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農林水産省

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特集 鳥獣被害対策を考える(3)

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対策その2 野生動物を近づけない

休耕地を利用したカウベルト


草が生い茂り、見通しが悪い休耕地は、野生動物が身をひそめるにはかっこうの場所です。
そんな休耕地を有効活用する鳥獣被害対策を取材しました。


対策その2 野生動物を近づけない
緩衝帯には出産間近の黒毛和牛が放牧されていた

地図

カウベルトを囲う電気柵はソーラー電池で稼働している

カウベルトを囲う電気柵はソーラー電池で稼働している

エサの時間になるとエサ場にやってくる牛たち

エサの時間になるとエサ場にやってくる牛たち

畑に侵入したイノシシの足跡

畑に侵入したイノシシの足跡。イノシシはネギ畑やこんにゃく芋の畑を踏み荒らす
畜産農家の協力を得て
鳥獣被害対策のひとつとして推進されてきたものに、カウベルト事業があります。これは、中山間地の耕作放棄地や未利用地に牛を放牧し、緩衝地帯をつくることで、野生動物を農地や人家に近づけないようにする試みです。

牛(カウ)を放牧する地帯(ベルト)を設置することから、「カウベルト事業」と呼ばれたり、また畜産農家から借り受けた牛を放牧するので、「サポートカウ事業」などと呼ばれてきました。

イノシシやサルの被害に遭っていたある地域では、田んぼと山の間に広がる休耕地を電気柵で囲んで牛を数頭放牧したところ、牛が草を食べることで辺りの見通しがよくなり、田んぼなどの周辺にイノシシが出てこなくなったと聞きました。

牛と地域、双方に好影響
実際にカウベルトを取材するために、平成19年度からこの対策を実施している群馬県下仁田町を訪ねました。

下仁田ネギやこんにゃくが特産の下仁田町。この町でも農業人口は年々減っており、高齢化も進んでいます。休耕地が増え、イノシシやサルによる被害が十数年前から急激に増加。本格的な対策が必要でした。

下仁田町役場農林建設課の岩井実さんが案内してくれたのは、下仁田町虻田(あぶだ)地区。電気柵に囲まれた山際に広がる草地で、牛がのんびり草を食べていました。

1.5ヘクタールほどの広さに放たれているのは、畜産農家から貸し出された繁殖牛。出産を控えた繁殖牛には栄養価の高い飼料も必要です。そのため、休耕地の草だけでなく配合飼料なども与え、エサの管理はきちんと行っているといいます。

「牛を放牧した緩衝帯を設けたことで、イノシシやサルが出てくる回数が減りました。牛も適度な運動をしながら過ごせます。畜産農家さんからは、ここで放牧した牛は繁殖力が上がっていると聞きました」

イノシシやサルも含め、牛が放牧されている場所を避けて出没する野生動物に対しては、田畑を電気柵で囲むなど二重にも三重にも複合的に対策を講じているといいます。岩井さんは、今後もこうした緩衝帯を設けるだけでなく、同時に野生動物の被害に遭いにくい農地づくりを積極的に進めていきたいと話してくれました。



ガバメントハンターでもある下仁田町役場農林建設課の岩井実さん

ガバメントハンターでもある下仁田町役場農林建設課の岩井実さん。猟銃とワナの免許を取得し、檻の設置や移動、メンテナンスを行っている
ガバメントハンターの導入
下仁田町では平成21年に133頭のイノシシを捕獲しました。捕獲用の檻やワナを仕掛ける場所や道具のメンテナンス、捕獲した野生動物の処理には専門知識が必要です。現在下仁田猟友会には50名ほどのメンバーがいるそうですが、そのほとんどが高齢者。各自仕事をもっていれば、すぐ出動できるとも限りません。

そこで下仁田町では猟友会の負担を減らし、捕獲後迅速に対応するために、職員を「ガバメントハンター(公務員ハンター)」に指名し、狩猟の有資格者を養成する取り組みも実施しています。


北海道のエゾシカ対策
北海道のエゾシカ対策
エゾシカは北海道全域に広く分布するニホンジカの亜種。本州以南に生息するほかのニホンジカに比べ圧倒的に大きく、オスは体重150kg、全長190cmに達する国内最大の草食動物です。通常オスは単独で、メスは家族群を作って暮らしていますが、繁殖期に入ると一夫多妻のハーレムを作ります。メスは早ければ満1歳で繁殖が可能となり、その後毎年1頭の子どもを産みます。

エゾシカは明治初期、乱獲と豪雪による大量餓死が重なって一時は絶滅寸前まで激減し、昭和中期まで長く禁猟とされた特有の歴史があります。その間、天敵であるエゾオオカミが害獣として徹底的に駆除されて絶滅。繁殖力の高いエゾシカは爆発的に増え始め、現在、推定生息数は50万頭以上といわれています。

その結果、森林や草地にある特定の植物を食べ尽くし、世界自然遺産・知床半島などでは希少植物群落の食害も深刻化しています。若木の育成も全く期待できない状態となり、植生そのものに影響を及ぼすだけでなく、ほかの小動物や昆虫が生息する環境も変えてしまうほどになっています。

そして、エサを求めて人の生活範囲に入り込むことによって、道東地方を中心に多大な農林業被害をもたらし、その被害総額は50億円を超えてしまいました。自動車・列車との衝突事故が多発。大型動物のため衝撃も大きく、人の死亡事故も起きています。

エゾシカの増加を止めるには捕獲による個体数調整しかありません。しかし、狩猟者は減少・高齢化し、「趣味の狩猟」とボランティアに頼る「許可捕獲」だけではもはや限界といえる状況です。

そこで、北海道ではエゾシカを単なる「害獣」ではなく、「持続可能な地域の自然資源」として個体数調整を進める取り組みを始めました。

その一環として平成18年、捕獲したエゾシカを安全でおいしい食肉に加工するために全国に先駆け、独自の衛生処理マニュアルを作成。エゾシカ肉を北海道の特産物として定着させていこうという活動が始まったのです。

野生の獣肉を加工して食品化するには、食品衛生管理の面でさまざまな規制があり、全国で捕獲されたイノシシやシカのうち、食肉化されているのはその2割にも満たないという現状です。全国で統一された獣肉加工処理に関わるガイドラインが定められていないなか、北海道ではエゾシカを扱う食肉処理工場を専門検査員が厳しくチェックし、製品化しています。

今、北海道ではエゾシカ料理が楽しめるレストランやエゾシカ肉を買えるお店が、徐々に増え始めています。