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農林水産省

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特集 鳥獣被害対策を考える(4)

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対策その3 地域の共通認識を武器に

農家が率先してできる対策が重要


サルやイノシシの被害に地域住民が一丸となって立ち向かった島根県邑智(おおち)郡美郷町。
人々が絆を深め合い、地域ブランドの確立をも実現させた地域の力を紹介します。

対策その3 地域の共通認識を武器に

地図

美郷町役場産業振興課の安田亮さん、井上雅央さん、婦人会のメンバー

美郷町役場産業振興課の安田亮さん(後列右)。婦人会のメンバーからは「亮ちゃん」と呼ばれて親しまれている。10年以上、鳥獣被害対策を指導してきた井上雅央さん(後列左)。婦人会のメンバーとは軽口を叩き合う仲だ。この日集まってくれた婦人会のメンバーと。前列右が会長の安田兼子さん

青空サロン市場

青空サロン市場

手弁当でお父さんたちが建てた「青空サロン市場」。毎週水曜日の午前中、各農家が収穫した野菜が販売される。直売所というより「おしゃべりの場」だそうだ
農家主体の対策を講じて
雲が低くたなびくつづら折りの下に町が見えました。島根県のほぼ中央に位置する美郷町は、江の川のほとりに集落が点在する、住民6000人に満たない山あいの町です。

美郷町役場産業振興課の安田亮さんの説明では「美郷町は前回の国勢調査では高齢化率約41%、人口減少率は約10%の超高齢化の町で、地産地消運動も消費力が弱くて需給バランスに欠け、活発な経済活動も生まれない。悲観的な要素はいくらでもあります」

けれど、この町の鳥獣被害対策の取り組みは、優良事例のひとつとして高い評価を得ています。

「地域づくりができていないと、鳥獣被害対策は成果がでないと思います」と安田さん。

集落に深刻な被害を及ぼしているのは、主にサルとイノシシ。「町や猟友会に言えば何とかしてもらえる」という住民の意識変革も必要だと感じた安田さんは、平成12年、それまで猟友会に依存していた鳥獣被害対策への意識を改め、農家主体の対策の実行を決意します。農家にもワナ免許の取得を勧め、対策方法を学んでもらう機会をいく度となくもちました。

キーパーソンは農家の女性たち
鳥獣被害対策のコツを指導したのは井上雅央(まさてる)さん。独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・近畿中国四国農業研究センター鳥獣害研究チームの元チーム長です。

安田さんと井上さんが口を揃えて言うには「キーパーソンは農家のお母さんたち」。「お父さんは自分が聞いたらそれでおしまい。ところがお母さんたちは、勉強会で学んだことを家に帰って家族に話すし、近所の仲間とも話し合ってすぐに実践するんですよ。農家の女性の参画が被害対策成功の鍵です」

井上さんの指導のもと一丸となって、建築用の金網を折り曲げて細工を施したイノシシ避けの柵を手作りし、サルの侵入を防ぐ防護ネットにも工夫を凝らしたほか、サルやイノシシから守りやすい栽培技術への改善やサルの追い払いグッズの活用により、サルやイノシシに強い畑づくりに取り組みました。

その対策を先進的に実践したのが吾郷(あごう)地域婦人会でした。婦人会会長を務める安田兼子さんは「とにかくみんなが同じ気持ちになることが大切。自分の畑さえ被害に遭わなければいいというものではありません」。婦人会では鳥獣被害に強い畑づくりを学ぶ実習ほ場を借り、「青空サロン」と名づけました。共通の野菜づくりを通して、地域の絆が強くなり、青空サロンは今では欠かせないコミュニティー空間になっています。

住民のパワーこそ地域の資源
「この方法がダメなら、ほかの方法も組みわせる。鳥獣被害対策は足し算です。あきらめないことが肝心」と井上さん。

数々の対策を実践してから、収穫される野菜や果樹は確実に増えていきました。被害に遭ったことで野菜づくりをあきらめていた休耕地に再び種がまかれるようになりました。

また、美郷町では使われていなかった町所有のカモの食鳥処理施設を活用し、処理技術の研修を重ねた結果、捕獲したイノシシを新鮮な食肉に加工しています。現在では全国の高級ホテルやレストランから発注があるほど、人気の地域ブランドに成長しました。

安田さんは言います。「大切なことはイノシシ肉をブランド化したことより、被害を防いで農作物を収穫できることと、その過程で高齢の方が生きがいを見つけたり、地域で楽しみを共有し合う暮らし方を再認識したことです」

活動報告や町の出来事を伝える「青空通信」も発行

  田んぼの周囲に張り巡らされたイノシシ避けのトタン柵

活動報告や町の出来事を伝える「青空通信」も発行

  田んぼの周囲に張り巡らされたイノシシ避けのトタン柵

「青空サロン」と名づけられた実習ほ場。ここで被害対策のさまざまな試みがなされた。サルの体重でしなる支柱とネットを用いた防護ネットで囲われている

   
「青空サロン」と名づけられた実習ほ場。ここで被害対策のさまざまな試みがなされた。サルの体重でしなる支柱とネットを用いた防護ネットで囲われている    

おおち山くじら

青空サロン市場
おおち山くじら
古くから「ぼたん」や「山くじら」と呼ばれ食べられてきたイノシシ肉。美郷町では「おおち山くじら」というブランド名で商品化し、安藤広重の浮世絵を基にデザインされた商標も登録した。美郷町では学校給食にもイノシシ肉が出る。

おおち山くじらのホームページ
http://oochiyamakujira.hanamizake.com/