このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

特集 鳥獣被害対策を考える(1)

  • 印刷


この夏、静岡県の東部に噛みつきサルが出没し、ケガ人が100人に達したというニュースは記憶に新しい出来事でしょう。
またクマが人里に出没し、相次いで襲われたというニュースもたびたび耳にします。
近年、日本各地で野生動物が人に危害を加えたり、農作物を荒らしたりする問題が急増しています。
野生動物による被害を防止するために、平成20年2月に「鳥獣被害防止特措法(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律)」が施行されました。
農林水産省では、被害防止計画を定めた市町村に対して、計画に基づく被害防止の取り組みを積極的に支援しています。今回は野生動物との関わり方も含め、被害の現状や対策に向けた新たな取り組み事例を報告します。
鳥獣被害対策を考える

道路や住宅地近くに出没する野生動物

道路や住宅地近くに出没する野生動物

魚の個性を楽しもう!

※1 鹿威し
よく知られるものに、水力を利用して音を発生させる「添水(そうず)」と呼ばれる竹製の仕掛けがある。現在では音を楽しむ風流な道具として、日本庭園などに設置されている

猪鹿垣/猪鹿土手

※2 猪鹿垣 ※3 猪鹿土手
耕作地の周辺に石垣や土塁などを積み上げて造った浸入防止の防護壁。写真は広島県呉市安浦町の内平・原畑地区に残る猪鹿垣遺構。江戸時代後期、集落全体を囲むように造られたという。写真提供/福本俊彦(前安浦町文化財保護委員長)


昔からあった野生動物による被害
野生動物による被害は、何も近年顕著になった現象ではありません。

『桃太郎』『カチカチ山』『猿かに合戦』をはじめとする日本の昔話には、サルやタヌキ、シカ、イノシシ、クマなどが数多く登場します。野生動物は現代よりはるかに身近に存在する生きものだったのでしょう。それだけに被害に苦しんだ記録も多数残されています。

豊臣秀吉の「刀狩令」や徳川綱吉の「生類憐みの令」が下されていたときでさえ、「脅し鉄砲」や獣害駆除に使用するための大量の火縄銃が村々に貸し出されていたといいます。

里山に隣接する集落には、いたるところに「鹿威し」(ししおどし※1)が置かれていましたし、また農地を囲むように、シカやイノシシの侵入を防ぐための「猪鹿垣」(ししがき※2)や「猪鹿土手」(ししどて※3)が設けられていました。江戸時代に盛んに造られた苦心の跡は今も各地で見ることができます。

江戸時代中期の八戸藩では凶作に加え、イノシシとシカの被害によって飢饉さえ起きています。里山に囲まれた農村では日常的に野生動物の被害に直面してきました。

近年被害が増加しているわけ
以前は、里山と接し、林に囲まれた耕作地に顕著だった野生動物の被害が、近年そのエリアを広げています。

かつては里山だけでなく、さらに奥深い山にまで炭焼きや樵(きこり)、狩猟を生業にする人々が出入りしていました。野生動物にとっては人間やその気配は脅威だったに違いありません。狩猟による個体数の調整も自然に行われていたと思われます。

現在、狩猟は免許制となり、猟期や猟法などに厳しい規制があります。日本の狩猟人口は減っていますし、ベテランの狩猟者は高齢化しています。

また、少雪化や暖冬傾向によって生息適地が拡大したことで、シカやイノシシなど特定の野生鳥獣が著しく個体数を増加させています。さらに近年の中山間地域の過疎化、耕作放棄地の増加などが、野生動物に潜みやすい環境を与えています。

野生動物にとって昔以上に、本来の生息域と人間の集落との境界線がどんどんなくなっているのではないでしょうか。これらさまざまな要因が複合的に絡み合い、都市や平野部にまで野生動物が出没するようになったと考えられています。

Photo:Atsushi Soumi


昔からあった野生動物による被害

農作物の被害の現状


農作物の被害の現状
平成20年度の調査では、野生動物による農作物の被害面積は約10万ヘクタールに及ぶという結果でした。東京都の約半分の面積に匹敵する田畑が被害に遭っていることになります。

被害量はおよそ49万トン。米どころとして知られる新潟県の米の年間生産量が約63万トンであることを考えると、被害量も決して少なくありません。被害金額は199億円に及びます。

農作物に被害を与えているのは、シカ(特にニホンジカ)やイノシシ、サルのほか、クマやハクビシン。飼育放棄されて野生化したアライグマによる被害も報告されています。鳥類ではカラスやカモの被害が深刻です。

農村では追い払いや侵入防止柵・防止網などを設置して被害防止に努めていますが、被害の激減にはいたっていません。


「海のギャング」は保護動物


「海のギャング」は保護動物
特別天然記念物や絶滅危惧種に指定された動物による被害の場合、個体数の保護を念頭に入れなければならず、対策に苦慮する例も少なくありません。

北海道ではトドによる漁具の破損、漁獲物の食害などに漁業者が頭を悩ませています。ここのところ、その被害金額は北海道だけでも年間10億円以上となっています。

しかし、トドは環境省のレッドデータブックで絶滅危惧II類に指定されており、むやみに捕獲することはできません。

そこで、絶滅を避けるための許容間引き量を科学的に算出し、その結果に基づいて毎年の捕獲可能な頭数を決め、漁業被害に対応しています。


ニホンジカによる森林被害


ニホンジカによる森林被害
野生動物による森林被害のうち約6割がニホンジカによるものです。

ニホンジカによる主な被害は枝や葉、冬場のエサとして樹皮を食べるといった食害のほか、オスジカが角を木にこすりつけて樹皮を剥ぐといったもの。枝や葉を食べられた樹木は生長が阻害されますし、樹皮が剥がされてしまった樹木は枯れてしまったり、材質が悪くなり、木材としての利用価値が失われるなど、経済的な損失は甚大です。

実はこうした林業被害だけでなく、森林の下層植生が失われたり、土壌が侵食されるなど、森林生態系への影響も出ています。

シカの増加はシカ猟に精通した狩猟者の減少も要因のひとつです。防護柵や防護ネットの設置など予防策を進める一方、専門知識に基づいた個体数の調整が必要となっています。


繁殖力旺盛な「川の捕食者」カワウ物


繁殖力旺盛な「川の捕食者」カワウ
近年、カワウの生息域が拡大するとともに被害が年々深刻なものとなっています。カワウは体重2kg前後、体長80cm余りの魚食性の大型種です。群をつくって集団で過ごし、1羽で1日あたり500gもの魚を食べる大食漢。高い潜水能力をもち、放流されたアユやアマゴ、ウナギだけでなく、養殖されている錦鯉なども狙います。全国内水面漁業協同組合連合会によると平成16年の被害額が45億円だったのに対して、平成20年には実に103億円に増大しています。

コロニー(営巣地)では巣作りのための枝折りや糞によって樹木が枯死し、土壌・水質汚染、悪臭など被害は広範にわたります。

繁殖力や移動能力が高く、花火や防鳥糸、銃を用いた追い払いなどの実施では間に合わないのが現状です。近年では巣の中の卵を擬卵に置き換えたり、ドライアイスで凍結させるなど、ふ化を抑制する対策が講じられています。