきを考慮し、その使用方法で適正に使用した場合の最大残留濃度(残留農薬基準)を大豆で3ppm、かんしょで1 ppm、いちごで5 ppmというように仮置きします(そのほかの作物も同様にします。)。次にこの値と各農作物を国民が平均的に食べる量であるフードファクター(厚生労働省の平成17~19年度の食品摂取頻度・摂取量調査の特別集計業務報告書より)から農薬の長期推定摂取量を計算します。一方、毒性試験の結果から設定されたADIが0.01 mg/kg/日であったとすると、体重55.1 kgの人の1日当たりの摂取許容量は0.55 mg/人/日です。
この方法により推定した摂取量は、理論最大一日摂取量(TMDI)と呼ばれ、すべての農作物に残留農薬基準の濃度まで当該農薬が残留し、それを毎日食べることを前提とした、相当に過大な推定であることに留意が必要です。より現実的な農薬の摂取量の推定には、最大残留濃度ではなく作物残留試験での作物中の平均残留濃度を用い、これにより求められる推定一日摂取量(EDI)による長期曝露評価が国際的には行われています。なお、厚生労働省は、各作物のTMDIの合計が摂取許容量の8割を超えた場合にはEDIを求めて摂取許容量との比較を行っています。表7-1の例ではTMDIによる推定摂取量は0.45 mgであり一日摂取許容量0.55mg/人/日の8割を超えますが、EDIによる推定摂取量は0.18 mgであり一日摂取許容量の33%です。

2.短期暴露評価

厚生労働省は、短期間に残留濃度の高い食品を大量に摂取した場合の安全性を評価するため、農薬の最高残留濃度及び食品の最大摂取量(厚生労働省の平成17~19年度食品摂取頻度・摂取量調査及び平成19~24年度厚生労動科学研究より)を用い、食品ごとの農薬の短期推定摂取量(ESTI)を求めています。推定には、各食品の最高残留濃度として残留基準値を用います。なお利用可能な作物残留試験のデータが4例以上ある場合にはその最高残留濃度を用いて推定することも可としています(当該作物が大量に混合されたり、ブレンドされたりするもの(穀物、豆類(種実)など)である場合は、平均残留濃度又は中央値を用いて推定を行います)。
表7-2にある食品の短期推定摂取量(ESTI)の計算例では、大豆、かんしょ及びいちごのESTIは1.1μg/kg 体重/日、6.8μg/kg 体重/日及び11μg/kg 体重/日となり、毒性試験の結果から設定されたARfDが0.1 mg/kg 体重の場合、ARfDに対する割合はそれぞれ1%、7%、10%となります(そのほかの作物のESTIについてもARfDを超えないことを確認します)。

3.残留基準値の設定

この例では、長期推定摂取量として求めたEDIによる推定摂取量の総計0.18 mg/人/日が1日当たりの摂取許容量0.55 mg/人/日の8割以内であり、かつ、各食品からの短期推定摂取量がARfD以下であることから、それぞれの基準値は仮置きした各残留値のままで問題ないと考えられ、大豆で3 ppm、かんしょで1 ppm、いちごで5 ppmに設定されます(そのほかの作物も同様にします)。

 

表7-1 長期推定摂取量の計算例

食品名
(基準値設定対象)
(ppm)
最大
残留濃度
(ppm)
平均
残留濃度
(ppm)
基準値
(ppm)
フードファクター
(g)
TMDI
(mg/人/日)
 
EDI
(mg/人/日)
 
日本人の
摂取許容量
(ADI×55.1)
大豆
1.5
1.2
3
39.0
0.117
0.0468
 
かんしょ
0.54
0.46
1
6.8
0.0068
0.0031
キャベツ
1.5
0.98
3
24.1
0.0723
0.0236
たまねぎ
0.96
0.82
2
31.2
0.0624
0.0256
トマト
2.4
1.8
5
31.1
0.161
0.0578
未成熟いんげん
1.4
1.1
3
2.4
0.0072
0.0026
えだまめ
0.28
0.24
0.7
1.7
0.0012
0.0004
いちご
2.8
2.1
5
5.4
0.0270
0.0113
合計
0.454
0.181
0.551 mg/人/日

 

表7-2 短期推定摂取量の計算例 

食品名
(基準値設定
対象)
(ppm)
基準値(ppm)
データ数
評価に
用いた
数値
(ppm)
摂取量
(摂食者の97.5
 ハ゜ーセンタイル値)
(g/日)
可食部
ユニツト
重量
(g)
摂食者
平均体重
(kg)
ケース
(※)
ESTI
(μg/kg 体重/day)
ESTI/ARfD
(%)
大豆
3
6
1.2
49.7
52.0
3
1.1
1
かんしょ
1
6
0.54
225.0
270
53.6
2b
6.8
7
キャベツ
3
6
1.5
176.0
1275
55.3
2b
14.3
10
たまねぎ
2
6
0.96
150.0
244
54.8
2b
7.9
8
トマト
5
6
2.4
218.8
194
55.4
2a
26.3
30
未成熟いんげん
3
3
3
106.4
<25
54.7
1
5.8
6
えだまめ
0.7
3
0.7
137.5
<25
54.3
1
1.8
2
いちご
5
4
2.8
200.0
<25
52.5
1
10.7
10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※短期摂取量の推定方法(平成26年11月27日厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会資料より)
<ケース1>
混成試料中の残留濃度が、摂食する食品中の濃度を反映している場合(U<25 g)
短期推定摂取量=  (LP×R)/bw
<ケース2>
摂食する食品中の濃度が、混成試料中の残留濃度よりも高い恐れがある場合(U≧25 g)
 ・ケース2a:2~3ユニットを摂食(LP>U)
短期推定摂取量=  (U×(R×v)+(LP-U)×R)/bw
 ・ケース2b:1ユニットを摂食(LP≦U)
短期推定摂取量= (LP×(R×v))/bw
<ケース3>
大量に混合したりブレンドされる場合
短期推定摂取量=  (LP×RM)/bw

LP:最大摂取量(各食品の摂食者における1日当たりの摂食量の97.5パーセンタイル値)[kg]
 R :作物残留試験における最大残留濃度(HR)または残留基準値(MRL)[mg/kg]
       作物残留試験成績が4例以上ある場合にHRを用いることができる。3例以下の場合はMRLを用いる。
bw:各食品の摂食者の平均体重[kg]
 U :1ユニットの可食部重量[kg]
  v :変動係数:ユニット別残留濃度の97.5パーセンタイル値/平均値
        原則、v=3を用いる。
RM:作物残留試験における中央値または平均値に加工係数を乗じたもの[mg/kg]

(5) 水質汚濁に係る農薬登録保留基準の決め方
水田で使用される農薬では、作物に散布された農薬が水面に落下するだけでなく、直接水田に施用されるものもあります。使用された農薬は水田の土壌に付着したり、水中で分解したりしますが、排水路などに流出し、河川を経由して飲料水として摂取されることも考えられます。
そこで、日本人1人当たりの1日の飲水量は2リットルとし、飲料水からの日本人1人当たりの摂取が許容される農薬の量をADIの10%の範囲までとなるように、水質汚濁に係る農薬登録保留基準の値を設定します。
水質汚濁性試験成績から計算した、150日間の平均濃度が基準値を越えていなければその農薬は登録されます。

5.環境への安全性の評価

農薬を登録する上で、人畜に対する安全性以外に、水産動植物やミツバチ等に対する安全性についても検査を行っています。


(1)水産動植物への影響

水産動植物にかかる登録保留基準として、コイに対する48時間の半数致死濃度(LC50)を用いて、一律の基準が設定されています。しかし、供試生物はコイのみであり、また環境中での暴露量が考慮されていないなどの課題があります。

このため、環境省において農薬による野生生物や生態系への悪影響の未然防止に係る検討を行い、水産動植物に対する毒性に係る登録保留基準について実質的な生態系の保全を視野に入れた取組を強化するため、魚類、甲殻類、藻類に対する毒性値と公共用水域における予測濃度を比較して評価する手法に改める旨の環境省告示改正が行われ、平成17年4月から施行されることとなりました。

なお、農林水産省においては従来から魚類のコイだけでなく、甲殻類のミジンコ類、藻類では植物プランクトンの一種を供試生物として実施した試験成績を求めています。魚毒性試験では処理96時間における半数致死濃度(LC50)を、ミジンコ遊泳阻害試験の場合には、処理48時間の半数遊泳阻害濃度(EC50)を求め、影響の程度の判定を行い、農薬の使用上の注意に反映されています。


(2)有用昆虫等への影響

有用昆虫(蚕、ミツバチ、天敵昆虫等)への影響をみるため、各有用昆虫を用いた試験が行われます。ミツバチでは半数致死量LD50、蚕では残毒期間等が調べられ、農薬使用時における安全な取り扱い法が確立されます。


(3)鳥類に対する影響

使用場面、剤型などを考慮のうえ、必要に応じて実施されます。ウズラやマガモ等を用いて経口毒性試験の結果、強い毒性が認められる場合には、混餌投与毒性試験も実施され、鳥類への影響を調べています。


(4)有効成分の性状、安定性、分解性等

農薬の有効成分等の性状、安定性、分解性等農薬の安全性評価に当たって必要不可欠な基礎的科学的知見を得ることを目的として行われる試験でありますが、環境中での動態を推測するのに重要な指標としても利用されます。


6.農薬の使用方法を守る理由

農作物に付着した農薬を摂取しても人の健康に影響がない量として、各農作物毎に農薬の残留基準が定められますが、これを超えないためには、試験で確かめられた一定の農薬の使用方法(使用時期、使用濃度、使用回数など)を守ることが前提です。この使用方法は農薬のラベルに記載されています。

実際には、残留基準値はかなりの余裕をもって設定してあり、また、人が実際に農作物を食べる際には、洗ったり皮をむいたりするので、試験で分析された量(洗ったり皮をむいたりせずに分析しています。)に比べて格段に少ない量しか摂取することはありません。しかしながら、これだけの安全性を加味しつつ、農薬のラベルに記載された使用方法の範囲内で農薬を使用することによって、安全が確保できると言えます。

例としてある農薬Aの残留基準が農作物Bに1ppmと決められているとします。農作物Bに農薬Aを散布した時、農作物B中の残留量は図9のように減少していくとすると、散布直後には2ppm残留していた農薬が7日後に0.5ppmとなり、散布できる日は「収穫前7日まで」に設定されます。農薬の使用者がこの使用時期を守って使えば、作った農作物に基準値を超えて農薬が残留することはなくなるわけです。

また、農作物への農薬残留のみならず飲料水への農薬残留や水産動植物への農薬の被害を防止することも大変重要です。このため、たとえば止水期間が設定されている農薬についてはその期間を遵守するなど、農薬の使用方法を守ることは、農薬使用者の責務であるといえます。

図9 残留農薬の減少曲線
図9.残留農薬の減少曲線


これらのことを担保するため、農薬使用基準が農薬取締法に基づき農林水産大臣と環境大臣により制定されており、法律上農薬使用者にはこの基準の遵守が義務付けられています。


7.用語解説

単語意味
天敵 自然界において、2種生物間で、片方がもう片方を特異的に食べるという関係がある場合に、食べられる側からみて食べる側の動物をさす。
生物農薬 病害虫・雑草の防除に利用される微生物、天敵、寄生昆虫などを施用しやすく、かつ効力を発揮しやすいよう製剤化したもの。
ADI = 一日摂取許容量(人がその農薬を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見からみて健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量)のこと。
ARfD = 急性参照用量(人がその農薬を24時間又はそれより短い時間経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないと推定される一日当たりの摂取量)のこと。
TMDI
= 理論最大一日摂取量(食品ごとに、その農薬について、設定されている、又は設定が検討されている残留基準値と一日当たりの平均摂取量とをかけあわせて摂取量を試算し、すべての食品からの摂取量を合計することにより推定される、理論上最大となる一日当たりの摂取量)のこと。
EDI = 推定一日摂取量(食品ごとに、その農薬の推定残留量と一日当たりの平均摂取量とをかけあわせて摂取量を試算し、全ての食品からの摂取量を合計することにより推定される一日あたりの摂取量)のこと。
ESTI = 短期推定摂取量(食品ごとに、農薬の最高残留濃度及びその一日当たりの最大摂取量を基に推定される摂取量)のこと。
無毒性量 = NOAEL(no-observed adverse effect level)。動物を用いた毒性試験の結果から求められる毒性変化が認められない量のこと。通常は、様々な毒性試験において得られた個々の無毒性量の中で最も小さい値を、その農薬の無毒性量とする。
原体 農薬の有効成分である化合物の化学工業製品をいう。農薬の主成分だけでなく、合成時の副生物、反応しなかった原料及び分解物などの成分も含む。
LD50 =50%半数致死量。一定時間内に実験動物の半数を死亡させる致死量のこと。動物種および毒物の投薬経路によってその値は異なる。値が高いほど毒性は低い。
LC50 =50%半数致死濃度。一定時間内に実験動物の半数を死亡させる、気体中或いは液体中の毒物の濃度のこと。値が高いほど毒性は低い。
ppm 百万分の1。例えると、1トン積みの小型トラックの中の1g

  (参考)単位比較
単位 ppm(100万分の1) ppb(10億分の1) ppt(1兆分の1)
長さ 1kmの行程の1mm 東京~下関の距離の1mm 地球24周のうちの1mm
面積 甲子園球場のなかの
1枚の官製はがき
東京渋谷区のなかの
1枚の官製はがき
岩手県のなかの
1枚の官製はがき
重さ 1トン積みの小型トラックの中の1g 10トン積みの大型トラック100台に対しての1g 10万トン積みの大型タンカー10隻に対しての1g
容積 1m3の家庭用風呂の中の1ml タテ20m、ヨコ50m、深さ1mのプールの中の1ml 同プール1000個に対する1ml

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