このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

特集1 最新まぐろリポート(3)

  • 印刷

栽培研究員が語る まぐろを「栽培する」難しさ


クロマグロ漁業の存続と資源管理、増養殖のための対策が急務となり、栽培漁業技術の確立に向けて研究が行われるようになりました。
クロマグロ種苗生産に携わっている研究員に話を聞きました。

田中庸介
朝、職員総出でクロマグロの親魚にエサをやる。
朝、職員総出でクロマグロの親魚にエサをやる。生簀には250尾くらいの親魚がいるが、冷凍サバを解凍したものを1日1tも食べてしまう。食べ具合を見ながらスコップでまくのだそうだ

卵からふ化した仔魚が全長40~50mmになると陸上水槽より取り上げ、海上の生簀に収容する
卵からふ化した仔魚が全長40~50mmになると陸上水槽より取り上げ、海上の生簀に収容する


写真提供:(独)水産総合研究センター

田中庸介
栽培漁業の役割
独立行政法人水産総合研究センター奄美栽培漁業センターでは、クロマグロの栽培漁業技術の開発を進めています。近畿大学水産研究所ではクロマグロの完全養殖に成功し、すでに成魚を市場に出荷しています(P26~27参照)。

完全養殖が人工的にふ化させた魚、あるいは獲った小型魚を市場に出荷するまで育て続けるのに対して、栽培漁業はふ化させた稚魚を増やすことと、稚魚を一定の大きさに育てたのちに、天然の水域に放流することを目的にしています。卵からふ化させた魚や貝は「種苗」と呼ばれていますが、自然界でもっとも死亡しやすい卵から稚魚時期に人の手で管理して大量に種苗を生産することで、クロマグロの資源量を増やし、安定的に供給できることをめざしています。

クロマグロは種苗生産が難しい魚
種苗を量産するにはまず親の養成や採卵から始まり、安定的にふ化させることが重要です。しかしクロマグロは環境の変化に敏感で、安定して卵を採ることがなかなかできず、ふ化させても順調に成長させるのが難しい魚。奄美栽培漁業センターの研究員・田中庸介さんがその苦労を語ってくれました。

「親魚(しんぎょ)の産卵と種苗生産は、毎年5月中頃あたりから9月くらいまでの作業となります。生簀で採卵した卵をふ化させ、陸上の水槽で5~6cmの大きさになるまで飼うのですが、ふ化しても10日くらいの間にたくさん死んでしまうのです。これまでの観察から、夜、水槽の底の方に沈んで死ぬことが分かったので、それを調べるために10日間泊まり込みで、深さ2mくらいの水槽に潜って観察し続けたこともあります」

資源を増やしたい
「生まれた稚魚は動物プランクトンを食べて15~16日で1cmほどに成長するのですが、これ以降はほかの魚の稚魚をエサにします。比較的ふ化させやすいハマフエフキの仔魚を与えるのだけど、まぐろは大食漢なのでバクバク食べる。エサが切れると共食いを始めるので、エサの確保に大わらわです。ハマフエフキの卵を安定的に確保し、大量にふ化させなくてはなりませんでした」

栽培漁業の難しいところは、魚をどこに、いつ、どれくらいの大きさになったら放流するかという条件が分かるまでに、時間がかかることだといいます。栽培漁業に成功しているヒラメやタイにしても、トライ&エラーを繰り返した結果、それぞれの魚の飼育方法や放流のタイミングが分かってきたのだといいます。

「クロマグロは現在まだ放流する段階まで至っていないというのが実情です。いっぽうで、最近クロマグロ養殖生産が急速に拡大してきており、養殖に使う天然の稚魚の漁獲も急増しているため、資源への影響が心配されています。稚魚の大量生産技術を確立して、それを養殖現場に供給する体制をつくることも、クロマグロ資源を守るために必要な研究開発です」

ハマフエフキの仔魚を与える段階を過ぎると、シラスをミンチにして与えるのですが、食欲が旺盛なため、朝から晩までエサをやり続けなくてはならないといいます。エサを安定的に効率的に与えることができなければ、安定して魚を飼育することはできません。日齢、月齢、年齢によって異なるエサを必要とするクロマグロに、ぴったり合った人工配合飼料の研究開発も鋭意進められています。

国産クロマグロを食べてもらえるよう、またクロマグロを水産資源として守れるよう、田中さんたちは研究に励んでいます。

「完全養殖のクロマグロが市場に流通している数はまだまだ少ないですが、養殖や栽培が資源の持続的利用に貢献できるようになるのは、そう遠い未来ではないと思っています」

【まぐろまめ知識 その2】
養殖と蓄養、栽培漁業
養殖と蓄養、栽培漁業
養殖とは幼魚を漁獲して生簀で飼育し、出荷する方法だ。国内の養殖まぐろはほとんどこの方法で生産されている。卵をふ化させ、幼魚を飼育して出荷する完全養殖は、現在、近畿大学などで行われている。また、蓄養とは成魚を漁獲して短期的に飼育し出荷する方法だ。海外の養殖まぐろはほとんどこの方法で生産されている。
天然の幼魚・成魚を漁獲する養殖や蓄養は資源を守り続けることが難しいので、種苗を生産して養殖業者に提供したり、種苗を海に放流する栽培漁業の方策の検討が今後の課題となっている。

まぐろの寿命は?
生息する海域によって成熟期や寿命に差がある。ちなみに西大西洋クロマグロの寿命は20歳以上とされ、東大西洋クロマグロは25~30歳といわれている。メバチは15歳以上だそうだ。まぐろに限らず、魚の年齢は内耳にある耳石という器官で推定できる。

寝ているときも泳ぎ続ける?
まぐろは口とエラぶたを開閉して行うエラポンプ呼吸ができないため、たえず口の中に新鮮な水を流し続けて酸素を取り入れなければならない。だから常に泳いでいないと酸欠になって死んでしまうのだ。高速で泳ぐブリやカツオ、カジキも同じである。

最大のまぐろは?
これまで報告されている最大のまぐろは、全長458cm、体重684kgという西大西洋クロマグロだそうだ。

まぐろの最高値は?
史上最高値は平成13年の築地の初競りで競り落とされたクロマグロの1本2020万円。大間産で202kgあったそうだ。1kg10万円ということになる。ちなみに10月23日、山口県萩市の見島沖で開催されたクロマグロ釣り大会で、俳優の松方弘樹さんが釣り上げたクロマグロは325kg、築地で437万1000円の高値で落札された。