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農林水産省

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お宝!日本の「郷土」食 3

魚と塩と時間が作る

漁師の食欲の源、発酵食しょっから


発酵食しょっから

民宿北川
三重県鳥羽市畔蛸町169
電話 0599-33-6112 fax 0599-33-6563
http://www9.ocn.ne.jp/~kitagawa/

的矢湾あだこ岩がき協同組合
http://www.amigo.ne.jp/~adako21/iwagaki/


文・写真 山本洋子
伊勢志摩国立公園・的矢湾内にある畔蛸町。伊勢神宮を流れる五十鈴川と同じ水系で、タイやヒラメ、伊勢エビと豊富な魚種に恵まれる。新鮮な魚が自慢の畔蛸だが、トップ漁師の北川聡さんの密かな自慢は郷土食「しょっから」だ。文字通り「塩辛」のことだが、イカではなくサバ、イワシ、カツオで作る。魚を長期保存するための漁師の知恵ながら、漁師が減り、作る家も減りつつある。

「まごばあさん(=ひいばあさん)が名人だった」という聡さん。漁師で猟師、的矢湾あだこ岩がき協同組合の組合長、そして民宿北川のオーナー料理長、加えて田んぼ、畑を持つ農家という一人五役。一瞬たりともじっとしてない。

まごばあさんがいない今、聡さんが「しょっから」の陣頭指揮をとる。もちろん漬けるのは全部自分で獲った魚だ。

「一切れあれば、ご飯一膳食べられる!」
しょっからは4cm角ほどのブロック状態で食べる。ひと口で食べるには相当大きいが「骨つき、皮ごと口いっぱいほおばるのが一番うまい」と聡さん。「食欲の落ちる夏は、これが一番のごちそうや」

昔はどこの家でも漬けていたしょっから。その家ごとに秘伝がある。聡さんの家では、ウルメイワシは丸のまま、サバとカツオは切り身にし、傷みやすい胃袋を外してキモ、エラと漬ける。何より塩加減が大事。基本は1割だが、季節と魚の状況により増やす。重石は魚と同量から、2~3割余計にのせることもある。重いと発酵は遅くなるが、身のしまりはぐっとよくなる。そしてハエがこないようビニールで何重にも覆う。衛生が大事。長年の経験がものをいう。

代々伝わるまごばあさんの知恵
聡さんはまごばあさんに教わった方法に、安乗のしょっから名人のおばあさんから教わった方法をプラスした。「死んで秘密にするんかい、この世においてけ~って教わったんさ(笑)」

冷蔵庫のない時代の保存食ゆえ、相当量の塩をきかす。漬けた直後は塩味ばかりだが、こなれて発酵が進むと、えもいわれぬ複雑なうまみが生じる。天然アミノ酸たっぷりの発酵食品なのだ。

聡さんの塩使いを見ていると、日本人は塩を上手に生かす技術が脈々と続いてきたのがわかる。塩には脱水、滅菌、防腐、そして発酵調整という役割がある。減塩、減塩と、塩が悪者にされる風潮があるが、保存には塩が欠かせない。

5つの顔を持つ聡さんのひとつの顔は、あだこ岩がき協同組合の組合長。魚価が年々下がり続け、漁師だけでは仕事にならない時期があった。子どもたちは仕事を求め町を離れ、このままでは町から人がいなくなる。未来へつなぐ仕事がこの湾で必要。そこで岩牡蠣の養殖を考えた。

国立公園内なので環境は抜群。畔蛸だからこその味、見かけともに最高の岩牡蠣を作りたい。とはいえ、金も時間もない。そこで幼なじみの4人に声をかけた。ひとりじゃ5年かかる実験も5人でやれば1年。岩牡蠣の養殖といえば人工採苗が多いが、聡さんらが選んだのは天然採苗。外海のいい種を採苗し、畔蛸の海で育てる。手間暇かけた養殖は13年たって、伊勢神宮に奉納されるほどのブランドとなり、子息たち次世代も手伝い始めた。

そして牡蠣は副産物を産んだ。牡蠣殻の粉である。牡蠣の養殖がきっかけで田んぼの土作りが変わった。殻は業者に粉にしてもらい、田んぼの田起こしの時に入れる。田んぼは海に近い田でコシヒカリ、山の田でミルキークィーンを栽培、合計8反。牡蠣殻を入れてから「稲の茎がこわしぃ(硬く)なった。殻を入れて3年たつが、実っても穂が寝ない」と聡さん。自慢の米は甘みがあって粘りも十分。民宿と自家消費の米はすべて自家田でまかなう。海の恩恵が米にも及んだ。

脂が多い魚には藁!
旬の魚は脂が多く、塩漬けすると脂がじゃんじゃん浮いてくる。そのために脂とり用の藁を敷くという。「いらん脂が出ると、塩が効きにくくなる。そのままにすると、脂キトキトでまずくて食べられん。だから藁で吸い取るんや」

もちろんしょっから漬けに使う藁は、聡さんが自分で育てた稲。「藁は脂をよく吸うし持ち運びも軽くてええ。使わんときは燃やしてしまえばいいし、なにしろ買わんですむ(笑)」。藁は重石の下に敷きつめる。「納豆の発酵にも使う藁やしな、味にもいいかもしれんな」。2~3カ月たち脂が出ききったら藁を抜く。

そうしてできたしょっからはご飯が合う。独特の風味、なれた塩加減。ブロックだけでなく薄切りにしても、もちろんうまい。ちょっと焙るのもまた良し。これがまた、お酒にもあう。

善玉菌たっぷり!体にいい
魚を長期保存するために生まれた漁師の知恵「しょっから」。そこには長年の知恵と技がいっぱいつまっている。漁師がいなくなればこの味ごとすたれていく。漁師が漁師として生きてこそ地域がある。

「まごばあさんはしょっからを食べるたび、ひ孫のわしらに体にいいんやでいうとった」腸内の善玉菌を増やす発酵食品「今でいうヨーグルトやもんな」と聡さん。塩だけで漬けるので添加物も不用。しょっからは海生まれの自然食品だ。

まごばあさんから孫へ語り継ぐ。保存の塩梅、藁を使う知恵。伝統料理は環境が整ってこそ成り立つ。郷土料理がこうして残る地域は幸せに違いない。

ウルメイワシのしょっから   漬け込み中のウルメイワシ   牡蠣殻粉を田んぼに入れて3年   聡さんの漁師歴は長い   民宿の料理は大ごちそう

ウルメイワシのしょっからと、その漬け込み中。
「うまない魚で作ってもうまあない」鮮度、身の状態を見分けて漬けるのが肝心という
 
牡蠣殻粉を田んぼに入れて3年、茎がしっかり成長。うまい米はイノシシとて同じ。「米を食べるイノシシも食べる(笑)」時々、猟師に変身。民宿はイノシシ料理も名物
 
聡さんの漁師歴は長い。小学4年の時には鳥羽の旅館に得意先を持ち、小学校が終わるやいなやバスで売りに行ったという。「こずかいは親にもろうたことないで。銀行は太平洋!」。奥さんは津の市内から19歳でお嫁に。しょっからは嫁いで初めて食べた。「酢をかけるとほぐれておいしいですよ」
 
民宿の料理、主役はもちろん、聡さんが太平洋で釣り上げた魚介類。オニオコゼ、伊勢エビ、ヒラメ、岩ガキ…と大ごちそう