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お宝!日本の「郷土」食 8

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冬が旬!熊野灘朝漁(ど)れサンマの丸干し


漁獲から加工まで「漁師の一貫丸干し」

漁獲から加工まで「漁師の一貫丸干し」

長栄丸

長栄丸
三重県熊野市遊木町31
TEL.090-3156-3195
FAX.0597-87-0778
http://www.choueimaru.jp/

「冷凍庫、乾燥機は使いません・・・というか持ってないんです(笑)」

「冷凍庫、乾燥機は使いません・・・
というか持ってないんです(笑)」

棒受け網漁で夜明け前に漁獲する「朝漁れさんま」にこだわる

棒受け網漁で夜明け前に漁獲する「朝漁れさんま」にこだわる

サンマ1本300円。10本入と20本入箱がある

サンマ1本300円。
10本入と20本入箱がある

文 山本洋子/
写真 濱中一茂・朋美 宮崎達也 山本洋子
秋の味覚の代名詞と言われるサンマ。落語『目黒のサンマ』でもおなじみのように「脂がのってうまい」が売り文句。それと逆なのが熊野のサンマ、11月下旬~の冬が旬で「脂がなくてうまい!」のです。旬と味は土地によって変わることを知りました。

北海道から南下して紀州沖までたどりついたサンマは、脂肪分少なめのスリムボディが身上。それを生かしたご当地名物のひとつがサンマ姿寿司。柑橘果汁を加えた爽やかな寿司飯に、尾頭(おかしら)付きという楽しさ。そして郷土の味、もうひとつがサンマを丸ごと干した干物です。包丁を入れずに干した正真正銘の丸干しで、どこにも切れ目がなく、初めて見たときはビックリ仰天。現地でいろいろ売られていますが、中でも美しさに感動したのが長栄丸の丸干し。それは光輝くシルバー色!

殺菌海水装置と冷海水
なぜそんなに美しいのか、輝きの秘密を長栄丸船長・濱中一茂さんに聞きました。

「それはサンマの違いと干し方の差です!」

長栄丸は殺菌海水装置を導入。これを通した冷海水で鮮度を保っているといいます。殺菌海水とは、海水を電気分解してできた次亜塩素酸を含み、薬剤は一切不使用。

「これを使いだしてから雑菌がなくなり、色やモチモチ感がキープできるようになりました。時間がたってもぬるぬるしないんですよ」と一茂さん。

お腹カラッポになるまで待つ
濱中さんのこだわりは漁の時間にも。サンマ漁は日没から夜明け前に行われますが、夜中の2時だと胃袋に食べた餌が残ったまま。この状態のサンマを干すと「焼くと腹が割れ、ぐちゃぐちゃして美しくない。おいしくない。いたみも早い」。

夜明け前の朝4時頃になると、消化が進んでお腹がカラッポ状態。なので明け方までガマンして待つ。そこで一茂さんが命名したのは「朝漁れサンマ」。

そのサンマを干物にするのは妻、朋美さんの仕事です。鱗を除き、塩をすりこみ、きれいに洗い流して干すフィニッシュまで。塩にもこだわって、沖縄、小笠原、室戸など各種実験。今は伊豆大島の塩を使用。

「まだまだやることいっぱいです。時間と塩の量の関係も研究中。最高においしい丸干しにしたいですからっ」

きれいで堅めが醍醐味
さて、包丁を入れないサンマの丸干し、目刺なら目を通しますが、どうやって干すのかが不思議で朋美さんに教わりました。

「1本1本尾の端をひもで縛って、吊り下げるんですよ。潮風がよく通る場所で陰干しが鉄則! 2~3日様子をみて完成です」

日の当たる場所で干すと身が酸化し、魚体が弓なりに反るため、冷たい風の通り道を選んで干すのが肝心。乾燥機は使わず天然の潮風頼り。

スリムなサンマといっても時季により状態は違い、12月のサンマは北から下りたて、大きめで脂肪も残ったふっくらタイプ。1月に入ると身がしまり、干すとカチカチ系に「それが一番うまいんです!」と一茂さん。カチカチ系こそ熊野丸干しの醍醐味と言います。

最近は「柔らかい」「脂がのってる」が食品の褒め言葉ですが、それと対極にあるのが、このサンマの丸干し。身も内蔵もすべてが一体化した珍味系のカチカチサンマは骨まで愛せる貴重品。まさに命を丸ごといただく「一物全体」な丸干しです。噛む程にうまさもにじみ出て、純米の燗酒にはこのうえなく好相性。

「サンマがとれない時は丸干しもありません。よそのサンマや冷凍サンマを買うことはないし、できた干物を冷凍保存することもないので(笑)」

美しいサンマの丸干しは自然まかせという季節限定品。旬の味はその時に自然な形で味わってこそ。季節を待ちわびる楽しさ、熊野の丸干しサンマにあり!