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農林水産省

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日本の篤農家 第18回

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新開玉子

農業を愛する女性たちが運営する直売店店長

生産者と消費者がふれ合う「都市農村交流拠点」となることを目指して


農家の心を伝え、消費者との絆を作る直売店を目指し、
都会でも楽しんで農業ができるよう、農業塾を開講しました。
新開玉子さん

しんかい・たまこ
しんかい・たまこ
昭和19年、福岡県筑後市に生まれる。
昭和39年、専業農家・新開康善氏と結婚、農業に従事。
平成3年、福岡県女性農村アドバイザーに認定。
平成10年、福岡県指導農業士に認定。
平成11年、仲間とともに農産物直売店「ぶどう畑」を設立、代表取締役就任。
平成13年、福岡県農業・農村振興審議会委員に就任。
平成15年、農林水産省食料・農業・農村政策審議会委員に就任。
平成17年、福岡県男女共同参画審議会委員に就任。
平成19年、農業塾開講。
平成20年、農業生産法人「合同会社みな月」設立。

農産物直売店「ぶどう畑」

就業体験2日目の地元の中学2年生

この日は地元の中学2年生の就業体験2日目だったそうだ

自ら栽培している梅で作った玉子ブランドの梅酒

自ら栽培している梅で作った玉子ブランドの梅酒

店舗の前はイベントができる広いスペースがある

店舗の前はイベントができる広いスペースがある
新開玉子さんが社長兼店長を務める農産物直売店「ぶどう畑」は、福岡市南区の住宅街にあった。買い物客が次々に出入りする店の前に置かれた台の上の野菜は、ほぼ完売状態。店内に笑顔で接客している赤いエプロンに絣(かすり)の法被姿の女性がいた。新開さんである。

新開さんは20歳のとき、筑後市の農家から、代々福岡市内で米やぶどう、梅を栽培している新開家に嫁いできた。農家の嫁として日々を務めるうちに、田畑が多かった周辺地域も開発が進み、どんどん住宅地に変わっていく。

「農家を続けるより土地を売ったほうが楽になる。でも、それは一時のことでしょ。農地は一度失われたら元に戻らない」

何としても自分たちだけは農業を続けようという思いが強くなったという。

新開さんは周辺に残った農家の女性たちとともに勉強会を開き、庭先で朝採り野菜の直売も始めた。「安心して食べてもらえる農産物を作ろうと努力している農家の人の思いを届けたい」。そんな思いから、都市部の消費者と目に見える形で結びつく方法を模索した。

40代を迎え、仲間たちと本格的な農産物直売店を開設しようと決意。そして、平成11年7月、農産物直売店「ぶどう畑」をオープンさせたのである。54歳での起業だった。

「ぶどう畑」には九州全土から農産物が集まってくる。「アンテナショップとしての役割も果たすために、各地の直売所、市町村などからの出荷も受け付けています。ここはすでに都市化しているでしょ。生産者さんの畑に出かけて、お客さんたちに収穫体験もしてもらっているんですよ」と新開さん。「ぶどう畑」では毎年、イチゴ狩りや芋掘り体験ツアーを行い、生産者・消費者の交流の機会を設けているそうだ。

また、併設されている厨房・喫茶スペース「みな月」では、生産者直送の米や、旬の野菜を使った惣菜や弁当が売られている。一人暮らしの人や高齢者に便利な少量パックの惣菜が人気だ。農家に伝わる伝統料理や行事食の継承と普及にも力を入れているという。

新開さんの農地は1.9ヘクタール。農地は店舗脇のほか、周辺に点在している。「店にいないときは田畑で農作業中です」と新開さん。現在は米、ぶどう、梅、野菜の栽培のほか、加工品も作っている。

店舗の近くの畑は農業塾の畑だという。指導農業士でもある新開さんは3年前に農業塾を開講した。

「都市部に住む方たちの中にも農業に興味を持っている方はいます。女性や定年退職した方が気軽に受講できる農業塾があってもいいのではないかと思ったのです」

農業塾では春先に受講生を募集し、主に野菜の栽培を学ぶ。受講生にとっては、自分で作った野菜が収穫できただけでもうれしいことである。それが店に並び、売れたときの喜びはひとしおだ。

農業塾の運営と並行して、新開さんは農業法人を作る計画を進めた。本格的に就業したいと考える人たちの受け入れ先を考えてのことだった。平成20年、念願の農業法人を設立。

「農家の嫁から直売店の運営。その先にまさか農業法人という人生のステージが待っていようとは思わなかった。後継者に譲らないのかなんて、よく聞かれるけど、これからが面白いのに、そんなもったいないことできませんよ」

とても65歳には見えない、意欲的な方だった。

Photo:Kouji Kinoshita