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農林水産省

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特集 野菜をめぐる新しい動き 植物工場の可能性(2)

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完全人工光型植物工場

工場や倉庫の一室が野菜畑に!


太陽光を利用せずに野菜を育てることは可能なのでしょうか。完全人工光型植物工場の栽培室をのぞいてみました。
作業風景

袋詰め作業
ロメインレタス
府中にある小津産業の植物工場。紙問屋の倉庫が人工光型栽培室に変身を遂げた。厳重な管理体制の中、洗わずにすぐ食べられる安全で清潔な野菜作りを行っている


噴霧水耕の様子
野菜工房では間欠的に養液が噴霧される噴霧水耕でリーフレタス、フリルレタス、サラダ菜の3品種を栽培。1日1000株を収穫する

秩父の遊休工場を利用した植物工場「野菜工房」
秩父の遊休工場を利用した植物工場「野菜工房」
遊休施設を利用して異業種から参入
小津産業株式会社が平成20年から販売を開始した「日本橋やさい」※ は、完全閉鎖の屋内で人工光によって栽培された野菜です。小津産業は350余年の歴史をもつ老舗の紙問屋。なぜ植物工場の運営に参入したのでしょう。

新規事業の開発を検討していた数年前、社員の熱意ある提案によって、健康・環境・食の安全に同時に貢献する植物工場が社内で認められ、グループ会社内のティッシュペーパーなどを保管する家庭紙倉庫のスペースを有効活用することで養液栽培設備が完成しました。養液栽培は土を使わずに生育に必要な肥料を溶かした養液で作物を育てる方法で、植物工場のほとんどが養液栽培です。

栽培室は、東京都下にある倉庫の3階部分のみで、広さにして約500平方メートル。室内には何列もの多段式の棚が置かれ、湛水型(栽培容器内を循環する養液に根を浸しておくタイプ)のトレーに色鮮やかな葉物野菜がみっちりと並んでいました。光源には蛍光灯を使い、室温、湿度、養分は最適な状態に自動制御されています。

栽培されているのは、非結球タイプのレタス、からし水菜、グリーンリーフ、スイートバジル、クレソン、イタリアンパセリ、ロメインレタス、ルッコラの原種であるセルバチコの8品種。完全人工光型植物工場の中でも多品種です。

いずれも播種から収穫までおよそ40日。天候に左右されることがないので、年間を通して毎日収穫が可能です。トレーごとに播種の時期を変えて並べてあるので、収穫時には収穫適期のトレーだけを引き出せばいいわけです。年間収穫数は60万株、都内の百貨店などに出荷しているそうです。

日本橋やさい

より高い安全性と付加価値を追究
次に、埼玉県秩父市の植物工場株式会社野菜工房を訪ねました。ここは工業団地にある空き工場の1階を借り、独自に開発した低コストシステムを導入して栽培室を作っています。

完全人工光型植物工場の栽培室はほぼ無菌状態なので病気や害虫が発生することはありません。したがって農薬をまったく使用することなく栽培することができます。その代わり栽培室への出入りには徹底した防菌・防虫対策を取っていて、入室前には必ずエアシャワーや温水シャワーを浴び、栽培室用の作業着に着替え、帽子、マスク、手袋を着用。昼食やトイレに行った際も、再び入室するときには必ずシャワーを浴びなければなりません。

ほとんどの完全人工光型の植物工場が室内環境を制御した完全閉鎖タイプです。農地である必要がなく、倉庫やビルの空きスペースなど遊休施設を転用して栽培室を設置できるため、企業の新規参入も増えつつあります。

現在、栽培されているのはレタスなどの葉物野菜が主流ですが、野菜には汚れがなく、捨てるのは茎の一部だけ。食品ロスも少なく、洗わずに食べられるので便利です。通年生育にムラがない無農薬の葉物が安定供給されるため、サンドイッチなどの食品加工メーカーやレストランなどで重宝されているといいます。光や養液を調節することで、特定の栄養素だけを増加させた野菜も生産可能だといわれています。今後、病院や高齢者施設などで喜ばれる野菜が誕生するかもしれません。


エグミのない野菜で「サラダデビュー」を
野菜工房社長の大山敏雄さん 野菜工房社長の大山敏雄さんは、キユーピー株式会社のOBである。野菜工房ではキユーピーが開発した植物工場のシステムと同じ噴霧水耕栽培方法をベースに、設備コストを抑えた独自のシステムで、レタス類を栽培している。栽培室内の光源には蛍光灯を使い、室温、湿度や養液の間欠噴霧は自動制御。
「目指しているのは、農業の経験もいらず、体への負担も小さい“ユニバーサルワーク”としての事業化です。新しい農業の形として就労してもらいたい。

そして、ここで作られているのがエグミもなく、洗わずに食べられる野菜です。うちの野菜は必要なときに必要な栄養分だけを与えていますから、エグミもなく甘いのが特徴。野菜嫌いな子どもにならないように、小さい頃からエグミのない野菜を食べさせたい。子どもの“サラダデビュー”の手助けをしたいですね」

さらに大山さんは「今後はエグミがないというだけじゃなく、特定の栄養素を豊富に含んだサプリメントのような野菜を作りたい」と意気込みを語ってくれた。

写真協力:小津産業株式会社