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農林水産省

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特集1 海に挑む。(5)

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海を守る活動「森は海の恋人」

牡蠣の森を慕う会 代表 畠山重篤さんのこと


畠山重篤さん
畠山重篤
はたけやま・しげあつ
宮城県気仙沼湾にて家業のカキ・ホタテの養殖に従事。湾内の環境悪化により「森は海の恋人」をキャッチフレーズに、湾に注ぐ大川上流の室根山へ植樹運動を始める。また、環境教育のため体験学習を積極的に行い、それらの活動に対し表彰・受賞多数。2004年には宮沢賢治イーハトーブ賞、河北文化賞受賞。現在、京都大学フィールド科学教育研究センター社会連携教授。

畠山重篤著『漁師さんの森づくり』
畠山重篤著『漁師さんの森づくり』 おいしいカキを育てるため、世界中のカキの産地に行ってみたい、と夢は広がる。カキをめぐる好奇心はとどまるところを知らず、フランスのブリュターニュ地方や、スペインのガリシア地方にも足をのばし研究者とも交流。室根山に木を植える「森は海の恋人」運動を開始。毎年小学生も多数参加しており、教科書にも紹介されている。講談社/1,260円
畠山重篤さんは『森は海の恋人』(1994年)という本の著者です。同書や北海道大学松永勝彦教授との対談『漁師が山に木を植える理由』(1999年)のなかで、この言葉が生まれたワケを語っています。

漁師としてカキを育ててきた気仙沼湾に「赤潮が発生すると、真っ白いカキの身が真っ赤になり血ガキと呼んで廃棄処分にされた」のです。浜では、諦めムードが漂いました。

畠山さんは、海と生物たちに起こっている変化を「なぜなのだろう」と行動を起こします。自治体や研究機関も原因を的確に示してくれませんでした。畠山さんの原因追跡の旅のなかで、松永教授との出会いがその答えにつながったのです。

「森で培われる豊かな滋養分が水を通じて川から海に流れこみ、海の豊かさとなって海の生き物を育てる」ことに気付いたのです。

歌人、熊谷龍子さんが歌った「森は海を海は森を恋いながら悠久よりの愛紡ぎゆく」が生まれ、地元室根山の森に木を植える行動が始まりました。

いまや「漁師が森に木を植える」植樹運動は、小中学校の教科書にも取り上げられ、国民的な運動となり、自然環境を守る「あいことば」となりました。

畠山さんの起こした行動と提案は、各地に根を下ろし、たくさんの人たちとの協働作業として、波のように日本の森と海に広がっていきました。

それまでのみんなの「漁師」観は、「森は海の恋人」の登場によって一変しました。

海に生き、生計を立ててきた漁師だからこそ見える世界を、漁業の経験によって積み上げられた漁師の言葉で、そのやさしい眼差しで語ってくれたのです。そして、農林水産業が進むべき道を「森は海の恋人」によって開いてくれたのです。

山も森も川も海も、水と大地によってつながり、その自然の恵みを、農林漁業者という自然を産業として成立させ担ってきたものたちの手で、採取し、育み、収穫し、国民の命を支えていくのだという、誇りを示してくれたのでした。

畠山さんは、常々、農・林・水産、水と川と海を管轄する行政の枠を乗り越えることが、「いのち」の原点を取り戻せる手っ取り早い方法といっています。温厚な人柄から繰り出してきたストレートパンチの連続は、こうした既存の殻を破り、自然産業を担う人として、国民みんなに貢献のできる仕事人の姿を、身を持って示してくれたのでした。

この6月から、畠山さんが代表を勤めてきた「牡蠣の森を慕う会」は、新組織「NPO法人 森は海の恋人」として環境教育・森づくり・自然を守る運動に取り掛かるそうです。農林漁業者と国民とを結ぶコミュニティーセンターとして大きな影響力を発揮してくれることになるはずです。
まな出版企画 中島 満

多くの人々が参加する「植林祭」
多くの人々が参加する「植林祭」

水産業界の取り組み(2)
水産資源の保護と再生産を図るために「つくり育てる漁業」に注目が集まっています。魚、貝、海藻などを育てるため、地域や環境に合ったさまざまな方法が行われています。

栽培漁業って何?
つくり育てる漁業の中核をなすものに「栽培漁業」があります。
卵から孵化させた魚や貝は「種苗」と呼ばれます。自然界ではもっとも死滅しやすい卵から稚魚の時期に、それを人が水槽や生けすで、一定の大きさになるまで育てたのち海に放流し、大きくなったものを獲るのが「栽培漁業」です。水産資源を増殖することにより安定的に確保していく目的で、1979年から各地で拡大が図られ、現在では沿岸漁業の中に定着しています。漁獲量が減少した価格の高い魚種を中心に、約80種類の魚介類が対象とされています。
養殖との違いは、種苗が一定の大きさになったら海に放流する点です。養殖は魚介を市場に出荷するまで育て続けます。

栽培漁業が行われている主な魚種
栽培漁業が行われている主な魚種
写真提供/独立行政法人水産総合研究センター