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農林水産省

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特集 野菜をめぐる新しい動き 植物工場の可能性(5)

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太陽光利用型植物工場

いままでの温室をパワーアップ!


太陽光を利用した施設なら、従来のハウス栽培といったいどう違うのでしょうか。イチゴを周年生産している植物工場を訪ねました。
いちご平ファーム

いちご

手動操作盤
「これが手動操作盤ですが、わざわざここに来なくても、スタッフそれぞれが遠隔操作できるようなシステムになっています」と語る林さん

ネットワークを通じてインターネットにも接続可能
ネットワークを通じてインターネットにも接続可能。「ノートパソコンだとキーボード操作になりますが、ゲーム機ならこんなに簡単」と倉本さんがやって見せた

監視カメラ
ハウス内のいたる所に設置されている監視カメラ。それぞれの携帯端末でも画面が確認できる
従来の温室を高度化した施設
太陽光利用型植物工場のひとつのモデルとして訪ねたのは、長野県小諸市にあるいちご平ファーム。平成20年に新設された植物工場です。

浅間山を望む標高980mの高原に広がる農地に、8棟のハウスが連なって建っていました。敷地面積は約64a。聞けばここはかつて牛の放牧地で、後継者がおらずずっと休耕地になっていた場所だったそうです。その一角を買い取り、いちご平ファームを設立したのは農事組合法人布引施設園芸組合でした。

施設園芸というのは、野菜や果物、花きをガラス温室やビニールハウスで生育環境を制御しながら栽培する園芸のことで、本来栽培しにくい場所や季節に環境を整えて生育させるという意味では、植物工場の基本形といっていいでしょう。

近年の施設園芸の施設は、内部に暖房や保温装置、自動給排水、変温装置など省力化のためのさまざまな装備を備え、コンピュータなどの導入によるシステム化も進んでいます。施設園芸の設備をさらに高度化した施設が「植物工場」という名で呼ばれているわけです。

市販のゲーム機で環境を遠隔操作
同ファームではハウス内に施設園芸生産のためのユビキタス環境制御システムを導入しています。「ユビキタス環境制御」とは、いつでもどこにいても必要な情報が得られ、だれもが大量の情報を交換することができるコンピュータ環境のこと。

従来なら温度や養液などの各装置を管理する制御装置が各ハウスに複数必要だったのですが、ここではユビキタス環境制御システムを導入することで、すべての装置を連動させ、パソコンで一括管理することが可能になりました。ハウス内の照明や温度、養液、炭酸ガスを管理する機器はネットワーク化されており、コンピュータや携帯端末でどこからでも遠隔操作することができます。

たとえば1棟のハウス内の温度を変える、照明をつけるといったときも、わざわざ制御装置がある場所まで行く必要はなく、各人がそれぞれ作業している場所で携帯端末を操作すればすむわけです。広いハウス内で作業をしているスタッフ同士の居場所の確認や、人の目が届く前に迅速にすべてのイチゴの状態がチェックできるように、いたる所に設置されている監視カメラもネットワーク化されているので、携帯端末の画面で見ることができます。そのコントロールを行う携帯端末にはノートパソコンや市販のゲーム機を使っていました。

需要時期をにらんだ計画生産が可能に
「市販のゲーム機ならポケットに入るので持ち運びが楽だし、手元で操作できます。タッチパネルなので操作もしやすいですからね」と話してくれたのは、最新のハイテク技術を提供したユビキタス環境制御システム研究会理事の林泰正さん。

この環境制御システムによって、需要に応じたイチゴの周年栽培がより確かなものになったといいます。照明と加温をコントロールすることで、それぞれの棟のイチゴの花芽をつけるタイミングや開花時期を調節し、クリスマスやお正月、雛祭りや子どもの日など、需要の多い時期に合わせて計画生産をしています。

栽培方法は高設ベンチを使用した養液栽培。土の代わりにロックウールという培地にイチゴを定植させ、養液を自動給液する方法で、「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」を中心に4種類のイチゴ7万本を栽培しています。糖度は平均15度とかなり甘いのに驚かされます。

代表を務める取締役の倉本浩行さんがゲーム機のタッチパネルを操作しながら言いました。
「ゲーム機でイチゴの栽培をするなんて、夢があると思いませんか」

ハウス内

(右)太陽の日差しが降り注ぐハウス内。夏場は室温が高くなり過ぎないよう、ハウス内の温度管理を徹底している。室温は通年25℃。光量と室温調節のためにハウスの天井は二重構造になっている

(左)夕方になり外気温が急激に低くなる頃、ハウスの内側にたたまれていた幌が降り、室温の調整が自動的にされ、15分間だけ電気をつける「間欠電照」という方法で日照時間の調整をしている

ライト
作業風景
ハイテク化されてもやはり人手は必要
ここでも完全人工光型植物工場と同じように、外からハウスに入るときには、やはりエアシャワーを浴びて衛生管理に気を使っています。けれど完全閉鎖型の施設ではないので、虫の侵入を完全に防ぐことはできません。だからといって農薬は使わずに栽培したい。

そこで自然界の法則を活用しました。葉ダニを食べるダニなどの益虫をハウスの中で放し飼いにし、病害虫を防いでいるのだそうです。

ハウスで作業するスタッフは20名。イチゴの生育環境は自動制御でも、葉かきや脇芽取り、定植や収穫は人の手で行います。農業経験がありませんでしたが、すべての株の害虫・益虫の存在を厳しくチェックしてシートに書き込むのも、イチゴを選別してピーク時には1日400~500パックものイチゴを箱詰めするのもスタッフの手作業です。

スタッフはそれぞれに作業内容を確認し合い、和気あいあいと仕事を進めていました。
倉本さんは「施設に制御システムを導入することで情報化と計画生産が可能です。耐候性のハウスは低コストで作れることが実証済み。今まで使っていた太陽光型の施設を少し高度化することで、周年安定生産が可能な施設にすることができる。そうすればもっと収益性もあがりますよ」と語ってくれました。

太陽光利用型植物工場のポイントは従来施設の高度化にあるようです。今後、このような高度な環境制御システムが既存の施設園芸で普及していくことが期待されています。

イチゴの収穫・箱詰め/手作業の技術をホワイトボードに張っている

栽培制御は自動化されていても、イチゴの収穫・箱詰めは人の手が必要だ。スタッフは苗や株の管理に必要なことを紙に書き出し、ホワイトボードに張っている。こうして手作業の技術が継承されていく