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![]() Profile あかせがわ・げんぺい
作家。1937年横浜生まれ。武蔵野美術学校を中退、前衛芸術家として活躍。1981年『父が消えた』で芥川賞を受賞。路上観察学の確立に尽力し、中古カメラに愛情を注ぐ。社会的話題になった『老人力』の生みの親としても知られ、独特のユーモアに満ちた作品が多い。 |
ぼくは若いころに胃を三分の二ほど切っているので、いっぺんに沢山食べるのが苦手だ。旅館の料理のように一度にドーンと出されると、困る。ところが、ゆっくり時間をかければ食べられるので、いつまでも食べていて、「健啖家」と間違われることもある。 ずいぶん前から、路上観察学の仲間たちや、ライカ同盟の仲間たちと国内各地を歩き、仕事でも世界各国を歩いてきたので、いろいろなものを食べてきた。 外国料理では中華料理が好きだ。お隣りの韓国料理も捨てがたい。ヨーロッパとなると「西洋料理」ということで、ナイフとフォークを前にして最初はドキドキしたけれども、いまはもう「まあ、いいか」といった感じになっている。その中では、フランス料理のクリーム系のぐにゅぐにゅとした味よりも、イタリア料理のトマト系の味が好きですね。これはどこかおしょうゆ系に似ているせいかもしれない。 でもやっぱり、何と言っても好きなのは、和食だ。うまい具合に炊き上がったご飯に焼いたシャケ、たらこ。そしておいしく漬かったぬか漬け。これは古漬けになる直前がベストですね。さらに白菜漬け、たくあん漬けなんかいいですねえ。ご飯を白菜で包んで食べたりするのもちょっと楽しい。たくあんと言えば、ぼくが子どもの頃は家族が多かったから、母親がいらなくなった防火用水の桶でたくあんを漬けていたけれど、ちょうどよく漬かったときの味は最高だった。とはいえ最近は漬け物を自宅では漬けないから、もう思い出の味だ。 白いご飯のつれ合いで好きなのが、大分県や宮崎県産の通称「唐人干ぼし」と呼ばれるイワシの丸干し。これはしっかり干してあってやや堅めだけれど、軽く炙ると炊きたてご飯にぴったり合う。女房に言わせると「何でこんな苦いものがおいしいの?」となっちゃうんですが。 そうそう、肝心のわが家の食卓の主役であるご飯は、近くのスーパーで買ってくる佐渡産コシヒカリ。これを頑固に圧力鍋で炊く。じつはこの圧力鍋が逸品で、何十年も前に手に入れて気に入っていた。故障したので、一時ほかの圧力鍋も使ったけれど、炊き具合にどうしても満足できず、また同じメーカーのものを探し求めて愛用している。この圧力鍋だと、どのおコメもおいしく炊ける。 ぼくの好みは好みとしても、いまは「食」には何でもあるから、幸せな時代ですよ。最近の回転寿司なんか、寿司を大衆化してくれて有り難いけど、寿司は本来はハレの日の食べものだから、もうちょっと神棚のようにお高くそびえてもらいたい気もする。こうして、だんだんごちそうの有難みが減り、食べ物に渇望することが減ってきた時代なんですね。 いま路上観察であちこち歩くと、食堂もレストランもお弁当売りも、じつに多彩なランチメニューがある。とはいえ昼は一度しか食べないから、失敗したくないのでじっくり選ぶんです。仲間たちと「ランチで1000円以上は品がないよね」などと言いながら、小料理屋さんがお昼の黒板に「サバ味噌煮」なんて書いてあるお店が、腕のいい板さんがいそうで、結局、入りますね。 |