ホーム > 報道・広報 > 2012年aff(あふ)2月号 > aff(あふ)バックナンバー > 08年8月号目次 > ごはんの旅人 向笠千恵子の「朝ごはん風土記」 第4回
![]() ![]() Profile むかさ・ちえこ
フードジャーナリスト、エッセイスト。東京・日本橋生まれ。慶應義塾大学卒業。日本の本物の味や伝統食品の現場を知る第一人者。志をもった食材の作り手、味、民俗、器、食の伝播の道筋、歴史などを多面的にとらえながら、現代の食を軽快に綴る。主な著書に「日本の朝ごはん」「日本人が食べたいほんもの」「本物にごちそうさま」「ごはんの旅人」など。 |
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防のビタミンK、粘膜や肝臓をガードするビタミンB2、食物繊維などに富み、食中毒予防の効果も……と、効用がすっかり喧伝(けんでん)されたせいか、関西や九州でも納豆礼讃(らいさん)者によく出会う。東国生まれの納豆は日本を制覇したのだ。おかげで納豆業界には活気がもどり、国産大豆を原料にした逸品や、経木(きょうぎ)や藁(わら)づと入りの納豆をつくる生産者も次々に現れている。 そもそも納豆は藁づと包みから生まれた。約千年前、源氏の武将・八幡太郎義家の奥州遠征のときに発明されたといわれる。その時代、軍馬のかいばは茹で大豆と藁だったので、大豆は馬に積まれている間に発酵し、猛烈な粘りを生じたそうだ。腹ぺこの人間が仕方なく食べてみたところ、たいしたおいしさだったというわけである。それ以来、東北地方に納豆が広まったという。 先日、岩手・宮城内陸地震に見舞われた岩手県一関(いちのせき)市にも名物納豆がある。厳美渓(げんびけい)の白糸の滝に因(ちな)み、その名も白糸納豆という。糸の粘り具合はゴム紐にたとえたいほどの強さだし、ぐるぐるかき回せば大豆が濃厚に香り立つ。味は天然のうまみに満ち満ちており、思わずご飯が欲しくなる。 作っているのは小岩久三郎商店三代目・小岩養太郎さん。夏は毎朝五時起きで工場に向かい、従業員の先頭に立って大豆を煮る。納豆菌をふりかけて、室(むろ)に入れたら朝の仕事は一段落。これから二十時間がかりで発酵させるのだ。それで、小岩さんはいったん帰宅し、奥さんといっしょに朝ごはんをとる。 といっても、前日仕込んだ納豆の試食を兼ねた朝食である。小鉢に納豆と刻みねぎ、大根おろし。あとはご飯、味噌汁、なすときゅうりの古漬けという献立。 小岩さんは楊枝で納豆を一粒刺し、糸の引き具合を確かめる。糸が長く引けば、納豆がうまく発酵しているのだ。次は納豆に箸を突っ込んで上下に激しく十回動かし、さらに二十回ほど小鉢に沿ってぐるぐる回す。糸が伸びて粘りが強くなればなるほどおいしくなるのだ。醤油はほんの少々、糸と豆にからませるくらいでいい。一関では溶き辛子は入れない。 「薬味はねぎが一番。大根おろしや刻んだ古漬けもいいですよ」とのこと。 ではいただきます。ご飯にのせて、口に運ぶ。納豆はもちろんだが、ご飯がおいしい。それもそのはず、納豆の糸は天然グルタミン酸だから、糸引き納豆とご飯は最強の組み合わせなのである。 |