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農林水産省

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affインタビュー 第43回

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井田宏之さん

爆発的な増加によって北海道に深刻な被害をもたらすエゾシカ。
この現状を憂え、シカと人間の共生に取り組む井田宏之さんにお話を伺った。

被害対策を推し進めたいこの時期こそがチャンス!
森の恵みととらえる新たな視点で環境保全と経済活性化につなげたいですね。
井田宏之さん
いだ・ひろゆき
昭和29年、北海道・札幌に生まれる。東京農業大学畜産科卒業後、乳牛飼育・バター製造会社に入社、その後は羊飼育管理・食肉衛生管理加工、電気柵など動物用フェンスを製造する会社を経て、平成12年社団法人エゾシカ協会事務局長に就任し、現在に至る。西興部村猟区開設、エゾシカ食肉事業協同組合、エゾシカ有効活用推進連絡協議会などにも関わり、エゾシカ料理祭や啓蒙のためのセミナー、シンポジウムなどのプロデュース、冊子、パンフレット制作など、エゾシカとの共存と理解のために日夜奔走している。

エゾシカ衛生処理マニュアル

エゾシカ衛生処理マニュアル

エゾシカシンポジウム

エゾシカシンポジウム

エゾシカシンポジウム

北海道森林管理局主催で行われた「エゾシカシンポジウム」。「エゾシカとの共存を考える」ことをメインテーマに、講演とパネルディスカッションが開催された。休憩時間にはエゾシカ肉の試食会も開かれ、「おいしい!」と大好評。
案内されたエゾシカ協会事務局は住宅街の一画にあった。緩やかなスロープで外部とそのままつながる半地下の部屋には、エゾシカの角や毛皮、無造作に積まれた大量の本、奥にはキッチンまであってまさに男の隠れ家。作戦を練る秘密基地のようでもある。この居心地良い空間で、事務局長の井田宏之さんにお話を伺った。

本誌特集1でも取り上げている、北海道でのエゾシカの農林業被害の問題に、「エゾシカ協会」という民間団体の一員としてさまざまな角度から取り組む、今北海道で最も忙しい人のひとりである。

ヨーロッパの視察が被害対策のヒントに
「協会設立の前、エゾシカの被害が拡大しだしたときに、大学の教授らとヨーロッパのシカ猟や森林管理を視察したんです。そこで特に感動したのは、シカを森のものとする認識です。

豊かな森のバランスを保つためにシカを撃つ。撃ったシカは森の恵みとしてありがたくいただく。シカ猟とシカ肉食が生活の中に定着しているんです。ところが、日本では撃ってもなかなか食べてもらえません。大昔は日本でも庶民がちゃんと食べていたんですよ。でも今はシカ肉を食べる習慣がないですから」

そこで協会は、発足直後からシカ肉の有効利用を積極的に推奨。その大きな成果が平成18年に北海道が全国に先駆けて策定した「エゾシカ衛生処理マニュアル」だ。

衛生処理マニュアルで安心の野生肉をアピール
「シカ肉は、ヨーロッパではジビエ(狩猟鳥獣肉)と呼ばれる最高級食材です。しかも鉄分や良質のたんぱく質が豊富で低脂肪、低カロリー。とてもヘルシーで、味もよい。ちなみに皮も角も利用できるエゾシカを年10万頭活用できたら北海道におよそ100億円の経済効果が見込まれるんです。今のままではもったいないでしょう」

「ところが野生のシカ肉は家畜の牛や豚肉、鶏肉、馬、羊などに適用される『と畜場法』の範疇外。食肉処理のルールがないから衛生面などに不信感を持たれ、小売店では扱ってくれません。それではどんなにシカ肉のうまさを宣伝しても消費者には届かない。そこで北海道が全国で初めてガイドラインを定めたのです」

現在、この「エゾシカ衛生処理マニュアル」の厳しい基準をクリアした処理工場は道内に8社。ここで処理した肉は、協会が推奨し、推奨マークの使用を許可している。

「マークはあくまでも我々民間団体のものですが、このシステムができてすぐ、デパートの地下食品売り場で販売されたのはうれしかったですね。その後はエゾシカ肉を取り扱う飲食店も増えました。僕はこれこそが環境保全と経済活性化につなげる第一歩だと思うのです」と、井田さんはうれしそうに語ってくれた。