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特集1 最新まぐろリポート(5)

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国際交渉官が語る 世界の中の日本の役割


まぐろ類資源関係の国際漁業機関が行う国際会議の場で、政府代表を務める水産庁資源管理部の宮原正典審議官に、まぐろに関する日本の現状や国際交渉の様子を語ってもらいました。

水産庁資源管理部の宮原正典審議官
蓄養まぐろ輸入量の推移
会議の様子
(独)水産総合研究センター
盾
盾
水産庁資源管理部の宮原正典審議官
まぐろ
photo:Makihiko Kumekawa
まぐろは近い将来食べられなくなるのでしょうか
「日本がまぐろ類の最大の市場であるということは間違いないですね。そのなかで日本の市場がまぐろ類の資源を悪くした元凶だという批判を受けています。7~8年、ずっとそう言われ続けています。なぜそういうことを言われるようになったか。

クロマグロは日本では飛びぬけて高い。ほかの国々ではそんなに値段が高い魚ではありません。そのまま地方の市場で売られたり、あるいは缶詰の原料になったり、クロマグロでも1kg 200円、300円の世界です。それが日本では1kg 4000円とか5000円で売買されている。日本に持ち込めば高値で買ってもらえるわけです。

飼育することができなかったクロマグロが蓄養という技術により、大量に脂が乗ったクロマグロを生産できるようになりました。当初はスペインとクロアチアが始め、これがあっという間に地中海沿岸国に広がって多くの国で手がけるようになったのです。

天然のクロマグロであれば、トロの部分は体重の5%くらいなのですが、脂を乗せた蓄養物は1匹から取れるトロがその3倍から4倍もあります。

日本側にもある程度責任があると思うのですが、日本に輸出すれば高く売れるというので、地中海のクロマグロは日本向けの輸出品に変わり、次から次へと蓄養による生産を拡大していきました。量的にそれほど多くなければ問題はなかったのでしょうが、漁獲量をオーバーする違法漁獲まで出てきた。実際に『日本の巨大な食欲が資源を絶滅に追い込む』などと報道され、日本への風当たりが強くなったのです。

大西洋まぐろ類保存国際委員会では漁獲枠の削減、規制強化などの対応をしてきたのですが、10月16日、モナコが絶滅の恐れがある野生生物を保護するワシントン条約を適用し、大西洋クロマグロの国際的な商取引の全面的禁止を提案するにいたったというわけです」

国際交渉とは具体的にどのように進められるのですか
「11月9~15日、大西洋まぐろ類保存国際委員会の年次総会がブラジルのレシフェで開催され、私も日本政府代表として出席しました。ワシントン条約の提案に直面して最も大きな議題は、やはり大西洋クロマグロの規制強化でした。

出席した48カ国それぞれの立場があるし、主張があります。国際会議というと、正論を述べて論破した者が優位に立つというような光景を想像するかもしれませんが、まったく違います。だれかがリーダーシップを取って、みんなが納得できるような原案を作り、その原案を叩いて、漁獲枠などそれぞれが実行できるルールを作り上げていくという、共同作業みたいなものだと考えてください。

原案の元になるものをだれかが作らなくてはならないのですが、今回は我々が作りました。大西洋まぐろ類保存国際委員会は必ずしもクロマグロだけを取り扱っているわけではありません。今回は4魚種。いずれも非常に重要な魚種を議題に乗せていまして、その4つとも私たち日本が原案を提示しました。国際会議ではそれくらい日本がリーダーシップを取っているのです」

実際に一番たいへんなことはどんなことでしょうか
「クロマグロはやはり一番難しい議題だったので、最後までどうなるか分からなかった。金曜の夜に原案を作り、土曜に各国との協議をもつわけですが、最後は日曜の夜明けまで徹夜になりました。漁獲量が大きく、ワシントン条約が適用になったら一番影響を受けるEU(欧州連合)と最後の晩は向かい合い、朝になって最終案ができあがった。それを今度は地中海沿岸国をはじめほかの国も合意し、共同提案という形で会議にかけたのです。一部の国に不満はあったようですが、最終的には平成21年の地中海を含む東大西洋でのクロマグロ漁獲枠について前年比で4割削減し、1万3500tとし、翌年必要ならゼロにすることまで書き込んで合意しました。

根強い全面商取引禁止提案を回避するには、今までと同様に1万5000t程度に削減などと、中途半端な数字を出していてはダメなのです。厳しいものを提出できなければ、提案として成り立たないんですよ。中途半端な妥協案を提示して、ひっくり返されたら意味がないのです。

会議の場で正論を闘わせることはすごく楽なんですよ。カッコイイですしね。もちろん議場にあげたときに白熱することはありますよ、どの国も国益がかかっていますから。交渉がもつれて、つかみあい寸前などということもあります。でも、そこで合意を得られるような提案をいかにできるかが重要なのです」

今後、日本はどういう姿勢で世界と向き合うのですか
「日本の市場が悪いという批判があるなかで、日本だけが獲り続けたいということは言えない。やはり大事なことは、持続的に資源を利用していくための制約は、日本だってちゃんと受けますよという姿勢です。国際会議でも主張の軸をそこにもっていき、できるだけ議論をリードしていくような形にしないと、国際的な評価は得られません。ですから先頭に立って、夜中よれよれになっても原案を作るわけです。

国内では年々漁獲枠が減らされていますから、漁業従事者がかなり限界に近いことは理解しています。減船するのか、減船しないとしたらクロマグロの漁場からメバチの漁場に移ってほかの操業をするなど、どういう策を取れるかは相談して決めていきたいと思います。

消費者の皆さんにとっては、脂を乗せたまぐろ、トロが取れるクロマグロ、ミナミマグロを合わせて約2万5000tの在庫があるので、すぐに何か影響が出るといったことはないと思われます。

大切なことは『資源の持続的な利用』です。次の世代になっても同じように資源を利用できるように確保しておくということです。水産物は大事にしていけば、ずっと安定的に食べていける資源です。資源確保・資源回復を重視し、日本でも対策を立てていることを世界にアピールしていきます」

回遊範囲ごとに設立された5つの地域漁業管理機関

まぐろ類については、回遊範囲ごとに設立された5つの地域漁業管理機関、全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、インド洋まぐろ類委員会(IOTC)、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)が資源管理を行っている。
それぞれの海域に各委員会が監視船を出している。委員会に認定、あるいは登録した監視船はどこの国の漁船でも乗船検査できるようになっている。監視船には一定のトレーニングを受けたオブザーバーが乗船することもある。

まぐろ類の漁獲量と輸入量の推移
資料:FAO「Fishstat(Capture produaction 1950-2007)」(日本を除く)、農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」及び財務省「貿易統計」を基に作成