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農林水産省

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お宝!日本の「郷土」食 2 [和歌山県岩出市]

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酸っぱい味に土地の知恵あり

米から酒、そして木桶仕込みの吟醸酢


琥珀色に熟成したなら漬け。

アジにかけたのは、柚子を皮ごとすりおろした寿司飯用の合わせ酢「柚子寿司召し酢」。洋子さんが故郷田辺時代“寿司飯には柚子を皮ごとすりおろした”ことから考案。300ml 683円で販売。
九重雑賀 和歌山県岩出市畑毛49-1 TEL:0736-69-5980

文・写真 山本洋子
山岳霊場と参詣道、河川と世界遺産を有する和歌山県。温暖な気候に加え、山地では多雨地帯があり、緑も濃く豊か。海、山、川のダイナミックな自然を背景に、食の日本一をも生む。梅、温州みかん、柿、山椒の生産量は日本一を誇る。

郷土料理も無数にあるが、中でも寿司が面白い。熊野の高菜漬けでくるんだ目はり寿司。柿の産地、紀の川上流には柿の葉の押し寿司。そんな「葉っぱ寿司」の葉には、笹、芭蕉の葉、わさびの葉も使われる。これらの葉には殺菌効果があり、寿司の保存性をよくし、包むことで携帯にも重宝。昔からの知恵は合理的だ。

一方、「魚寿司」にも名物が多い。三陸沖から熊野灘に南下したさんまを頭ごと開いたさんま姿寿司。この寿司飯には酢の他、柚子や橙など柑橘類を加えるのが特徴。フルーティで爽やかな風味が身上だ。川の小魚を寿司飯にのせたじゃこ寿司、煮ふくめた鮎をのせた鮎寿司、太刀魚と昆布を組み合わせた太刀魚寿司もある。全国に寿司は星の数ほどあれど、保存性、携帯性を兼ね備えた寿司は和歌山が日本一かもしれない。

寿司飯の酢は親子の関係
和歌山では酢もバラエティに富んでいる。柚子や橙、最近ではじゃばらなど、柑橘を搾った果汁酢。南高梅など紀州特産梅干しの副産物である梅酢。どの酢にもそれぞれの風味があるけれど、こと寿司飯は、やはり米から造った米酢との相性が抜群。

「困ったときはちらし寿司」というのは和歌山の老舗酢蔵、九重雑賀の蔵元夫人・雑賀洋子さん。蔵人の食事番を務めるが、忙しい業務の合間ゆえ時間はかけられない。ちらし寿司ならすぐできるとあって、椎茸は煮たものを常備。「あとは魚、ひじき、ごまを散らすだけ。簡単でごちそうになりますからね」。主食とおかずが一体となるのも寿司の利点。

醸造酢は柿やりんごを使った果物酢、米や麦を使った穀物酢など原料、製法ともに多種多様。フランスではワインビネガー、イタリアではバルサミコ酢があり、どちらもまずワインありきだ。日本でも「酢」は「酒」と同じ部首を持つほど遠い昔から深い関係なのがわかる。

九重雑賀の酢原料は酒粕。酒から仕込む酒粕の酢だ。先祖代々引き継いできた木桶を使い、天然の酢酸菌で発酵させる。「いい酢を作るにはいい酒が必要です。いわば酒と酢は親子。だからうちの酢は酒と相性がいいんです」と、洋子さんの息子、俊光さんが笑う。

木桶の酢を守る藁の力
酢蔵の木桶は30石(5800リットル)で、杉または桜の材。その木桶をくるむのは昔から変わらず藁。

「新しい素材が出るたびに試してみるものの、藁に比べればどれも今ひとつ。藁には酢の気持ちが以心伝心なのです。暑いときは暑いなりの、寒いときは寒いなりに調整してくれます」と父、正雄さん。

長いままの藁が必要なため、近くの農家に頼んで確保。編む、組むなどの補修は蔵ですべて行う。米だけではない農家との連携プレーが酢づくりには必要となる。いい米が、いい酒になり、いい酒粕をつくり、酢の元となる。そして発酵中は藁が見守る。

上質の酢をつくるための酒粕とは? いったいどんな酒が必要なのかと尋ねた。

「極めれば粕歩合が高い、贅沢につくった酒です」だからこそ、いい米を磨いて酒を仕込む。酢を追求し始めてから酒の評判も上がったという。

酢の種類もいろいろあるが、中には酒造好適米・山田錦で醸した純米大吟醸の酒粕の酢もある。酒を仕込む酢蔵ならではの米展開だ。

今年から地元、紀の川市で山田錦の契約栽培がスタートする。

「梅酒用の梅を栽培してもらっている農家の息子さんが特別栽培で山田錦をつくってくれることに。田んぼの米から酢まで地のものでつながるようになります」と俊光さん。念願の米からの関わり、同年代だけに熱い思いも共有できる。「収穫が楽しみで」と顔をくしゃくしゃさせる。

田んぼから酢になるまでおよそ3年。米、酒、そして酢への待ち通しい道のり。ひとつの田んぼで寿司飯と、合わせる一杯ができるとはスゴイ!

田んぼの恵み、海と川の恵み、包みまで自然。食料自給率はほぼ100%。まこと日本の郷土寿司だ。


「葉っぱ寿司   「可吉(こうき)」の紀州たちうおの浜ずし   「橋豊(はしとよ)」のじゃこ寿司750円と鮎寿司

紀州には柿の葉寿司をはじめ「葉っぱ寿司」がたくさん。目にも鮮やかな笹寿司も定番のひとつ
 
紀州有田の太刀魚を昆布〆し、大葉と山椒の実を添えた棒寿司。淡白な太刀魚に爽やかな山の香りがプラス。白昆布を重ねて。
「可吉(こうき)」の紀州たちうおの浜ずし945円。
TEL:0737-82-2444
 
和歌山北部、貴志川の郷土寿司は川魚がネタ。「橋豊(はしとよ)」のじゃこ寿司750円と鮎寿司950円。じゃこといってもちりめんじゃこでなく、川の小魚。甘辛い出汁で煮含めた独特の寿司。
TEL:0736-64-7181
日本酒蔵でしぼられた酒粕を酢蔵へ移し1~2年間熟成   強靭な身体の秘訣は「お酢料理!」

日本酒蔵でしぼられた酒粕を酢蔵へ移し1~2年間熟成。その後、湯をはった桶に入れて櫂入れ作業。酒粕がなめらかになったら、別の発酵中のもろみ桶から酢酸菌を採取して入れる。酢酸菌は途絶える事なく続く。酢を守るのは藁を編んだ特製シート。巻いたり、かけたり温度調整に欠かせない。原料も道具も昔から何ひとつ変わらない
 
九重雑賀の雑賀ファミリー。左から母・洋子さん、父・正雄さん、息子の俊光さん、奥さんの桂さん。俊光さんは元ジュニアライト級のプロボクサー。強靭な身体の秘訣は「お酢料理!」