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特集 ITで拓く農の未来(6)

情報科学の分野から考える

これからの農業


熟練農家のノウハウを活用するためのシステムづくりを進める、
「AI農業」の名付け親、慶應義塾大学の神成淳司准教授に聞きました。

神成淳司准教
神成淳司 しんじょう・あつし
慶應義塾大学環境情報学部准教授。
工学博士

AI農業とは何ですか?
AI農業の「AI」は「アグリインフォマティクス」。日本語では、農業情報科学となります。

多くの文献などで指摘されているように、日本の農業技術は世界でも高水準にあります。この高い農業技術は、10年、20年、あるいはそれ以上の長い農業経験を踏まえ培われてきたものです。

また、異なる世代の農家の方々が一緒に農作業に取り組むことを通じ、それぞれの地域で継承されてきました。

ところが、核家族化や新規就農者の減少の影響を受け、このような継承の機会が減少しています。さらに、多くの熟練農家が高齢化してきているため、技術継承、後継者不足が深刻化しています。

このような時代では、熟練農家が保有する優れた農業技術を、その一部だけでも従来よりも短期間で継承していかなければならない。こうした背景を踏まえ、従来の日本の農業技術を維持する新しい方法が求められる中で生まれたのがAI農業です。

新しい方法とは?
これはひと言でいえば、高い農業技術を実現する、熟練農家の「判断能力」を継承するためのシステムです。従来取り組まれてきた、熟練農家の栽培方法のマニュアル化とは違います。ほ場の環境は、日々異なっています。「熟練農家の方々が、その環境において、どのような内容を手がかりに、農作業を進めているのか」という点を、継承しようとしているのです。

そのために、熟練農家の方々が農作業中にどこを見ているのか、どこを触っているのか、そうして、どのように農作業を実施しているのかという点を観察し、分析していきます。

例えば、作物への水やりのタイミング、芽かきのタイミングなど、「説明してください」と言われても「何となく」とおっしゃる熟練農家の方が多いのではないでしょうか。この「何となく」が、従来取り組まれてきたマニュアル化において無視されてきたもので、熟練農家の優れた判断の源なのです。

言い換えれば、従来は長年の経験が必要とされていた「何となく」を、短期間で習得できるようにすることがAI農業の役割なのです。この「何となく」に関する研究は、情報科学という分野において進められてきたもので、その成果を農業分野で活用しようという世界初の取り組みがAI農業なのです。

具体的にはどのようにするのですか?
熟練農家の方々と連携し、農作業の様子を記録します。記録には特殊なカメラやセンサー機器を活用し、農家の方々がなにを見て、どのような作業をしているのかを、時間経過と共に記録していきます。

この記録は自動的に実施されますので、熟練農家ご自身は従来通りの作業を実施していただければよいのです。

さらに、対象となる作物には生態センサーを設置し、農作業に伴い、作物の状態がどのように変化していくかを記録していきます。

例えば、熟練農家が作物のどのような状態を踏まえて、どのような作業を、どのタイミングで実施したのか。そうして、これらの作業によって、作物の状態がどのように変化していったかが記録されます。

たくさんの記録に基づいて分析をすることで、その判断をする際に何を見るべきなのかがわかってきます。作物がどの程度伸びようとしているか分かれば、そのタイミングを引き出してやれるわけです。

このように、作物をつくるときにどのタイミングでどういうストレスを与えるか、どういう成長タイミングでは水をあげないのか、いつ温湿度を変えるのか、という判断を多くの農家の方々が習得できるようにすることが、われわれの一番のテーマなのです。

何が期待できるのでしょうか
まず申し上げたいのは、AI農業は熟練農家ご自身にも大きな価値がもたらされるという点です。熟練農家もしばしば失敗をします。

AI農業は、その際にどのような要因で失敗したのか、という点を過去の状況と比較して見直すための手がかりとなります。

また、非常にうまくいった時の状況と比較していけば、ご自身の生産力をさらに高めることも期待されます。私たちは、実際に各地の熟練農家の方々と、このような取り組みを推進するための体制を整えています。この体制には、熟練農家ご自身の知識や技術に関する権利をどのように担保するかという点も含まれています。

新規就農者や経験が浅い農家にとっては、さらに大きな価値をもたらすことが期待されます。10年の経験を踏まえなければ培うことが困難であった「何となく」を、3年や5年で習得すれば、それから後の期間はさらに優れた「何となく」を習得するために費やせばよい。

そうして、日本の農業技術が今よりも優れたものとなればよい。そのように考えています。

これから、世界の人口は急速に増加します。国連は、世界人口が現状の約69億人から、2050年には90億人前後へと増加すると予測しています。この人口増大に伴い、全世界的な食料不足が訪れるでしょう。

この時点までに、優れた生産技術を背景に、日本が食料輸出国へと転化するというのは決して夢の話ではない。やらなければいけないことだと考えています。AI農業が広まっていけば、農業は、これから最も成長が期待される国内産業のひとつになると思います。そのように考え、日々、AI農業の発展に取り組んでいます。


これからの農業の可能性を拡げる取り組みが始まっています

人工衛星を活用した食味測定
石川県羽咋市
羽咋市では平成18年、民間会社と連携して人工衛星の画像データを活用して、米の食味を測定するシステム「羽咋市方式人工衛星測定業務」を開発しました。

このシステムはアメリカの商業衛星「クイックバード」が撮った稲の画像データを解析し、収穫前の田んぼの米粒に含まれるタンパク質含有量などを調査するというもの。おいしいとされる米のタンパク質含有量は「6.5%以下」が目安。低タンパク米は収穫時に仕分け、ブランド化して販売し、好評を博しています。また解析データは、施肥量の調節など次年度の栽培に反映されます。

今まで山形県や京都府などのJAや自治体などに採用され、米の品質管理に貢献しています。さらに技術料は羽咋市の収入になるため、地域の活性化にも役立っています。

衛星   衛星画像

 
衛星画像:羽咋市にあるほ場の一部を衛星で撮影した画像

羽咋市平均化ピクセル   羽咋市解析結果ピクセル

羽咋市平均化ピクセル:田んぼ一枚ごとにタンパク値を平均化したもの

 
羽咋市解析結果ピクセル:赤外線部分を解析し、タンパク分布を60cm幅で表記

農作業ロボットの開発
農業・食品産業技術総合研究機構(中央農業総合研究センター)/北海道大学大学院農学研究院
農家の人口の減少、高齢化が深刻な問題となっている今日、食料の安定供給のためには、人に代わる労働力の確保が重要な課題です。その解決策のひとつとして開発されているのが農作業ロボットです。

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した田植えロボットは、高精度のGPSと姿勢センサーが搭載され、ぬかるんだ水田でも精度の高い田植えを自動的にこなしてくれます。さらに田植え時の施肥や農薬散布の使用場所、使用量などの作業履歴を記録することもできるそうです。また、北海道大学大学院農学研究院では、GPSや姿勢センサー、GDSにより、農作業の8割以上を占めるトラクター作業を自動化する作業ロボットを開発しました。今後ますます高精度の農作業ロボットが出現することが期待されます。

GPS:人工衛星を利用して地球上のどこにいるのかを正確に割り出すシステム
GDS:地球上どこにでもある地磁気を計測する電子コンパスとして機能する地磁気方位センサー

トラクター作業を行う作業ロボット   施肥や農薬散布もできる田植えロボット   施肥や農薬散布もできる田植えロボット

トラクター作業を行う作業ロボット(左)。施肥や農薬散布もできる田植えロボット(中・右)




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