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オピニオン 第4回

ドラマ「牛に願いを」プロデューサー 重松 圭一さん
北海道の大地で「命の輝き」を知る


重松 圭一さん
Profile しげまつ・けいいち
奈良県出身。慶應義塾大学文学部卒業後、1990年関西テレビに入社。「僕の生きる道」「僕と彼女と彼女の生きる道」「がんばっていきまっしょい」「ブスの瞳に恋してる」「僕の歩く道」などの制作を担当。

「牛に願いを Love&Farm」
(フジテレビ系毎週火曜午後10時放送)
北海道の牧場で「実学研修」を行うことになった東京の農業大学に通う男女8人のひと夏の成長を描くストーリー。出演は玉山鉄二、小出恵介、中田敦彦(オリエンタルラジオ)、相武紗季、香里奈、戸田恵梨香ら。
番組ホームページ
http://www.ktv.co.jp/ushi/

北海道の大地で「命の輝き」を知る
北海道の大地で「命の輝き」を知る

農業を志す若者たち

自分がドラマを作るときに、いつも大切にしているテーマは「人間が生きることの意味」「命の大切さ」。今年の夏のドラマを担当することになって、夏にふさわしい若者たちの群像劇と、自分のドラマづくりのテーマである「命の大切さ」が合致する題材を探しているときに、学生時代に同じ寮にいた北陸出身の学生のことを思い出した。

僕や多くの学生が、憧れの東京のキャンパスライフを始めて、サークルだとか合コンだとかに夢中になっている中で、彼だけは、自分は農業を勉強するのだという意識をしっかりと持っていたように思う。僕らと一緒に合コンには参加するけど、最後は大根踊りをして農業を熱く語ってしまうというようなユニークな学生だった。

農学部に進んだ高校の同級生も「変わった奴」として有名だった。自然や虫が大好きで、クラスのメンバーから離れて、一人で山の中に入っていってしまうことがよくあって、北海道に行って農業を勉強すると聞いたときは妙に納得したものだ。

彼らのことを思いだしてみると、農業を志す学生の中には、当たり前の学生生活を送る若者とは違った観点、信念を持った学生がいるのではないかと思った。現在の学生はどうかと思って、近くの農学部のキャンパスを覗いてみたら、やはり、僕らが通っていた大学の雰囲気とはかなり違う。学生たち自身の雰囲気もそうだが、何よりも、キャンパスのニオイが違う。生き物の存在感がある。動物臭があるというだけでなく、何かがここにはあるという雰囲気だ。農業を志す若者たちの群像劇はきっと面白くなるだろうと思った。

目の前の食材のありがたみを考える

ドラマを作ろうと考えて、北海道で50人くらいの酪農家に話を聞きにいった。ほとんどの方が話していたのは「牛乳がこうやって作られていく、ということだけでも知ってほしい。みんなが思いを込めて作っていることを知ってもらいたい」ということ。牧場で実習した農学部の学生たちの話も聞いたが「牛乳が店頭に並ぶまでに、どうやって作られるのかを初めて知った。それが一番の収穫です」と言っていた。

都会で生活していると、食卓の野菜、果物、乳製品がどこから来たかは全く見えない。特に、最近ではネットを通じて何でも買えて、ネットにアクセスすれば家まで届けてくれる。欲しいものは目の前に出てくるのが当然になっている。これでは食材の向こう側にあるものの大切さが分からないのではないか。ドラマで農業を採り上げることで、何気なく目に触れているもの、口に入れているもの、それらの先にあるものを伝えられるのではないかという思いもあった。

この思いを理解してもらうために、僕の学生時代の友人のように、最初から本気で農業を志す学生ではなく、気軽に農学部に入って、実習で初めて酪農に触れる人を主人公にしてみた。視聴者にも同じような驚きや感動を味わってもらえたらと考えている。

実際に、出演者の中には、牛のような大きな動物を間近に見るのが初めてというメンバーもいた。驚くだけでなく、相当、参っていたようだ。動物たちとの関わりだけでなく、北海道の雄大な自然の中での生活も、彼らにとっては新鮮な体験だったと思う。現地の牧場に行き、一緒にドラマづくりに参加してくれる牧場主の家族と触れ合い、気持ちの面では変化が出てきたように感じている。

働くことの意味を体で伝える

ドラマの中には、東京から北海道にツーリングに来て、酪農に目覚めて就農したという設定の登場人物もいる。このドラマを見て、農業に興味を持ち、就農希望者が出てきてくれたらうれしいという気持ちもある。

しかし、実際は本当に大変な仕事で「酪農ってすばらしい」と声高に叫んでいいのか、とも思う。家族経営の小さな牧場の場合、家族全員で休まずに働かないといけない。最近では酪農ヘルパー(※)という制度もできて、ようやく休めるようになってきたというが、親族の葬式にすら行けないような厳しい仕事。だから、「ドラマを見て、みんなで酪農やりましょう」などとは気軽に言えない。

一方で、牧場主さんたちが自分の仕事に誇りを持っているのを感じる。働くということの根元的な意味を体で理解されていると思う。パソコン上で取引をして誰とも会うことなくお金を儲けることができたりする世の中で、働くことの意味とかすばらしさを言葉に出さずに表現できる人たちは、なかなかいないと思う。このすばらしさは、ドラマを見た人にも伝わるのではないかと考えている。そこに興味を持って、現場に行って触れてみようかなと考える人がいれば、作り手としては喜ばしいと思う。

※酪農ヘルパー
酪農家が休みをとる際に 酪農家に代わって、搾乳や飼料給与などの作業を行う仕事に従事する人。酪農ヘルパーを出役する事業を酪農ヘルパー事業といい、国や地方公共団体も支援している。朝夕2回の搾乳作業が欠かせない酪農家は1年中休みがとれない状況が続いていたが、酪農ヘルパーの活躍で定期的な休日をとり、ゆとりある経営が展開できるようになった。

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