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連載6 こぐれひでこ の いただきもの絵日記

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トマト


トマト
文・イラスト こぐれひでこ


こぐれひでこ
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イラストレーター&エッセイスト。『こぐれひでこのおいしい画帳』(東京書籍)、『こぐれひでこのごはん日記』春夏篇・秋冬篇(早川書房)、『私んちにくる?』(扶桑社)、『こぐれの家にようこそ』(早川書房)ほか、著書は30冊を超える。現在は、女性向けの人気情報サイト『カフェグローブ』で、ごはんをテーマにした『こぐれひでこの毎日ごはん』を、また遊び心をテーマにした情報サイト『あそびすと』でも連載中。
トマトをもらってくれませんか」近所に住む20数歳も年下の友人から電話。

「トマトならいくらでももらうよ」と私。

「でも……」と言葉を濁す彼女。訊けば、忙しくて荷物を受け取りに行けなかったので軟らかくなってしまったのだという。

数分後、「沖縄トマト」と書かれた段ボール箱を抱えて彼女がやってきた。中には真っ赤に熟したトマトが20個も並んでいた。軟らかくなってしまったとはいえ、おいしそうな完熟トマトだ。厚めにスライスして食べてみると、酸味と甘さのバランスがよく、濃厚なうま味を感じた。しかし20個のトマトを一気に生食するのは無理。トマトソースにしたらいいかもと思い、彼女が立ち去るとすぐに、トマトソース調理に着手した。

四つ切りにした皮つきトマトをミキサーにかけてジュースにする。ジュースをフライパンに入れ、ヘラで文字が書けるくらいの濃度になるまで弱火で煮詰め、オリーブオイルと塩を加えて完成である。20個のトマトから出来上がったのは、たった700の真っ赤なソース。味見してみると、生で食べたときに感じた酸味と甘味とうま味は数段濃くなっていて、しかも素晴らしいバランスである。

パンに塗って焼く、スープの隠し味に加える、スパゲッティにあえるなど、このソースの利用範囲はとても広く、しかも確実においしさを増す。

生でよし、煮込んでよし、ソースにしてよし、トマトの底力にはいつも感心させられるねえ……と思いながら、ふと浮かんだ疑問は「どんなトマトでもおいしいか?」というもの。答えはNOだ。

残念ながら、すべてのトマトがおいしいわけではない。中には味も素っ気もないトマトが流通しているのも事実。がしかし、最近、日本のトマトは酸味と甘味とうま味、3つの均衡が保たれていて、他国で味わったことのないおいしさを持ったものが多い。生食なら、日本のトマトがイチバンうまい、これが最近、私のトマトに関する評価なのである。

我が家でも、テラスに置いたプランターでトマトを育てたことがある。雨が降ってきたらビニールシートを掛け、晴れてきたら外し、それなりに手を掛けたのであるが、残念ながらその味は胸を張れるようなものではなかった。しかし、育てたおかげで素晴らしいトマトの特性を知った。それは葉っぱのいい匂い。通りがかりに葉っぱにふれると、辺り一帯に爽やかな香りをふりまくのだ。この匂いの香水があればいいのに、何度そんなことを思ったかわからない。

トマトは色が美しい。形がかわいい。味がおいしい。香りが素敵。イタリア人がトマトをポモドーロ(金のリンゴ)と名付けた気持ちがよ~く分かる。