ホーム > 報道・広報 > 2012年aff(あふ)2月号 > aff(あふ)バックナンバー > 08年8月号目次 > チャレンジャー 第17回 特別編
| この連載コーナーでは、農林水産分野で先進的かつユニークな活動を行っているチャレンジャーをレポートします。 |
![]() ![]() 小麦の出来を確かめる加藤さんと高橋さん
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神奈川県伊勢原市。周囲を水田やサトイモ畑に囲まれた一角で、6月14日、小麦の収穫作業が行われていた。ひと足早い夏の太陽が照りつける中、コンバインの動きを目を細めて見つめているのは高橋幸夫さん。彼は小麦の生産者ではない。この地で「ブーランジェリー ブノワトン」という店を営むパン職人だ。収穫されたばかりの小麦の粒をいとおしそうに見つめながら、高橋さんが言う。 「いい出来ですね。今年は、2軒の生産者合わせて15トンは収穫できそうです」 この町で、いま、ある試みが進行している。「湘南小麦プロジェクト」—湘南地域で栽培した小麦を使い、おいしいパンをつくろうという「地産地消」の取り組みだ。 この計画が芽吹いたのは17年前。当時フランス料理店で働いていた23歳の高橋さんが抱いた「フランスパンの外側は、どうやったらカリカリにできるんだろう?」という疑問がきっかけだった。パンについて本格的に勉強したい…そう考えた高橋さんは、さっそく東京・銀座の有名パン店に転職し、修業生活に入る。そして…。 「ある日、気晴らしにふらりと旅に出たんです。そのとき飛行機から見た美瑛(びえい)の丘に衝撃を受けました。春まき小麦の緑色と、秋まき小麦の黄金色がパッチワークのように入り交じった一面の小麦畑……一瞬、ロシアに来ちゃったんじゃないかと思ったくらい(笑)。恥ずかしい話ですが、実はそれまで、日本で小麦が作られているということさえ知らなかったんです」 日本の麦でパンを作りたい…高橋さんは99年、伊勢原に「ブノワトン」を開店。当初は北海道など各地から小麦粉を買っていたが、しだいに、地元産の小麦でパンをつくれないか、という思いがふくらんでいく。 「店を出してしばらく経つと、地元の農家の方とも仲良くなります。すると、もともとこの地域は小麦の栽培が盛んだったことが分かってきた。戦前、神奈川では年間1000トンの小麦を収穫していたそうです。それならぜひ、この地域の方たちに無農薬の小麦を栽培してもらおう、と」 もちろん、地元の農家も最初から二つ返事で承諾したわけではない。問題は、買い上げ価格だった。 「小麦の買い取り価格は1キロあたり80円ぐらいが相場。これでは生産者は誰も手を挙げてくれない。そこで僕は『1キロ200円で買うから』とお願いしたんです。北海道から送ってもらっていたときも、運送料や袋詰めの袋代・人件費などをこちらが負担していましたから、これでも採算は取れるんです」 高橋さんの呼びかけに応えて、2軒の農家が年間契約栽培を約束してくれた。同時に高橋さんは、この小麦を「湘南小麦」と名付けて商標登録。こうして2005年秋、湘南小麦プロジェクトが本格始動した。 地元の小麦を使ったおいしいパン店が伊勢原にある……ブノワトンの評判はしだいに口コミで広まり、休日には、県内はもちろん関東一円から多くの客が訪れる。 「おかげさまで、開店から丸9年で、のべ40万人のお客さんに来ていただいています。今後は、自家製粉した小麦をこの地域のほかのパン店や東京でも使ってもらい、湘南小麦の生産を増やしたいですね」 高橋さんはさらに、製粉時にできる小麦の「ふすま(麦の表皮近くの層)」を飼料として酪農家に提供し、代わりに分けてもらった牛乳でバターをつくる……などのプランも明かしてくれた。また最近では、高橋さんの考えに賛同した仲間たちへの技術指導のため、休日には全国を飛び回る忙しい日々だ。 開店10周年を迎え、地域にしっかりと根をおろした「湘南小麦プロジェクト」は、いま、新たな一歩を踏み出した。 |
![]() 高橋さんは、湘南小麦を自家製粉するため、8台の石臼を備えた製粉工場も建設。収穫した小麦を地域で粉にできる仕組みを整えた
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![]() 店内に並ぶバゲット類。どれも外側はカリッと香ばしく、噛みしめるほどに麦の豊かな香りが口いっぱいに広がる。中央の黒っぽいパンは「イカスミのフランスパン」
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![]() 休日には家族連れなどが多く訪れ、店内はお客さんであふれている。日本各地はもちろん、海外から訪ねてくるお客さんもいるという
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![]() ブノワトン 神奈川県伊勢原市板戸645-5
Tel.0463-91-6710 |