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ごはんの旅人 向笠千恵子の「朝ごはん風土記」 Part2

「国のまほろば、大和=奈良の朝は茶粥で明ける」


「沖縄の朝はできたてあつあつ豆腐から始まる」

向笠 千恵子さん
Profile むかさ・ちえこ
フードジャーナリスト、エッセイスト。東京日本橋生まれ。慶應義塾大学卒業。日本の本物の味や伝統食品の現場を知る第一人者。志をもった食材の作り手、味、民俗、器、食の伝播の道筋、歴史などを多面的にとらえながら、現代の食を軽快に綴る。主な著書に「日本の朝ごはん」「日本人が食べたいほんもの」「本物にごちそうさま」「ごはんの旅人」など。
ホテルや旅館の朝食に出るお粥はほとんどが白粥。レトルトにも玄米粥や赤米粥があるくらいだから、白粥ばかりではちょっと物足りない。もっと郷土色のある粥を出せばいいのに…。そんなことを思ったのは、最近、奈良で朝ごはんに茶粥を食べ、しみじみしたからだ。

茶粥といっても、観光地でときどき見かける抹茶入りの白粥のたぐいではない。もっと素朴な、文字どおり茶色に染まった粥。やかんでぐらぐら煮出した番茶の汁で炊いてあるから、駄洒落じゃないけど、できあがりはまさしくまっ茶っ茶。奈良のほか、和歌山県や三重県でもポピュラーな郷土粥である。

わたしは奈良で二日続けてこの茶粥を楽しんだ。大仏殿を見下ろす高台の宿では、茶粥は奈良絵を絵付けしたキャセロールで登場(この旅館は器まで地元の焼きものを使っていた)。続いて、ご飯、味噌汁、塩鮭、だし巻卵など朝ごはんの定番メニューも運ばれてきたのだが、わたしが真っ先に手を伸ばしたのは香ばしい湯気を立てている茶色い粥だった。

茶碗によそい、梅干しをお伴にさらさらやると、朝霧に包まれた奈良の茶畑が目の前によみがえった。日本の茶は弘法大師が唐から種子を持ち帰ったのが始まり。種子を植えたのが奈良市の東に広がる大和高原だから、奈良は日本茶のふるさとともいえる。茶はその後寺院で用いられ、東大寺では飲むだけでなく、初めて茶粥、茶飯に利用したという。

翌日は奈良公園にある国際奈良学セミナーハウスで朝を迎え、茶粥定食をいただいた。洋食もあったのだが、茶粥にして大正解。前日の茶粥がさらさら粥だったのに比べて、こちらはぽってりタイプ。粥は米と水分の比率の違いでいかようにも炊けるし、そのどれもが味わい深い。融通無碍(ゆうづうむげ)なところがいいのだ。

セミナーハウスの茶粥は米が茶の風味をしっかり吸い込んで、深みのある味だった。そのせいか、奈良を旅している気分が強まり、朝食後に出かけた興福寺の五重塔や阿修羅像が心にしみ入った。また、禅寺で朝食を粥にするのは、胃に負担をかけず、体力を養うという道元禅師の教えからきていることも思いだした。

なお、茶粥は熱いうちだけでなく、冷えても風雅なおいしさを味わえる。実際、奈良や和歌山では、冷たいほうが番茶が染みていてうまいといって、わざわざ冷やしてから食べることもあるようだ。

そんな郷土色が朝ごはんからのぞけるから、食の旅はおもしろい。

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