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農林水産省

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お宝!日本の「郷土」食 1 [鳥取県若桜町]

野菜、米、酒粕もすべて地元町内産

酒蔵が作る長期熟成なら漬け


琥珀色に熟成したなら漬け。

琥珀色に熟成したなら漬け。
手前がきゅうり、奥が大根各150g450円。
太田酒造場 TEL0858-82-0611
http://www1.ocn.ne.jp/~bentenmu

太田酒造場メンバー

太田酒造場メンバー。左から杜氏中島敬之さん、社長太田義人さん、先代の三郎さん、なら漬け担当の清人さん、母百合子さん、夫人の克江さん、娘陽子さん

文・写真 山本洋子
漬物好きでも「なら漬けだけは苦手」が多い。ツンとする酒の辛さに、ベッタリした甘さ。漬け物なのにご飯に合わず。ましてや酒の肴になることも、ない。

ところがこのなら漬けは違う。瓜ではなく、大根ときゅうり。色も黄金色ではなく、濃い琥珀色で熟成したコク味がある。甘みもほど良い。町の95%が森林という鳥取県若桜町の太田酒造場の一品。漬け床の酒粕は純米酒の粕で、地元産の米を使用。これに地元の秋大根ときゅうり。素材から加工まですべて作り手がわかる100%地元産仕込みだ。

決心の純米酒づくり
太田酒造場は100年前に酒づくりを開始したが、昭和の終わり、酒の需要が大幅に減少し、泣く泣く酒づくりを休造。現当主の太田義人さんは無念極まりなく、策を練ること10年。「自分たちが飲む分を仕込む」気持ちで復活を計ったという。外から杜氏を雇う余裕はなく、弟の清人さん、従兄弟の中島敬之さんの身内トリオで再スタートを切る。

「米だけの酒、純米酒がつくりたい」。醸造用アルコール、糖類、酸味料を添加した酒はつくらない。お酒はひと夏越して味がのってから売る。これが信条。

米の豊かなうまみをもつ酒は燗酒にすると真価を発揮。みそや醤油、漬け物など、日本古来の発酵食、発酵調味料を使った料理にぴたりと合う。そして漬け物にも。

米生産者はすべて知り合い
お酒のタンク、そして酒ラベルには米農家の名が記載。赤松地区の山本敬二、糸白見地区の前田寿則という具合。酒は麹に使う米と掛け米に使う米は変えることが多いが、太田酒造場では絶対にしない。「一生産者、一種類の米で仕込みます。混ぜると酒を買いにきた米農家さんがガッカリするので」と太田さん。

だからこそ、米の個性がよくわかる酒に仕上がる。酒米は鳥取県のオリジナル品種、強力(ごうりき)と鳥姫(とりひめ)に、玉栄(たまさかえ)、五百万石(ごひゃくまんごく)、山田錦(やまだにしき)の5種類。地元の契約農家に加えて、杜氏(中島敬之さん)と社長(太田義人さん)も酒米を栽培している。米の作り手の気持ちがわかるので「一粒足りとも無駄にできない!」そんな純米酒は評判も上々。わずか2タンクから始めた酒造りが、今や15タンクを仕込む。

塩で3回、酒粕に7回以上漬け直す
うまい酒だから、しぼった酒粕もうまい。この粕を有効に利用しないと勿体ない。考えたのがなら漬けだった。保存食が得意の義人さんの母、百合子さんが出雲杜氏に教わった漬け方をもとに試行錯誤。その結果、塩で3回、酒粕に7回漬け直すことにいきついた。熟成期間2~3年という。なんとも手間ではないか。

どうしてこの回数に? と百合子さんに聞くと「それがおいしかったから」と笑う。

塩で漬ける毎に塩辛さは増す。3回漬かり、塩辛さがピークを迎えると酒粕へ移す。そして7回粕を移動。新たな酒粕に漬け直すたびに塩気が抜けていく。まるでジェットコースターのよう。いったん高く上がって、降りてくるかのごとく。そして、ほどよい塩気になった時、粕漬けの風味と味わいも最上になる。完成間近になると百合子さんを筆頭に家族全員で味をチェック「まだ早い」の判断がくだると再び粕へ。最高9回漬け直したこともあるという。

蔵仕込みだから酒に合うのは当然。このままでいい佳肴になるが、お茶漬けも良し、海苔巻きの芯にも良し、刻んで豆腐とあえるも良い。漬け物のおおもと米の酒と一杯やれば、なんともおつな晩酌になる。

田植えから数えれば、どれほどの人の手がかかっているだろう。いい米はうまい酒をつくり、うまい酒から至高の酒粕漬けが生まれる。持続可能で、受け継がれていく楽しみの連鎖がここ若桜にあった。

漬け物床の酒粕は漬ける度にどんどん塩分が上がり、その役目を終えると塩を欲する牛の餌になるという。牛までもが楽しんでいるとは恐れ入るではないか。

漬け替えの履歴書   DYは「ダイコンイヤー」の略で大根の仕込み年   純米酒のタンクには米農家の名前と地域、酒米、精米歩合、酵母、仕込み状況が記載   熟成中のなら漬け樽が並ぶ漬け物蔵   蔵で栽培する田植え間近の「鳥姫」の苗

漬け替えの履歴書がこと細かく記入されていく。これは8回目の粕漬け
 
DYは「ダイコンイヤー」の略で大根の仕込み年。
きゅうりを仕込んだ年はKY
 
純米酒のタンクには米農家の名前と地域、酒米、精米歩合、酵母、仕込み状況が記載
 
熟成中のなら漬け樽が並ぶ漬け物蔵。太田酒造場の社長兼蔵人兼米農家の太田義人さん
 
蔵で栽培する田植え間近の「鳥姫」の苗。鳥取県期待の新品種