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農林水産省

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お宝!日本の「郷土」食 5 [富山県氷見市]

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日本のアンチョビ!

地魚+伝統の発酵技 糠漬けイワシ


糠イワシ

糠イワシ。全長10cm、10匹入り530円

柿太水産
富山県氷見市北大町3-37
TEL.0766-74-0025
http://www.kakita-himi.net

文・写真 山本洋子
目刺、丸干、煮干、つみれ、酢漬け、魚醤(しょっつる)と、姿形を変え、日本人の食と深く関わってきたイワシ。塩、乾燥、発酵とさまざまな加工方法で親しまれている。

富山県氷見の定番は糠漬け。氷見といえば暮れから正月にかけて寒ブリで大賑わいする町だが、この時期おいしいのはブリだけではない。

「寒中になると、イワシの身がしまる」というのは柿太水産社長の柿谷正成さん。加工場の一角には小ぶりの木桶がずらりと並ぶ。中身はすべてカタクチイワシの糠漬けだ。

この地ではサバやイワシを糠漬けで保存する。地元名は「こんか漬け」が伝わる。イワシといってもマイワシが主で、小さなカタクチイワシを漬けることはなかったという。

とびきりのカタクチイワシに出会って
「昔、氷見で獲れたマイワシの糠漬けは最高だった」と正成さん。脂が多いため、どんなに塩をしても塩辛くならず、うまみ豊かに発酵したという。今はマイワシが最盛期の10分の1と激減。

ある冬、上等のカタクチイワシが大量に市場に上がった。何かおいしく加工できないかと糠漬けにしたという。やるからにはとびきりうまくと考えぬいた。しかし大きなマイワシとは勝手が違う。カタクチイワシは身が小さく、脂も少ない。今までの作り方では塩辛くなりすぎる。とはいえ、塩が弱ければイワシが傷み、塩が辛いと売り物にならない。

地元産品とコラボ!
カタクチイワシを本格的に漬けるにあたり、まずは道具を整備。発酵に適した木桶は醤油蔵から、重石は建築業者から譲り受けたという。漬け床の糠は、地元氷見・角口農産の農薬不使用栽培コシヒカリの糠。それを煎って香ばしさをプラス。そこへ氷見産のはと麦、白麹、唐辛子を配合。塩加減は代々伝わる量を基に調整。こうしてできた乳酸菌たっぷりの糠床に、正成さん自ら市場で競り落とした鮮度抜群のカタクチイワシを漬けた。

糠漬けは発酵するとガスが出るため、漬かり初めは重石がごろごろ落ちる。拾っては載せ、落ちては拾ってを繰り返すこと数十回。重石が弱すぎればひと樽まるまる駄目になる。発酵が落ち着くと、水分が上がり、脂が浮いてくる。蒸発する水分の補充は海洋深層水を使い、脂はすくう。こうして手をかけながら、3~6カ月熟成させ、夏の盛りに食べ頃になるのだ。

日本のアンチョビを提案
複雑なうまみでいっぱいの糠漬けイワシは、いわば日本版アンチョビ。そのまま食べるだけでなく、トマトソースに加えるとコクが出て調味料代わりにもなる。商品名のキャッチコピーに「氷見のアンチョビ」とつけたところ、東京のアンテナショップでヒット商品になった。コピーを考えたのは柿谷政希子さん。正成さんの次女、柿太水産6代目だ。

正成さんにお奨めの食べ方を尋ねると「糠ごと炙って三杯酢が万人うけするがな、わしは糠を落として生で食べるのがおいしいな」

糠ごと炙ると表面カリッと香ばしく、中はジュワッと塩けがきいた複雑なうまさが広がる。これには純米酒の燗酒がぴったり。1尾あれば1合いけるという。

イワシでボッシーニ運動

政希子さんは煮干の復権を願って小学校で出前講座を行っている。氷見の小学生なのに煮干を知らない子が増え、煮干を見て「金魚? 気持ち悪ぅ」だという。だが子どもは正直。おいしさがわかった途端、我れ先にと手をのばして食べる、それがうれしい。「おいしい感動はお母さんに伝えるはず」と政希子さん。ちなみにボッシーニとは政希子さんが名付けた煮干の愛称だ。

年に一度のめぐり合い

柿太水産の煮干は美しい銀色が特徴。12月の暮れから正月にかけての、身がしまって脂が少ないカタクチイワシを選んで加工する。脂が多いと酸化し、きれいな味にならず色も味も変わりやすい。「春3月、4月の身のゆるんだイワシだと、きれいな仕上げにならない」と正成さん。

糠漬けにするイワシは脂がちょっとあるほうがおいしい。とはいえ身がしまってないものは論外。だから糠漬け用は1月末~2月末限定という。上質な脂のノリ、さらに身のしまったものはこの時期の恵み。「年に一度のめぐり合い。冷凍ものを使うわけにはいかない」。魚はいつでも旬、ではない。いい時期に必要な量を海からいただく。それが正成さんの考えだ。味の個性を生かし、脂がないからこそ上等な煮干になる。そして脂がのったら糠漬け。寒の時期内で見極めが大切という。カタクチイワシという小さな命。どちらも丸ごとすべてを生かした伝統食。捨てる部分は一切ない。だからこそ素材の力がものをいう。ご飯と米の酒と相性抜群のイワシには、日本人の知恵と技がたっぷりつまっている。

日本人の食と深く関わっているイワシ