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農林水産省

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MAFF TOPICS(2)

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MAFF PERSON 農村派遣研修リポートNo.6

岩手県田野畑村 熊谷牧場
研修生 伊藤麻子さん
(生産局総務課)

MAFF PERSONでは、農林水産省と関連機関で働く人と仕事をご紹介します。


農林水産省では、先進的な取り組みをしている全国の生産者のもとに約1カ月にわたり若手職員を派遣、ホームステイをしながら仕事を体験し農林水産業の現状を見聞する、農村派遣研修制度を行っています。日本の農林水産業の未来を担う若者たちの活動をリポートします。

山で自由に過ごす牛たちに異常がないかを見回りながら、宗矩さんから日本の酪農が担う役割や課題など、さまざまなことを教えてもらった


山で自由に過ごす牛たちに異常がないかを見回りながら、宗矩さんから日本の酪農が担う役割や課題など、さまざまなことを教えてもらった

くがねの牧の看板

「調子はどう?」と牛に語りかける伊藤さん
「調子はどう?」と牛に語りかける伊藤さん。毎日接していると情も移る


田野畑村山地酪農研究会のプライベートブランド「山地酪農牛乳」
田野畑村山地酪農研究会のプライベートブランド「山地酪農牛乳」

宗矩さん
家庭への配達やイベント開催など、消費者とのふれあいも大切にしていると語る宗矩さん

柵が壊れている箇所を見つけ、宗矩さんと一緒に新しいバラ線に張り変える
柵が壊れている箇所を見つけ、宗矩さんと一緒に新しいバラ線に張り変える

研修期間中に生まれた仔牛にミルクを飲ませる伊藤さん
研修期間中に生まれた仔牛にミルクを飲ませる伊藤さん
山地(やまち)酪農は自然条件を活用した農法
伊藤麻子さんの研修先となった熊谷牧場「くがねの牧」は、岩手県沿岸の北部に位置する田野畑村にある。村は面積の約87%を山林原野が占める山間地。前経営者の熊谷隆幸さんは植物生態学者の猶原恭爾(なおはらきょうじ)博士との出会いを機に博士の指導のもと、昭和48年から山の斜面を放牧地として利用する山地酪農に挑んだのだった。

酪農の方法には牛舎でつなぎ飼いをする方法と牧草地で放牧をする方法があるが、全国的には放牧をしないつなぎ飼いが7割を占め、東北地方では9割以上がつなぎ飼いである。熊谷牧場では起伏のある25haのシバ草地に牛を放ち、自然の中で搾乳牛を育てている。

主に伊藤さんの研修の指導をしたのは、熊谷牧場の経営者であり、隆幸さんの長男である宗矩(むねのり)さん。父親が急峻な斜面を開墾してシバを植え、山地酪農を軌道に乗せるまでに費やした30数年の歳月を目の当たりにしてきた宗矩さんは、平成10年に東京農業大学を卒業して就農。山地酪農の継続と発展に生涯を捧げる決意で、日々汗を流している36歳の若者である。

特色のある酪農形式
熊谷牧場では、最初に種付けをする生後18カ月くらいまでの育成牛も、親牛とともに山地に放つ。牛たちは自然の牧草を食べて丈夫な牛に成長していく。山地を歩くことで牛の心肺機能が発達し、体力がつくため病気になりにくい。また四肢が丈夫になるので骨折などの事故も少なく、繁殖性にも成果があらわれるという。

伊藤さんは大学で獣医学を学び、家畜の衛生関連の研究をしていたそうだ。就職先をいろいろ考えた末、世界情勢を考察しながら、家畜衛生全体の政策立案などに関わりたい、という思いから農林水産省へ。現在の部署に配属される前は牧草地の整備を担当する草地整備推進室に所属していた。そこで放牧が見直されていることを知る。

「研修に行くなら、市場の評価だけにこだわらず、自分たちの特色をいかして生み出したものを、消費者の身になって、直接販売しているような酪農家のところに行ってみたい」

田野畑山地酪農牛乳を生産している熊谷牧場は、伊藤さんの希望にぴったりのところだった。伊藤さんが行った作業は、牛舎の掃除やエサやり、朝夕一日2回の搾乳や見回りなどの牛の日常管理、牧柵の修理、畑の草取りなど。

大局を見る姿勢を大切にしたい
毎年何人もの研修生を受け入れている宗矩さんは「酪農は牛という命に向き合い、毎日休むことなく乳を搾ることが必要な仕事です。実習では大変な作業や辛い体験をすることも大事だと考えています。あえてそれを経験させる。本当に就農すれば楽で楽しいことばかりではないので、実習時にきちんと体で覚えることを重視しています」と話す。伊藤さんは休みの日でも、ホルスタインの品評会や乳牛市場の見学などに行ったとのこと。

「山地に限らず、日本の資源を生かした酪農がもっと根づいてほしいと思っています。現状だと原油高や飼料の高騰の影響は避けられない。海外に依存している部分がかなり大きいですからね。大地に根差した酪農がもっと広がっていかないと、やはり安定的な食料生産ということにはつながっていかないのではないかなと思います」

伊藤さんはそんな若い経営者の山地酪農に対する思いと仕事に向き合う姿勢に触発された。

「今後、自分が何か責任を果たさなくてはいけなくなったとき、宗矩さんから学んだこと、ここで経験したことが私のひとつのものさしになると思います」

研修を終えて、伊藤さんは自分が得たものの大きさを振り返っている。



Photo:Atsushi Soumi