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ごはんの旅人 向笠千恵子の「朝ごはん風土記」 第7回

「庄内鶴岡は朝からくだものたっぷり」


「庄内鶴岡は朝からくだものたっぷり」

向笠 千恵子さん
Profile むかさ・ちえこ
フードジャーナリスト、エッセイスト。東京・日本橋生まれ。慶應義塾大学卒業。日本の本物の味や伝統食品の現場を知る第一人者。志をもった食材の作り手、味、民俗、器、食の伝播の道筋、歴史などを多面的にとらえながら、現代の食を軽快に綴る。主な著書に「日本の朝ごはん」「日本人が食べたいほんもの」「本物にごちそうさま」「ごはんの旅人」「すきやき通」など。
祖母は「朝のくだものは金」と唱え、朝食に欠かさなかった。その教えを守り、わたしも旬の新鮮フルーツで一日を始める。ヨーグルトに入れて、はちみつ、黒ごまペーストをかけるのが好きだ。

くだものはビタミンはもちろん、ミネラル、食物繊維の宝庫でもある。さらに爽やかな香りや特有の食感で、体を目覚めさせてくれる。食欲がない朝でも、一口だけは桃、柿、梨、ぶどうなど季節のくだものを食べていただきたい。

旅に出たときこそ、朝のくだものをたっぷりとりたいものだが、これが意外にむずかしい。小切れがほんの少々だったり、季節はずれの品だったり。ビュッフェ式朝食の場合もグレープフルーツ、オレンジ、バナナがお決まりで、しかも輸入品ということが見え見え。

その点、フランスのオーベルジュやイタリアのアグリツーリズモの宿は、新鮮なくだものをかご盛りで提供する。そんな宿が日本にもないかしら……と探していたら、ありました、ありました。

山形県鶴岡の旧櫛引(くしびき)地区にある知憩軒(ちけいけん)という農家民宿。屋号はおかみさん・長南光さんの「農家も軒下に憩い、知識を吸収しよう」という思いにちなむ。実際の光さんもその通りで、書、文学、民芸、茶道を好み、織物工房を主宰する知的ウーマンである。それだけに光さんは多忙。ご主人の米・くだものづくりを手伝い、直売所で売り、民宿を切り盛りする。明け方に起きて料理の支度をする。

名物料理もたくさんある。筆頭は、自家米のおむすびに味噌を塗って青菜(せいさい)漬けでくるみ、炭火で焼いた弁慶めし。さりげなく地産地消を実行しているうえ、こんがり焼けた味噌の香りが食欲をそそる。また、黒ごまのコクを凝縮させたごま豆腐も、舌がもっともっとと欲しがるおいしさである。

さて、知憩軒の朝ごはん。ご飯はコシヒカリの新米。味噌汁はだだ茶豆がさやごと入った豆汁。おかずは蕗(ふき)味噌、民田(みんでん)なすの麹(こうじ)漬け、みず(山菜)の炒め煮、夕顔のあんかけ。地味だが滋味尽くしである。そして、わたしの目が吸いつけられたのは──ピオーネ、巨峰などぶどう各種、洋梨、庄内柿、りんご。あけびつるの大ざるにざっくり盛ってある。さすがくだもの王国・山形の果樹農家のもてなしだ。

「くだもの代は別料金ですよ」と、光さんが笑った。

確認したところ、別料金といっても2〜300円とか。お茶目な発想ぶりに、わたしは手を合わせたくなった。

写真提供/アフロ

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