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ごはんの旅人 向笠千恵子の「朝ごはん風土記」 Part1

「沖縄の朝はできたてあつあつ豆腐から始まる」


「沖縄の朝はできたてあつあつ豆腐から始まる」

向笠 千恵子さん
Profile むかさ・ちえこ
フードジャーナリスト、エッセイスト。東京日本橋生まれ。慶應義塾大学卒業。日本の本物の味や伝統食品の現場を知る第一人者。志をもった食材の作り手、味、民俗、器、食の伝播の道筋、歴史などを多面的にとらえながら、現代の食を軽快に綴る。主な著書に「日本の朝ごはん」「日本人が食べたいほんもの」「本物にごちそうさま」「ごはんの旅人」など。
わたしは挨拶代わりに「今朝、何を召し上がりました?」と、尋ねることが多い。「ええと、納豆、卵、海苔、大根おろしとしらす、味噌汁、ご飯。あっ、佃煮も」「梅干しと干物は欠かせないね」「目玉焼きをご飯にのせた“目玉のっけ”が大好物」などと、しっかり朝ごはんをとったという返事を聞くのが大好きなのだ。北海道の酪農一家の牛乳豆腐から沖縄の長寿献立まで、各地のさまざまな職業の人々の朝食を通じて現代の食卓のあり方を考察した『日本の朝ごはん』(1993年新潮社刊)を書いて以来の習癖である。

地域や人による献立の差も興味深いが、結論からいうと、たとえおにぎり一個でも毎日、朝をきちんと食べている人は人生をポジティブに生きている。当然だ。車に例えれば、朝起きたときの人間の身体はガス欠状態そのもの。朝めし抜きのままでは午前中の仕事や勉強に力の入るはずもない。

朝ごはんは日本の食材を再認識するうえでも見のがせない。和朝食には味噌、醤油など日本の基本調味料が不可欠だが、これらはすべて手前味噌や手前醤油の世界。名古屋人は豆味噌の味噌汁でなければおさまらないし、宮城県人は仙台味噌以外は味噌ではないと信じている。また豆腐、納豆、漬け物はじめベーシックな食材の場合も郷土性は顕著で、一家言(いっかげん)をもつ人が多い。

最近、それを沖縄の豆腐から再認識した。豆腐は豆乳をにがりで固め、型箱に詰めて重石で水切りしてから、水に浸けて冷ます──というのが現代人の共通認識である。つまり冷たいのを買う。

だが、那覇市近郊の豊見城(とみぐすく)市にある大城豆腐では固まったばかりのあつあつを主人が大ぶりに切り分け、そのまま売っていた。おそるおそるさわったら、ほんとに熱い。当惑しているわたしに「うちの客は熱い豆腐でなきゃ、出来立てだと信じてくれないんだ」と、主人は楽しげに言い、眉毛の汗を白いタオルでごしごし拭いた。そして、型箱に詰める前の、まだ釜の中でゆらゆらしている豆腐を茶碗にすくって試食させてくれた。

いわゆるおぼろ豆腐だが沖縄では「ゆし豆腐」と呼び、早起きして買いに走る客が大勢いる。わたしは主人から受け取った豆腐を匙(さじ)で味わいながら、こんなに豊かな大豆の甘味とコクで一日のスタートをきれる沖縄の人たちが心底うらやましくなった。

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